英雄譚
「昔々、この世界は邪神により滅亡の危機にあった。そんな世界にとある村に召喚された白銀のシルバーウルフ、世界を救った英獣。でもシルバーウルフは召喚士とともに虐げられていたの。それはシルバーウルフの召喚士の村がウルフを代々召喚する村であり、シルバーウルフは悪魔が従える狼と恐れられていたから。一人と一匹は物心をつく前に村を追い出され冒険の旅へ赴くことになったの。シルバーウルフは冒険の最中、多々の苦難を乗り越えすべての邪神を喰らい尽くした。けれども最後の邪神を喰らった時、シルバーウルフの白銀の体は徐々に漆黒に染まっていった。シルバーウルフは自分自身が邪の道へ落ちるその前にその身を火山へと投げ込み世界を邪神から救ったの。そしてシルバーウルフはみんなからこう呼ばれるようになった。白銀の餓狼と。そのシルバーウルフの胸にあった召喚紋とあなたの背中にある召喚紋が似ているの」
レイジの背中にはまるで顎のような召喚紋が刻まれていた。地震の背中にある上顎と下顎がそれぞれ一本の線で刻まれた召喚紋にレイジは触れながら呟く。
「英獣の召喚紋に似た召喚紋……」
「それに召喚されたばかりのあなたがすでにレベル2っていうことにも驚かされたわよ」
「俺がレベル2?」
「知らなかったの?召喚紋の数は召喚獣のレベルを表すの。あなたは2本、つまりレベル2ってことになるの。ほんとに人間であることといい白の召喚紋のことといいイレギュラーの塊ね、あなた」
イザベルに呆れられながらも説明され自分自身の特異性をあらためて自覚する。それは決して悪い意味だけではなくそれ以外の意味を感じながら。
「あっ、レイジくん目覚めたん……だ」
「あんたにしてはよくやったじゃない……なっ!」
イザベルと部屋の中、二人で話しているところに現れたのはクロノリティアとアイリスの二人だった。イザベルと話しているレイジを見て、アイリスは顔を真っ赤にしながら両手で目を塞ぎ、クロノリティアはわなわなと震えていた。
「くぅおの変態ぃ!イザベル先生とそんな格好で何しているのよ」
その言葉に振り返るレイジは上も下も素っ裸の姿だった。
なぜなら、スライムの体内での治療のために衣服を身につけていなかったレイジだったが、自分が何も身につけていないことに気づかずにイザベラと話していたからであった。
「あ゛っ……デジャブな予感」
「あらら。いつものことだから気にしてなかったわ。着替えもボロボロでないし、とりあえずスライムちゃんお願いできる」
イザベルがスライムにお願いをするとスライムは体の一部を切り離してレイジの体にまとわりついた。半透明のスライムの体は徐々に白濁し、やがて白色になると形を整えていき衣服へと変貌を遂げた。着心地は問題なく普通の衣服となんら変わりない肌触りだった。
「これでとりあえず問題ないわね」
「うおぉ。すげえなぁ」
「すごいでしょ。スライムちゃんはこんなこともできるんだから。着替えが用意できたらスライムちゃんにもういいよって言ってね。私の元に戻ってくるから」
「わかったよ。よろしくなスライム」
「クロノリティアちゃんも来たことだし夜も遅いことだし今日は早く帰りなさい。レイジくんももう心配いらないから帰っていいわよ」
「わかりました。今回治癒していただきありがとうございました」
クロノリティアはイザベルに対し深く頭を下げてから部屋を後にする。
「はいはーい。お大事にね」
クロノリティアに続く形で顔真っ赤に染めたアイリスが終始無言のまま退出する。どうやら相当ウブなようだ。クロノリティアがしばしボーッとしているレイジに気づき急ぐようにと呼びかける。
イザベルは軽くお辞儀をして退出するレイジを見送ると椅子に腰掛けて湯気を立てているコーヒーをすすりながら呟く。
「なかなか面白い子よね。ねぇ、そう思わない?」
イザベルの呟きに答えるものはおらず、ただ隣にいるスライムがブヨブヨとうごめいているだけだった。




