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本屋稼業は厳しくて
地方へ行くと、本はあまり売れなかった。字の読める者が少なく、貧しい暮らしを強いられていた。
どうしようもなかった。
信仰のために教会へ行ったが、だれもいなかった。聖書さえ、読むことができないから。
どうか、この命の終わる日が来ますように。
そう祈り終え、組んだ手を放すと。
「あなた…いえ、ドルト」
辺りを見回しても、だれもいない。
だが、その声がドルトの耳に聞こえたのは確実だった。
「誰だ。何故僕の名前を知っている」
「それは、今のあなたには分からない。私の話を聞いて頂ければよいのですが。聞いて頂ける?」
「ああ。聞こう。姿を現してくれ」
ドルトはどんな人物が現れるか、期待した。
口調からすれば、女だ。声も女のようだった。
「それはできません。なぜなのか、それも話を聞いて頂ければ分かります」
外で鐘が鳴った。それでも、その声ははっきりと伝わってきた。
「何時間でも、話を聞く。話してくれ」