悲しみの中で
悪夢って、記憶に残りやすいですよね。
次に目を覚ますと、最近よく見る天井がそこにあった。
上半身を起こし、体が動くことを確かめる。
少し痛むが、なんともないようだ。
体は手当されている。アリスさんかな。
「そういえばアリスさんは……あれ?」
荷物がない。盗まれたら危ないから、フロントに預けてるのかな。
部屋を出て宿屋の店主に声を掛けてみる。
「いや、何も預かってないぞ。それより宿代払ってくれや」
「え、あ……今手持ちないや」
お金はいつも懐に入れてあるのだが、今回はモンスター討伐ということでアリスさんに預けていた。
宿に泊まるときは先払いしているはずなんだけど、今回は後払いのようだ。緊急だったからかな。
「えっと、お金預けてる人が居るので、呼んできます」
そう伝えて宿屋を出る。いつも先払いして泊まっていたことが幸いしたのか、信じてもらえた。
それにしてもどこにいるのだろうか。
防具も何も室内になかった。だから今僕は無一文だ。
あるのはやはりズボンのポケットの財布のみ。この世界では役立たずだが、お守り代わりにしている。
「いえ、見ていませんよ」
ギルドに居るかと思ったらいない。
案内嬢にはクエスト失敗の報告をしたっきり見ていないと言われた。
武器屋にも寄ってみる。
「にーちゃん、武器派手に壊してくれたな。弁償してくれや」
「えっと、一緒にいた女の子知りませんか?」
「あ?あの嬢ちゃんなら、直った武器持って出て行ったよ。すれ違ったか?」
「なんだって……」
考えたくない想像が脳をよぎる。
「ツケは利かねえからな。今お金ねぇってんなら、出るとこ出るぞ」
おっちゃんが怖いことを言う。
何がどうなっているのか、動けば動く程混乱してくる。
剣はない、防具もない、お金は預けっぱなし、服装はインナーと僕のいた世界のズボンのみ。アリスさんはどこにも居ない。
ふと思い出すギルドでの噂話。
『盗人が出たらしいぜ』
『何でも、一番高い物を盗んでいくんだってさ』
完全な一致はしない。
だけど、思ってしまう。
息苦しくなり、呼吸が荒くなる。目眩がしてくる。
盗人は、僕からお金と装備を持っていった行ったのはーーアリスさん。
何か怪しい気がしたんだ。
通りすがりの僧侶が優しく何から何まで世話をしてくれて、僕はそれに甘えてしまったがよく考えるべきだった。おかしいと思えばよかった。疑えばよかった。
普通ではなかった。優しくてかわいくて、それだけで僕はーー
「ーー騙されたんだっっ!」
血の味がする。下唇を思い切り噛んだからだ。
そんなことはどうでもいい。
これからどうするか、アリスさんを捜すか。どこを?どうやって?何もないのに。
僕はいいように使われただけ。
何も知らない、どこから来たかもわからない僕だから利用のしがいがあったんだ。
尋常じゃない悲しみが僕を襲う。
忘れてた……どうして僕はこの世界に来たのか。原因を作ったのか。
ここ最近あまりにも楽しかったものだから、忘れていた。
「人を簡単に信じてはいけない」
僕は町をフラつき道のど真ん中で、視界がブラックアウトして倒れた。