リンの過去
思い出したくない過去というものがありますが、壁を乗り越えるために思い出す必要がある時ってありますよね。
町から目的地方面へ地図通りにまっすぐ進み、途中休憩を挟みながら目指す。
モンスターも出て来たら倒せるものは倒し、道すがら食べれそうな木の実はいただいていく。
「炎よ、我に力を貸したまえ。ファイアっ」
「おお」
日が落ち適当な場所で野宿をすることにしたが、枯れ木を集めたがで火がなく困ったところで魔法を使えるというリンに頼んだ。
途中で狩ったモンスターの肉を拾った木の棒の先を尖らせ刺し、串刺しとして焚き火で焼く。
「魔力あるんだな」
「は、はい。少しなら、あります」
「そうか」
魔力のない僕には羨ましいことだ。
このままずっと魔法使えない僕としては、喉から手が出るほどほしいものだ。
異世界から来たから仕方ない。
使えないものは使えないで、なんとかしなければならない。
「肉は時間掛かりそうだな。採った木の実と、飲み水ね」
「あ、ありがとうございます」
「うん」
僕のことをビクビクと様子見ながら反応するリン。
まだ怖いのか、人見知りなのか。
まぁいいか。焼けるまで暇だし世間話でもするか。
「リン」
「ひゃいっ」
「確か親に売られたとか言ってたな」
「……はぃ」
気分が一気に沈んだな。
まぁ、仕方ないか。
「親のこと、恨んでるか?」
「……」
「言いたくないならいいよ。気になっただけだから」
僕だって自分のこと積極的に話す性格でもないしな。嫌な過去なら尚更。
別の話題で仲良くなってからの方が良かったかな?でも、また裏切られるかもしれないし。
いや、奴隷だぞ?しかも子供の。
僕はこんな子供にまで怖がっているのか。
人のこと言えないな…。
「……ママは、優しい人でした」
重たい口が開いた。
「わたしが生まれて…間もない頃にパパが病気死んで、一人で育ててくれて」
「そうか」
「はい…わたしを育てることで一生懸命で、時間あるときは働いて、お金なんてないはずなのに、新しい服とか、お菓子とか買ってきてくれて……とても、優しかったです」
「いい母親だな」
「はいっ」
顔にほころびが生まれるが、すぐに影を帯びた。
「ですが、ある日ママは新しいパパを連れてきました」
「……」
「その人は、お金があるように見せて、本当はママを騙して……えっぐ」
「もういい」
「買い物のたびにお金忘れたって、ママに払わせて、ひっぐ……それは嘘でっ」
「もう、何も言わなくていい」
僕は耐えられなくなって抱き締めた。
「……わたしは、その人に売られたの」
「…そうか。つらかったな」
人に裏切られることは、僕も知っている。
こんな子供が、血の繋がった親と引き剥がされる痛み、僕は知っている。
彼女もまた、こっち側なのだ。
人に騙され裏切られた悲しみを胸に刻まれたんだ。決して癒されることのない深い傷を。
それなら……
「わかった」
「……ぐすっ、ふぇ?」
「母親を、ママを捜そう」
「……ママを?」
「うん。まだ生きているんだろ?なら、会いに行こう!」
「ほんとに?」
「ああっ、僕が君をママの所まで連れて行く。だから、泣くのはママと再会したときまでとっておこう」
「…うん!」
思わず口が動いた。
何も言わずにはいられなかった。同じ境遇の子を、このまま悲しみを背負わせるには早いから。
「少し焦げたな……こっちは大丈夫そうだ。ほら、食べな」
「ありがとう」
焼けた肉を手に取り一つはリンに、一つは口に運び噛み千切る。
染みる肉汁と歯ごたえのある食感、これは当たりだな。
「おいしい」
「うん。焼いたことで肉の旨味が出ているのかもしれない。胡椒があれば完璧なんだが…」
「そうなの?」
「ああ」
肉を焼くなら、塩コショウをまぶすのが手軽でおいしい。
タレでもいい。とろりと濃厚な…
「…あの」
「どうした」
「……その、名前…」
「名前?」
「なんてお呼びしたらいいのか…」
「好きに呼んだらいい」
「あ、はい……ご主人様」
1度は呼ばれてみたいランキング上位、こんな日が来るとは……なんか不思議な感じだ。
状況が状況なら喜ばしいことかもしれないが、くすぐったさを感じるだけで特に何とも思わないな。
「もう遅いし早く寝よう」
「あ、はい」
モンスター除けに火はそのままでいいかな。
自然に消えるだろうし。
僕とリンは木を背に眠りについた。




