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第百四話「竜虎相搏つ!」


 お互いのことを知るためにはまずは色々と相手のことを聞いてみることだ。俺は常々疑問に思っていたことを聞いてみる。


「ミコトって魔族の国の中でも良い所のお嬢様よね。もしかして魔族の国の王女様かな?」


「え゛っ!?なっ、なななな何を根拠にににに、そそそそそんなことを言ってるのかしら?」


 動揺しすぎだろう……。もうそれは自白してるのと同じなんじゃないだろうか。


「いや、なんとなく?ミコトはガサツだしお嬢様らしくはないんだけど礼儀作法や振る舞いは体に染み込んでるんだよね。小さなことだけど所作の一つ一つとかにはそういう教育を受けたとわかる部分があったもの」


 今のミコトは世間体を気にしてかそれなりに振舞っているけど昔俺と会っていた頃はそれはもうやんちゃな女の子だと思ったものだ。それでも所作の端々や言葉の端々に高度な教育を受けたと思えるものが混ざっていた。王女様がそんな簡単にあんな場所に出てこれるのかという疑問はあるけど相当高位の家の育ちだろうことはすぐにわかる。


「はぁ~~~……、フロトって天然なのか鋭いのかよくわからなくなる時があるわ……。まぁフロトに隠そうと思っていたわけじゃないからいいけど……、お察しの通り私は人間が『魔族の国』と呼ぶ国の第二王女よ」


 そうだろうなとは思っていた。それじゃあと続きを聞こうとしたら遮られた。


「ねぇ、次は私の質問で良い?交互に質問しましょうよ」


「まぁ……、いいよ?」


 質問は繋がっているから連続で聞きたい気はするけどミコトだって俺に聞きたいことが一杯あるんだろう。俺ばかりが質問攻めにするばかりなのもよくない。ということでミコトの提案を受け入れる。


「じゃあね!じゃあね!え~っと……、フロトはどうしてフローラなのにフロトなんて嘘ついてたの?私のことが信用出来なかった?」


 んん?何か誤解がありそうだな。俺のことは調べたんだろうにきちんとはわかっていないということかな。これは説明しておいた方が良いだろう。今後フローラの場でフロトと呼ばれたり、フロトの場面でフローラと呼ばれてもややこしいことになりかねない。


「私の生まれはカーザース辺境伯家のフローラ・シャルロッテ・フォン・カーザースであることに間違いはないんだけど……、私個人も叙爵されて騎士爵と名前と家名を授けられたのよ。それがフロト・フォン・カーン騎士爵というわけ。用途によって使い分けているの。だからミコトも私を呼ぶ時に間違えないでね」


「えぇ!そうだったの!」


 まぁミコトも馬鹿じゃない。こう言っておけばフロトとフローラの使い分けは考えてくれるだろう。第二王女ともあろう者ならばそれくらいは言わなくても察してくれるはずだ。


「じゃあ次は私ね。どうしてデル王国の王族の名前を借りてやってきたの?」


「そんなの私の本名と姿で来れるわけないでしょ?」


 う~ん……。言葉が足りなかったか。もう少し補足しておこう。


「そうじゃなくて……、デル王国って表向きは人間の国みたいだけど魔族の国が人間の国と交渉するための国かなと思ってね」


 本当は魔族の国の窓口だけど表向きそうは言えないからダミーで人間の国ということにしてそういう仮想の国を仕立て上げているとかそういうことかと考えただけだ。


「あぁ!そういうこと!そうじゃないわ。デル王国は私達の国の一部なのよ。だからデル王国そのものは確かにあるわ。フロトが、あっ、今はフローラの方が良いのかな?フローラが考えている通り裏では人間各国と魔族の国の間を取り持っている役割も持っているけど紛れもなくある確かな国よ」


「デル王国は魔族の国の属国とか保護国みたいな感じかしら?」


「属国とか穏やかじゃないわね……。保護国という言葉も意味ははっきりわからないけど……。まぁたぶんそんな所だと思うわ。でも力で無理やり支配してるとかそういうんじゃないからね!」


「それはわかってるわ」


 どうやらデル王国というのは魔族の国の庇護下にある国ということのようだ。他の各国も重鎮や上役達は裏でデル王国と魔族の国が繋がっていることはわかっているんだろう。ただ世間的には普通にただ人間の国家の一つとしてデル王国が認識されているんだろうからあまり下手なことは言わない方が良さそうだな。


「次ね!えっとね……、私達が会っていた辺りはカーザース辺境伯家?っていう家の領地なんでしょ?どうしてフロトが自分の領地だって言ってたの?」


「え?そんなことで良いの?」


「そんなことって何よ!ねぇねぇ!何で?」


 お互いに交互に質問しているというのにそんなどうでも良さそうなことが知りたいのだろうか。いや……、どうでも良くはないのか。魔族と人間は一応対立しているわけで、その目と鼻の先にある領地のこととなれば重要なことだ。これは俺の方が平和ボケしていたな。


「私がカーン騎士爵として叙爵されてから暫くして領地を賜ることになったの。とはいっても王家から賜ったわけじゃなくて父であるカーザース辺境伯の領地の一部を私に割譲する形でね。だからあの森の辺り一帯はカーン騎士爵領になったっていうことなの」


「へぇ!そうだったんだ!じゃあカーザース家の領地だからじゃなくて本当にフロトが領主だったんだね!」


 何かうれしそうにそんなことをいうミコトに近隣の情勢を調べようとかそういう裏がありそうには見えなかった。ただ単純に疑問に思ったことを何でも聞いているようにしか見えない。どうやら俺の心の方が汚れていたらしい。あまり考えなしも良くないけどミコトまでそんな風に見て身構えることはないとわかった。


 その後も俺達はお互いに質問を重ねていく。俺もミコトに釣られてかどうでもよさそうなことを聞いてしまったり、そうかと思えばミコトが急に真面目なことを聞いてきたり、とにかく二人でずっと話し続けていた。


「そうだミコト!チャノキってカーン騎士爵領で育つかな?輸入出来ない?」


「木なんて植えたら育つんじゃないの?種か苗なら用意出来ると思うけど前と違って今はプロイス王国の王都だからね……。すぐには無理だわ」


「今度戻ったらでも良いし、誰か代理を頼めるのならカーン騎士爵家の代理の者に受け取ってもらうことも出来るわよ」


 お茶の栽培が出来れば色々と捗る。魔族の国の貿易品を奪う気はないからあまり大々的に栽培して輸出はしない方が良いだろうけどもう俺の我慢も限界だ。出来ればコーヒーが飲みたいけどそれが無理ならせめて紅茶が飲みたい。緑茶やタンポポ茶はもうたくさんだ!


「う~~~ん……、代理かぁ……。難しいかもしれない……。一応手紙を出してみるわ」


「うん。ありがとう」


 第二王女なのにチャノキ一本用意するのが難しいとかいうことじゃない。ミコトは複雑な環境にいる。それは魔族の王女様でありながらこんな場所に留学出来ていることにも絡んでいる。


 ミコトは魔族の国の王女様だけどどうやら兄弟の中で出来が悪い子だと言われていたようだ。他の兄弟達と比べられて陰でヒソヒソと家臣達にまで馬鹿にされる。両親は他の出来る子達を可愛がり、兄弟ですらミコトを蔑む。そんな家庭環境で育ったようだ。


 まぁこれはミコトの一方的な意見であって相手の言い分も聞いてみないことには正確なことはわからない。ただ少なくともミコトはそう感じて育っていた。だから友達もおらず家を飛び出してあんな森の中に一人でポツンと居たという。


 友達もおらず家にも居場所がないミコトが俺と出会って、初めて出来た友達である俺に徐々に依存していたのは俺もよく知ることだ。それに気付いた俺がミコトと別れる決断をしてからミコトは相当泣いたらしい。泣きに泣きまくって泣き腫らして悲しみ苦しんだと散々言われてしまった。


 まぁともかくそれからのミコトは俺に言われた通り友達を作ろうと周囲の同世代の子達に必死に話しかけた。また馬鹿にされるから友達がいないのだと一生懸命勉強も魔法の練習にも励んだ結果、落ちこぼれとか出来が悪いと言われていたミコトも周囲が認めるほどに成長したという。


 頑張ったお陰で陰口をいう家臣も減り、同世代の友達も出来て色々と環境は改善されたようだ。だけどミコトが出来るようになればそのあおりを受ける者もいる。今までミコトを馬鹿にしていた?兄弟達はミコトがメキメキと頭角を現してくるのを恐れたらしい。


 継承権争いとか相続の問題に発展してしまうのでミコトは兄弟同士の争いを避けるために留学することにした。それまでは継承権もなく相続もしないと思っていた兄弟がそこに割って入れるだけの力をつけてきたら周囲も放っておけないからね。


 というわけでいざ俺のいる所へ行こうと思ったらカーザーンには俺はいない。しかもどこにいるのか探そうと思ってもフロトの方しか知らないミコトの捜索はすぐに行き詰ったようだ。結局フロトがフローラでプロイス王国王都ベルンにいて学園に入学していると知ったのはかなり経ってからだったらしい。


 それを知ってからはすぐさま人間の国に留学出来るようにデル王国に身分を用意させて王都ベルンへとやってきて無理やり学園に入学したと、今ここだ。


 そんな立場のミコトだからそうホイホイと魔族の国の物を黙って持ち出すのは難しいかもしれないとのことだった。でも友達も出来たし信頼出来る家臣も出来たそうなので一応聞いてみてくれるという。もし紅茶が出来るようになったら是非ミコトと一緒に飲もう。おいしいお茶を作って飲んでもらうのがせめてものお返しだ。


「フローラの方も色々大変だったのね……。それも好きでもない王子と結婚させられそうだなんて許せないわ!私のフローラを奪おうだなんてプロイス王国を灰にしてやろうかしら!」


「ちょちょちょっ!落ち着いて!ミコトが言うとシャレにならないから……」


 本当に外交問題になりかねないから!ミコトの立場じゃ冗談でしたは通じない。もし誰かに聞かれようものなら外交問題だ。


 まだまだ聞きたいことも話したいことも山ほどある。だけどいつまでもこうして話しているわけにもいかない。


「あっ、予鈴……。教室に戻らなくちゃ」


「え~……、どうせ子供向けのつまらない授業ばかりだしあんな授業聞いているくらいだったらフローラと話でもしている方がよほど有意義じゃない?」


 まぁな……。まだ今授業でやっている範囲はとても簡単な部分だ。今やっている程度ならとっくの昔に家庭教師達に習った。でもそれはクラスの他の生徒達も同じだろう。貴族は皆高度な教育を受けているはずだ。他の者達の家庭教師のことは知らないけど家庭教師がついて勉強をしているのは間違いない。


 そんな者達がひしめく中で家名に傷をつけない程度に成績を残そうと思ったらきちんと授業を受けて予習復習をしておかないと差をつけられてしまうかもしれない。


「それよりお腹が空いたわ。お昼ご飯にしましょうよ」


「…………あっ!」


 やばい!完全に忘れてた!


「どうしたのよ?」


「大変なことを忘れていたわ……」


 俺はいつもカタリーナが持ってきてくれているお弁当を食べている。だけど今日はお昼休みになってすぐにミコトに呼び出されて今まで話をしていた。カタリーナには何も言ってない。つまりカタリーナは食堂で待ちぼうけだ。


 やばいやばいやばい!どうしよう!今からでも食堂に行ってカタリーナに説明だけはした方が良いだろうか。


「どどどどうしよう?」


「フローラがこんなに取り乱すなんてよほどのことのようね……。いいわ!このミコトに任せなさい!」


 おおっ!格好良い!昔はあんなに頼りなさそうだったミコトが今はまるで頼れるアニキのように見える。


 お昼はいつも食堂でお弁当を食べているのにそのことを忘れてミコトと話し込んでいた。お弁当を持ってきてくれたメイドが待ちくたびれているということをミコトに説明すると、『じゃあ今すぐ向かいましょう!』というので二人で食堂へとやってきた。


 もう予鈴が鳴っているのでほとんど人はいない。片付けをしている職員やどこかの家の執事やメイドや料理人くらいだ。学生はいない。そんな中で……。


「貴女は一体フローラの何なわけ?」


「私はフローラ様付きのメイドです。貴女様こそ急に来られて何なのでしょうか?これは当家の問題です。例え貴女様がどこの家のどなた様であろうとも口出し無用です」


 今食堂は修羅場と化していた……。俺はどうしてミコトと一緒に来てしまったんだ……。ミコトとカタリーナがこんなタイミングで出会えばこうなることは予想出来たはずじゃないのか?あまりに混乱していて俺は選択を間違えたようだ。


「あわわわ……」


 お互いににらみ合うミコトとカタリーナの間で俺はただ小さくなることしか出来なかった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ミコトが可愛い。 [気になる点] この世界はケッペンの気候区分が生きしてなさそう。北半球だけど北が温帯っぽいし。
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