4:あなたの名前は?
彼女は、不機嫌そうな顔を隠すこともなく、席に座っている。
それもそのはず。
御曹司の一言で、席が御曹司の隣になってしまったからだ。
御曹司に逆らえるものはいない。たとえ、教師であっても。
むしろ普通に考えて、ただの市立高校の教師が、御曹司に勝てるわけがない。しかし彼女は苛ついていた。当然の反応だ。だってこれは理不尽な要求なのだから。
もちろん彼女は、担任に抗議した。
御曹司の「お前は俺の嫁なのだから、隣に座るのは当然だ」という言葉を「なに、あんたまだ眠ってるの?」と一蹴。
「先生。そもそも、なんでこの人、ひとりだけチャイナ服なんですか」とみんな思っているけど、あえて言わなかったことにも言及した。人はそれを地雷という。朝峰、担任を殺す気か。
「朝峰さんの席は、最初からここでした、我儘を言わないでください」「先生!?違いますよね!先生!?」
担任は逃げた。俺らを見捨てて。
朝峰は、唖然とした顔で担任を見送り、隣に座った御曹司を睨みつけた。
「あなた、一体なんなの?」
「お前の夫だ」
展開、早すぎる。高校生の発言とは思えない。
僕とクラスメイトは度肝を抜かれた。出逢って数秒ですよね、あなたたち。
「誰が?誰の嫁なの?」
そこで、ハッと気が付いた御曹司。
「…お前、名前はなんて言うんだ?」
おおおおおおおおいっ!!
御曹司、お前っ!名前も知らない人を嫁呼ばわりしてたのか!?
クラスメイトの驚愕が、そのまま空気に溶け込んだ。
「はぁっ」
呆れて物が言えないわ、と言うふうにため息をついた朝峰。
そのまま心底呆れました。もう関わり合いになりたくありません、と
「おい」御曹司、朝峰の腕をつかもうとする。
「触らないで」「おい」もう一度。何度か繰り返すと、御曹司は手を変えた。
「もういい、好きなように呼ぶ。ーーー我が妻よ」
そこで人に聞くという選択肢がない御曹司、流石だ。