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1話 始まりは夜道にて

――――かぷっ!


 宵闇の幕が街灯の光によって薄らと明らませる中、小さな噛みつき音が響いていた。


 都会とも田舎とも言えないような、半田舎半都会の町中。

 大きな道路を回避するためには2つの方法がある。1つは陸橋と呼ばれる迂回路を上に構築する方法、もう1つは地下道と呼ばれる迂回路を下へと構築する方法。その2つが主としてあげられるが、今回その音が鳴ったのは地下道の方だった。


 地下道の中、2人の者が居た。高身長のカゲと、小柄な少女である。


「あぅっ……」


 背筋が凍りつく寒空の中、小柄な少女は艶やかな声を出す。せいぜいが14、5くらいと小柄なその少女は体躯と年月に似合わぬ艶やかな声を出していた。

 少女の首からゆっくりと垂れ落ちる赤い血が流れ落ちて道路に水たまりを作る中、少女はゆっくりと目を閉じる。そして疲れてベッドへと崩れ落ちるOLのように、その少女は道路に倒れる。


 一方、高い体躯のカゲは少女の足元の前に立つと、地面に倒れた少女を立ったまま見下ろした。

 カゲは人の形をしていた。腰まで伸びる艶やかな黒い髪も、ぼんっと前に大きく突き出たおっぱいも、むっちりとしながらも線としての細さをも感じさせる脚も、その全てが人間の女としての特徴を現していた。全身黒一色ではあったが、教養がある人から見れば、「黒いスーツを着た黒い肌の女性」と称していたかもしれない。

 ――――だが、それは女ではない。ヒトではないのだ。


 普通の人は夜とは言え街灯が照らされている中で、影もなくその場に立つ事は出来ないのだ。

 だから、それはカゲなのだった。人ではない、カゲなのだった。


「ふむっ、なんともまずい。いやはや、やはり昨今の人間の生活状況は聞いてはいたが、実際に味わってみるのとは違うものだな。この人間が特別に不味いだけなのかも知れぬがな」


 カゲはそう言うと、着ていた服のポケットからハンカチを取り出して口元を拭う。ハンカチには今地面に倒れている彼女の血が付くが、それをカゲは一瞥する。

 一瞥し、ハンカチを地面に捨てると、カゲの瞳は既に少女から離れていた。


「あぁ、やばいのぅ。空腹を補うためにそこらの少女で腹を満たそうとしたのが失敗じゃった」


 "空腹の状態の時はなんでも美味しい。空腹は最高のスパイスである。"

 そんな事を語る者も居るが、こと今のカゲに至ってはその言葉に反論を出したかった。


 空腹を満たすには、食物を捧げるしかない。

 しかし捧げられし食物の量によっては、さらに食物が欲しくなるという事もあると。

 

 "空腹は最高のスパイスではある、ただし同時に次の食事を誘発する危険物(スパイス)である"と。


「ううぅ……」


 であるから、普段のカゲでは絶対しないようなミスを犯してしまった。

 お腹が空きすぎていた、そんな理由ではなっとくできないような、彼女にしてはらしくないミスと言えよう。


 ただ、今のカゲの眼には目の前を横切る獲物しか見ていなかった。だから普段のカゲでは絶対にしないようなミスをしてしまったのだ。


――――かぷっ!


 獲物の品定めもせずに襲い掛かるなどという事を。



 これはそんなカゲと、カゲに襲われた少年の哀れな物語である。

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