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ティアートロリアの謎  作者: えりせすと
第一章
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猫の子でも抱き上げるくらいの気軽さ

「それは……何。

 見たことがあるような気がするけれど、でもそんな気がするだけ。

 見ていると何だか不安な気持ちになって、心がざわつくの」


 不安に感じる気持ちは、ユノが並べている六つのそれらだ。


 何だか心をゆっくりと掻き回されている気持ちになって、凄く焦燥感が全身を包み込む。

 先程ユノに抱きしめられて何とか体温が戻ったものの、先程感じた冷や水を浴びせられたような冷たさと心細さはまだ体の体温を奪っていた。


「フィアナは宿に帰った方が良い」

「どういう、事?」

「これから行う事はもっと辛いと思う。

 だから出来れば、この場所から離れた方が良い」


 そう言ってからユノは、そっとフィアナの手を握った。

 少女の手の冷たさに驚きながらも思った。


 今から何かが起きる。

 その現象自体は恐らくフィアナにとってはあまり宜しくないのだろう。

 ユノは心配するように手を強く強く握り締めてくる。


 でもきっと、彼女も気付いているはず。

『離れろ』と言われて素直に言う事を聞くようなフィアナなら、今までに様々な問題は起こってこなかったという事を。

 彼女の忠告にもフィアナは絶対に従わないと解っていて、敢えて言っているのだ。


「それでも留まると言うのなら」


 フィアナの手を開放して、そのままユノは一歩下がる。


「自分の身だけは、守って」


 そう言い切るとユノは両の手を祈るように握り、紅玉の瞳を伏せた。

 少し俯き気味になったまま、ゆっくりと膝を着いてしゃがむ。


 淡い輝きがユノの身体から溢れて、辺りに光が漂う。

 その光に呼応するかのように辺りの源素がじょじょに少女へと集まってくるのが解る。

 普段生活している場所よりも遥かに濃い源素が、ゆっくりとそれでも確実に人形(マリアーネ)を包み込む。

 中心である少女は微動だにせず、伏せた双眸も相俟って本当に人形のようにも見えた。


 立ち上がらずに、少し這い進むようにユノへ近付く。

 あのままユノが完全にうごかなくなったとしても、違和感は感じないのかも知れない。

 そう思ってしまうほどに彼女は全く動かなくなった。


(おねえ……ちゃ……)


 漂う源素の濃さで身体が震える。

 震える腕で、震える指で、震えるままに手を伸ばそうとして。


 後ろから脇を掴まれて、持ち上げられた。

 そのまま後ろに引き寄せられたために目の前のユノが遠ざかる。


 あ、と喉の奥で声が漏れた。


 その声が聞こえた訳ではないのだろうが、後ろの人物が遠慮がちに声を掛けて来た。

 声音に戸惑いが混じっているのは、恐らく気のせいではないのだろう。


「あまり今のユノに近付くと、危ないと思うぞ」

「どうして?

 お姉ちゃんは今何をしているの。

 ……何か説明を受けたの、ジークルト?」

「俺は何も知らない。

 ただフィアナを見ていてくれ、とは頼まれた」


 だろうな。

 でなければわざわざ抱き上げて引き寄せたりはしないだろう。


 と、言うか何と言うかそんな事は問題ではなくて。


「何、猫の子でも抱き上げるくらいの気軽さで、抱き上げているのかしら」

「大丈夫、心配しなくても重くないぜ」

「そういう問題ではないの!

 曲がりなりにも私の様な淑女(レディ)に対して、そんな気軽に触れてその上抱き上げて良いと思っているの?」

「だってなんか匍匐前進してたし、服汚れないかなと」

「服の汚れより今のこの体制の方が十分に問題だわ!」


 この台詞に対して、何と無く拗ねた様子でジークルトはフィアナを地面へそっと下ろした。


「猫の子より性質が悪いぜ」

「何かご不満でも?!」


 きっと睨みつけてやると、やれやれとこちらに掌を向けて首を振って否定の意を示された。

 腑には落ちないが無理矢理納得して改めてユノへ向き直る。

 先程よりも光は穏やかになり、また回りの源素はその周りをふよふよと漂っていた。

 もう眼が無くても源素を手に取るように感じる事が出来るほどに、沢山の源素が少女の周りに集まっていた。


 光と共に六色に包まれて、とても幻想的な光景だった。


 もう十年以上も同じ姿形で存在している少女だが、整った顔立ちも加味されとても美しい。

 肩までの髪がふわりと広がって、綺麗な銀糸を描く。

 ぼうっとそんな彼女を見つめたまま、後ろのジークルトに話し掛けた。


「あの六つの品々は一体何?」

「どうしてお前はさっきから俺に聞くんだ?

 俺が知っている訳ないだろうが」

「それもそうね。

 じゃあ、あの六つの品々は、あの後に貴方とユノで集めたものなの?」


 確かあの黒い装丁の古びた手帳は、修道院にあったもののはずだ。

 輝く黄金の鋳型はぱっと見た限りでは、ドラシィル家の家紋ではなかっただろうか?


 そして、緑の葉を模った髪飾りは確か曾祖父の部屋に飾ってあった、曾祖父と曾祖母の肖像画にて曾祖母が付けていたと思う。


 つまりあの六つの品々は、恐らくは――


「俺が手伝ったのは三つほどだ。

 後は既にユノが集めていたみたいだったよ」


 ――曾祖母であるイズシェラリスその人に関わる品々であると言う事だろう。


 しかも丁寧に、六色か。

 それぞれが源素に呼応している可能性も棄てきれない。


 一体ユノは何をしようとしているのだろうか?


 彼女がしようとしている事が解らずに、見ている事しか出来ない。

 ユノを取り巻く源素は段々と六色ごとに別れて集い、それから地面におかれた品々へそれぞれ集まっていく。


 黒には黒が、白には白が、緑には緑が、青には青が、赤には赤が、黄には黄が。


 源素が集まってきた品々は淡く色彩を放ち、重力から開放されて少し地面から空中へ浮く。

 まだ何の動きも見せないユノは、それでも状況を肌で感じ取っているのか、ほんの少しだけ喉元を空けて空を仰ぐ。

 彼女自体を取り巻いていた光は段々と収束して、広がっていた髪も重力に従い下へ降りる。


 ゆっくりと伏せた双眸を開いていくユノの、蒼の瞳がフィアナの目に映った。

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