過去
「魔王、私、辛いよ」
私は何故こんな事を言ったのだろう。昔から辛いことは我慢して、いっぱい言いたいことはあったけども、それでも私は耐えてきたのに・・・
どうして、どうして、どうして!
なんで私は泣いてるんだろ・・・・・・
勇者は今までの枷が外れたように涙を流す。
私は大泣きする顔を見られたくなかったので顔に布団を押し付けた。
ずっと、ずっと私は自分の言葉を枷にしていた。自分はみんなの姉であることに。姉であるがため私が『辛い』とは言えなかった。だって、言ってしまえばきっと止まらない、みんなを傷付ける。そんな事は私には出来ないのだから。だから私は我慢することしか出来なかった。いつかの幸せを信じて,,,
そうしていつまで泣き続けただろうか。私は瞳から涙がもう出ないと言えるぐらい泣いた。きっと目元は赤くなっている。
「ねぇ、魔王、私の話聞いてもらっていい?」
もう勇者には相手が魔王でも誰でもよかった。とにかく話がしたかった。
「ああ」
魔王はそう頷くことしか出来ない。きっとそれが勇者の救いになると思い。勇者は体を起こし、赤くなった瞳を魔王に向けて話し出す。
「ありがと・・・・・・私の生まれはここから結構離れたアガレスタ王国の辺境、ラスタという村なの。と言っても今はその村はないのだけど。今は王都の中の外れにある孤児院に住んでるの。そうなってしまったのは10年前、あの日を境に私は・・・ううん、私達の人生は変わった。」
アガレスタ王国、そこはネシアという大陸の東部にある大陸で二番目に大きな国。ラスタという村はその辺境、南東部の端にある。地図には小さく載っているだけで存在が薄い村だった。
「私達の村、ネシアはたった100人ちょっとしかいなけど、それでも豊かと言えるほどの活気はあったの。でも、11年前に大陸規模の大地震が起こり一気にその幸せだった時間は消えたわ。村長である父親が死んで、その他にも何人も死んだわ。だから私達は助けを王国に求めたのだけど、王国は何も救助も寄越さなかったわ。それもそうでしょうね、王都だって被害がないわけでは無いのだし。・・・だから私達の村は自力で村の復興をしようとしたの。母親が村長の代理をやって、他の被害の出てる村と一緒になって一つの新たな村を1年掛けて作り上げていったわ。それからの生活はもちろん苦しかったけど充実した日々をおくることが出来たの」
そこで勇者は涙目になりながら1度言葉を切る。
「でも、そんな日々も長くは続かなかったわ・・・・・・たった,たった半年で幸せの日々は終わったわ。私達の村はアガレスタ王国の東にあるベスタリク皇国に攻められ一刻で無くなった・・・」
勇者は悔しいのか下唇を噛み、両手を震えるぐらい強く、強く握りこんでいる。
魔王はなんて話しかければいいのか分からず、話を聞くことしか出来なかった。
「生き残ったのはたったの3人、私と弟のクレスト、それと親戚の赤ちゃんだけで大人は全員殺されたわ。そのあとは王都の孤児院に行って暮らしていたの。そこからは何故か私が勇者に選ばれ勇者にあるべき姿にさせられたという人生よ」
私は話し終えて虚無感を感じていた。