世界と召喚獣とクロノリティアの話
「それじゃあ。この世界のことを話そうか。ここはドルトブグルっていう国で多数の人間と亜人が暮らしているの。」
「亜人っていうとどんなのがいるんだ?アイリスも……亜人…だよな」
「そうだよ。私はエルフ。エルフ以外だとドワーフや獣人だとかかな」
「獣人ん!?ってことは猫耳つけた娘とかいるのか!?」
「どうしたのそんなに興奮して。そりゃ獣人だからね、いるともさ」
目の色を変えて詰め寄るレイジに対し、少し距離をとりつつ話を続けるアイリス。レイジを落ち着かせると話を続ける。
「大丈夫?話の続きをするね。私たちは召喚術を用いて、他の世界から召喚獣を召喚して契約を結び、その召喚獣を使役して暮らしているの」
「それに俺は巻き込まれたわけか。全くはた迷惑な話だな」
「召喚獣である君らからしたらそうかもね。その召喚獣なんだけど普通はゴブリンだとかモンスターが召喚されるんだけど」
「つまり俺はイレギュラー。あの男が言ってたのはそのことか」
「そういうこと。人間が召喚されたなんて聞いたことないからね。クロノリティアの家系は本当に呪われてどもいるのかな」
「呪われている?」
「クロノリティアの家って今じゃ没落貴族って呼ばれているけどもともとはこの国でも一二を争う有力貴族の家だったの。でもある時から召喚される召喚獣が弱いモンスターばかりになっちゃってさ。召喚獣の強さってのは貴族の力の物差しの一つだったから彼らはリセットという手段を使い召喚獣の再召喚を行ったの、貴族としての権力の保持のためにね」
「リセット?」
「そうリセット。普通は召喚獣ってのは一人につき一体な訳で死んじゃったら新たな召喚獣と契約するってことはできないんだ。でもそれを可能にする方法があるの。それがリセット。その行為を繰り返すことをリセットマラソン、通称リセマラっていうの」
「リセマラねぇ」
「ん?どうかしたの?」
「いや。どこの世界も強さを追い求めるのは同じなのかと思ってな」
「へぇ〜。そっちの世界にもあるんだ」
「まぁ、似たようなのがな。話を続けてくれ」
「あぁ、うん。そのリセットの方法なんだけど、簡単に言えば他の召喚獣に殺させるんだ。」
「死んだら新たに契約できないって言ってなかったか?」
「その通り。だから特殊な召喚獣が必要なんだ。これを見てくれるかな」
そういうとアイリスは右手の甲を見せてきた。そこには黒色の模様が刻まれていた。
「これは召喚紋っていうの。召喚師と召喚獣に刻まれる契約の印。普通は黒色なんだけど特殊な召喚獣の場合色が変わるんだ。そして、リセットができる召喚獣はこの召喚紋が赤色になるの。」
「んじゃ、俺は何色かな。どうせなら特別な力ありの方が嬉しいんだが、ってどっちの手にもない!?」
レイジが自分の両手の甲に目をやるとどちらにも印は刻まれていなかった。アイリスは慌てふためくレイジの姿を見てくすりと笑った。
「大丈夫だよ。召喚獣の召喚紋は手の甲に出るとは限らないんだ。それに召喚獣のは黒しかないよ」
「そ、そうなのか」
「うん。で、その特殊な召喚獣も万能ではないんだ。リセットができるのは1日1回までなんだよ。そして特殊な召喚獣はとても希少なんだ。だからリセットの依頼料は大金が必要になるの。リセマラでなかなかうまくいかなかったクロノリティアの家はそうやって衰退していったの。そして、今クロノリティアが会いに行っているのがその特殊な召喚獣の持ち主、エディって男なの」
「・・・ってことは俺はそのエディって男の召喚獣に殺されるってことか」
「うん。その通りだよ」
その言葉を聞き終わる前にレイジは脱兎のごとく部屋から逃げ出すのであった。
「あらら、逃げられちゃった。ねぇ、レイジくんをつかまえてきてくれるかしら」
窓の外でその言葉を聞いた何かが飛び立っていった。