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閑話:クロウの受難

 俺はアンプルール侯爵家陸軍大尉、クロウだ。

 陸軍中大隊の副隊長でもある。

 アンプルール侯爵家の農村で生まれたが師に恵まれ、ビザリア選侯国の首都にある学院の士官科に奇跡的に合格した。

 その後ももう三十五歳になるが、なんだかんだで妻子を持つ家庭を築くことが出来た。


 大尉でしかも学院の出身の俺は他人から見ればエリート街道まっしぐらの様に見えるだろう。

 もちろん、現当主のオーギュセス様から魔珠を頂けたことはこの上なく光栄に思っているし、この国を守るという重要な任務についている事は誇りに思っている。


 しかし、昨今は情勢も危うくなって来ていて今すぐとは言わずとも十年以内にどこかしらで戦争が起こることは必至だ。


 ――と言っても平時の軍人程暇な者はいない。居るとしたらそれは浮浪者か病人位なものだろう。

 訓練は定期的に行い練度を保っているがそれほど効率の良いものには思えないし、毎日あるわけでもない。


 今は城の隣にある士官――軍隊の指揮官――たちの仕事場である軍令府へ朝日と共に向かっている。

 ……あくびを噛み殺す、仮にも軍人たるものが軍服を纏った状態で気の抜けた様子を見せることなどどうして出来ようか。

 我々はこの国の、この領民を守り、他国を侵略する暴力装置なのだから。


 などと、恰好をつけても今日も大した仕事は無い、先週は酒蔵にお邪魔してとあるワインに魔力込める仕事もした……果たしてこれは軍属の仕事なのだろうか?

 帰りがけにお礼として、そのワインを一瓶ほど頂いたので上官に渡しておいたが、なぜか驚愕の表情をしていた。


 まぁ、良い。不興を買ったわけでは無いし、俺には今年で十歳になる可愛い娘もいる。あの子も軍人になりたいと言って勉学に励んでいるが、親としては複雑だ。


 軍令府につくと、軍のトップであるボブルス上級大将からの呼び出しの書類が届いていた。

 要件はなんだろうか、一介の大尉風情にわざわざ時間を取るほどのものだろうか。そんな疑問を持ちながらボブルス上級大将の執務室へと向かう。

 執務室の扉の前につくと、軍人が二人立っていた。一人は同期の友人だ。

 もう一人がこちらへ声を掛ける。


「所属と要件は!」

「はっ、申告致します! 第四歩兵大隊副隊長、クロウ大尉であります。本日は上級大将からの呼び出しで参上致しました!」

「よし、少し待て」


 そうして、軽い手続きを踏んでいると同期の友人がにやにやしながら言う。


「よう、クロウ。元気そうじゃねえか、大将の呼び出しってやべえことでもしたのか?」

「してねぇよ……お前も理由知らないか?」

「知らねえよ。っと、許可出たぞ。――入れ!」


 無駄口が終わると友人は急に真面目な顔を作り、声を上げる。妙に要領の良いあいつらしい切り替えだった。

 中へ入ると、ボブルス上級大将が居た。今年八十歳になるというがその肉体は(いわお)のようにゴツゴツとした筋肉の鎧に包まれていて、眼光は飢えた狼のように鋭い、顔には張りが有り、若々しい。


「……クロウ大尉、だったな。今日はなぜ呼び出されたか、分かるか?」

「は、はっ。申し訳ありません、分かりません!」


 地獄の底から響くような声がする。少し緊張しながらも答える。

 しかし、不正などは行っていない……心当たりは皆無だ。


「……今日呼び出したのは異動命令を伝える為だ、受け取れ」


 そう言ってボブルス上級大将は命令書を側にいた軍人を通して渡す。

 そこには新しく出来る軍の駐屯地への異動と、そこで大隊の指揮を取れということが書いてあった。


「本日付けでの異動だ、そして現時点でこれまで大隊副隊長を見事に勤めた功績をもって、大隊長に任じる。これからも頼むぞ? クロウ大尉、いや少佐だったな」


 にやり、と獰猛な笑みを見せながら俺の少佐就任をボブルス上級大将は伝える。

 しかし、突然の昇進に驚きを隠せない。

 なぜなら尉官から佐官への昇進をした場合、この身に宿る魔珠すら変わるからだ。

 魔珠には限りがある為、一生を尉官で終わる者いる。

 それなのに、俺が突然佐官へと昇進するのは異例だ。

 こういう場合は大抵裏がある、例えば物凄く危険だったり、誰もやりたがらない任務であったりだ。

 

「もしかして、戦争が始まったのでしょうか?」

「いいや、情勢はそこまで緊迫していない、少なくともこの国ではな。お前がこれから行くのは最前線の駐屯地では無く、ここの近くの山の近くに出来る駐屯地だ」


 近くの山にはフォル様とフェリシア様の魔術工房が作られる予定だ……もしかしたら最前線の方が良いかもしれないという予感がある。

 お二方とも伯爵級のエルダーであるし、フェリシア様は分からないがフォル様は、なんというか……個性的だ。

 豆を枯れた葉や茎で包んで腐らせたものを食べていたし、(フォル様は元気そうだったが、それを食べた料理長は腹を壊し一週間休んだ)

 城に沢山いる女中を「メイド」と呼び、白と黒で出来た制服を作り、着用させた。(こちらは意外と評判だったらしい)


 他にも、神官どもの新しく神殿を建てたいという発言を聞きつけ、その無尽蔵な魔力を使い、凄まじい勢いで建立していた。

 また、噂によると神殿の奥で日夜"お小遣い稼ぎ"と称し様々なものに祝福を掛けているらしい。

 昔一ヶ月かけ、全力でただの大きな岩を祝福したら、それがダイヤモンドに変化し、……教会はそれを聖遺物に認定したらしい。

 現在神殿に飾られており、何度かそれを見に行ったが五百キロはありそうだった。


 本人曰く “ここまで大きいと有り難み薄れるよね” と笑っていたが、神官どころか平民すら毎日祈っているのを知らないのだろうか。

 しかもその石は発光しているため夜に見に行くと本当に神々しい、(まさ)に奇跡だ。


 執務室を退室し、一度家に帰る。そして、家族に異動になったこと、そして昇進したことを伝えた。

 娘は俺の昇進を心底から喜んでいたが、妻は危険なことは無いかと心配していた。

 平民にすらフォルティス様では無く、親しみを込めてフォル様と呼ばれるほど、その行動の数々は有名なのだ。

 実際平民の為にも様々な発明をしていて、この前俺が魔力を込めに行った特別なワインもその一つだ

 反対に、フェリィシア様は秘密のベールに包まれたように謎が多い。


 しかし、多分大丈夫だろう。作ら有れる魔術工房は山の上だし、そこから隕石でも降ってこない限りは安全だ。


 次の日、侯爵家当主様によって魔珠が入れ替えられた。感謝を伝えると、微妙に申し訳なさそうな顔をしていたのが印象的だった。


 そしてフォル様とフェリィシア様の山へ向かう道中の護衛をし、正式に駐屯地へと配属された。兵たちの訓練をしながら佐官級の魔術に慣れることにする。


 護衛をした二日後の昼頃、仕事も一段落しそろそろ昼食でも食べようと思いふと空を見上げると。凄まじい勢いでこちらに落ちてくる何かがあった。


 その姿と共に、ゴウゴウという音は次第に大きくなり、近づいてくる。

 慌てて外へと出て、防御魔術を唱えると何枚かの防御壁が空中に現れる。

 佐官になったことで扱える魔力が増え、完成した魔術の出来具合に満足していると、その落下物が防御壁にぶつかった。

 ……しかし、まるで紙でも破るようにその隕石に全てを破壊され、地面へと激突した。

 土煙を辺りに漂わせ、大きな穴を地面に穿ちながら。


 そして、姿が段々と見えるようになると、そこには三人の少年少女が立っていた。


 ……何も見なかったことにして、昼食を食べに行って良いだろうか?

 ダメだろうなぁと思いながら、ため息を吐きたいのを我慢し、俺は対応を考えるのだった。



お読み頂き有難うございます。

評価や感想など、頂けたら幸いです。


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