空腹の夜
闇に包まれた学生寮の一室の扉が小さな音を小さな立てながら開かれた。扉を開けた人物は足音を立てまいと、ゆっくりと部屋の中に忍び込む。手元にある小さなロウソクの灯りを頼りに一歩また一歩と部屋の中へと進んでいく。そんな心遣いも虚しく、侵入者はテラスにいたクロノリティアに見つかってしまう。
「遅かったわね、アイリス」
「なんだまだ起きていたの」
「持って行ってって頼んだ張本人がグースカ寝るとかありえないわ。あなたがさっさと帰ってきてたらもう寝てるわよ」
「レイジくんの世界の話とかしてたら時間忘れちゃって」
悪態をつくクロノリティアの元へ足を進め、テラスへと出るアイリスを出迎えたのはクロノリティアの腹の虫のなる音だった。アイリスは笑いを堪えられずに涙を浮かべながらクスクスと笑った。
「もう、クスッ。やめてよ。本当はお腹がグーって鳴ってねれなかっただけなんでしょ。だから食べなっていったのに」
クロノリティアはあまりの恥ずかしさに顔を真っ赤に染めながらも、か細い声で呟いた。
「しょ、しょうがないじゃない。これがあいつにできる私のせーいっぱいなんだから」
「そんな風に考えるんならやらなきゃいいのに」
「やらないわけにはいかないわよ。家族と今日会ったばっかのあいつじゃと天秤にかけられないわ。」
刹那の躊躇もなく発した言葉には彼女の覚悟が深く刻まれていた。その言葉を最後にクロノリティアはベットへと向かった。ベットからは時折グーと腹の虫の音が聞こえてきた。
アイリスはテラスで一人、星空を眺めながら少しだけ声を張って独り言を言う。
「レイジくんはまだ諦めてないよ。彼ならきっとあなたの運命を変えてくれるきがするんだ」
独り言は闇夜にただただ溶け込むように消えていった。