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咲花輪舞

 翌朝、魔術工房のことで話があるというので両親の待つ最奥の間へと入る。

「まぁ、座りなさい。」

 上品な髭を蓄え、ゆったりと座りながらも圧倒的な雰囲気をその身に宿すこの初老の男性こそ我が父、オーギュセス。ビザリア選侯国が侯爵家当主オーギュセス=アンプルールだ。

 因みに、この領地も所属するビザリア選侯国は四つの侯爵家と幾つもの貴族家の連合国だ。


「父様、魔術工房でのお話があると聞きましたが何でしょうか? 」

 フェリィは柔らかい椅子に座りながら、父に声を掛ける

「フェリィよ、急ぐことはない。 久しぶりにゆっくり話でもしようではないか――――」

父は優しい笑みを浮かべ、暖かい眼差しを金色の瞳からフェリィに送る。

 そして一時間ほど家族四人で久しぶりの団欒を楽しんだ。特に父は普段侯爵家当主としての仕事が忙しく、俺達と中々時間が取れない為非常に充実した時間を過ごす事が出来た。


 そして、そろそろ本題に入ろうか、と父は言う。

「これは確認だが、魔術工房は二人の共有という形で良かったんだね?」

「そうだな父さん、確かに俺とフェリィの魔術形質は真逆だ。でも逆だからこそ、お互いぴったりと嵌るんだ」

「良し。ではここから十キロメートルほど東へ行った先にこの侯爵領で一番高い山があるのは知っているだろう、そこに二人の魔術工房を作っておいた。伯爵級の二人使用に十分耐えられるものを作成した。そして、なるべく高い場所が良かったのだろう?」


 高い場所が良かったのは太陽と月に一番近く、魔力を供給しやすいからだ。断じて、趣味からではない。……本当だぞ?

「あぁ、ありがとう。 あと、頼んでいた触媒はどうだった?」

「陽光玉、月陰玉。そして、木、火、土、金、水の極晶鉱は用意できたぞ。 だがな……熾天使の翼はまだ時間がかかりそうだ」

「おぉ、結構集まったな。翼は流石にすぐに手に入るとは思って無かったから大丈夫」

 熾天使の翼は金だけでは買えないほど貴重なものだ。もっとも、莫大な金も必要となるが。

「そうか。あと龍骨、鏡眼、神酒、神丹、あと各種宝石は元から有るから自由に使いなさい」

「ありがとう、お父様。これなら大分自由に開発出来そうね、フォル」

「そうだな、フェリィ。俺からもありがとう、父さん」

「うむ。二人ともしっかり励むのだぞ? 」

 作りたいものは俺とフェリィで大分詰めている為、直ぐに作り始められるだろう。

「でもあんまり危ないことはしないようにね? お父さんったら昔大爆発を起こして学院の工房で大きなクレーター作ったんだから」

 母、フィークスが懐かしそうに微笑む。また、学院は13歳から15歳に通う所だ。ビサリア選侯国の都にあり、ビザリア選侯国中から優秀な学生が集まる非常に大きい学校だ。

「う、うむ……そういうことは言わんでいい。それにワシ以外誰も怪我しなかったのだから良いであろう。」

 少し恥ずかしそうに言う。というかつまり父は怪我をしたという事である、貴族の強靭な体を持つというのに。

「それで動けなくなったお父さんの看病にお母さんが行ったことが切掛けで私達が結ばれたのよ」

 両親の馴れ初めはこの十年、何度も聞いた話だ……。そのたびに母さんが嬉しそうな顔をするので別にいいのだが。因みに母の出身はこの侯爵領の隣にあるオーラム伯爵領の出身だ。


 そうして設備についての確認が終わり、実際に魔術工房へ向かう事が決まった。

 因みに魔術工房は所有している本人以外は絶対不可侵である。持ち主の許可が出ない場合親子でも入れない。こうして、実際に赴かずここで確認をしているのはそういう理由からだ。そして俺達の物となる魔術工房も現在は非常に簡素なものであり、場が整えてあるだけで凝った設備はない。

 しかし、幸い素材も資材も侯爵家の財力をふんだんに使って揃えてある為、これ以上ないほどの物が俺たちの手によって出来上がるだろう。



馬車が新雪の上をしゃりしゃりと走る、揺れは全くない。舗装された道を走っている上安定化の刻印を馬車と道に刻んであるためだ。かといって優雅な旅路とはいかない。周りを軍が護衛している上に山まで十キロメートル程度しかないからだ。実際のところ馬車に乗るより、降りて走ったほうが早い。    

しかも軍の皆さん、目がガチだ。視線に質量が有るのなら周りを押しつぶしていることだろう。まぁ、帰りは工房と普段俺達がいるがいる城にパスを繋ぐので一瞬で帰れる。よって軍の皆さんには帰ってもらうが。しかし山の麓から一キロメートル先に軍の駐屯地が小規模だが新しく出来るらしい…………なんでだろうな、俺にはわからない。それでも山の麓では無く一キロ先なのはありがたいが。

 

 そうこうしているうちに目的の山へと付く、ここからは二人きりの世界だ。魔術で空を15分ほど飛び、とうとう頂上へ付く。銀雪が太陽光を反射し、音を吸収する。山頂には場が整えられていた。直径500メートルほどの円が山頂を削って作成されている。ここに碧月の園――フェリィの神域――を再構築する。魔力は生まれてからの十年間間に充分ため込んである。俺は魔宝珠を置き、神酒を捧げ、フェリィに声を掛ける。

「さぁ、フェリィ。円の中心の祭壇に魔宝珠を置いて」

「えぇ、儀式を始めましょう」

そうしてフェリィは扇を、俺は錫杖を持つ。それはあの日、自分は何も出来なく見ていることしか出来なかった魔術の反転術式だ。

――――

――――

叢雲届かぬ天獄へ 一壷(いっこ)の酒に双宝珠

霊廟(れいびょう)に金烏輝き 霊山に玉兎を照らす

花の清香 月の陰影 此の地に集い

杯挙げて碧月迎え 幻日月華 此の地と成る

現世除けて 常世慶び 宵闇に星は流るる

碧紗煙(へきさけむり)の垣根の先は

其処(そこ)に神在り 此処に園在れ

――――日月(じつげつ)星辰(せいしん)――――


錫杖のしゃらん、という音と扇を閉じるぱん、という音が重なりこの世界は塗り替えられる。


お読み頂き有難うございます。

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