どうやら転生後は、本気で戸惑ってしまうらしい
ん? もう朝か?
太陽の眩しさで目が覚める。
もう少し寝かしてくれ……
いつものように、布団にくるまって二度寝しようとし、自分が布団をかぶっていないことに気づく。しかも、俺の頬には、草のようなものが当たっているような感触がした。
ここは……外か? なんで俺は外で寝ているんだ?
しばらくして俺の意識は完全に覚醒し、今までのことを少しずつ思い出す。
俺は横山裕義、友達少ない系男子、中学二年生だ。
友人と呼べるものは一人だけで、そいつはしばらく見ないうちに中二病になっていた。
そして休み時間、俺の唯一の友人、富山成雅と話しているところでいきなり放送がかかって……しかもその放送によると、爆弾が仕掛けられているみたいで……
そうか、俺は爆発に巻き込まれて意識を失ったんだ。
じゃあ、何で俺は生きている? もしかしてここは病院なのか?
いや、それはない。俺は体中が焼けたんだ。本来人は、体の三割が火傷すると生死に関わるらしい。俺の場合は、三割どころか、五割以上、下手すれば六割以上は火傷しているはずだ。普通は皮膚呼吸ができなくなって死んでいる。
なのに俺は生きている。
百歩譲って、俺が生きていたとしよう。それでも俺は五体満足じゃない。爆発に巻き込まれたときには両足が吹き飛んだし、腕もあらぬ方向に曲がっていた。
しかし、今は足が存在するし、腕も正常だ。それに火傷も負っていない。
記憶と現実がどこかズレている。
これは一体、どういうことだろうか
俺は一旦、周りを見渡して状況を把握しようと思い、目を開ける。
すると、そこは―――、
一面に広大な草原が広がっていた。
「……」
あまりの事に絶句してしまう。
学校で爆発に巻き込まれて、目が覚めたら広大な草原。天性的なポーカーフェイスの俺でも、今、物凄く顔が引きつっているのが分かるぞ。
説明しよう。天性的ポーカーフェイスとは、その名のとおり裕義が生まれたときから備わっているスキル、《ボッチスキル》のひとつだ。これのおかげでどんなときも動じず(表情のみ)、冷静に(表情のみ)、そして無表情を貫く、もはやいらない才能だ。これが友達ができなかった原因の一つである。
そんないらない才能を持っている俺が、こんなに顔を引きつらせたのは爆弾云々以外では、社会のテストで37点を取ったときくらいだ。生死と社会のテストの点数が同格って……どれだけ社会のテストの価値が高いんだよ。
とりあえず、もう一度、周りを見渡して見ると、同じ爆発に巻き込まれた二年B組のメンバーが、一列に並んで気絶していた。その光景は凄く、シュールだった。
って、おい! なんでお前らまで居るんだよ。というか俺もそのシュールな光景の一部だったのかよ。恥ずかしすぎるだろ……
恥ずかしさで、さらに頭が混乱する。
よし、落ち着け、俺。クールになるんだ。こういうときは円周率を唱えるんだ。どこかの誰かだってそういっていたではないか。自分も見習うんだ!
「π(パイ)。あ……終わった」
ヒュォォォォ。どこかから風が吹く。……寂しい。
円周率を唱えてると寂しくなるらしい。誰だ落ち着くとか冷静に慣れるとか言った奴。今すぐ体育館裏に来い。俺がシバかれるから。
……俺がシバくんじゃないのかよ、弱すぎるだろ、俺。
って、違う違う。そうじゃない。そもそも、いくらこんな時、円周率を唱えるのが効果的でも、π(パイ)を唱える奴がいるか。俺だけだぞ、そんなのは。
っていうか、あれ? 学校は? 俺が住んでいた町は? それ以前に俺の火傷は?
頭の混乱が少し収まったのか疑問が次々と浮かぶ。あと俺のスマフォ、中身見られてないだろうか……
いやいやいや、スマフォはどうでもいいだろ。今はそんな馬鹿なこと言っている時じゃない。これは、なんと言うか、もしかして俺は今、物凄い窮地に立たされているのではないだろうか。冷静になってきたおかげでいろいろな問題が思い浮かぶ。
俺たちは今、食料なし、水なし、道具なし、建物……は目の前に小さい建物が一件。なにやら『役所』と書いてある。
つまり、周りに役所しかないということだ。
たった、これだけの物資で広大な草原に放り出されている。このままでは餓死してしまうかもしれない。というか十中八九餓死するだろう。
もしかしなくても、物凄い窮地に立たされていた。あたりは何もない草原。これなら自然が豊富な無人島のほうがマシだ。
「起きろ!」
「ふぐっ!?」
俺は焦りながらも、のんきにヨダレをたらしながら寝ている友人、富山成雅を蹴り起こす。成雅は少し吹っ飛び十メートルほどバウンドしながら転がっていく。
…あれ? 俺、こんなに脚力強かったっけ?
成雅が腹を押さえて咳き込みながら立ち上がっているのを見ながら、疑問に思う。少し前の俺では本気で蹴っても、相手が後ろに倒れて、痛がる程度だった。それが今ではどうだ? 成雅を軽く蹴っただけで十メートルも吹っ飛んでいた。
いや、どういうことだよ。
俺は某超野菜人じゃない。死を乗り越えることで強化なんて、現実ではありえない。そもそも、平凡な中学生が人を軽く蹴っただけで人体が十メートルも飛ぶはずがない。
一体、なにが起きている?
一人でそう、思考していると、不意に成雅から声を掛けられる。
「裕義殿。ここは一体……? 我らは爆発に巻き込まれたのでは?」
ああ、こんな状況でもその病気は健在なのね。
平常運転な友人に少し呆れてしまう。
だが、ふざけた喋り方でも、本気で疑問に思っていることくらいは分かった。爆発に巻き込まれた後、友人に起こされて目が覚めたら、周りは広大な草原。友人に状況を聞くのは当たり前だろう。俺でもそうする。
「さあな。俺も起きたらここに居た。なにがどうなっているのかは全く分からない」
「そうか……。」
成雅の顔が不安の色に変わる。それもそうだろう。いきなり知らない場所に居て、頼みの友人も全く状況をつかめていない。そんな状況で不安にならなかったら、よほどの大物か、馬鹿だけだろう。
「そういえば、あっちに建物があったぞ。確か役所って書いてあった。町も何もないのに、役所っておかしいよな」
役所とは役人が勤務して公務を取り扱う場所だ。町も何もないのに公務もクソもあったモンじゃない。そう思いながら、成雅に建物のことを話す。
「……」
「どうした? いきなり黙りだして」
「……爆発、草原、たった一つの建物が役所…まさか、な」
成雅がぼそぼそと独り言を始める。なにか、分かるのか?
「おい、何か分かるのかよ?」
「いや、そんなはずがない。あれは我が……」
「聞いてんのかっ!」
いつまでも独り言をする塔夜にイラッとしてしまい、つい怒鳴り声を上げてしまう。まだ冷静ではなかったみたいだ。少し、落ち着こう。ビークールビークール、よしもちついた。(困惑)
「あ、ああ、聞いているぞ」
「んで、何か分かったのか?」
「ああ、実は―――、」
珍しく深刻そうな顔をした彼の口からは、俺にはとうてい信じられない事実を発せられた。
「爆発に巻き込まれ気づいたらクラスメイトと共に広大な草原にいる。周りには『役所』の役割をした建物が一件。何もかも我が製作中のゲーム、《オクペイション・ザ・ワールド》の設定と全く同じなのだ」
「おい、お前が言いたいことってまさか……」
「うむ、まだ確証はないが、もしかしたら我らは―――、」
―――ゲームの世界に転生したのではないのか?
あまりのことに、耳を疑った。頭の中が真っ白になる。
そんなことがありえるはずがない。
そんな考えで、俺の思考は埋め尽くされる。
「は、は。中二病もそこまでいったら重症だな……そんなことが現実に、あり得るわけないだろ」
「確かにこの現象は本来あり得るものではない。だが、我の言っていることもすべて事実なのだ」
成雅と友達として付き合い始めて三年。一緒にバカやって笑いあったり(無表情)、時には最大の困難(期末テスト)だって一緒に乗り越えてきたりした。それでも今の成雅の顔はこの三年間、一度も見たことがないくらいに真剣、そのものだった。
「そうか……」
成雅の剣幕に押された俺は、そう答えるしかなかった。
学校での爆弾の爆発、気付いたら草原にいて、なぜか身体能力も上がっていた。……確かに誰かのドッキリだとは考えられない。平凡な中学生にここまでする人はいないだろう。
そう考えれば、ゲームの世界に転生したという考えかたの方が至極自然だ。
「なら、まずどうすればいい?」
まだ、完全には認められないが、もし本当にこの世界が成雅の製作しているゲームを基準とした世界なら、彼の言うとおりに動くのが一番良い選択だろう。理由もなしに信じないで、後で本当のことだと知ったら、一番困るのは俺のほうだ。
「まず、全員起こして、役所に行く。今のままでは敵と戦えぬ。役所でなにかしらの職業を選択しないと生きていけぬぞ」
「わかった」
コミュ障な俺に他人を起こす、という行為は、少し、というか、かなり酷だが、今はそんなことを言える状況ではない。
成雅の言葉によると、この世界は生半可な力では生きていけないみたいだ。
少しでも早く、問題を解消しないと危険だ。と、俺の勘が告げていた。
普段は全く活躍していなかった俺の勘が、今までにないくらいに警告を発しているのだ。ここは相当危険な場所なのだろう。
ならば、相当な覚悟を決めなければいけない。中途半端な覚悟じゃ、早死にするだけだ。
死んだら元の世界に戻るのかはわからないが、どうなるか分からない以上、死ぬわけにはいけない。
俺は、生きるための覚悟を決め、クラスメイトが倒れていたところに向かった。




