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6話 そういう存在なのだから

――――あのカンスロだって、そんな風に作ったしね。


 驚いているのかい? 困惑しているのかい?

 吸血鬼だと思った? 残念、そうじゃないんですよね?

 私は政府の作ったただの装置なんだよ、人間や動物を全て超常的な力を持つ存在(吸血鬼)へと変える。それが我々の計画なのだよ。


 なんで、そんな事をしているのかって? そりゃあ、この世界のためさ。


 人間はこの星の上位者、つまりは一番偉い存在って言う意味だね。科学と言う技術と妥協や会話を発展させて、この星の王者のようにふんぞり返っている彼らには今の世界には弱すぎるのだよ。


 考えても見てごらん?

 人間がたった数秒の間に何人死んでいるのか、そんなことを考えたり聞いたりしたことはないかい? 1秒に1.9人、1年に6千万人。30秒に1人は自殺しているという事らしいよ。

 勿論、本当にそんなペースで人間が死んでいる訳じゃあないんだけれども、そう考えてみれば人間というのはなんともまぁ脆い存在じゃないかと思わないかい?


 だから我々、いや政府は私という存在を生み出したのさ。人間を超常的な存在へと変える、注射器をね。

 私の役割は単純明快。牙と言う注射針をあらゆる生物へと刺し、DNAという生命の遺伝情報の設計図を無理矢理吸血鬼の構造へと書き換える。ただそれだけ、何故か必ず性別が女性へと固定されちゃうんだけど、吸血鬼という超常的な存在になるんだから細かい事は必要ないよね?


 私は多くの生物を吸血鬼へとした。カンスロもその1人、どこかの国のどこぞの森でひっそりと隠れ住む狼男だった彼に……。


――――かぷっ!


 そう、かぷっと噛みついて、吸血鬼へとしたのだよ。

 問題はカンスロが思いのほか、愚かで身勝手だってこと。

 この計画の偉大さを理解出来ないばかりか、殺人鬼として人を殺しているんだもの。まったく嫌になっちゃうよねぇ、ぷんぷん!


 ……あれ、なんで史郎くんが怒ってるの? あぁ、君のことは単なる事故だと思って欲しい。

 本当にただの偶然、血がなくてへろへろだったのは本当だよ?

 一応その前にOLを1人変えたんだけど、思いのほか彼女の血がまずくてね。思わず吐いちゃって、お腹ぺこぺこ。

 そんな時に君を見つけて、思わずつまみ食いした結果、そうなったって事だよ。


 あぁ、心配しないで良いよ。

 吸血鬼になるのが速いか、遅いか。ただそれだけの違いだからさ。


 その上半身……えっと彼の名札に着いていた名前が《良太》とか書かれていたからその良子ちゃんは君に挙げるよ。ヒロインとして十分百合百合ってくれたまえ。別にヒロインを増やして貰っても構わないよ。見かけは完全に女であっても、雄として女の子を囲いたいという衝動になんら問題はないさ。

 ライオンくんも、似たような事をしてたしね。


 ぼくはこの下半身……妙子(たえこ)ちゃんと次の女吸血鬼を作りに行くよ。

 妙子ちゃんには政府に居てもらってホステスみたいな事をして貰おうかなって思ってるんだ。そういう人材がもっと欲しいって、上のエロ……いや、偉い方が言っていたからね。1人を2人に半分こしたんだ、なんら問題はないだろう?


 ……あれ? なんで顔を真っ赤にして、私の首筋に血の刃物を突き付けてるの?


 やだなぁ、怖いよなぁ。

 私は別に殺人鬼じゃないよ。だって誰も殺してないじゃないか。

 ただ人という存在を別の存在へと変えているだけ、言うなれば《変人鬼》とでも言うべきものだよ。自分で言ってて、どんな意味か全く分かってないけどさ。


 そもそも言ったじゃないか、名前。


 ニーチェ、って。


 ニーチェって言うのは、あのドイツの哲学者から拝命した名前だよ? そんな彼の名言、なにかしらないか? 一番有名な奴さ。

 

 ……えっ? 答えになってない?


 おいおい、そんなに早く答えを聞くってことは早漏れかなにかなのかい?

 早漏れの男はモテないよ。あぁ誘ったらすぐOKな軽い女は、結構需要があるというのは知られている事実だけどさ。


 超越的な彼岸世界への信仰が消滅して、現実の生・世界が無価値・無意味。

 つまりは今の生が無意味となり、別の生に価値が生まれる。

 超越的な世界の信仰が消え、それは日常となる。

 そんな意味を込めたか込めてないかは、名前だけ借りている私には分からないけど、彼はこう残したんだよ。


――――神は死んだ、ってね。


 神が死んだなら、新たな神が、世界をより良い方向へと導く。

 それが政府が、世界各国が秘密裏に結託して作った地球規模のプロジェクト――――『全生物吸血鬼(ちょうえつしゃ)化計画』の全てさ。


 これが理解出来ないのなら、君はここで自分の王国でハッピーに暮らしてくださいよ。

 ただ、政府の邪魔をしたらどうなるかは分からないけどね。


 ヒーローニズムは大事だよ、ただ歴史的に見てもこれだけ大きなものを相手に勝ったという人物は居ない。

 前例がない以上は、やっても無駄と言う訳さ。




 とまぁ、ここまでが君に与えられた全ての情報。


 君が女吸血鬼として仲間を作り、政府に立ち向かい、私と最終決戦を繰り広げる事になったきっかけという訳だね。

 いやはや、時の流れというのはひどく残酷だね。

 まさか、ただの元高校生がここまで辿り着くとは。


 私としてはやっぱり男性から女性への性転換のシーンをもっと見せて欲しかったんだけど、しょうがないよね。

 これは現実離れした世界であって、君達にとっては戦う仲間を作る儀式的なものであって、見世物じゃないんだから。


 さてと、そろそろいっか。


 世界がどちらを求めるか。

 人間のまま生きるという停滞か、それとも吸血鬼として進化する進歩か。


 さぁ、決めようじゃないか。どちらが正しいのかじゃなく、どちらが選ばれるのかというね。


 これはそんなカゲ(ニーチェ)と、カゲに襲われた元少年(史郎)の哀れな物語である。

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