国王 アレス=ロー
クロノリティアたちが属する国家、ドルトブグル。その国王を務める男、アレス=ロー。召喚獣の扱いに長けており、歴代の王の中でトップクラスの実力を有していると評価されている。そのせいか、アレスは強者を見つけるとすぐに戦いを挑む悪い癖があった。国王に使えるものは皆その悪癖に振り回されていた。そして戦うことを決めたアレスを止められるは今は亡きアレスの妻、エリスぐらいだった。
「昨日の今日でまたここに来ることになるとは思わなかったよ」
そう呟くレイジは昨日、レッドドラゴンと相対したばかりの闘技場に立っていた。レイジは先ほどまで着ていた制服から国王の従者から渡された動きやすい軽装の鎧に着替えていた。
レイジたちは有無を言わされずに馬車へと押し込まれるとそのまま闘技場へと運び込まれていた。国王の行動力に驚く気持ちと戦いへの執着心に呆れる気持ちの入り乱れる感覚に溺れている間に準備は全て終わっていた。
国王は赤いスーツのまま腰に一振りの長剣を携えてレイジの前に立っている。
「相手のことを知るには剣を交えるのが一番手っ取り早いというのが私の考えだ。それでは始めようか。遠慮はいらない。かかってきなさい」
「いやいやいや。国王に剣を向けるのはさすがにまずいでしょ」
そう言ってレイジは国王とマリー、さらに国王についてきた権力者と思しき初老の人物らにやめるように促す。だが権力者たちの返答は一貫して「構わない。少しぐらい痛い目にあった方がいい薬になる」というものばかりでマリーもお手上げの様子だった。最後の頼みの綱だったクロノリティアはマリーに夢中で話しにならない。自らの目標を既に叶えたと言ってもいい人物に対しての羨望はわからなくはないが時と場所は弁えて欲しいものだ。
「というわけだ。私は一向に構わないから君の全力を見せてみなさい」
「ああ、もう。どうとでもなれ」
やけになり呪文を唱えるレイジの手に真紅の刀身を持つ剣が現れる。剣が現れると同時に闘技場にいる全員に空気を焦がす熱波が届く。それを感じて権力者たちの歓声が上がる。真紅の刃の切っ先がアレスを襲う。がその剣線をアレスは剣を軽く当てて軌道をずらして避ける。レイジも負けじと追撃の一撃を放つがアレスに簡単に止められてしまう。
「君の実力はこの程度なのかい?本気できなさい」
その一言で火がついたレイジの感情と比例するように刀身は熱を増して行く。熱を増した刀身は交わるアレスの剣を熱で溶かして切断しようとする。アレスはとっさに手首を返して剣を弾くが、アレスの剣は交わったところから赤く色を変えて弱々しく曲がり使い物にならなくなる。アレスは口角を上げながら使い物にならなくなった剣を投げ捨てる。
「面白くなってきた」
「まだやるのかよ。武器も失ったってのに」
「これからじゃないか。久しくワクワクしているんだ。私の楽しみを取らないでおくれよ」
アレスは声を低くして呟く。レイジはアレスの言葉を聞いた直後、息が詰まるのを感じた。徐々に体が重くなる。倦怠感が全身を襲い、視覚が歪む。眉間から一筋の汗が流れる。汗が地面に落ちる時、ばたりと何かが倒れる音がした。見物をしていた権力者の一人が倒れたのだ。周りの者も辛そうにしている。
「全く、少し熱を上げたぐらいで情けない」
「この息苦しさは……」
「あぁ、私の召喚獣の力だ。少しばかり場を盛り上げるために空気を焼いたんだ。おっと、この程度でへばってくれるなよ。まだまだ私は満足していないのだから」
アレスはそういうと大きく跳躍してレイジとの距離を詰める。それと同時に蒸気を纏うアレスの拳に危険を感じ、後ろに回避する。直後、さっきまでレイジがいた場所が爆散する。レイジの視界は爆発によって舞い上がった土煙で覆われてしまう。どこからアレスの追撃が来るかわからず、四方に警戒線をはる。アレスはその警戒線を掻い潜るようにレイジの背後から飛び出し蒸気を纏わせた拳を叩き込む。突然の背後からの襲撃にレイジの反応が一瞬遅れ、アレスの拳がレイジの懐に叩き込まれる。アレスの拳が破壊をもたらすその直前、一人の言葉によってその拳は止められる。




