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ゴリラ転生  作者: ワガシヤ オカシ
2/8

第二話:村へ向かうゴリラはチートに苦悩する。

巨大カエルの頭部を渾身のジャイロ・ウンコで粉砕したゴリラは、粉砕されたカエルの目の間に座り込んでいる赤い巻き毛の頭髪をもつホモ・サピエンスのメスを見下ろしなんと声をかけるべきか思案していた。

この赤毛のメスはゴリラ視点ではそろそろつがいを持ち子をなせそうな年頃に見えり、日系ゴリラとしてみると少女のように見えた。

ホモ・サピエンスのオスをこのような森で探すということは少し考えづらいが、つがいが付近にいてこのメスを襲っているなどと誤解されるのも面倒なので丁寧に対応すべきだろうとゴリラは考えた。


大丈夫か、怪我はないか?などというセリフでいいのだろうか。

口を開こうとしたが実際問題ゴリラが少女に吐くセリフとしてこのセリフが妥当かというと微妙なところだった、そもそもゴリラはゴリラであるので適切な言語を言葉として発することができるのだろうか。

女神曰くコミュニケーション能力を与えたとのことなので相手の言葉が理解できることはわかっているし、おそらく何らかの形でこちらの意思も伝えることはできるはず。

そんなことを考えながら、ゴリラは声を発した。


「ウホ」

自身が発した結果とはいえ、それはまさに絶望としか言いようがない感情がゴリラの全身を駆け巡り、思わずでかいほうも小さいほうも全開放で漏らす寸前までいった。

能力を得たとしてもゴリラはゴリラでしかないということだろうか、いろいろと言葉を並べることを決意し声を発してみれば出てきたのはウホだ。

例えば日本人でもアメリカ人でも異世界人であってもウホはウホとして理解できるだろうがウホの中に込められた意味を解することのできるものなんてゴリラ以外にいるはずもない。

ゴリラの中のチート能力由来の日系ゴリラ的思想が必死に下腹部を締め付け、ギリギリのところで粗相をとどめてくれたのは幸いだっただろう。


「あ、大丈夫です!ありがとうございました!」

彼女の返答はゴリラの心配をいい方向で裏切ってくれて、さっと立ち上がって両手を使ってスカートについた土をパンパンと音を立てて払っていた。

なんということだろうか、この脆弱な肉体を持つ赤毛のホモ・サピエンスのメスはゴリラが伝えたかったはずの意思を、本来の彼女であれば理解できうるはずもないウホという音声だけで全て正確に把握してしまっているようだった。

考えるべきことは増えたが会話に大きな空白を開けることはよくないと考えたゴリラは、ここまでの短い転生ゴリラ生活でもある程度使いこなせてきたといえる《ディープ・ソウト》の助けを借りつつ《パーフェクト・ノウレッジ》でこの現象についてチート・バリューセットの中身の回答を求める。

《コミュニケーション・ショートニング》・・・おそらくこんな感じの名称であっているはずだ。

ゴリラの意思はすべてウホという言葉に圧縮し短縮されてしまっているようだ。

言ってしまえばカクカクシカジカというものと同じらしい。

どう、便利でしょ?とでも言いたげな女神の顔が思い浮かぶ。

ゴリラが思うに、やはり日系ゴリラと化したゴリラよりあの女神のほうがよほどアメリカナイズされていてこの世界で暮らすのにふさわしい。


また、この赤い毛を持つメスのホモ・サピエンスに危惧していたことは別にあったがそれは杞憂だったらしい。

リインカーネイション型の転生ゴリラとしてこの世界で覚醒したゴリラが持つ肉体は、この世界ではすでに絶滅しているゴリラの遺伝子を受け継いだなにかしらの種族の生物からゴリラのチェンジ・リング(生まれ変わり)として生まれ、明らかに異質なこの肉体からすればその生物の群れから疎まれ弾かれていたことが予見できていたからである。

生前ゴリラ・ハーレムを築くことができず、淘汰されるだけの宿命を背負っていたソロ・ゴリラであるゴリラにとってこの肉体を持って生まれたゴリラ・チェンジ・リングには同情にも似た感情を持っていて、だからこそ赤毛のメスの反応に危惧を持っていたわけだが、彼女のこの反応からするとゴリラ・チェンジ・リングは彼女の群れで生まれたわけではなさそうだった。

そうなると当然、ゴリラの肉体を持つゴリラに対してそれが当たり前であるかのようにふるまう彼女の反応に対する違和感自体がぬぐいきれるものではないのだが。


「私たちには代々伝えれらて来た伝説があるんです。世界の危機が訪れた時、大きな光の柱とともに神の祝福を受けた黒ずくめの勇者が異世界より現れる・・・というものなのです!」

ゴリラの懸念に気づいたのだろうか、彼女はいわゆる笑顔をいうものを浮かべゴリラに説明をする。

しかしゴリラは、黒ずくめの勇者という言葉を聞いて眉間にしわを寄せる。

本来は日本人の根暗な童貞ニートが送り込まれる予定だったのかもしれない。

日系ゴリラと化した日本人的発想を付与され本来のゴリラが持ちえない情報を所持しているチート・ゴリラとしての知識によれば、根暗な日本人は黒系のファッションに身を包むことが多いとされているようだ。

対してゴリラは黒い肌に黒い毛をもつ生き物だ。

年齢を重ねるとシルバーバックと呼ばれる灰色の毛が背中を包むようになるが、ゴリラがゴリラとして覚醒する前のゴリラの肉体を持っていた生物はまだ年若かったようで、故にゴリラの体毛はまだ黒のようだった。

色々な意味で黒ずくめという文言に関してそれは不都合も理不尽も感じる必要はない。

ゴリラ自身がゴリラ界を代表する非リア充童貞根暗ニートで、同じ境遇を持つ人間を笑う資格なんてないからだ。


しかし勇者という単語は問題だ。

勇者とは勇気あるもので、勇気をもって世界を救済するのが勇者であるならば、女神という上司に言われたから仕事として世界を救済しに来た日系ゴリラと化した社畜ゴリラにその単語を当てはめるのはふさわしくない。

そういう意味では、意思とは関係なく転移したり強制的に召喚されたりゴリラと同じように神に無理やり招請されたうえで強引に転生させられた大半の犠牲者は勇者足りえないのだが、人間にとって勇者という言葉はきっと魅力的で、ゴリラにとってはどうでもいいという違いはあるだろうし、細かい意味についてまともに考えても仕方がないのかもしれない。

勇者という言葉に忌避感を持つゴリラを示す言葉をあえて指定するのであれば【職業救済者】という単語がゴリラにとってはふさわしいと言えるだろう。

一度死んだとはいえ、今現在生きてしまっているのであれば生活のために世界の救済という仕事をしてみようかという発想は、日系ゴリラと化したゴリラにとって腹立たしいことに自然なことになっていた。


考えがそこに至りふと気づいたことが一つ、なぜ【サラリーゴリラ】ではないのか。

そういえば女神に命じられ仕事としてこの世界に来た職業救済者であるならば給与や成功報酬というものがあってもおかしくないはずなのだが、だというのに何も言われていない。

無茶かつ理不尽な話ではあるがチート能力の付与が報酬の前払いである可能性もあるのだが、そういう話も聞いていない。

これは日系ゴリラと化した社畜ゴリラ的発想の欠陥としかいいようがないだろう。

ゴリラがアメリカナイズされたアメリカ系ゴリラであれば契約書を請求・精査し、必要ならば弁護士とも協力し、仕事に対する正当な報酬の要求と支払いの完全なる保証を求めていたはずだったからだ。

これは女神の手落ちでありゴリラ自身の手落ちともいえた、これを理由に女神の鼻の穴に親指を突っ込んでジャイアント・スウィングを行う罰を与えようなどと考えるのはさすがに強引すぎるだろう。

つまり【職業救済者】という言葉のチョイスは、比較的正確にゴリラの現状を指示しているといえる言葉のはずだ。


そう、ゴリラはサラリーを受け取るという確約を取っていなかった。

職業救済者ではあるもののサラリーゴリラではない。

報酬を女神が支払うという契約を忘れてしまったゴリラにとって、この仕事に対する報酬の支払い責任を持つのはこの世界の住人となり、女神から報酬を受け取れる可能性はほとんどないと考えるべきだろう。

もっともゴリラにとってこの世界の救済の報酬を何にするのが妥当か思いついていない。

ゴリラ・ハーレムを要求したいのはやまやまだけど、この世界のゴリラはとっくに絶滅しているし、地球に戻してもらうにしてもこの世界でそれが可能がどうかわからない。

仮に地球に転生して地球の危機を救ったとしても、地球にいる人類に世界救ったんだから元の世界へ送ってくれといっても叶えられないのと同じだ。

ともかくひどい話ではあるものの、先ほども言った通りゴリラの手落ちでもうどうしようもない。

なぜならすでにゴリラは、この世界へ救済者として転生してしまっているのだから。


なにはともあれ、ゴリラは勇者ではなく救済者と呼んでほしいとウホをもって回答し、その了承を得たうえでお互いの自己紹介をした。

「はい、ゴリラさん。私はミスラと申します」

この世界においてもホモ・サピエンスに見えたこの生物は、地球と同じく人間と呼称しているようだ。

白人・その他色付きや日本人・アメリカ人のような細かい分類もありそうだしあるはずだが、ゴリラにとってはそこに大した違いを感じないので重要ではない。

ともかく、ミスラという名の赤毛のメスを含む群れの連中は黒ずくめの勇者たるゴリラを待ち望んでいたようで、このメスが所属する群れに招待するよう言われているようだ。

わざわざこんな脆弱なメスを危険が跋扈する森へ派遣したのは、

「私は森で薬草積みと狩りの仕事をしているんですよ」

という回答で納得できたし、脆弱そうに見える彼女は群れの中ではまだマシなほうらしいという理解をすることにした。

オスが狩りをするかメスが狩りをするかは生物によって違うし、ゴリラから見た人類はオスであれメスであれ貧弱で脆弱なのには変わりないのだから、実際のところそれほど不自然にも感じなかった。


彼女曰くカエルは奇襲だったようで、よくよく見れば彼女は弓を持っていた。

しかしあの場面ではカエルと彼女の距離は1mほどだったため、弓での迎撃は不適当だったと言えるだろう。

そして慣れているはずの森で奇襲を受けてしまった理由を彼女は何も言わなかったが、おそらくゴリラ覚醒時に発生する光の柱とやらを見て森に入ったため、脅威に対する注意が散漫になっていたのだと予見された。

言ってしまえばゴリラが原因だが、根本的な犯人は例のアメリカン女神だし、彼女はゴリラが原因であると言わなかったんだからこちらもそれに触れるべきではないのだろう。

日系ゴリラと化したゴリラには、そんな日本人的な空気の読み方も多少は身についてしまっているらしい。

空気を読む能力はチート能力として独立しているわけではなく、日本人的発想の傾向が強くなるという副作用がある《ディープ・ソウト》にくっついてきたオマケのようなもので、チートらしく100%正解を導く類のものではないことがなんとなくわかり、空気を読むという力を単体で評価する場合、有能なのか無能なのかの判断は非常に難しい。

しかし、つい先ほどまで有能だと思っていた《ディープ・ソウト》は副作用が多すぎて実はこれもまた無能能力なのではないだろうかと疑ってしまうゴリラであった。


ともあれゴリラはミスラを名乗る人間のメスに先導を任せ、森の中を村と呼ばれる彼女の群れに案内してもらうことにした。

ゴリラは彼女の群れの位置を知らないし、彼女やゴリラにとっての脅威は常に前方から来てくれるわけではない上に、チート・バリューセットに内包される何かしらの能力により強化されたゴリラの機動力をもってすればどこから脅威が現れるにせよ、この脆弱なメスを守護するにふさわしい行動をとれるはずだ。

それにゴリラ自身もそうであったが、野生動物というものは一定の距離を保っている限り圧倒的脅威を基本的に見て見ぬふりをしてやり過ごそうとする。

脅威が一定距離内に無理に近づいてくるのであれば逃げるなり歯向かうなりの行動をとるが、そうでないならば弱者側から行動を起こしてはいけないのだ。

無用かつ絶対的な死を招く行為であると本能で知っているのだ。

そして、現在この森で圧倒的脅威とはこのチート・ゴリラのことを示す。

ゴリラが悠然と歩いているだけである限り、野生動物は脆弱なメスの人間を隣に連れていてもこちらに牙をむけることはありえないと言っても過言ではなかった。


「そういえば、ゴリラさんはずいぶん強そうですけれど、ステータスは確認しましたか?」

ゴリラはその不自然な言動に目を見開いた。

彼女曰く、この世界では己の能力の詳細をステータスというだけで確認できるらしい。

ゴリラのにとってはそれが必要だとも見れたほうが便利だとも思わなかったが、この世界では当たり前のようにあるらしく、ラノベでもそんな展開沢山あるよと《パーフェクト・ノウレッジ》が教えてくれたので、多分異世界をより異世界たらしめるために必要な要素なのだろう。

ただ問題はゴリラが言えるのはウホやウホに関連するゴリラ語であり、ステータスと言わなければステータスを確認できないという事実がヒトではないゴリラという生物の限界を知らしめていた。


とりあえず意思伝達はできるのだからステータスもウホで見れるのかもしれない、そんな思いとともに微かな疑念を胸にウホを叫んでみたがやはりウホはウホでしかないようでゴリラのステータスは見られないようだった。

それをウホでミスラに伝えると、彼女はうつむいてしまった。

日系ゴリラ的空気を読む能力が彼女が落ち込んでしまったのだろうと素早く察知した。

そこですかさずゴリラは、元々ゴリラがいた世界ではそんなもの自体なかったし特に不都合も不具合もないし世界を救いに来たことには変わりないとウホで彼女に伝えた。

すると今度は表情を一変して顔をこちらに向けてきた。

《パーフェクト・ノウレッジ》も空気読みも必要なかった。

ゴリラにだって嬉しいときはそんな表情を作る時だってあるものだ。

それにあえて名称をつけるのであれば、とびっきりの笑顔というやつなのであろう。


ステータスとやらは確認できなかったが、ゴリラはそれで落胆したりはしない。

そもそも自分の能力の可視化なんて存在しなかった世界のゴリラが、このゴリラだからである。

その上女神から生物界最強と告げられていたし、最強であることがわかっているのであれば数値にせよ文章にせよそれを可視化することに全く意味なんてないからである。

意味不明にアメリカナイズされたあの女神が付与をしたステータスを確認できるのであれば、そこにはただ単純に《チート・バリューセット》か《チート・ハッピーセット》もしくは《生物界最強のゴリラ》と書かれているだけだろうし、それで十分だった。

いちいち長々と箇条書きでそれぞれの能力が書かれているほうがよっぽど気味が悪いし書いたり読んだりする手間がかかる以上それは効率的とは言えまい。


《パーフェクト・ノウレッジ》などから始まるチート・バリューセットの能力の数々は、基本的にゴリラの行動に合わせて適切かつ自動的に発揮されるものばかりだった。

自発的にその能力を扱うことも可能だが、それはそういう能力だと自覚してようやく機能するようなものだし、おそらく人間的な行動のほとんどはゴリラが自発的にやろうとしても人間でない以上はうまくできるはずがないので自動でやるのに任せるべきだしそっちのほうが効率がいい。

故に細かい名称は自覚できてから考えればいいし、実際のところ名称を考える必要もあまりないと言える。

おそらくやろうと思えば大抵のことはできてしまうはずだ。

なぜならば、ジャングルで死亡した後のゴリラが自発的にやろうと考えた上でそれができなかったのは、女神の前でクソをすることとウホ以外の言葉をしゃべることだけだったからだ。


さて、空気読みでフォローを入れた後からはずっと機嫌がよろしい赤毛の少女は、何事かをゴリラに語り掛けながら跳ねるような足取りで村へ向かって歩いていた。

ゴリラはステータスというシロモノのことを思考し続けながら、適切と思われるタイミングでウホの返答を繰り返している。

しかし、適切なタイミングで適切と思われる思考をミスラに向けてウホと言っているわけではなかった。

それでもゴリラには、適切な言葉の選択が自動的に決定され伝達されているように感じていた。

それを名づけるならば《パーフェクト・コミュニケーション》だろう。

ミスラの話す言葉はほとんど聞き流しているがそれは《パーフェクト・ノウレッジ》で思い出し《ディープ・ソウト》で後からいくらでも精査できるし重要と思われる言葉は見当たらない。

はたから見れば完璧に受け答えし続け話が盛り上がっているようにみえるが、このゴリラは生来のコミュ障でボッチで童貞だ。

それが反映されないのは、彼女はメスだがゴリラではないので緊張する理由がないうえに、チートにより必要なコミュニケーション能力が自動的に反映されているからだろう。

彼女の容姿を日系ゴリラ知識に照らし合わせると、細かい好みは別としても若く活力に溢れているように思えるし可愛いと呼ばれるタイプのメスに該当するはずだ。

本来送られるはずだったであろう根暗で童貞な人間の若者であれば小躍りして喜んだに違いないのだが、ゴリラにとって彼女がゴリラではない以上脆弱そうな他種族のメスであるという認識以上のものを持ちようがなかった。

本来ならここで彼女に邂逅できるはずだった日本人に対して日系ゴリラ的発想で申し訳なさを感じつつ、ゴリラは彼女の動きに合わせて跳ねる髪の毛を見つめていた。


それはともかく《パーフェクト・コミュニケーション》もやはり欠陥能力と言わざるを得ない。

ゴリラが意識的にこのチートの発動を押さえない限り、なにをしようが常に完璧なコミュニケーションをとれてしまうのだ。

確かに考えようによっては信頼を得るのに使えるだろうし根暗ゴリラがモテ・ゴリラとなるのに有用かもしれない。

しかし、童貞ゴリラが童帝たらしめている最大の理由の一つであろうチンケなプライドが、自分の意志と関係なく自動的にコミュニケーションを成立させ、よだれが出るような素晴らしいメスを得てしまう可能性に拒否感を抱いていた。

血を吐こうがバカにされようが例え達成されることが生涯なかったとしても、自分の努力の結果で最大の宝を得たいと思っているし、だからこそゴリラは童帝だった。

とはいえ、ゴリラがゴリラ・ハーレムを築くという欲望を満たせるチャンスは最初からなかったし転生しても同じく皆無なのでそこまで気にする必要はないのかもしれない。


気づけば森を抜け足首あたりまで伸びた草が生い茂る草原の丘を歩いていた。

丘の頂上から先はすぐに長い下り坂となっていて、寝ころんだゴリラ3匹分ほどの幅がある川が流れていた。

赤毛のミスラはそのあたりを指さしてゴリラに笑顔を向けてきた。

空気読みの診断によると、《パーフェクト・コミュニケーション》によりすでに彼女とかなり仲が良くなったということになっているらしい。

彼女が指示している方向を見ると何件かの建造物が見えていて、彼女が案内しようとしていた場所があそこであることが理解できた。

日系ゴリラと化したゴリラはそこで、手土産となるものを忘れたことに気づいて慌てて謝罪した。

カエルはジャイロ・ウンコで粉砕したため人類への手土産としては不適当なものであったし、そのため森へ放置していたのだ。

しかし彼女はゴリラの心配はよそに、伝説の勇者様(繰り返し不本意ではあるが伝説ではそうなっているのでその表現はある意味仕方ないだろう)を出迎えるのは非常に名誉なことであり、そのような気遣いをされては余計に心苦しいとのことだった。

まったくもって日本人的な感性をこの世で運用するのは難しいとゴリラなりに言い切れる。

あの女神にコンタクトをとれる機会があるのであれば、きちんと付与するチートをリサーチして今後のカイゼンへと繋げてほしいものである。

異世界へ送り付けるのは日本人ではなくアメリカ人のほうがマシであろうと伝えるべきだし、少なくともゴリラを送り付ける行為はやめるべきだ。


彼女は早く早くと急き立てるようにこちらを振り返りながら村に向かって歩いていく。

こういう時はどうすべきなのだろうか、《パーフェクト・ノウレッジ》と空気読みの合議で出た結果に従い、やれやれとばかりにため息をついて肩をすくめてゴリラは彼女のあとをついていくことにした。

ゴリラであるが故困惑することも多いが、徐々にゴリラに与えられたチート・バリューセットの内容や仕組みについてもわかることが増えてきた。

今のところ理解できたチート能力のほとんどに無用な副作用がありゴリラをそのたびに憤慨させるが、今のところ致命的といえる欠陥は見当たらない。


そして、まるで自然に起こったかのように見えるあまりにも不自然なここまでの道のりは、所謂チュートリアルと呼ばれるもののような気がしている。

ゴリラのいない世界で日系の社畜救済請負業ゴリラとして活動するためには、もう少し学ぶ必要があることを感じているし、おそらく村に向かうこともそのチュートリアルに含まれているのだろう。

もうしばらくの間はこの赤毛のミスラについていき、この世界になじむ努力をせねばなるまい。

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