五色の武具
セラとフェリィの模擬戦は終わった。――セラの完敗という形で。
しかし、セラの能力の高さは証明された。
そのため、武装を本格的に作っていくこととなる。
「じゃあ、フェリィ、セラ。さっそく作っていくけど大丈夫か?」
「えぇ。魔力もほとんど使わなかったし、ね?」
「……はい、問題ありません」
フェリィはにこやかに笑っているが、セラはどことなく苦しそうだ。
「セラ、本当に大丈夫か? 厳しいようだったら明日にしても構わないぞ」
「――――本当に,問題は、有りません。しかし、なぜ幻と戦っていたはずなのに我は損傷を受けているのでしょうか?」
「ふふ、私が”かくあれかし”と思ったからよ? 幻像が実を結び、実像は夢幻となる。私の秘跡の得意分野ね」
「成程。酷いものです。分体も未だ治りませんし」
セラはその顔を苦笑に歪める。
「ん? それなら俺が直してやるよ〈――其は回帰す〉 どうだ?」
もともと回復系の術式は何重にも掛けて居たため、直ぐに終わる。
「なんと……全て再構築されました。回復系がお得意と聞いておりましたが、ここまでとは」
苦笑が驚愕へと変わる。基本的に無表情なセラが戦闘の後からは随分と表情豊かだ。
「いーや、こんなの秘跡も権能も使ってないから簡単だぞ? セラにも今度教えてやるよ」
「ぜひ、お願いします。継戦能力に大きな差が出ますので」
「おう、じゃあ早速武器作ろうか。あとフェリィにも回復掛けとくよ。多少なりとも消耗してるだろ」
「……良く分かったわね、フォル。流石よ」
少しフェリィは頬を赤らめる。
彼女は少し、強がりな部分が有るから気を付けないといけないのだ。
二人を回復させ、少し歩いて工房へと戻る。
そこは朝出た時と変わらない状態であった。
整然としているが、どこか冷たい雰囲気だ。
「じゃあ、フェリィ。机に木、火、土、金、水の極晶鉱と神丹を置いてくれ」
「えぇ。……っとこれでいいわね?」
極晶鉱は魔鉱山という属性付の魔力が鉱石となって産出する特殊で貴重な鉱山から採れる【魔鉱石】の中でもめったに取れないものだ。
特徴としては魔宝珠の様にそれ単体で魔力を発生させるということである。
残念ながら魔鉱石を体に埋め込むことは不可能なため、身体能力などが向上するわけでは無い。
しかし、もし平民がこれを見つけることが出来た場合、その平民は親戚全員が一生働かなくても良い程の金額を手にする程に貴重だ。
……もっとも、魔鉱山は殆どの場合貴族が管理しているが。
それ程貴重な極晶鉱を五つも用意し、現在熾天使の翼の獲得交渉をしているアンプルール侯爵家の財力は脅威的である。
それはそれとして、武装の作成に取り掛かる。
「確認するぞ。素材は五つの極晶鉱に神丹、詠唱は五聖、代償は……セラの分体全て。そして、触媒はセラの体だ」
「……マスター。先程まで我は、分体は好意で直して頂いたのだと思っていた」
「まぁ、武装作った後にまた構築してあげるから、な?」
セラは補助の為に作ったのだから存分に使うのだ。
「ふふ、いいじゃない。ところでフォル、詠唱はこの三人で行うの?」
「そうだな、と言っても今回は素材もしっかりしているし簡単なものだけど」
そうして作業台の上には神丹、そしてそれを囲むようにして極晶鉱、その周りに分体が置かれる。
俺は錫杖、フェリィは扇を持ち、セラは両腕を胸にたたむようにして目をつぶり、詠唱を始める。
――――
――――
――――
殖える生命
燃える監獄
埋める停滞
留める安寧
沈める栄光
其れ即ち五彩を成す
――――目迷五色
……詠唱が終わると、極晶鉱が完全な球体へと変化し、その周りをクリスタルの様に硬質で透明な膜が覆ってゆく。
完全に極晶鉱が覆われるとその上を更に二匹の黒い蛇の紋様が上下、そして左右を一周し、交わる。
ランタンの様に内側から淡いそれぞれの属性の光を放つ一見繊細な芸術品にも見える武装が形作られる。
それが五つ同時に行われ、終わった。それらは俺に挨拶するようにこちらへ飛んで来る。
赤い一つの球に手を触れると、仄かに温かい。これは薔薇石とも言われる、火の極晶鉱を使ったものだ。
「うん、イイ感じだ。良し、軽く使ってみるか」
「どう使うの? ここ工房内よ」
フェリィは興味と疑問をその瞳に浮かべる
「ほら、ここ天井無いだろ? 上に魔術打てばいいんだよ。あ、でもここら辺の物は一応しまっておくか」
そうして全てを仕舞うと軽い詠唱を、それでも最大出力で行う。
「火生土・土生金・金生水・水生木 ――――五行相性・木生火! ……あっ」
火が熾り、土となり、銀が発生し、水が流れ、木が育ち――爆発する。
――カチッっと音が聞こえた気がした。そして続くは鼓膜を破壊するような轟音。
「マスター! 防御術式を! 〈v-7〉――消しきれな――
「フォルこれ――バッ――――
段階を踏んで強化された極大の爆風が工房内を荒れ狂い、蹂躙する。
莫大な圧力が逃げ場を求め壁を押しのけようとするが失敗に終わり、天井へと向かう。
それらは、俺を、フェリィを巻き込み恐ろしい勢いで空へと持ち上げる。
幸い、と言っていいのか全員瞬時にそれぞれの得意とする防御魔法を構築して居た為、怪我の心配はない。
しかし、凄まじい威力を打ち消すことは難しい、何しろ最大出力での魔術が至近距離で発動されたのだから。
二人の体は天に舞い、またセラもそれを追いかける。
「んー、ミスったな。思ったよりも威力出るっぽいなこれ」
「フォル! 大丈夫? 怪我は!」
「あぁ、大丈夫だよフェリィ。というか随分驚いてるな、フェリィこそ大丈夫か?」
「え、えぇ、大丈夫よ。――――って驚くに決まってるしょう!」
今まで聞いたことない程大きな声を出し、フェリィはその柳の葉の様に整った眉を歪めて続ける。
「何よあの大爆発、本当に危なかったわ! 髪の毛も、もうボサボサよ!」
「――マスター、我の体の魔力が3割ほど弾け飛んだのだが」
「うん。すみません。以後気を付けます……マジでごめんね?」
……久しぶりに本気で謝った気がする。
しかし、現在絶賛空を飛んでいる。いや、飛ばされているといった方が良いだろうか?
まぁ、兎にも角にも非常に高い場所を飛んでいて、景色は良好だ。
丁度俺達が向いている方向には侯爵家の本城が見える。
侯都、つまりアンプルール侯爵領の首都にあり、そしてその中心にある小高い丘の上にその城は聳え立っている。
今頃はきっと父や臣下達がそれぞれの仕事に励んでいる事だろう。
そうして、少しぼんやりしていると下の方に軍のものと見られる駐屯地が見えた
「フェリィ、セラ。駐屯地あるし、そこに降りようぜ?」
「はぁ、なんだか疲れたわ。いいわ、下りましょう」
「了解です。マスター、後程魔力の補給をお願いします」
「オーケー、任せとけ。じゃあ、下りるぞ。〈命の重み〉――発動」
――――天から三つの流星が加速しつつ地へと堕ちて行く
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