真夜中の訪問者
イザベルの元を後にした三人は学生寮のクロノリティア達の自室へと戻っていた。部屋には机が二つと二段ベットが一つあった。机は二人の勉強机だろう。どちらが誰の机かは聞くまでもなくわかってしまう。学校の備品であるつくえ自体に違いはない。ただただ机にあるものが違うのだ。片方の机は雑貨などが溢れいかにも女の子の机といった雰囲気があった。しかしもう一方の机には何もないのだ。その机がクロノリティアの置かれている環境を暗に表しているかのようだった。
未だに顔を赤く染めているアイリスにクロノリティアが呆れた声で問う。
「アイリス。いつまでそうしてるつもり」
「だって~。うぅっ」
レイジの方を頬を染めながら横目でチラチラと見ているアイリスにクロノリティアの鋭い眼光が突き刺さる。早々にアイリスがまだ使い物にならないと判断を下したクロノリティアは話し相手をレイジへと切り替える。
「あんたをこれからどうするかなんだけど」
「その前に、俺のことをいつまであんたとか召喚獣とか呼ぶつもりだよ。俺にはレイジっていう名前があるんだからそう呼べよな」
話の腰をおられたクロノリティアは不服そうな顔をしたが渋々といった顔でため息まじりに話を進める。
「んで、レイジのこれからのことなんだけど。まず寝床の確保なんだけどこの部屋は論外だし、昨日の小屋も特別に使わせてもらっただけだし……。ハイドも使えないし」
「あの小屋はもうごめんだな。ハイドってなんなんだ?」
「しょうがないわね。あなたが初めてジル先生に会った時先生の体から召喚獣が出てきたでしょう。あれがハイド。召喚師の体に召喚獣をしまうことをハイドっていうの」
「へぇ、そうなのか。教えてくれてありがとなクロ」
「……は?ク、クロって誰のことかしら」
「お前のことだけど。クロノリティアって長いし呼びにくいしさ」
「だからって……」
「いいじゃないかな。クロってなんかかわいいし」
突然さっきまで顔を真っ赤にしていたアイリスが会話に割り込む。アイリスの代わりに顔を真っ赤に染めだしたクロノリティアが怒声を上げる。
その時、部屋に扉をノックする音が響く。
「こんな時間に誰かな。クロ、私見てくるわね」
「ちょっとアイリス。その呼び方を私は認めてないんだから」
アイリスは怒っているクロノリティアからそそくさと逃げ出す。クロノリティアは諦めたようにため息をつきながら話を元に戻す。
「全く、あんたのせいで……はぁ。もういいわ。それでレイジの寝床のことなんだけど」
「ああ、そのことなら心配いらないですよ、リリューさん」
その声にカクカクと顔を硬直させたまま振り向くクロノリティアの目の前に現れたのは担任のジルだった。その声音からも分かる通り、先日の怒りの形相とは違いにこやかに笑みを浮かべていた。
「彼には学生寮の相部屋ですが用意をしておきました。着替えも部屋に置いておきましたのでぜひ使ってくださいね。いやぁ、それにしてもレッドドラゴンを撃退してしまうとは……素晴らしい!これからの活躍にも期待していますよ」
「あんた何を言って」
「期待・していますよ」
レイジが不服を表そうとするがジルが怒気を込めた言葉でそれを阻む。反論を許さないように矢継ぎ早に言葉を連ねる。
「リリューさん、彼の部屋の鍵を渡しておきますね。それと明日の授業後に学園長がお話があるとのことなので予定を空けておいてくださいね。では、おやすみなさい」
ジルはクロノリティアに鍵を渡すと退出していった。部屋で聞きにまわっていた二人がキョトンとしていると部屋の外からこちらの様子を伺っていたアイリスが二人の元へと目を輝かせて駆け寄る。
「すごいじゃん。学園長からの呼び出しだなんて」
「ええ、そうね」
「学園長に呼び出されるってそんなにすごいのか?俺のイメージだとあんまりいいイメージじゃないんだけど」
「もの凄くすごいことだよ。だって私たちの立場上学園長って呼んではいるけど本来は国王様だもん」
一人ハイテンションなアイリスとは対極的に渦中のクロノリティアはジルから手渡せられた鍵に視線を向けていた。
それに気づいたアイリスが後ろから抱きつきながら声をかける。
「浮かない顔してどうしたのよ、クロっ」
「相部屋の相手なんだけど……ネルなのよ」




