最後の晩餐
その後、レイジは物置小屋として使われていた場所を寝床として与えられた。小屋は周りを木々に囲まれていて、気落ちしていたレイジの心を癒すにはちょうど良い静けさだった。夕刻にクロノリティアが二つのパンと水、そして淡い光を放つランタンを運んできた。彼女は一瞥だけすると何も言わずにその場を後にした。
レイジがその二つのパンを口にしたのはそれから随分と時間が経った頃だった。先ほどまでほとんどの窓に灯りのともっていた3階建の学生寮は既にそのほとんどの灯りが消えていた。一層静けさを増した小屋で一人、窓からのぞく星の海を肴にしてパンにかじりついていた。
「最後の晩餐にしては地味だな。」
もう一つのパンに手を伸ばすと小屋の扉を叩いてアイリスが現れた。レイジはアイリスを素っ気のない言葉で出迎えた。
「何の用」
「パンだけじゃ足りないんじゃないかなって思って、よかったら食べて」
そう言って差し出されたバケットの中には手作り感が溢れるサンドイッチが入っていた。レイジは何も言わずにサンドイッチを頬張った。
「うまかった。一応礼は言っておくよ」
「それはよかったよ。」
「にしてもあいつ。俺にとっての最後の晩餐にパンがたったの二つってひどくないか」
「そのパンは彼女の今日の夕食だよ。言ったよね、彼女の家は没落した貴族の家だって」
「えっ!?」
「今日、彼女は夕食に何も口にしていないよ。プライドが高いから、私がサンドイッチを持って行ってもいらないって突っ返されちゃったよ」
「・・・。」
「これは私の考えだけど、これって彼女なりの贖罪なんじゃないかな。クロノリティアってああ見えて結構優しいんだよ。死んでと言われた君にこういうのは心苦しいんだけど、少しでいいから召喚獣とはいえ自分の都合で人を殺す彼女の気持ちを考えてあげてほしいんだ」
しばしの沈黙が流れた。その間アイリスはレイジを二つのまなこでずっと見つめ続けていた。レイジは渋々といった顔つきで答えを出した。
「なぁ、一つ伝言を頼まれてくれないか」
「構わないよ」
「あいつにパンが余っちまったから明日の朝飯はいらないって伝えてくれ」
「わかった。伝えておくよ。…ありがとう」
その後しばらく二人で話をしながら夜を過ごした。