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プロソパグノシア

作者: 乙木みこと
掲載日:2013/01/26

プロソパグノシア

 朝起きて、まず時計を見る。午前七時、いつも通りだ。

暖かな日光が窓から差し込んでくる。

今は五月の後半でポカポカしてきて僕の好きな時期だ。

顔を洗い、歯を磨く。全身がキリッとして意識が明瞭になる。

一人暮らしだからだれもいないがおはようと言いたい気分だ。

大学へ行くために朝食を済まして、着替えをして出掛けないとな。

大学の一限目は九時からだ。僕のアパートは大学からかなり近いので朝起きてからずいぶんとゆっくりできる。

ふぅ。そろそろ行くか。十分前には教室にいられるように家を出る。

大学生活も二年目に入ってすっかり通い慣れた道を歩いている。すると、赤のランプが僕の歩みを止めるが大学はもう目前だ、焦る必要もない。時間も余裕だ。

白と黒のシマシマ模様を渡ると、大学まであとはこの坂を下るだけ。

ところで日本にある坂。登り坂と下り坂どちらが多いか。これは同じ数というのが正解。坂は登り坂でもあり、下り坂でもある。

僕は下を見て歩く癖がある。中学生の時に千円札が落ちてるのを発見してからの癖だ。

今回、目に入ったのは道路を虫がいっぱい這っている光景だ。虫はあまり得意ではない、むしろ嫌悪の対象と言ってもいいだろう。

大学の正面口。

今度は黄色のテープが僕の行く手を遮る。

キープアウトと書かれている。立入禁止だ。

なにかあったのだろうか。

まあ、僕の関心事は一時間目の授業がどうなるのかということだけなんだけど。

ーーーー

 今は普段なら二時間目の授業を受けている時間だが、僕は家でゴロゴロしている。

決して授業をサボったわけじゃない。

自慢じゃないが、僕は小中高と皆勤賞だったし、大学でも毎回真面目に出席している。

どうも大学で事件があったらしく、今日は全ての授業が休校になったらしい。

大学の真ん前にきたのにとんぼ返りだ。

ピンポーン。アパートのインターホンが鳴った。

面倒だなと思いつつも訪問者に応対するために立ち上がる。

はーいと言ってドアを開けるとテカテカと光る虫が僕の顔に飛び込んでくる。うわっと声を上げ、虫が部屋に入らないように扉を閉める。インターホンの主は誰だったのか分からなったが、どうせ宗教の勧誘かなにかだろう。僕を訪ねてくるような人いないんだった。なんにせよ出るだけ時間の無駄だった。

今の季節は暑くもなく寒くもなく良いんだけど、暖かくなってくるから虫が出てくるんだよな。虫は嫌いだよ。

 翌朝。今日もいい天気だ。

いつも通り起きて準備し、家をでる。

教室に着く。一限目の始まるジャスト十分前。予定通りだ。

教室には既に同じ学部の人がチラホラいるが、仲が良いというわけではない。

取り立てて仲の良い人は今はいない。

大体の人が後の方に座るなか、前の方の席を選んで座る。

後ろの方から話し声が聞こえてくる。

「昨日なんで休みやったか知っとるー?」

「知らんけど、なんか大学で事件があったって聞いたよ」

「よくは知らんけど殺人事件があったんやってさ」

「えええーマジ!? ヤバ! 犯人って捕まったん?」

「それは知らん」

「なんやそれ。こわー」

「今日学校来やんかったらよかったわ」

授業直前になって人が多くなってきてかなりザワついてきた。

授業は静かなのが好きなんだけど、始まったら静かになってほしいな。

それにしても殺人事件があったのか。物騒な話だな。

この前、虫を殺したのを思い出した。

それは寄生虫だった。

あれは二日前か三日前ぐらいだっただろうか。その虫が自分に寄生しようとした時に思わず殺してしまった。

あの時は本当にビックリして気持ち悪くて一心不乱だった。

そういえば人間の顔にも実はいっぱい寄生虫がいるらしい。ほんと知りたくなかったよ。

ようやく九時か。授業が始まる。

僕は授業を真面目に受けるタイプだ。

なにごとも真剣に取り組まないと。聞き逃したりしたら、見せてもらえる人もいないし、先生に教えてもらいにいくほど僕はアクティブじゃないから、そうならざるを得ないんだけどね。

どうやらこの部屋にも虫がいるみたいだ。

虫の雑音が気になる。今が授業中じゃなかったら、殺しに行くのに。

 今日も全ての授業が終わった。

大学を出て家路へつこうとしたところ、大学の柱にくっついている害虫が僕に白い煙を吐き出してきた。害虫が。

こいつの吐く白い煙は人を死にいたらしめる。この虫は至る所にいるが、少しでも害虫の数を減らす為にここで殺そう。

僕の体は自然と動いていた。

ふぅ。害虫も殺したし、さっさと家に帰ろう。

何人かの怒声が聞こえた。

すると、いきなり捕まえられ、カゴに入れられた。

僕は「虫」になった。

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