御子の覚悟
ベルに言われ、私は驚きを隠せなかった。
ベルの言う通り、私は記憶を失うつもりなんてさらさら無かった。それに、私のチカラはルミナスもしのぐ。そのチカラを持ってすれば、対抗できるという自信があった。けれど、御子のつとめが崇高なものだと信じている人が多い中、「記憶なんて失わない。真実を探るためにね」なんて言えなかった。だから仕方なく肩をすくめ、ベルに目で合図を送り、時間を止めてもらった。
「さっきの質問、 ベルの言う通り。記憶を失わせるという事は、それなりの理由があるって事でしょ?」
「ええ。皆はどうやら太陽の御子との衝突を避けるためだと思っているらしいけれど。きっとそれだけじゃないと思う。
私はあまり覚えていないけれど、天空を統べる"大巫女"に近しい人がいた気がする」
「大巫女?」
「この世界を司るといっても過言ではない人。大巫女なら何か知ってるかもしれないわ。ただ、これだけは覚えていたから注意して。天空にいるのは、人間だけじゃない。チカラの根源となる魔力の原石…オーブドラゴンが眠ってる」
「嘘…。てっきり化石になったと思ってたのに!」
「私もそう思った。でも、彼が目覚めたら、私たちはチカラの大きさに耐えられずに滅びてしまう。だから、目覚めてしまわないよう、私たちも彼に"眠りの鎖"を与え、オーブドラゴンからチカラを吸い取り、それを太陽と月に与え、光として大陸に注がせる。そうして今までやってきたらしいけれど、今は永遠に眠らせるほどのチカラのある御子または大巫女が見つかっていない。トワ、あなたはくれぐれも無茶しないでよ?
あなたは強い。でも、今回はあくまでも調査よ」
「分かってる。私にそんなチカラが無いのは自覚してるから」
ベルは安心したように息をつき、時間の魔法を解いた。
すれ違いざまにベルが、
「反・状態異常と魔力耐性は絶対にかけておくべき魔法」
と耳元で呟いた。私は静かに頷き、月の扉をくぐっていった。