大切なものはいつも気付いた時には失っている
家族や友人にペットなど、失うととても悲しくなります。
リンが寝た後、モンスターが寄ってこないか軽く見張っていたが、気配がなかったため僕も寝た。
それがいけなかった。
「ーーきゃぁっ!!」
女の子の悲鳴が聞こえて目を覚ました。
「リン!?」
居ない。寝ていたはずの場所に。
さっきの悲鳴はリンなのかっ?
僕は起き上がり悲鳴のした方向に走る。
「リン!」
「ご主人様っ!!」
リンは軽装の筋肉質な男に羽交い締めにされていた。
他には三人の男、そいつらはダガーや剣を手にしている。
リンを人質、もしくは攫おうとしているのは間違いない。助けに入ったというのは考えにくい。
「ご主人様だってよ!」
「かわいいねえ」
「こいつの奴隷じゃね?」
「なら、問題ねえなあ」
明らかに悪人だ。
「リンを返せ!」
「ひゃー、かっくいーねー」
「返して欲しくば、持ち物全部置いていきな!」
ここは戦うか?でも、相手がどれだけ強いかわからない。
持ってるもの置いていっても、リンが無事に返ってくるかもわからない。
ならいっそ、
「うおー!」
「来やがった!」
「身ぐるみ剥いでやるっ」
腰の剣を抜いて振り抜く。
一人と鍔迫り合い、二人目は追い抜き、三人目は峰打ち。
「リンを離せ!」
「ほらよ」
「なっ?」
「今だ、やれえっ!」
リンを僕にあっさり返して意表を突き、隙を作りまとめて襲い掛かってきた。
「ぐはっ」
「こいつ金持ってるぞ!」
「ご主人様っ、ご主じんさーーむぐぐっ」
「こいつうるさいから黙らせておけ!」
「かえ、せ……!」
「オマエもとっととくたばれ!」
「がはっ」
頭を蹴っ飛ばされ、そこで気を失ってしまった。
「けほっ、がはっ…はぁ」
どれだけ時間経ったのか。
頭痛がする。蹴られたからか、ズキズキとする。
リンが連れ去られた。
「追わなきゃ…ぐっ」
全身に力を込めて、地を這いつくばってでも追い掛ける。
剣も身に着けていた物は何もかも奪われた。それはどうでもいい。
約束した。リンを、母の元に連れて行くと。
それは……それだけは、守らないといけない。
「待ってろ、リン…っ」
* * *
ご主人様は今何をしてるのかな。
蹴られたりしたところ、痛かったりしないかな。
心配だな……優しい人だから。
最初は怖い人だと思った。口調はきつく、怒ったような顔をずっとしていたから。
でも、ご飯をくれた。服やアクセサリーもプレゼントしてくれた。
……ママがいるところに連れてってくれるって言った。
あの人もきっと、わたしみたいにひとりぼっちなんだ。だからあんな悲しい顔をする。
わたしがそばにいてあげたい。
笑顔にして、そして、〝好き〟って伝えたい…。
だから、
「おい、どうするこいつ」
「そろっと食っちまおうか」
「そりゃあいい。どうやって食おうか」
こんなところで、
「服を剥いじまおう」
「ひゃー、堪らんねぇ!」
ジッとなんてしていられないんだ。
「みんなで回してたっぷり楽しんでやろうや。オレ達が居ないとダメなくらいになあ!」
ご主人様の元へ、わたしは帰るんだ!
「いただきまあす!」
どんな苦痛にも耐えて、ご主人様にわたしは無事ですって伝えるんだーー!
そして、名前を…あなたの名前を……ーー
* * *
複数の足跡、移動した痕跡を追って奴らのアジトらしき洞窟までたどり着いた。
見張りは居ない。余裕なのか、人が足りていないのか。
忍び込むなら今の内だ。
洞窟の中に入ると自然にできた物なのか、人為的な削り跡や造りはない。
奥は一方通行なのか、入り組んでる様子もない。
ゆっくり進んでいくと、人の声が聞こえてくる。
「ぐへへ、こいつは締まりがいいぜえっ」
「おら、舌を使えよっ、もっと咥え込め!」
ゲスな男の声が聞こえてくる。
何かに命令して、楽しんでいる。
違う、そんなことはない…。
心が痛む、黒い何かが侵食し始める。
「ンギモヂイイイっ!」
「きひひっ、早くオレにも回してくださいよお~」
「待てや、あ、イク、イっちまうぜえ!」
現実はいつも残酷で、不愉快で、僕に絶望を与える。
その光景は僕の心を闇に沈め黒く染めあげる。
「なら逝け、地獄にな」
ゲスな奴らの世界を、紅く染めてやった。




