少女の名は
映画好きです。
内容はまったく関係ありません。
ぼんやりとした感覚の中、ひんやりとした感触が額に感じる。
目を開くと、そこには優しい目をした少女の顔があった。
僕はついに死んで、目の前に天使が。
「君は……天使?」
誰と訊こうとしたら、思わず思っていたことを言ってしまった。
「わたしは通りすがりの僧侶です。怪我をしていたあなたを見かけたので、治療をしておきましたよ」
おっとりとした口調、長いブロンドの髪に細い睫。
服装は真っ白なローブで、確かに白魔法を使いそうな雰囲気だ。
って、僧侶?ひょっとして痛い子、なのかな?
「えっと、ありがとうーーうっ」
「まだ起きない方がいいですよ。怪我ひどかったので、しばらくは安静です」
「だけど、ずっとこのままというわけには……」
彼女の膝の上に僕の頭がある。つまり、俗に言う膝枕というやつだ。
「わたしは構いませんので、どうぞ気にせず」
笑顔で返してくれた。
ほんとに天使だ……。思わず目頭が熱くなる。
「え、泣かないでください…っ」
「ごめん、ひさしぶりに優しさに触れて嬉しくて」
「そうだったんですね。神の御加護がありますように」
十字に空を切って祈りを捧げる彼女に感銘を受けた。
「あなたは…」
「才兎。僕の名前は冴霧才兎」
「サエギリサイト……サイト様と呼ばせていただきますね」
「そんな様だなんて」
「サイト様はこんな所でどうしてこんな怪我を?」
もっともな疑問だ。
僕はここまでのことを掻い摘まんで話した。
「なんとまあ」
驚く彼女は僕を見る。
「大変でしたね……怪我はわたしが診てあげます。安心してください」
「ありがとう」
生きてきて、何度と起きた絶望の中、ひさしぶりの善意を受けて僕は心が温かくなった。
彼女は優しさがあり、容姿があり、僕にとっては天使そのものだった。
絶望の淵から垣間見た希望。
「そういえば、君の名前は?」
「遅れました。わたしはアリスと言います」
アリスと名乗った少女は、にこりと微笑んだ。
僕の中で彼女の株価は大上昇だった。