貴族とは
目を開けるとそこは天も地も無く、永遠に続く真っ白な世界が広がっている。そもそもどちらが上でどちらが下かも不明で、宇宙空間に突然放り出されたかのような感覚だ。
しかし、目の前には蒼銀の淡い光がふよふよと漂っている。何となくこの光がフェリィだと分かる。
そうしていると光が声を届けてきた。
『魔術は無事に成功したわ。そしてここは無色界、すべての世界の最高階層よ。』
音ではない、しかし頭に響く”声”だ。
『無色界って……だから俺らの肉体は無いのか?』
『そうよ、そしてさっきまで私達がいたのは色界ね』
――世界は三層に分かれている。現実世界である欲界、その上位に色界呼ばれる神域、そしてそのさらに上位に無色界があるのだ。
また、“色”とは物質の事である。よって“色”のない無色界とは精神のみが存在する世界である。
『そして、私達はこれから私が元居た世界に行くのよ』
これは無色界が“すべて“の世界の最高階層だから出来ることだ。 言うなればガラス板で中がいくつかに区切られた水槽があったとして、水中ではガラスが邪魔して通れないところを一旦空中に飛んで別の区画に入るという事だ。
『おぉ、ついにか。因みにどんな世界なんだ?』
期待と不安を織り交ぜた質問を目の前の光へする。
『ふふ、秘密よ。でも本当に美しい世界よ。 人が人として生きている、なんて言ってもいいかもね。』
素晴らしい世界の様で、楽しみだ。
『それじゃあ、最後の力で神託と共に転生をするわよ』
――俺が俺として妥協無く生きていける、次こそはそんな人生を。
かくして、我らは生まれ廻る。
懐かしい記憶を感慨深く思い出していると、部屋の扉を開け先ほど俺と血液の交換をしたフェリシアが声を掛けてくる。
「フォル、そろそろ行くわよ。今日は私達のお披露目パーティなのだから!」
そう、俺の名はフォルティス=アンプルール。アンプルール侯爵家が嫡男だ。 因みに、フェリィの名はフェリシア=アンプルール。
俺たちは双子で生まれ、一応俺が兄だ。 しかしなぜ、フェリシアの名が変わっていないのかと思って彼女に聞いてみたら“神託”の時に名乗ったかららしい。 つーかそしたら俺の名前も俺が決められたってことじゃねえか……。 なんて一時期思っていたが、今は両親に付けて貰った名前を結構気に入っている。
まあ回想はさておき、支度をしなければならないので鏡を見る。 そこには黄金の髪を後ろに流した夜の闇の様な黒い瞳の美少年が映っている。 転生前の顔は良くも悪くも普通だったがこの顔に生んでくれた両親に感謝だ。 服装も確認できたところでパーティ会場へと歩く。
廊下には誰もおらず、しん、としている。そこを二人並んで歩いて行き、こちら側にかかっている魔術鍵を――――開けた。
重厚な扉がゆっくりと自動で開き会場が見える、そこには家臣の文官や武官、そして神官がそれぞれの最敬礼でもって跪いていた。 真ん中では両親がこちらに微笑みかけている。 ていうか神官はあれ祈ってないか、しかも俺達に。
若干彼らに引きつつ壇上へと上がる。 会場は耳が痛いほどの圧倒的な沈黙に包まれている。
……拡声魔術を展開させながら息を吸う
「フォルティス=アンプルールだ。諸君らと共に俺達の十歳の誕生日を祝えることを嬉しく思う――」
「同じくフェリィシア=アンプルールよ。皆さんこれからよろしくお願いしますね?――」
そうして少し長めの挨拶をし、両親とともに重臣たちと言葉を交わした。
文官の長、主席執政官のヘミング。武官の長、上級大将のボブルス。神官の長、使徒位のウェヌスなどだ。 それぞれ会話をしていると強い敬意を持って居ることが伝わってきた。 直接会うのは初めてであった為少々不安だったが、大丈夫そうだ。
さて、何故俺達が臣下達ともう十歳なのに初めて会うのかというと、それは貴族という生き物についての言及が必要となる。
貴族と平民の違いは何かと聞かれたらこの世界の住人はこう答えるだろう。
「自分で魔力を生み出せるか否か」と。 そう、貴族のみが魔宝珠を持ち、魔力を生み出すことが出来るのだ。 しかし、平民も魔力を扱う方法はある。
貴族は魔宝珠から幾らか魔力を平民に分けることが出来るのだ。 例えば俺の魔宝珠は伯爵級であるため、最大、将級1人、佐官級10人、尉官級100人分の魔力を同時に供給できる。
供給方法は魔宝珠から魔珠と呼ばれる劣化版を作り出し、それを平民の体に埋め込むのだ。これによって平民は規模こそ貴族から格段に落ちるが、魔力を扱い魔法を紡ぐことが出来る。因みに魔珠を埋め込まれると例え尉官級でも大幅に身体能力が向上し、老化も少し遅くなる。例えばムキムキマッチョ平民10人程度と、尉官級の少女が喧嘩になっても軽く少女が勝つ程だ。
勿論、魔珠を他人に移し替えられると老化の速度も身体能力も元通りとなり、ムキムキに勝てなくなってしまう。そして、これ程の力を持つ魔珠の供給源である貴族の体は非常に強靭である。殺されなければ500~1000年程度は生きることが可能だ。これも、持つ魔宝珠によって異なるが。
そして遅くなってしまったが魔宝珠にも格付けがある
王級(現在は無い、おとぎ話でのみ出てくる)→公爵級→侯爵級→伯爵級(ここで大きな壁がある)→男爵級→子爵級、という順番である。基本的上のランクの魔宝珠は一つ下のランクの魔宝珠のおおよそ三倍の力を持ち、三つを融合させると一つ上のランクの魔宝珠と変化する。
しかし、注意点がある。男爵級はいくつ融合させても伯爵級の魔宝珠とならないという事だ。よって一般的に伯爵級以上の魔宝珠を持つ貴族を上級貴族、男爵級以下は下級貴族と呼ばれる。
そして基本的に魔宝珠は親から子へ継承されるものであり、子供は基本的に親の持つ魔宝珠の3つランク下の魔宝珠を持って生まれるのだ。例えば侯爵級の魔宝珠を親が持つとき、子は通常子爵級の魔宝珠を持って生まれる。
しかし、俺とフェリィは伯爵級の魔宝珠を持って生まれた。このような通常と異なり、強い魔力を持って生まれた人間は【長老】と呼ばれる。これは貴族全体の1%程度の割合である。因みに長老というネーミングは多くの場合、より強靭であるため長く生きるかららしい。
話を戻して何故俺達二人は十歳に成る迄魔珠を持つ臣下達に会わなかったか、だがそれはもう答えは殆ど出ていると言っても過言ではないだろう。
つまり、万が一にも殺されることを防ぐためだ、他国のスパイか、あるいは自国の反乱分子に。逆も然りだ、貴族の子供は10歳位程度になれば確実に将級に勝て、また十歳までは力の使い方を間違えてしまう子供も居る。 そのような不幸な事故を未然に防ぐために貴族の子女は十歳に成る迄は母親のみと過ごし、育てられるのだ。
さて、貴族の十歳の誕生日と言えば重大なことがある。
―――――魔術工房の使用許可だ。
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