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やらなくちゃいけないこと
観客たちが試合に熱い視線を送り盛り上がる中、一人だけ違う視線を送る者がいた。その視線の送り主はクロノリティアの担任、ジルだった。ジルは満足げに試合の経過を眺めていた。
「クックックッぅう・・・・・・こんなに早くに消えてくれるとは、クハハハハァァ」
ジルの片手を顔に当てて俯きながら笑う姿は邪悪なオーラを放ち、闘技場の熱気で溢れる空間の中でひときわ歪な空間を演出していた。その歪な空間を壊したのはジルの隣で黙々と試合を見届けていた人物だった。
「いきなり立ち上がってどうしたのですか、カルメさん。あなたは友人のリセットを見届けるのでしょう?」
「先生。私やらなくちゃいけないことを思い出したので先に失礼させていただきます」
「ふぅ。まぁいいでしょう。お好きにしなさい」
アイリスはジルに軽く頭をさげると急ぎ早に観客席を後にした。
「クロノリティアのバカっ」
アイリスの言葉は闘技場の熱気と歓声にかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。