キャベツに含まれる酵素・イソチオシアン酸塩は油を分解する働きがある
だからトンカツなどの揚げ物(または肉類)とキャベツはセットになりがちな訳なんですねー。
戦隊。誰もが一度は憧れた事はないだろうか。時に巨大怪獣と戦う巨大ロボに搭乗したり、時に月に代わって妖魔と戦ったり、時に七つの玉を求め某惑星を襲った悪の手下だったり。近年では、白黒コンビを通り越して五人戦隊になっちゃったりした変身ヒロイン物なんてのも見受けられる。
「WAWAWA忘れ物〜♪」
夜九時。少女・源琴音は、どことも知れない私立公園を歩いていた。明日に控えた化学の小テストに備え復習しようと鞄を漁り、ノートが見当たらなかったのだ。理由は簡単、学校に忘れ物をしたから取りに帰っただけである。
「……う〜。夜の学校もそうだったけど、人気のない公園も怖いなぁ」
そう呟く彼女は、胸にノートを抱いただけである。剣道部では神童と称される彼女だが、今は愛用の竹刀は持っていない。故に、誰かに襲われては彼女自身が危険なのだ。刀のない剣士など、雑兵と変わらない。
宵の闇。どういう訳かこの公園、あちこちに、まるで暴動が起きたかの様に様々な傷跡が残されている。なので、たまに街灯がごっそり無くなっているエリアもあったりして、そこはまさしく深淵の闇と化していた。人気がなくて当然であり、むしろ年頃の少女の夜歩きとしては限りなく安心な筈なのに、なければないで不安にさせられる。
「……走ろ」
コトネはノートを強く抱き締め、公園のランニングコースを駆け抜けようとした。
が、
「やぁ。そんなに慌てて、どうしたんだい、お嬢さん」
不意に、背後から声をかけられた。幼い少年の声は、あらゆる不吉を内包したものであり、聞くだけでその甘美さに魅せようという類の甘い響きであるのだが怖くて走り出したコトネにはそんな事も関係なく聞こえないフリしてダッシュダッシュ。
「え? あれぇ!? ちょ、ここは『誰!?』とか言って恐れおののきながら振り返るシーンじゃないの!? ちょ、止ま、止まってよ君ぃ! 何か僕が馬鹿みたいじゃないか!」
繰り返しお伝えしますが聞こえません。コトネの狙う分岐設定はある少年のみ、僭越ながら吸血鬼の出番も未来もあり得ません。そういう訳でノートを抱えてダッシュダッシュ。
「あ〜もう! いいから止まれっつってんだろうがぁぁぁあああ!!」
――ズバギュウン! と。
コミカルな効果音を響かせ、弾丸めいた速度でコトネのすぐ真横を、何かが過ぎ去っていった。今の何かが後頭部に当たっていれば即死は免れないだろう。これには流石に、足を止めざるを得ない。
振り返る。頭に青いバンダナを巻いた、幼い顔立ちの少年が今まさに、大リーガー目指すリトル投手と言わんばかりのワインドナップのポーズを取っていた。手には拳程度の大きさの石が握られており、凄まじい速度で投球。轟! と再びコトネの髪を掠める、時速一四〇キロで飛んでいく重さ一キロ程度の石。
「ようやく止まったか……全く、世話焼かせないでよね」
「し、死んだらどうするんですかぁ!」
飄々と呟く少年・雨月と、涙目で叫ぶコトネ。あんなものが頭部に当たった日には、即死どころか頭部が弾けて首なし死体になって仕舞う。恐るべし、夜の吸血鬼。
おほん、と咳払いを一つ、喉の通りを良くした雨月は改めてコトネに向き直り、何事もなかった様に会話を再開した。
「夜の暗い道を女の子が歩くなんて物騒だなぁ。そんなんじゃ、誰かに襲われても文句言えないんじゃないかな?」
「んな訳ないでしょう! というか変態の台詞じゃないですか!」
「変態? フッ、心外だな」
雅に笑う少年。幼い顔立ちと裏腹に、理性や冷静という言葉を具現化した様な、大人びた虚無の笑み。黒い髪は街灯を反射して黒絹布の様に煌き、小さな身体に不釣合いな大きなヘッドホンを首にかけ、黒いボトムに白いカッターシャツに赤いジャケットだけという季節感まるで無視な格好。しかし、それでも幼さと大人っぽさを同時に内包し、完全に調和した少年は、ポツポツと呟く。
「僕はただ、吸血鬼として、若いオニャノコの血を求めているだけなのに」
「――ってやっぱり変態じゃないですか! た、助けて詩緒くん! ピンチ! 今まさに人生最大のピンチだよー!」
「あっはっは、叫んでも誰も来ないさ!」
「だからそれ変態の定型文ー!」
ノートを投げ捨て、全速力で逃げ出すコトネ。しかしそれより速く、文字通り空を飛んで追いかける雨月。「こーいつー。待て待てー」とか何とか、どうも意識も飛んでるご様子。
しかし、あわや! というところで駆けつけるのが戦隊モノの鉄則。
「待ちなさいそこの悪者よ!」
と。コトネには聞き慣れた少女の声が、その場に響き渡る。雨月の小さな手がコトネの服を掴もうという、狙ってもなかなか出来ないタイミングである。コトネは感謝の念を送るよりも「まさか、どっかでずっと見てたんじゃないだろうな」という密かな憤慨を覚えながら、声のした方へ振り返る。
そこには、
「オンミョーレッド!」
「ジャベリングリーン!」
「ファイターイエロー!」
「……ブルー」
「……アルビジョワピンク」
「五人合わせて「陰みょ「特殊b「格「隊オン」ベリ」ファイt」ーファイブ!」
何やら、カラフルな全身タイツに身を包んだ五人組がいた。
「……念の為に聞いとくけど、救急車は呼んだ方がいいかな、ミズホ?」
とりあえず。友人として、そのくらいの心配りは必要かなと、携帯電話を取り出しながら聞いてみた。が、答えを待つまでもない。コトネのケータイは、既に119がプッシュされている。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【オンミョーファイブ・テーマソング】
気が付いたら 何故か全タイで戦隊 ボディラインなんか気にしない
諦めずに 悪を許さず戦うけれども お腹回りが気になる
一度ピンチに陥って 巨大ロボ呼ぶのは定番だけど
何回戦っても 何回殺っても
私達のロボットがやって来ないよ ピンチのまま肉弾戦
五人で力のゴリ押し 最終的には血みどろ
戦闘能力だけが武器だが 怪獣相手じゃ意味がない!
だけど負ける訳にはいかない 怪獣呼ばれる前に相手を叩き潰す
「ってどう聴いてもエアーマンじゃねぇかァァァああア! ニコ厨かお前らァァァああア!?」
「ニコニコじゃないわよ、ようつべよ! テッメェ、二〇〇万台ナメんじゃないわよ!? 最近やっと限定解放だっての!」
目の前の不思議な五人組に思わず叫ぶ雨月だが、何故かミズホに叫び返されていた。
改めて見てみる。真ん中には赤い全身タイツを来た陰陽師、その右に緑の全タイの特殊部隊、左に黄色の全タイの格闘家、右端には青い全タイの武士、左端にはあろう事か桃色の全タイの召喚師。何と言うか、何もかも、あらゆる意味で濃いメンバーが、統一感なくバラバラに機能しまくっていた。
「ってか、ミズホ! 陰陽戦隊って、お前しか陰陽師いないじゃないか! そんな名前、却下だ却下」
「そうだよ。ここにいるメンバー、それなりに格闘技が出来るんだし、ここはファイターファイブにすべきだ」
「何言ってんのよ! 赤の決定は絶対に決まってんでしょうが! 聞き分けなさいよね!」
「ていうか、さっきの歌詞は何なんだ! 前半はお前の悩みだらけじゃねぇか!」
「うっさい! 作詞:私のテーマソングにケチをつけるな! もう、アンタ達は口を開けば意見ばっかり! 何、第二反抗期真っ最中なの!?」
「テメェはオカンかァァァああア!!」
ギャーギャーと騒ぐ三人に対し、青と桃は互いに向き直りながら、何やら悲壮感漂う感じで肩を叩き合っていた。
「苦労するな……お前も」
「いや、汝ほどでなしに」
よく分からない話だが、現状でノッているのは赤と緑と黄だけである。この戦隊は名前が決定していないらしく、騒ぐ彼らを冷静に見据える雨月とコトネ。
「もう、何か……」
「シュールと言うかカオスと言うか……」
「聞こえてるわよそこの二人! 何、助けてやろうって言ってんじゃない!」
蚊の羽ばたきの如き小さな呟きを逃さない地獄耳。
「ふ、ふん……全く、だから僕は嫌だったんだ」
「俺らまで巻き込むなよな」
「アァ!? あたかも私が無理矢理やらせたみたいな発言はやめなさいよね! さっきまでアンタらもノリノリだったじゃない!」
思わぬ発言に激昂する赤。あ〜だもう! と意味不明な発言と共に雨月を指さす。
「と・に・か・く! アイツを倒せばいいだけじゃない! とっとと終わらせるわよ!」
さした指を空中に這わせ、五芒星を描く。それは清明桔梗。陰陽道に於いて術式の発動キーとなる紋章。
「木より生す炎」
刹那。轟! と空間に咲き乱れる巨大な火球。それは狙い澄ました通り雨月に襲いかかる。
だが、忘れてはならない。雨月の近くにはコトネがいるのだ。
「「ちょ!」」
二人の叫び声が重なる。刹那、弾け飛ぶ火球。凝縮した炎が一気に拡散し、凄まじい爆風が二人を薙ぎ払う。
「い、嫌だ! こんな血腥い攻撃をする戦隊ヒーローは嫌すぎる!」
「ていうか、ストップ! わ、私を巻き込まないで!」
非難の声を上げる二人。が、オンミョーファイブ(仮名)の面々は気にした様子もなく、続々と攻撃を加えていく。
注)どうやら衝撃でカメラが壊れた様です。都合良くカメラが回復するまで音声だけでお楽しみ下さい。どれが誰の声かはご想像にお任せします☆
「んじゃ、二番手、緑行きま〜す」
ジャコンッ。ガチャ。
「なっ!? そ、それはHK43!? ドイツの最新兵器じゃねぇか!」
「お前、吸血鬼のクセに近代火器に詳しいのな」
「そっちはテスト期間中のナンバーだな。正式にはMG4と言う……よっと!」
ズガガガガガガガガガガガガガッ!
「や、止め止め止めぇ! 死ぬから! 流石に僕も死ぬから!」
「って、だから私もここにいるんですよー!?」
「んじゃ、次は俺だな。喰らえ、高速遠当て乱れ撃ち」
ボババババババババ!
「うお、危ない!」
「ひ、ひぃぃい!」
「……何で三色、あんなに楽しそうなんだ……?」
「余に聞くな」
「火行、火気、猛よ」
ボカン! ボカン! ボカン!
「あ、ヤバ!」
パガン!
「あ、青に当たった」
「あ、あはは……ご、ごっめんねぇ、青……」
「……」
チャキン……。
「渡辺シオ。お前を殺す者の名だ」
「やっぱ怒ってるー!!」
「怒っていない。一発は一発だ」
「く、ただで殺られてなるもんですか!」
「内乱が起きた! 青の革命だ!」
「うはwwwwおkwwww」
ザク。
「あ、今度は黄が斬られた」
「……すまん」
「……フッ。気にすんなよ、滝口。――俺とお前は元から、決着を着けるべき間柄だしな!」
ゴン! ベギン! ズンバンドン!
「この、やりやがったなテメェら! 完全武装の僕をナメんな!」
「ちょっといい加減にしなさいよアンタら!」
ズバン! ベキ! ガン! ブシュ! ボカン! ゲシ! ダダダ! パゴン!
「……今のうちに非難しておこう」
注)どうやら都合よくカメラが直った様です。引き続きオマケをお楽しみ下さい。
惨状。その言葉がまさに似合うこと似合うこと。地面と言わず雑木林と言わず街灯と言わず、とにかくやたらめったら、高いの限りが尽くされた現状がそこにあった。その中心には、四人の少年少女。着ていた全身タイツみたいな高機動装備は見る影もなくズタボロで、同じ様に少年少女もボロボロである。
「く、やるわね、雨月……」
「まさかこの面子でここまでやられるとは……」
「むぅ……僕は何もしてないんだがな……」
よろよろと立ち上がりながら、四人は雨月(と何だかんだで巻き添えだったコトネ)を睨んでいた。何だか今までの内乱のストレスが見た目少年に向けられている模様。
「ふっ。しかし、ヒーローはあえて一度ピンチに陥るものさ! 今から俺らの大逆転が――!!」
「聞けよ!」
思わず我を忘れてツッコむ雨月だが、勿論黄は聞いちゃいねぇ。
「という訳でカナタ。お前に『爆弾を抱えて的に特攻する』役を与えよう」
「んなっ!? 何だその不気味キャラは! 僕は神風特攻なんざする気はねぇぞ!? そんなん戦隊モノでやったら親御さんからクレーム殺到じゃねぇか!」
薄ら笑いながら緑の肩を叩く黄。何やら不穏な空気を感じて振り返ると、「あ〜なるほど」名案とばかりに手を打つ赤と、「何故わざわざアヤナミ……」不思議そうに首を傾げる青がいた。……ちょっと待て。何か今、おかしな記述がなかったか? まぁ、異世界だしいいか(笑)
「(笑)じゃねぇよ! 駄目だろ! もう何かこれ自体駄目だろ! 企画自体止めて下さいもう一人の神様! いやマジで!」
↓ここから世木維生先生のお言葉。
「楽しいから、一向によし! ってか、チドリのことは引き受けたから! 緑! 安心して逝くんだ!(笑)」
↑ここまで。
「ってうぉい! 止めろよ! もう何か、何だこれ! 大体、何で癸が関係してる!?」
「逝ってヨシ!」
カナタが役目を果たした瞬間、赤の強烈な肝臓破壊がカナタに直撃した。それを見てゲラゲラ笑う黄と無表情を崩さぬ青。
何か、一人の少年が的にされてる、イジメの権化みたいな、様々な方向から訴えられそうな凄惨な光景を見せ付けられている雨月とコトネは、青ざめている。雨月に至ってはすっかり戦意喪失している。
「……あ〜。とりあえず、僕は帰るわ」
「あ、ハイ……。私も、そろそろ帰ろうと思いますし」
かくして、諸悪の根源と被害者がそそくさとその場を離脱した事に気付かず、四人は未だ騒ぎ立てていいた。
「くふゥ……う、うふふ、うふふはは! こ、殺す! 殺すゥ! テメェらみんな蜂の巣にしてやっから覚悟しとけクソがァァァああア!!」
「ハッ、上等! テメェ如きに俺が負けるかバーカバーカ!」
「渡辺シオ。お前『ら』を殺す者の名だ」
「さり気なく私達も含まれてる!?」
仲悪いなコイツら。
一方、雨月。
「何だったんだ、一体……おごぉ!」
ゴギン! ぐしゃ! 何やら聞きたくもない、聞くだけで嘔吐を催しかねない鈍い音が宵闇に響き、雨月は昏倒した。その背後に気配なく立つのは桃。手には、サスペンスドラマに出てきそうな血の付着した大きな石。
「……」
「ちょ……ま、待て! それは全然ヒーローっぽくない攻撃ですよ! 血腥すぎですって聞いてますネェちょっと!?」
アンデルは無言で、ごしゃ、振り下ろす。「ぎゃっ、やめ、ごめ、ぐは、た、助け……」と徐々に、ごきん、悲鳴が小さく、めきゃ、なっていく夜の闇、ぐちゃ。後にこの公園に、がちゅ、『漆黒殺人鬼の憂鬱』として、ごきゃ、新たな都市伝説に名を連ね、ぐちゅ、るのだが、それはまた別の話で、みちっ、ある。
一方、コトネ。
「何だったのかしら、一体……」
夜の公園も出口に差し掛かったところで、コトネは近くのベンチに座り、休憩していた。どこか遠くから嫌な効果音が聞こえてる気がするが、小さすぎるし、気のせいだろうとコトネは敢えて耳を塞いだ。
「よう、お嬢さん! よかったら俺と遊びに行かない?」
と、そんなコトネに声をかけるモヒカン野郎、アントニオ。そういえばコイツ出てなかったわ。い、今、思いつきで急造したんじゃないんだからねっ!
「はぁ……」
が、コトネは生返事しか返さない。何やかんやでストレスが溜まっていたのだろう、眉間を摘み、一言。
「カモン、守護者!」
刹那、
目の前にいるコトネとは真逆、アントニオは背後に殺気を感じた。
負け犬は何をやっても負け犬なのです。←結論
「え? 俺の出番これで終わ――ひぎゃああああああああ!」
「オチを飾れてよかったじゃないですか」
とか何とか、コトネが最後を丸く〆たのはご愛嬌。お粗末!




