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ティアートロリアの謎  作者: えりせすと
第一章
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此処に入るの、本気で?

 ぶるり、とアレッサが身震いした。

 決して低くも無い身長の男が、どう見ても小柄な少女の気迫に蹴落とされた様だった。

 残念ながらジークルトの立ち位置からは少女の表情は一切見えないが、向かい合った彼の表情から何と無く推測は出来る。


 あぁ、今のユノの顔は見たくないな。


 何と無くぽつりとそう思った。

 何故なら自分自身の防衛本能がガンガンと警鐘を鳴らしているのが解る。

 今の少女の顔を見たら、きっと今自分が考えている様々なものが崩壊する可能性があるだろう。

 それ程に、後ろからでも少女の発している殺気はとてつもなく膨大で巨大だった。


「退きなさい」


 短いが鋭い一言が、ユノの口から放たれた。

 その言葉に押されたかのように、アレッサがよろめいて後ろに倒れる。

 そんな彼を一瞥した後に、ゆっくりと少女が後ろのジークルトを振り向いた。


「行きましょう、ジークルト」


 一瞬見えたユノの瞳は、赤では無かった。


 けれどそれもほんの一瞬、瞬きする間に元の色に戻っている。

 見間違いか、それとも光の反射でもあったのだろうか。

 到底拭いきれない違和感を抱えたまま、ジークルトは僅かに首を縦に振った。


 気のせいだ、と己に言い聞かせる。

 そうでもしなければ、ユノが異形だと認識してしまいそうだった。


 既に色々な事があって、何が正しく何が可笑しくそして何が大切なのかを見失いそうになる。

 大切なものは、きちんと認識しておかないと酷い目にあう。

 だからジークルトは、きちんと己の認識を改めるために、きちんと都度確認するようにしていた。


 そんな彼の様子を伺ってから、ユノは手に持った円月輪を腰に戻す。

 先程淡く輝いていた色は、綺麗な純白の光だった。

 今でこそ輝きも収まってはいるが、あの光は術式の光にも見えた。

 ユノ自体は術式を使わないと思っていたのだが、そういう事もないのだろうか。


 問いかけようとも思ったが、最早ユノは少し先を一人ですたすたと歩いている。


 こんな場所で置いていかれても困るんだよな。

 そう胸中で一人言ちて、そっと少女を追いかけた。


 途中でアレッサの横を通り過ぎたが、地べたに座り込んで此方に一瞥すらくれなかった。

 何かに打ちのめされているようでもあり、けれどどうしてもそんな彼に同情する気も起きない。

 彼には確かにフィアナへの愛情があったのかも知れないが、彼の愛情の示し方自体は間違っていると感じたからだ。


 ふと脳裏に、此方に向かって両手を差し出して微笑む女の姿が見えた。

 どうしてもジークルトはその顔を真正面から見詰める事が出来なくて、そっと顔を逸らした記憶を思い出す。

 その時あの女はどんな表情をしていたのだろう、泣いていたのか笑っていたのか、それとも。


 首を左右に振って、記憶を振り払ってから、真っ直ぐにユノを追い掛けた。


 流石に幼い少女であるユノに追いつくのは容易い。

 直ぐに後ろに、そして横に並び、彼女の歩幅に歩みを合わせる。

 ユノは何も言わないし、ジークルトも何かを問い掛けようとは思わなかった。



 どれほどの時間がたったのだろうか。

 暫く歩き続けて、ふと扉が目の前に現れた。

 余りに唐突に扉が現れた為、何事かと思ったくらい、本当に唐突に目前に現れた。


 どうやら紋様術式である一定の範囲に立ち入らなければ、扉を視覚出来ないようになっていたようだ。


 特に動じる事無くユノはその扉に手をかけ、ゆっくりと押し広げた。

 物怖じせずに中へ立ち入って、きょろきょろと部屋の中を見渡す。


 何処かの書庫の様だった。

 外から確認出来たのはその程度で、内部には先程の図書館以上の書物が並んでいる様に感じる。

 天井近くまでうず高く積み上げられている本棚とその中に納まっている沢山の書物に対して、思わずうげぇと感想が漏れた。


 本がどうしても苦手な人間って、存在すると思う。

 それがジークルトであり、彼は書物自体が苦手だった。


 何処かと契約書なりを結ぶ時も、不備が無いかどうかを最初に確認されるのだが、その文面を見るのも億劫で。

 わざわざレオノーラを呼び出して内容を確認して貰い、その上で必要な部分にのみサインを記すといった体たらく。

 文字を書く事も確認する事も苦手なので誰かに手紙を書き綴るなんて以ての外、冒険時に必要な内容は箇条書き、報告書は半分泣きながら。

 そんな彼であるから、いきなり扉の向こうに書庫が現れてもその中に進んで立ち入ろうなんて一切思わなかった。


 しかし扉から中に入ろうとしないジークルトを確認し、不思議そうにユノが首を傾げている。

 小さな手を此方に向けて、手招きする。

 その仕草はとても可愛いし場所が場所でなければ躊躇もなく傍まで行くのだが、でもこの場所はなぁ……。


 躊躇いを感じ取ったのか、ユノが戻ってきて彼の外套を確りと掴む。


「何時までも外に居ては駄目、中へ」


 そう言いながらも、そのまま強く室内へ引っ張り込もうとする。


 えぇー、此処に入るの、本気で?

 割と真面目に拒絶したいのだけども、そんな様子のジークルトを見て不満げに唇を尖らせるユノ。


 可愛いよ?可愛いんだけど、でもやっぱり苦手なんだよ。

 書物とインクの匂いがどうにも眠気と尿意を誘って落ち着かないんだ。

 ……と思ったものの、それを口に上らせる事は無かった。


 きゅっ、と小さな手でジークルトの無骨な手を握られた。

 柔らかくて少しひんやりと冷たいその手に握られて、引っ張られると従わざるを得ない。


 色々なものを諦めて、それでもその手の滑らかさに引き寄せられるようについていく。


 図書館の書物はきちんと本棚に収納されていたのだが、此方は本棚に収まる書物以上に書物が押し込められていた。

 今にも溢れそうな大量の書物が少し怖くもあるが……しかしもうどうしようも無い。

 ジークルトが書庫に入ったことを確認すると、ユノは入ってきた扉を閉めた。


 すると扉が閉まると同時にふっと、扉自体が光の粒子となって空気中に溶けて消える。

 完全に入ってきた入り口が封鎖されてしまった。


 どうやって帰るんだろう。

 ふと考えないでもなかったが、ジークルトの疑問には答えずにユノはどんどんと奥へ歩みを進めていった。

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