想いの重みを思う鍵
ツイッターの方でも交流のあるキーstからキャラをお借りし書いた小説です。
→鍵音 調
→白川 桜
→黒宮 椿
※キャラ崩壊してると思います。キーstの作品が好きな人で認められない人はすぐに戻ってください。
※残酷な描写は一応です
僕は“音”が聞こえる。
それは人が空気を振動させ耳の奥の鼓膜を震わせる事によって認識するモノとは根元的に違う音だ。
本音、とでも言うべきものだ。
人は誰しも本音を隠して生きている。
「私たち、友だちだよね?」
「当たり前じゃない!」
--キモ。何言ってんの。
--そう思ってるのはあんただけ。
…ああ、まただ。
人間の裏ほど醜いモノは無い。僕もそうだが。
この“音”のせいで、僕は他者への興味を失った。
“雑音”、と僕は呼ぶ。
聞き取らなくていい裏を、強制的に、僕の意思に関係無く、頭に突っ込む。そして、僕は他者との間にズレを感じるようになった。
例えば中学生時代。
「友だちになろう」
と言った者がいた。
--今度のサンドバッグはこいつだな。
だが、そいつの雑音は言葉とは真逆の事を伝えた。
だから、僕はそいつから離れた。
だが、そいつはクラスの中心人物だった。
そいつから離れた僕は、同時にクラスからも離れた。
--あいつ空気読めよ。
--気味が悪い。
--何考えてるかわからない。
--カッコつけてるつもりかよ。
--何アイツ?中二病?
--何であんな奴いるの?
・・・
・・
・
長く続いた。
悪罵の連続だった。
同時に、興味を失った。
みんな同じだった。
考えることは一緒だった。
クラスの雰囲気を乱す者が目障りだったのだ。
それから、僕はヘッドホンを使うようになった。それで、少しだけ雑音が止んだ。
完全にでは無かった。
だが、充分だった。
元より、他者とのコミュニケーションは諦めていたのだから。奇異の目で見られたところで関係無い。
だが、僕は出会いをする。
それがこの先、良い方向に行くか悪い方向に行くかはわからない。
だが、はっきりと言える事が一つだけある。
僕は、この出会いを一生後悔しない。
・・・
・・
・
「…です。趣味は料理です。よろしくお願いします」
…退屈だ。
今日は箱音高校の入学式。ありがたい校長のお話を聞き終わり、それぞれのクラスで自己紹介しているところだった。
だが、元より人間関係を作る気の無いぼくにこの時間は、あまりにも退屈だった。
「…だ!趣味はカラオケ!よろしくな!」
--大丈夫だよな?変じゃ無いよな?
外面に似合わず随分と小心者だ。
外面の印象と内面の雑音が合わなすぎる。他人どころか自分すら騙すとは、バカとしか思えん。
途中からヘッドホンを付け、流れてくる音楽に集中する。
「…い。おい」
「ん?何だ?」
「いや、お前の番だぞ」
--さっさと言えよ根暗が。
…これだから人間は。…僕もか。
仕方なく、立ち上がり無意味な行為をする事にする。礼儀としてヘッドホンも外す。
「鍵音 調。以上だ」
再度ヘッドホンを付けて席に座る。
「おい鍵音。名前の後に趣味を言えと言ったはずだ」
--このクソ生徒が。黙って従え。
クソはテメエだ。
ため息を一つ付き、一言言ってやる。
「趣味は音楽を聞く事だ。ヘッドホンを付けてるんだからそのくらいわかれ。ああ、済まない。この程度の事もわからないぐらいお粗末な頭だと言うことだな」
「こ…この…!」
--最低評価にしてやる!テメエなんか卒業できずに路頭に迷えばいいんだ!
教師としては最低の答えだな。まあ、中学時代もそんなもんだったし、今更慣れっこだがな。
「つ、次!」
--この生徒はマークだ。絶対に後悔させてやる!
…ここも同じか。まあ、逆にこの態度に好感を持つ奴などいるはず無いが。
他の生徒の自己紹介は全部無視。ただ時間を過ぎるのを待っていた。徐々に意識が遠のいていく。
が、早々に意識は現実へと戻された。
「柊 晃だ!」
とても大きく、よく通る声。こいつ、うるさい!
「趣味は運動だ!部活は陸上に入ろうかと思ってる!」
誰かが「陸上なんかこの高校には無えぞ」とか、笑いながら言う。ツッコむべきはそこなのか?
「な、何!?そうなのか!?しまったー!」
クラスが笑いに含まれる。先程までの僕が作った雰囲気が嘘のように消えた。
だが、こいつにも雑音があるはず。興味を持った僕はヘッドホンを外し、柊 晃を見る。
………は?
………女?
………その名前で?
「あ!でもでも、目標があるんだ!それはな!」
………まあ、いい。お前の裏を
「高校の皆と、友達になることだ!」
--よっしゃ!全員と友達になってやるぜ!
…頭痛がした。
・・・
・・
・
「…でさー」
「おかしいだろ!」
…あれから一週間が経った。
新しい人物とコミュニケーションを取り、交友関係を築くには充分過ぎる時間だ。
当然僕は他者と関わる筈も無く、孤立を手に入れたわけだが…
「かーぎね」
…一人、諦めない奴がいた。
女にしては高い身長に地毛らしい茶髪。短く切りそろえられている。黒い目。活発そうな笑顔。顔のパーツも整えられていて、大きいながらも美“少”女と言われている。
…そして、自己紹介の時に言っていた目標を未だに諦めないお花畑の頭を持っている。
「今日こそ話そうぜ!」
--絶対友達になってやる!
「………」
無視だ無視。
ここまで来ると持久戦だな。どちらが先に折れるか。
それに
「おーい」
--くぅ、どうやったら友達の良さを教えられるだろうか。
この頭に流れてくる雑音。
こいつに近付きたくない理由はこれだ。
人間は誰だって、本音を抱えている。
なのに、綺麗なだけの善人がいるか?
答えは否。
こいつは“壊れている”。
人の本音は積み重なられらた記憶からできる。記憶が集まり、人格ができる。本音も含まれる。
だがこいつの場合、記憶が破壊されている。
辛く苦しい記憶が壊れ、そこからできた本音だけが残った。
そして、人格にも異常が出た。
結果、理由も無くお花畑の頭を持った人間となった。
実際に、そういう人間には会った事があるからわかる。
そして、そういう人間は、
「なあなあ、一緒にカラオケしようぜー」
--カラオケで友好を深めるぜ!
…どこかネジが狂ったように目的を果たそうとする。
「………」
反応したら負け反応したら負け反応したら負け反応したら負け反応したら負け反応したら負け反応したら負け反応したら負け反応したら負け反応したら負け反応したら負け反応したら負け反応したら負け反応したら負け反応………
「おーいー!」
--早く友達になりたーい!
「おわ!?」
肩を掴まれぐわんぐわんと体を揺らされる。
「やめろ!」
腕を払い、反応する。
…ああ、いいだろう。いくらでも話してやるよ。
「お、ようやくか!」
--よっしゃ!やったぜ!
…僕の心は挫けそうだ。
「それじゃ、友達になろうぜ!」
--友達最高!
そして、怒りも湧く。
クラスの視線が、こちらに集まる。
「…僕を認めさせたらなってやる」
--何様だよあいつ。
--うわ、キモ。
--中二病乙。
--無いわ~。
…やっぱりこんなもんだ。
「おう!何をすればいい?」
「友達について話そうか」
「いいぜ!」
--ドンと来い!
これで話せる。
「なら聞くが、友達とは何だ?」
「そりゃあ、話したり、遊んだり、一緒に出掛けたりして友情を育む仲よ!」
「それは、反応してこないからと肩を掴み、ブンブン揺すって、強引に友達になろうとしてる相手にも当てはまるのか?」
「…え?」
「クラスの視線が集中し、通常では断りにくい状況で、さらには学校全体で比較してもかなり人気のある女子生徒から誘われ、断ったらクラスどころか学年、学校全体を敵に回すような、最初から“YES”しか選択肢が無い状況でも意味があるのか?」
嫌われるのはいい。だが、敵に回すのはごめんだ。僕は格闘技をやってるわけでも、運動が得意なわけでもないもやしっ子だ。イジメの対象にでもあったら惨事だ。
「………」
--それでも、友達…
そしてついに黙ったか。
「ちょっとー!柊さんはあんたみたいな可哀想な奴に対しても普通に接してくれるのよ?言い過ぎじゃ無いの!」
…ああ、もう敵に回ってたか。
「お前は黙ってたらどうだ?今僕は柊 晃と話している」
「何よそれ!」
--ここで“いい女”ぷりを見せて、ポイントアップよ!
…友達の心配よりも自分か。
「理解できなかったか?友達である柊 晃より、自分の印象アップのために動く、醜くも人間らしいクズであるお前に黙れと言ってるんだ」
「なっ!?」
--何でわかるの!?
…何かどうでも良くなってきた。さっさと言いたいこと言って終わらせよう。
「いいか柊 晃。お前が何と言おうと僕はお前の“友達ごっこ”に付き合うつもりは無い。お前という人間に興味も無い。それがわかったら僕の事は諦めるんだな。二度と僕に関わるな」
ふぅ、満足した。
僕は机に向き合い、再度ぼーっとし始めた。ヘッドホンの音量を少し上げて。
「うっ、く…っ…うくっ」
柊 晃は泣いていたが、僕は気付かないふりをして、そっと意識を外した。
・・・
・・
・
今日の柊 晃との言い合いにが終了した後の僕の立ち位置について説明しよう。
「お前ふざけてんの?」
「女の子泣かせるとか最低野郎だなお前は」
結局学校全体を敵に回してしまったようだ。
全く、うっとおしい。
数は3人か。
「お前らに関係あるのか?」
「あるに決まってるだろ!」
いや、無いだろ。
少なくともあの話し合いは僕と柊 晃の間で行われたこいつらには関係無い。
--こいつをぶん殴って柊さんの好感度を上げて…。
--ちょうどいいストレス発散だわー。
--前からうざかったんだよな、こいつ。
ちょっと待て。三人目、お前と僕は初対面だろう。
クラスも違えば中学も違う。街だって、僕は引っ越して来たから違うはず。どこで会ったんだ!?
「そんじゃ、死「かーぎねー!」…へ?」
こいつ、今「死ね」って言いかけたよな。
「一緒帰ろ…て、坪井、金原、佐藤じゃねえか。どうしたんだ?」
こいつ、名前を全員覚えてるのか!?
「い、いえ…」
「何でもねえっす」
「し、ひつれいしました!」
盛大に噛んだ!?
そう言って、三人は去って行った。
「………」
「ん?どうした鍵音」
「…別に。お前のせいで厄介な事になりそうだと思っただけだ」
「そうか。あ、お前に言われた事だけどさ」
こいつ、聞いてねえ。
「私さ、考えたよちゃんと。友達って何なのか」
こいつ、気にしてたのか。
「正直…よくわからない」
わからないのか。
「でも、一個だけわかった事はある」
「…はあ?」
「…鍵音にはいるんだろ?友達、いや親友が」
「………」
「だってさ、“友達とは何だ”って聞いてこれるんだ。だから、鍵音の中にはきっともう答えがあるんだ」
「…まあ、いるにはいるが…」
友達…か?
「私、もっと考えるよ。でさ、答えが出たら、今度こそ友達になろうぜ!」
--絶対に答えを見つけるぜ!
…こいつは本当にバカだな。
そして柊は、「じゃーな!」と言って、走り去っていった。
…友達、か。
僕は携帯を取り出し、数少ない連絡先を知る人物へ電話を掛ける。
『………もしもし。調くん?どうしたの?』
「いや、“友達”とやらの声を聞きたくなっただけだ」
『…なに?それ』
「いや、入学先でいろいろあっただけだ」
白川 桜。
こんな頭からネジが何本か抜けてるような僕でも、普通に接してくれる、一作品に一人は欲しい愛すべき常識人だ。
「…なあ、友達とは何だ?」
『…随分と難しい事を聞くね』
「でなければからかっても何の面白味も無い白川に電話するわけ無いだろう」
『私の需要説明だけ!?』
「冗談だ」
『…冗談に聞こえないんだけど』
白川はため息を吐く。そして言葉を発しとうとした瞬間を狙って、
「冗談じゃ無いからな」
『思いっきり間を空けて言わない!そして調くんも似たようなもんでしょ!さらに今言うべきはそこじゃない!』
ふむ、この対応の早さ。
「やはりな」
『…何が?』
「その対応の早さ、切り替え、内容の的確さ。お前にはツッコミの才能がある!」
『いらないよ!?その才能のせいで今私が苦労してるのなら、そんな才能いらないならね!?』
「望む者もいるのだぞ」
『それ絶対にボケまくる人たちに囲まれてる主人公か誰かが第三者に求めてるんだよねえ!?「自分も欲しい」みたいな事じゃ無いよねえ!?』
「さて、友達の話だが」
『さては飽きたね?調くん飽きたよね!?』
「その通りだ」
『…友達だっけ?難しいよね』
何だかんだで答えてくれる辺り、やはりこいつは人気なのだろうな。
『私はね、友達って無いと思う』
「…は?」
何を言ってるんだこいつ。
『あ、違うよ?誰も信じてないとかあおういうんじゃ無いよ?』
「…ますます意味がわからんな」
『何て言うかなー。…友達は自分で宣言するとかじゃ無くて、何時の間にかなってるんだよ』
「…その心は」
『謎掛けじゃ無いから。うーん、例えばさ、漫画の主人公みたいに「俺と友達になろうぜ!」みたいに言ってさ、その後事件が起こったりして、友情が深まって友達、みたいな展開ってなかなか無いでしょ?
時には喧嘩して、悪口言い合って、良く連んで、何だかんだで助けて助けられて、気づけばいつも隣にいて、隣にいられなくてもこうやって電話したりしてさ、多分、そういうのが友達って言うんだよ。気づけばいつも近くにいるような人がさ』
「…本当に、お前は凄い奴だよ」
『役に立てて良かったよ』
「ああ、僕の中でお前は【ツッコミ職人】から【フレンドマスター】にランクアップだ!」
『え?何それ?凄くびみょ』
切った。
それにしても、白川は暗に僕のことも友達だと言ってなかったか?…まあ、気にするところでは無いが。
「気づけばいつも近くにいるような人が友達、か」
多分、それは物理的な距離でなく、心とか、そういう心理的な事を言うのだろう。
心の距離。
俺と柊の心の距離は、どれくらいなのだろうか?
・・・
・・
・
「鍵音!」
「…またお前か。柊。で、答えは出たのか」
「いや、全然?」
あれから数日経った。毎日のように話しかけてくる柊に、答えを聞いても返ってくるのは「いや、全然?」のみ。だったら話しかけてほしく無いのだが、曰く、「答えがわからないからって人付き合いを疎かにはしない!」との事で、“友達ごっこ”の方は良好らしい。
「なーなー、話しようぜー」
--こいつの事、もっとよく知りたいな。
…こいつは。
「なら、お前の昔話しでも」
…あ。
僕は自分の失敗に気付いた。
「む…かし?」
こいつ、壊れてるんだった。
「はは、…何を言ってんだよ鍵音。私は…普通に」
「いや、いい。昔話はもういい」
くそ!厄介な!
「昔、…私は、私は…!」
柊は頭を抱え膝から崩れる。
「柊!?」
これは重症だ。
さて、ここで質問だ。俺と柊は何処にいる?
描写なんてしてない。が、わかるだろう?僕と柊が変わらず会えるような場所なんて。
…教室。
クラス中から視線が集まる。
--またあいつ何かしたのかよ。
--最低。
--柊さん可哀想。
…全く、どいつもこいつも!
「僕は何もしてないし最低なのは思っていても行動に移さないお前らも同じだし可哀想なのはお前らの毎度毎度お決まりのワードしか思い浮かべれない頭だと覚えておけ!」
クラスの何人かが驚いた顔をしていた。
が、気にしてる余裕は無い。
俺は柊の肩を担ぎ、保健室へ直行する。ここでお姫様抱っこをするなどという主人公みたいな事ができる程、俺に力は無い。さらに身長差もあるため、半ば引きずる形になってしまった。
…どうでもいいが、主人公がお姫様抱っこするのは、相手を引きずらずに運ぶ事ができるからでは無いか?そんなどうでもいいことに思考を割ける事ができる程度には余裕があると確認した。
・・・
・・
・
「悪いな鍵音。助かったよ」
「気をつけてくれ。こっちはいい迷惑だ」
放課後、形式として、柊の状態を確認しにきた僕。だが、見た感じ十分に回復してるようだ。
「なら、これで僕は帰らせてもらう」
「おいおい、もうちょい話そうぜ~」
「なら、もう一度倒れてもらうことになるが?」
「そいつは…ちょっと勘弁だな」
「…そうか」
急に顔色が悪くなる柊。
…ふむ。
全く関係無い話をしよう。
フラグというのは結構洒落にならない。
言わばお決まり、とも言える事だ。Aが起こった場合、Bが起こるみたいもの、ギャルゲーの選択肢やルート、物語、その後の展開のような事だ。
所詮二次元と侮ってもらっては困る。意外に当てになるものだ。
で、何が言いたいかと言うと、
…巻き込まれるだろうな。確実に。
なら、僕の取るべき行動は一つ。
情報収集。
戦いとは武力では無く情報、生き抜きたいなら情報を集めるに限る。
なら、柊の事を知る生徒を探せばいい。同じ中学の者などな。
「では、帰るぞ」
「…ああ。じゃあな」
そう言って、僕は保健室を出る。
・・・
・・
・
「先生」
「ん?…チッ。鍵音か。どうした」
--クソ餓鬼が。
…クソ野郎が。
「生徒の個人情報をしまってる所を教えてください」
「は?教えるわけねえだろ」
「ですよね。失礼しました」
そう言って僕は去る。
「何なんだよあいつは」
--ま、学校のパソコンで教師用のID××××××××で入れば閲覧できるが。
ちょろいな。
・・・
・・
・
さてと、やるか。
見事に情報の鍵を手に入れた僕は、情報の中身を確認するために見事にPC室へと忍び込んだ。
「えっと、××××××××、と。ビンゴ」
証拠を残さないようにするための対策も万全。さっさと集めるとしよう。
学校全体の生徒を探せば、先輩でも何でも一人はヒットするとこの時は思っていた。
だが、しばらく探して愕然とする。
「…どういう事だ」
一人もヒットしない。柊の出身中学校と同じとこの生徒が、誰、一人いない。
これの意図する事はただ一つ。
「遠くの高校、地元の誰もが受けないような高校を受けたか。つまり、地元で何かあったな」
イジメ…と簡単に済ませれればいいが、あの運動神経が馬鹿みたいに高い女がそう簡単にやられるとは思えん。
ならば陰湿な手口でもやられたか?…だが、それだけで精神が壊れるか?それに、あの女の異常な友達への執着…そもそもイジメという発想が違うかもな。
…わからん。
まあ、今日はこのぐらいにしておくか。面倒な事にならないうちにな。
そして、僕は証拠を残さずPC室を後にした。
・・・
・・
・
さて、さっきから物語のテンポが早くて困るな。少しぐらい休める時もあってほしいものだが…。
「おい、ちょっと人探してるんだけどいいかな?」
あからさまに不良。面倒くさいから無視。
「無視かい?そりゃ無いぜ」
しつこいな。
「あーらら、知ーらないっと」
また馬鹿な行動でもするつもりか?
--その頭砕いてやるよ!
筒抜けだがな。
僕はしゃがむことで攻撃を回避する。
「なっ!?」
まあ、驚くだろうな。不意打ちを避けられたんだから。
「正当防衛だからな」
そう言って、僕は相手に向き直る。
「て、テメエ…調子にノッてんじゃねえ!」
馬鹿はまた拳を振り上げる。
僕はポケットに手をいれ、素早く出し、相手の拳の進路上に伸ばす。
「馬鹿が!」
「馬鹿はお前だ」
ガキッ、という音が鳴る。
「ぎ、ぎゃああああああああああ!!?」
…救い用がないな。
不良はあまりの痛さにのたれ苦しむ。
サービスとして僕は自分の拳を見せてやった。
「見てみろよ」
「ぐ…が……メリケン、サック…!卑怯、だぞ」
「おかしな事を言う」
踏みつけはしない。こちらの立場が悪くなるだけ。
「お前らは強い力で自分より弱い者をターゲットに憂さ晴らしするのだろう?力とはつまりはステータス。ステータスは装備で変動するものだ。メリケンサックを装備した僕のステータスの方が君より高い。君は襲う相手を間違えたんだよ。それを卑怯?自分から襲っておいて?笑わせるなよ。僕はスポーツマンでも聖人でも無い。ただの脆弱な狂人だ。どんな手を使おうと、僕に批は無い筈だが?」
さてと、
「僕はちょうど良く情報を集めている。協力してくれるなら逃がしてやろう」
「だ、誰が」
「柊 晶」
「!!!」
「疑問は確信に変わった。さあ答えろ。言っておくが、今のお前に知ってること全部話す以外に選択肢は無い事を頭に叩き込んだ上で、よく考えて行動しろ」
「おおお、教える!教えるから!」
「それでいい」
こうして、少しだが柊の過去がわかった。だが、情報はあればあるほどいいし、無ければ無いほど信憑性が薄い。まだ集めた方が良さそうだ。
・・・
・・
・
「さあ教えろ」
「ひぃ!?教える!教えるから!」
これで23人目。わざと一目のつかない所でぶらついてて正解だったな。次々と餌にかかる。
同時に、柊 晶がこいつらから恨みを買っているということもわかった。
柊 晶。中学時代、番長と呼ばれ恐れられていたらしい。全く、いつの時代だ。
さらに中学生特有の病気を持ってた奴でもいたのか、二つ名を持っていたらしい。
【紅姫】
多分、姫と鬼をかけてるんだろうが、もう少しまともなのは無かったのかと思わずにはいられない。
だが、どんな馬鹿でも中二病でも、力の無い奴に二つ名は付けられない。
地元では敵無しだったらしい。
逆らった奴は全員紅色に染められる。
残虐、
傍若無人、
狂人、
暴力、
過剰、
鬼、
etc.
反応は様々だが、結局は一つに落ち着く。
“逆らったら、殺される。”
だが、それはいつしか大量の情報の渦に息を潜め、消えた。
毎日のように恐怖の権化として語られていた情報が、噂となり、風となり、いつしか消えたのだ。
理由は決まっている。
【紅姫】柊 晶が大人しくなったのだ。
それに遅まきながら気付いた馬鹿は、卒業後に復讐しようと集まる事になる。
が、地元周辺の高校を探すも、柊は見つからない。
で、短気な馬鹿が結局中学教師を脅して情報を手に入れて来たと。
ここで問題になるのが大人しくなった理由。
柊が壊れた理由だ。
さて、どう転がるか。
…ん?
何だあの武装集団。
「テメエか?俺らの仲間を次々と倒してるってのは」
「人違いだ」
さて、帰ろう。
と、踵を返すが肩を掴まれてしまう。
「人違いってのは無いだろう。こっちには証言者がいるんだからな」
「こいつっすよ兄貴!」
…チッ、病院送りにするべきだったか。
相手の本音を上手く誘導する事によって攻撃される部位をあらかじめ確認し回避する僕固有の技。だが、僕とて一般人。聖徳太子みたいに十人の声を同時に処理できるような頭など持っていない。せいぜい三人だ。
が、目の前な奴らは余裕で二桁は行ってる。無理無茶無謀。ボコボコにされるのが落ちだ。
だから、奥の手だ。
バッグから“爆竹”を出して、火を付ける。この間1秒かかってない。練習の賜物だ、
『なっ!?』
馬鹿どもが驚く。馬鹿め。常に万が一を考えておくのは僕たち弱者の習性だと覚えておくんだな。
爆竹が弾ける。僕が走る。
「あ、待ちやがれ!」
誰が待つか。
僕はバッグからスケボーを取り出す。
『何故だ!?』
逃走用だ!
この先には坂があったはず。そこから一気に下る!
流石に人間の足は車輪には勝てなかったようだ。
…別に逃げてる途中に大量のトラップの数々を用意したわけでは無いぞ?少しは設置したが。
・・・
・・
・
「と、いうわけだ」
『…どういうわけよ』
だろうな。
「変な恨みを買ったので助けてくれと胸を張っている」
『そこはせめて頭を下げて!』
なかなか鋭いツッコミ。流石
『ツッコミ職人だなとかやめてよ?』
ついに人類は電話越しでも相手の心が読めるようになったか…。
『…で、私は何をすればいいの?』
「話が早いな。黒宮の説得を頼む。一応な」
『椿?』
黒宮 椿。白川の友人。白川の言うことは絶対という、ちょっと危険な思考回路をお持ちの奴だ。
『…今、失礼な事考えなかった?』
「気のせいだろう」
『…はあ。で、武器とかはいいの?』
「こちらで用意する。なに、木刀とライフルぐらい用意できる」
『言っといてあれだけど、一応私たち吹奏楽部だからね?』
「大丈夫だ。使えるだろ?」
『使えるけど!その設定本当に極々一部の人しかわからないよね!?』
「使える武器は何でも使う。それが僕だ」
『さりげに私たちを武器扱いしたね?』
「それに関しては謝る」
『変なとこで正直だよね調くんは…。ここにきてその設定引っ張り出すなら調くんも作者コピー設定開放してパパッと作者権限使えばいいのに』
「それだとつまらないだろう」
『そうですか』
「それに、元々その設定は好きではないしな」
『…そうだったね。わかった。じゃあ、椿の説得は任せておいて』
「ああ、ありがとう。He is my friend truly. It always appreciates.(流石僕の友達だ。いつも感謝している)」
『Vous êtes bienvenu.(どういたしまして)』
「…英語に対してフランス語で返すとわな」
『いつまでもからかわれてはいられないからね』
それじゃ、と言って電話を切られた。…本当にお前は尊敬に値するよ。
さて、全てのお膳立てはした。そろそろこの物語の終幕を見届けるとしよう。
・・・
・・
・
「鍵音。昨日何かあったのか」
「どうした柊。藪から棒に」
「…私の事を探してる集団がいるって聞いた」
「で、それと僕がどう繋がるんだ?」
「友達が言ってたよ。爆竹の音がして近付いたら大量の集団から逃げてるスケボー乗ってるうちの制服着た奴が逃げてたって。ヘッドホンしてたし、鍵音だろうって」
チッ、ヘッドホンか。にしても誰かに見られてるとはな。
「だから、それ聞いて私のせいで怪我しちまったんじゃねえかって!怖くて…」
--怖い。自分のせいで誰かが傷付くのが怖い。
………。
成る程な。こいつが大人しくなった理由。それは誰か大切な人を傷付けたからだな。
そういうフラグだ。
誰からも理解されずグレた柊。その柊を唯一理解してくれた誰か。だが、どっかの馬鹿がそいつを人質にして、柊を誘き出す。柊が怒り狂い歯止めが効かなくなり、そのうちに誰かを巻き込み、まあ、最後はどうなったかわからんが傷付けてどうにかなったのだろう。死んだか、絶交したか、相手の親に心を抉るような言葉でも言われたか。
だいたいこんなとこだろう。
となると、こういう時誰が一番襲ってくるか。
これまたフラグ、誰かを人質に取った馬鹿だろうな。
「…鍵音?」
「うおっ!」
おっと、ついつい思考の渦に入ってしまった。
「…話聞いてたか?」
「無論聞いてない」
堂々と宣言してやる。
「…威張るなよ」
「そう言うな。まあ、僕が何をしようがお前には関係無いと言っておこう」
「だけど!」
「僕は今回の事に興味を持った。それは誰にも止められない。周りの意見は可能性の一つでしかない。決定するのは自分の意志だ。たとえお前に関係あることだとしても、僕がやると決めたんだ。邪魔をするな」
興味。好奇心。ただそれだけ。僕はこいつという人間に、そして過去に興味を持った。だからやめない。
「…でも」
「………」
そろそろうるさくなってきたのでヘッドホンを付ける。
「…はぁ」
--こいつって強情なんだな。
無視だ無視。
・・・
・・
・
「ん?」
家に着くと郵便受けに一枚のルーズリーフ。
…無視しよう。
「おいいいいい!!!」
「…誰だ?」
無視して家に入ろうとしたら新たにウザい奴が登場した。
「そこは見るでしょ普通!」
「普通?そんなものはお前らの中の共通認識でしか無い。お前らの普通と僕の普通は違う。お前らの普通が“怪しい物は見る”だとしたら僕の場合“怪しい物は面倒な事が起きそうだから見ない”だ。そこをちゃんと理解しておけ」
「その中身が重要だったらどうすんだ!?」
「このルーズリーフ一枚という封筒にも入って無いハガキでも無いお粗末な状態で出した差出人の落ち度だ。見てもらいたいなら怪しくするより普通に見えるようにしろ」
「いいから見ろよ!」
「だが断る」
「い い か ら !」
チッ、なぜこいつに指図されなければ…
【柊 晶は◯×倉庫にいる】
………。
「ふん、やっとかやる気をごふっ!?」
「邪魔だ」
ああ、厄介だ。どうせまた敵に騙されれたのだろう。
携帯を取り出し白川に連絡する。
『あ、調くん?こっちに着いたけど』
「◯×倉庫に至急向かってくれ!」
『…わかった。すぐ行く。“友達”の危機だもんね』
こいつは全てを見透かすように、ああ、全く本当に、
「助かる!」
最高の友達だよ!
・・・
・・
・
「…てめえ等」
「久しいな~柊」
ズキッ、と頭の奥、頭の隅に追いやってた記憶が反応する。
こいつらは私がまだ、【紅姫】とか凄え恥ずかしい名前で呼ばれてた頃に返り討ちにした不良だ。
だけど、それだけじゃ無かった気がする。私だって人間、いちいち返り討ちにした不良なんか覚えてない。
…なのに、なぜこいつだけは鮮明に覚えてるんだろう。
思い出せない、思い出したくない、過去の記憶が悲鳴を上げる。
「どうした?顔色が悪いぜ?」
「…うるせえ」
手が出そうになる。だが我慢だ。暴力は捨てるって、心に決めたんだ。
…あれ?
何で捨てようと決めたんだっけ?
ズキズキと、頭の奥が疼く。
「どうした?平和ボケでもしたか?昔のお前は真っ先に殴りかかって来たじゃねえか」
「黙れよ」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。殴りてえ。
でも、殴ったら止まらなくなる…と思う。
一度決壊したら、治すのは難しい。
だから、耐える。
「鍵音 調」
「!!!」
何で…今鍵音の名前が?
「最近俺たちの周りを嗅ぎ回っててウザかったからな~」
「…鍵音に何をした」
まだ友達じゃ無いけど、わたしのせいで傷付いてほしくない。
「大丈夫だよ。ただ、俺たちについて来い」
「…わかった」
拒否権は無かった。
だけど、今は耐える。
鍵音、無事でいてくれ!
・・・
・・
・
「…ここは?」
「◯×倉庫だよ」
「…鍵音はどうした」
「まあ焦るなよ。話をしようぜ?」
倉庫…何だろう。ここ、どこかに似てる。
「なあ、思い出さないか?俺たちがやりあったのも、こんな間取りの倉庫だったろ?」
ガシャン、と記憶に付けられている鍵が、何重にも付けられてる鍵が、何個か外れた気がした。
「…ああ。そんな気もするぜ」
「どうした。青ざめてるじゃねえか」
なぜ私は、ここまで動揺してるんだ?
「懐かしいな。でも少し悲しいんだぜ?」
「何が…」
「お前が忘れてるからだよ」
ズキッ、と痛みが走る。
「懐かしき友に会ったら思い出を共有したいだろ普通」
「…誰が、友達だ」
こいつは敵だ。こいつは敵だ。それだけだ。
「悲しいじゃねえか。俺たちだけがこの記憶に縛られて、当の本人が忘れてるなんて」
もう何も反応できない。
心臓の鼓動が高くなる。
汗が出る。
目の前が揺れる。
もう隠せないほど、私は動揺していた。
「思い出せよ。でなきゃ復讐出来ねえだろ」
「う…い、や……だ」
頭が痛い頭が痛い頭が痛い…
「薄黄 結」
ガシャン。
鍵が…外れた。
「う、うぅわああ」
「思い出したか」
薄黄 結。
私が…
「薄黄 結。お前が」
殺した相手。
「殺した奴だ」
「うわああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
薄黄 結。
私の友達。
私の…殺した相手。
・
・・
・・・
柊 晶は友達がいない。
正確には、友達がどういうものかわからない。
小学生の頃から一際身長は大きかった。今でこそ、成長は落ち着いて“他より大きい”だけなのだが、昔は“群を抜いて大きい”子どもだった。
まだ深く考えることの出来ない、良くも悪くも純粋な子どもたちの言葉が、その時は悪い方向に転がった。
からかわれ、周りから遠目に見られ、近付く者はいない。「近付いたら怪獣女に食われるぞ」なんて、ありもしない事を子どもたちは学校中に広め、悪い方向に転がった純粋さは、柊 晶を孤独にした。
からかいはそのうちイジメへと変わった。殴る蹴る、石投げの的、机に花瓶、靴の中に画鋲…どんどんエスカレートしていった。
そして、柊 晶は数年間に渡り我慢してきた怒りを解放してしまう。
身長の大きさは体格の良さに比例してしまった。中学生のような体を持つ柊 晶に、男子と言えど小学生である子どもたちには成す術が無かった。
そして柊 晶は暴力による仕返しで、その解放感や今まで自分をイジメた対象が地にひれ伏す状況などにより、その味を占めてしまう。
【紅姫】柊 晶誕生の瞬間だった。
そこからは柊 晶は今までの恨みを晴らすように暴れた。
叩きのめし、返り討ちにし、ケンカを買い、恨みを買い、新たなケンカを呼び込み、また叩きのめし、返り討ちにし、繰り返した。
何度も何度も、たまに入院する者もいた。警察のお世話にも何度もなった。それでも、ケンカはやめなかった。
だが、しばらくすると虚しさだけが残った。
襲ってくる不良でさえも集団。本当に友達、仲間と呼べる関係の者が何人いたか定かでは無い。だが、周りには人がいた。
自分は、一人だった。
家族すらも、柊 晶を遠巻きに見ていた。
元々の始まりは周囲の人間だとも思った。
だが、遅かった。
正当であろうとも、
理不尽であろうとも、
正しくても、
間違いでも、
事実だとしても、
嘘だとしても、
もう、柊 晶の言葉を聞く者はいなかった。
柊 晶は独りだった。
だが、彼女にも転機が訪れた。
薄黄 結との出会いだった。
出会いは不良に絡まれてる薄黄 結を見たのが始まりだった。
小柄で、品があって、可愛いと思える少女だった。柊 晶とは正反対とも言える存在だった。
助けたのは気紛れだった。むしゃくしゃしてやったのだ。
なのに、薄黄 結には感謝される始末。
普段から暴力振るえば周りからは非難されるのが常だった彼女には、嬉しくもあり、同時に、それ以上の戸惑いを生み、つい強い言葉で暴言を吐いてしまった。
しまった!と思うが時既に遅し。柊 晶は少し後悔しながら立ち去ろうとする。が、薄黄 結は彼女を止め、名前まで聞いてきた。トドメに「また会いましょう」とまで言ってきた。
今まで自分が会う相手と言えば、まず最初に殴り合い、次会っても殴り合い、最後まで殴り合う。そんな相手だった。
だからこそ、彼女の言葉は疑ってしまった。
だが、本当に彼女と会ったのだ。助けた次の日に。
次に会ったのはケンカ中だった。ボコボコにした奴らの中心に立っているところを見つかった。
本当に会うとは思っていなかった。でも、今の自分の状況を見ればもう会うことも無いと思った。
思った、のに、
彼女は自分に怒ったのだ。誰もが恐れる中二くさい【紅姫】なんて二つ名を付けられてる自分に、柊 晶に。
それからも、薄黄 結は柊 晶に毎日会いに行った。そして何度も怒った。
柊 晶は邪見に扱うも、薄黄 結の言葉は少しずつ柊 晶を変え始める。
ケンカの数は徐々に減った。中学生生活も終盤になる頃にはケンカでは無く逃げるようになった。無駄に暴力は振るわないように気を付けた。
勉強まで始めた。小学校の頃から知識の教養がストップしてる柊 晶には地獄とも言えたが、薄黄 結の丁寧な指導と、元々の才能か、すぐに中学の内容に追いついた。
バイトまで始めた。言葉は直せなかったが、それでも意識して暴言を吐かないようにし、接客までできるようになった。
ケンカのような解放感は得られない。だが、心を満たす充実感は確かにあった。
柊 晶は、変わった。
だが、周りは変わらなかった。
何度も何度も返り討ちにした相手が変わったからと言って、それを許せるほど不良たちは心が広く無かった、
そして、事件が起こった。
不良に薄黄 結が攫われた。
血が沸騰水したかのようだった。
柊 晶は激昂した。
すぐに誰も呼び出された場所へと行った。
廃屋のような倉庫だった。ボロボロで所々錆びていて、穴やひび割れもあるような場所だ。
そこに、不良たちと縛られた薄黄 結がいたのだ。
今回は親友である薄黄 結を助けるため、そう自分を説得し、襲い掛かる不良たちを叩きのめした。
だが、それは次第に止まらなくなる。
久しぶりのケンカによる解放感、敵を殴った時の甘い痺れ、圧倒的な力で相手をねじ伏せる優越感。
もはや理性では止められなかった。
ある者は宙を舞い、ある者は壁に叩きつけられ、ある者は地に伏せられる。
薄黄 結は何度も制止の言葉を放つが、それは届かなかった。
もはや目的は“薄黄 結の救出”では無く、“自分に逆らう者への暴力”にすり替わっていた。
だが、暴れ過ぎた。
圧倒的な暴力は倉庫に次第に更なるダメージを与えた。
長時間の乱闘が与えたダメージは、ボロボロな倉庫を壊すのに十分なほど溜まってしまった。
倉庫が崩れた。
不良全員が大怪我を負った。柊 晶も例外では無い。
そして、不幸なのは薄黄 結だった。
薄黄 結の上に落ちてきたのは鉄骨や鉄筋など致命的な物ばかりだった。
さらに彼女は縛られており、回避どころか防御も出来なかった。
それは容易く少女の命を奪った。
柊 晶は懺悔した。傷付いた体で何度も何度も。自分が暴れ過ぎたせいだと、制止の言葉を無視したからだと、自分を責めた。
だというのに、薄黄 結は責めなかった。助けに来てくれた事に礼まで言った。
責めてくれた方がどれだけ楽だったろうか、だからこそ彼女の死は柊 晶に重くのしかかった。
自分が死んだら柊 晶はまた独りになる。長い付き合いで柊 晶に自分以外味方がいない事を知っていた薄黄 結は遺言として、信頼できる人を、友達を作れと伝えた。
柊 晶は約束した。だから見届けろと彼女に言った。
それに対し薄黄 結は微笑みで返し、そこで命は尽きた。
柊 晶は崩壊した。
残ったのは自分の力への恐怖と親友である薄黄 結との約束だけだった。
この記憶は柊 晶の中で厳重に鍵をかけられ封印された。
・・・
・・
・
「わ……たし、は…」
「お前は人殺しだよ柊 晶」
「…ちが……」
「違わない。もう一度言う。お前は人殺しだよ」
「……ちが、う」
「自分の親友を手にかけた最低のクズ野郎だ!」
「違う!」
「悲しいだろうなー。お前のようなクズのせいで死んだんだ。さぞ恨んでるだろうなー」
「違う違う違う!」
「違わねえよ」
「違ああああああーーーーーーーーーう!!!」
結は私にお礼を言った!友達を作れと言った。恨んでるはずが無い!
「例えそうだとそても、お前が殺した事に違いは無え」
「っ!」
「今は友達作りを頑張ってるんだって?健気だね~」
「…お、い。…まさ…か」
「もしその友達全員に、この事実を教えたらどうなる?」
「…やめろ」
「お前はまた独りだ」
「…やめてくれ」
「残念だな、本当に。お前は…いつまでも独りだ」
「やめろおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「ひゃーはっはっはっは!」
結との約束が果たせない。
自分の撒いた種だ。
自業自得だ。
けど、こいつらは許せない。
だけど、怖い。
結を殺した自分の暴力が、怖い。
また昔に戻ってしまうんじゃ無いか。
昔に戻るのが、何より怖い。
「…助、けて」
「ああ、そういえば俺たちを嗅ぎ回ってた妙な奴にお前がここにいることを伝えたな~」
「っ!!」
鍵音?鍵音か!?
鍵音が…来てくれる!
「まあ、来ねえだろうな。見ず知らずの相手を助けるような奴には見えないしな」
「………」
そうだ。あいつは友達じゃ無い。来る訳が無い。そもそも…
「来たとしても、こいつが人殺しだと言えばいいだけだ」
私は、人殺しだ。
どこまでも…独りなんだ。
「随分と勝手に評価してくれるな」
『…え?』
この、声。
「キサマ等のような馬鹿が、俺を評価するな。虫唾が走る」
鍵音が、来てくれた。
・
・・
・・・
「調くん!」
「来たか」
やっとか◯×倉庫に白川たちが到着した。全く、
「遅過ぎるぞ」
「言葉にするんだね。普通隠すんじゃないかな」
「普通なd」
「ああ、別にいいから。急いでるんでしょ?」
「………」
白川も成長したな。
「そして黒宮は全く成長しないな」
「チビって、言うなああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「椿ストップ!調くんもそういうこと言わない!」
チビとは言ってないのだから少し理不尽ではな「理不尽じゃ無い!」…ついに思考にまで割り込むか。
「椿、落ち着いて、ね?」
「うぅ~」
「…はぁ。で、私たちは何をすればいいの」
「話が早い。とりあえず武器だ」
僕はバッグから木刀とライフル(殺傷能力は無い)を取り出し白川には木刀、黒宮にはライフルを渡す。
「また振ることになるなんてね…」
「久しぶりに闇撃ちできる」
「まず、白川は倉庫の外に張り付いてる不良全員を殺せ」
「了か…いしないよ!?何を言ってるの!?」
「冗談だ。普通に倒してくれ」
「…冗談に聞こえないよ」
「黒宮は先に中に潜伏し、僕が動いたら僕の進路上の敵を殺せ」
「了解」
「了解しない!調くんも次変な事言ったら先に倒すからね!」
『了解』
「…凄く疲れる」
では、
「ミッション・スタート!」
「凄く言い方に疑問が出るけどわかった」
「先行する」
黒宮が中へと気付かれないように入る。
「じゃあ、私も」
白川も行く。
「誰だテメエ!」
「協力者よ」
「はあ?ふざけてんじゃねえよ!」
「私はあなたたちを倒す約束をした。だから、さっさと終わらせる!」
「は?舐めてんじゃnぎゃあああ!?」
一人、二人、三人…よし、行くか。
白川が敵を始末してる間に倉庫に近付く。
『まあ、来ねえだろうな。見ず知らずの相手を助けるような奴には見えないしな』
中から声が聞こえる。
『来たとしても、こいつが人殺しだと言えばいいだけだ』
ふむ。馬鹿の声だな。誰かは知らん。が、こいつは馬鹿と確定できる。
「随分と勝手に評価してくれるな」
『…え?』
何故なら、
「キサマ等のような馬鹿が、俺を評価するな。虫唾が走る」
見ず知らずでは無い。
「鍵音?」
「正真正銘鍵音 調だが?」
「マジかよ…こいつ来やがった。本物の馬鹿だ」
--まさか来るとはな。流石に予想外だ。
「単細胞は黙っててくれ」
「んな!?」
「聞こえなかったか?どうしようもない馬鹿でグズなキサマに黙れと言ってるんだ」
「こ…この…」
--ぶち殺す!
このくらいで怒るとは本当に単細胞なのでは無いのか疑問に思うな。
「か、鍵音!何で来たんだ!逃げろ!」
--来てくれた…鍵音が、来てくれた!
内心と言葉が全く違うぞ。
「…ふむ。このぐらいの数ならお前は一掃できるのではないのか?」
【紅姫】とまで恐れられた実力は本物のはず。なら、このぐらい余裕だろうに。
「はん!こいつにそんな度胸あるわけ無えだろ!何故なら」
「お、おい!待て!」
「人を殺したんだからなあ!」
「で?」
瞬間的に答える。
『…はい?』
「…それだけか。だいたいわかった。自分の手で誤って大切な人を殺してしまい、暴力を振るうことに恐怖を感じてる。そんなところか」
「お、おい。どうしたんだよ。こいつは人殺しだぜ?何でそんな平然と…」
何故か?決まってる。
「柊 晶は後悔してるからだ」
それ以上に理由は必要無い。
「更に言うと、その過去を利用して、柊 晶を囲んで更に当事者でもあるお前らの方が、僕から見たら十分人殺しだ。これ以上に理由が欲しいなら出て来い。懇切丁寧に教えてやろう」
「て、テメエ」
--正義の味方のつもりか!
「正義の味方?そんなつもりは毛頭ない」
「な!?」
--なぜわかった!?
無視して話を進める。
「ということでどけ。僕は柊に用がある」
「は?ふざけんが!?」
今ここに新たな名言が(ry
ふざけんが!?by何処ぞの不良
「な!?テメエ何をやりやがった!」
「それを教えるとでも?自分の手の内を晒してやるほど僕が優しくない。ということでどけ」
「ふざけんなああああああ!!!」
不良どもは一斉に襲い掛かる。僕は一直線に柊の元へ走る。妨害の心配は無い。
「が!?」
「ぐっ!?」
「ごほ!?」
椿がいるからな。まあ、弾はそこまで準備してきてないためすぐに切れるだろうが、問題無い。
「鍵音!?」
柊の手を取り、引っ張る。不良から逃走…は無理か。
…とりあえず、
「ここだ!」
「おわっ!?」
人一人入れるような場所がちょうど良くあったため、そこに柊を突っ込み、自分が壁となる。
「ぐっ…」
「鍵音!?大丈夫か!?」
背中から来る暴力は確実に僕にダメージえお与える。黒宮の方も弾切れだろう。
「もういい鍵音!お前がそこまでやる必要は」
「僕が何をやるかは僕が決める。そう言ったはずだ」
「鍵音!」
「手短に言うたい事を言うから黙ってろ!」
「っ!?」
黙らせたところでさっさと言う。
「お前は何を恐れている?」
「…また誰かを傷つけること」
「違うな」
「っ!違わない!」
「言っておくが僕は他人の本音が聞こえる。その僕がお前に言おう。お前が真に恐れているのは」
--暴力を振るうことで、また独りになるのが怖い。
「暴力を振るうことで、また独りになることだ」
「!!!」
「言っておくが、誰だって暴力は振るう。お前は少し過剰なだけだ」
「違う!あれは、ただ暴れてるだけだ!」
「わかっているならいい。そして、それを見て僕がお前の元から離れると思っているのか?」
「何だよ、急に…」
「認定しよう。君は人の心を持ち反省できる“僕の友達”だ」
「…は?」
「僕の親友が言うには、友達というのはいつも心が近くにあるような人の事を言うらしい。お前はいつも僕に話しかけた。僕も、うっとおしいとは思っていたが、同時にそこまで嫌でもなかった。これは偽りではなく本音だ。そして、お前の過去からお前の人間性が見えた。よって友達に認定する」
「今はそんな場合じゃ…」
「そして、まあ都合のいい話だが、その友達になったばっかりの僕がそろそろピンチだ。友達は助けるものらしいぞ?」
「だ、だけど、私は」
「…時間が無いが、少し話をしよう」
「お、おい?」
少し説明口調で言ってやる。
「ここに箱があるとしましょう。この箱には仕掛けがある。その仕掛けとは、『放射性物質のラジウムを一定量と、ガイガーカウンターを1台、青酸ガスの発生装置を1台入れておく。もし、箱の中にあるラジウムがアルファ粒子を出すと、これをガイガーカウンターが感知して、その先についた青酸ガスの発生装置が作動する』という仕掛けだ。その箱に生きた猫を入れる。
何が言いたいのか解るだろうか。簡単に言ってしまえば、『二分の一の確率で猫が死ぬ仕掛けの箱に猫を入れた』状況を想像しようというわけだ。もちろん猫の死因は仕掛けのみとする前提だ。知っている方もいるだろう、そう、『シュレーディンガーの猫』だ。ここでは『箱の中の猫』と言うことにしよう。
話を戻そう。この箱を次にあける時、猫は生きているか、死んでいるか、どちらだろうか。
物理学ではこの状態を『生と死が重なりあった状態』と解釈する。『パラドックス』というものだ。
私達は普段、生きている状態と死んでいる状態をそれぞれ認識できるが、『重なった状態』というものは普通は認識できない。
だったら普通はなんとこたえるか。解らないままに適当に答えるか、解らないと答えるとおもう。
そう、『解らない』んだ。」
「…え?…は?え?」
「ふむ、結構わかりやすく言ったと思うんだが…しょうがない。同じような事を簡潔に言ってやろう。
“君が暴れる”事が、必ずしも“友達がいなくなる”ことに繋がっているわけではない」
「…鍵音、お前」
「約束しよう。鍵音 調は柊 晶が不良相手にどれだけ暴れようと、お前の近くに居続けてやると」
「………」
「…それで早速だが、まか…せた」
そこで僕は力尽きる。…ああ、青痣だらけだろうな背中。
そんば思考を他所に、柊は動き出す。
「お前ら…許さねえ」
その低い声は周りへの牽制に十分だった。
「私の友達に…よくも手を出したな。殺しはしねえ。…だがな、相応の報いは受けてもらうぞごるぁああああああ!!!」
このケンカの終結にそう時間はかからなかった。
・・・
・・
・
「大丈夫か?鍵音」
「これが大丈夫に見えるなら眼科か脳外科に行くことを勧める」
「…態度だけは変わんねえな」
現在僕は柊に肩を貸してもらって立ってる状態だ。少し歩くだけで激痛が走る。
不良め、次会ったら…いや、もう会いたく無いな。
「お、調くーん!」
「来た」
倉庫の外には白川と黒宮、そして不良の山があった。
「えーと、あいつら誰だ?」
「お前が言う僕の親友たちだ」
「…強えな」
やっぱりわかるとこがあるんだろうか?不良の山を見ての評価かもしれんが。
「あなたが柊さん?私は白川 桜。よろしくね」
「私は黒宮 椿」
「あ、ああ。柊 晶だ」
「あなたが調くんの友達だね?」
「ああ、鍵音。そのことなんだけどよ」
「わかってる」
「…まだ何も言ってねえんだけど」
「本音が聞こえると言ったろう。内容は、『自分はまだ友達がどういうものか答えを出していない。だからまだ友達にはなれない』だろ?」
「…そうだ」
僕を欺く事は不可能だ。
「ケジメ、みたいなもんだ。だから、今は無理だ。だけどよ、絶対に答えは出す。だから、答えが出たその時は」
「ああ、お前の友達になることを約束しよう」
「ああ、約束だ」
「柊さん。私も友達になっていいかな?」
「私も」
「え?ええ??あ、ああ!光栄だぜ!」
その後、白川と黒宮は連絡先を交換ししばらく喋ったあと帰った。
…僕の心配は無しか。
「なあ鍵音」
「なんだ」
「…ありがとな」
「…ああ」
・・・
・・
・
これでこの物語は終了する。
僕がこの雑音を好きになることは無いだろう。人を好きになる事も多分無い。
だが、そんな僕にも“個人”を好きにはなれた。そして、友達もできた。
今回も不幸な出来事だとは思わない。何事も代償が必要だ。柊という人物を知り、友達となるのには必要な代償だった。
きっとこれからも出会いに代償を払うだろう。僕のような特殊な人間には必要な事だろうから。
だから「かーぎねー!」
「ええい!最後の締めをやってる途中に割り込むな!」
「お前が遅えからだろ!今日は桜と椿と一緒に遊びに行くんだろ!」
「待ち合わせには十分間に合うから問題無い」
「五分前行動は基本だぜ」
「なら最初から五分前に待ち合わせを設定するんだな」
「屁理屈を…。いいから行くぞ!」
「おい!こら!引っ張るな!」
きっとこのような騒がしい毎日は続く。楽しくもあり、うるさくもあるこの毎日が。
…少しは安息日が欲しいものだ。
キャラを快く貸してくださったキーstに感謝します。ありがとうございました。