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没落貴族の召喚獣  作者: 灰色のクリスタル
最初の命令は死刑宣告
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試合開始

場所は闘技場。客席では数百人の人々が歓声をあげていた。レイジはその闘技場の中央でエディとエディの召喚獣と対峙していた。


「右手に剣、目の前には怪物・・・。俺はローマの剣闘士かなんかかよ」


レイジの手には闘技場へ入場する際に手渡された剣が握られていた。そのレイジの前に立つ怪物はレイジの3倍はある体をびっしりと緋色の鱗で覆ったトカゲのような出で立ちにこうもりのような翼を持つ、いわゆるドラゴンというやつであった。ドラゴンの鼻息を浴びるだけでレイジの皮膚がヒリヒリと痛みを発した。レイジの隣に立つクロノリティアがエディの方へと向かう。


「エディ。今日はリセットの方よろしくお願いするわ」

「こちらこそよろしく頼むよ。」


そういうとクロノリティアはうつむきながら反対側へと向かって言った。エディはクロノリティアが闘技場の端へと向かうのを見送るとレイジに目を向けた。


「クロノリティアの召喚獣、君には感謝するよ。君のおかげで楽しみが増えたというものだよ」

「どういうことだ」

「聞いていないのかい?このリセットの対価に彼女は1日俺のものになるんだよ。秘蔵の品々をやっと使えるよ。彼女の恥辱に染まる顔を想像すると・・・っん、たまんないねぇ」

つかみかかろうとするレイジをドラゴンが自身の尻尾を使い行く手を阻む。尻尾の影から少しだけ見えるエディはニヤニヤと挑発的に笑いながらクロノリティアとは反対側の端へと移動していった。クロノリティアとエディの二人が移動し終わると司会進行役と思われる男が声を上げる。


「本日はエディ=ガンヌさんとクロノリティア=リリューのリセット試合にお越しいただきありがとうございます。エディさんが従えるは皆様もご存知の通り炎の龍、レッドドラゴン。対してクロノリティアが従えるのはなんと無力な人間でございます。このままでは大変痛ましい結果が見えておりますのでおせっかいながら剣の方を渡しております」


観客の笑い声が闘技場を埋め尽くす。クロノリティアは一人うつむいて唇を噛み締めていた。


「皆様、お静かにお願いいたします。試合の前にお二人に召喚獣に一声かけていただきましょう。ではまずクロノリティアからお願いいたします。」


クロノリティアはうつむいたま一言だけ呟いた。


「何もしないで死になさい。」


クロノリティアは観客の激しいブーイングを受けた。ここは闘技場。観客は娯楽を求めにやってきているのだ。ただの処刑を見せられると言われては仕方のないことである。


「おおっと、これは戦いを楽しみに来ている皆様にはなんとも衝撃的な発言です。是非とも戦っていただきたいところですが、召喚獣の彼は今の命令ひとことで動けそうにありませんね。気を取り直してエディさん、お願いいたします。」

「一撃で()れ」

「強者の余裕というものでしょうか。それでは二人に一言いただいたところで試合の方を始めさせていただきます」


司会進行役の男の声とともに試合開始の鐘がなる。今からドラゴンの蹂躙じゅうりんが始まろうとする闘技場にレイジの声が響く。


「お前はこれでいいのか。自分を売って、家を守る、それでいいのか」

「エディのやつ、余計なことを・・・。嫌に決まってるわ。でも私に残された選択なんてこれしかないの」

「いや、他にもある。お前が欲しかったのは強い召喚獣だろ?だったら俺がこのドラゴンを倒して強い召喚獣だって証明すればいい」

「あんたに何ができるっていうの?ただの人間のくせに!抵抗しなければあなたは楽に死ねるの。だから……お願いだから……何もしないで死んでよ」


クロノリティアは大粒の涙をその瞳からぽろぽろとこぼしながら叫んでいた。その叫びは切に願う声だった。これ以上、罪を、痛みを抱えたくないという。


「いやだね。俺はまだ死にたくねぇんだよ。だからせめて足掻かせてもらう。じゃねぇと死んでも死に切れねぇ」

「っ・・・もう、好きにすればいいじゃない」

「その言葉を待っていたよ」


さっきまでクロノリティアの命令のせいで硬直して動けなかったレイジの体に自由が戻る。レイジは右手に持っていた剣を構える。その様子を見てエディはほくそ笑んでいた。


「もう遠慮する必要はない。レッドドラゴン、そいつと遊んでやれ」


レイジは口の端から火の粉を吹きこぼしながらレイジを見下すレッドドラゴンに雄叫びをあげながら斬りかかる。レイジの剣は身動き一つとらないドラゴンの緋色の鱗にたやすく弾かれる。剣を弾かれ、隙を見せるレイジを横薙ぎに振るわれる尻尾が襲う。器用に尻尾をしならせてレイジの手を狙い握られていた剣を弾き飛ばす。剣を失い、丸腰になってしまったレイジを尻尾の追撃が襲う。尻尾の先を鞭のように扱いレイジの顔の、腕の、腹の、足の、いたる箇所の肉をえぐりとる。あえて攻撃を直撃させずにダメージよりも痛みを与える、観客が喜ぶように。すでに戦いではなかった。レッドドラゴンによる観客のためのショーと化してしまった。レッドドラゴンは闘技場の熱気が最高潮に達するのに合わせて横殴りの一撃をレイジにぶつけ、闘技場の壁へと叩きつける。えぐられた傷口から血が飛び散り、鮮血の花を咲かせる。レイジは受身もできずに壁から地面へと崩れ落ちる。


「だから何もしないでって言ったのに」


レイジはクロノリティアのつぶやきを全て聞き届けることなく意識を途切れさせるのであった。

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