1:モノローグ
僕はモブ。まぎれもない脇役である。
主人公様とヒロイン様がいて、初めて成立する役割。
モブキャラは最高だ。僕は脇役という生き方を愛している。
主人公ヒロイン達が、物語という山あり谷あり困難あり時には死ネタありのデスゲームを繰り広げている横で、僕らは普通に過ごせる。
そう思っていた。ある朝までは。
いつも通りの朝だった。がやがやと騒がしい朝のホームルーム。どこにでもある朝の光景。
ある一部を除いては。
それは、ただ一人。皆が高校の制服を着ている中で、ひとりだけチャイナ服を身に纏っている男。太々しく机に頬杖をついて何処かを眺めている。
王龍鳳。
こいつは、俺たちとは違うと一目見て分かった。男は、
・世界経済の牛耳ると言われている、財閥の王一族の御曹司。
・黒髪で高身長、頭脳明晰。そして、イケメン。憂いを帯びた横顔に、女性との熱い視線が突き刺さる。そして、常に5名ほど黒サングラスに黒服のボディーガード(約1名女性)を従えている。
一目見て分かった。こいつは、主人公。
どんな人間でもこいつの横に並べたら一瞬でモブキャラに成り下がる。僕はこの男を要注意人物としてマークした。
お近づきには、なりたくない。
そう思っていたのだが、それは杞憂に終わりそうだった。この御曹司、何にも興味がないのだ。クラスに群がる女たちを無視。ついでに僕らの存在も無視。
注意深く御曹司見て来たが、御曹司は「そこにいるだけ」で僕らの日常に侵食してこなかった。
つまりは、僕たちのことを虫けらだと思っているご様子。愚民って言われたし。
愚民って言われた瞬間は、何を言われてるのか分からなかった。
グミン?何それ、美味しいの?意味が分かるにつれ、俺は爆笑した。
今どき、こんな日本語、使う奴いるんだってさ。
時々、御曹司にゴマをする人間が現れるが可憐に無視。
僕はプロローグが長すぎて、油断していたのだ。
ガラリ、と。教室の引き戸が開いた。
その姿を認めて、僕は声をかける。
なぜなら彼女は僕の知り合いだったから。
入学式初日からインフルエンザにかかったとかで、気の毒にも休んでいたのだ。
「おはよ、
僕は、知らなかったのだ。彼女が「ヒロイン」だったことを。
僕の一言に被せるようにして、御曹司は言った。
「お前、今日から俺の嫁な」