1-7 どっちがいいのよ、と・・・
二人の言う通り、デートしてご機嫌を取っても最終的に僕が正座をさせられるという
現実は変わらないらしい。
「さぁお兄様。デートも無事終わりましたし、そろそろ答えを聞かせてもらっていいですか?」
「そ、それは……」
僕がヘタレとか、美味しく二人をいただきたいとかじゃなくて、物理的に選ぶことが出来ないんだ。
倉科さんを選べば、沙羅による折檻を受け、沙羅を選べば倉科さんに呪われてしまう。
そんな、どっちに転んでも死に近いモノがあるのに選ぶなんて出来るはずがない。
「輝くんなら私を選んでくれるよね? だって輝くん、デートの時にあんなに私にエッチ
なことをしたんだもん。そこまでしておいて選ばないのは無いよね?」
「ちょ――っ」
「な――っ!?」
く、倉科さん!? あ、あなたは何、特大の爆弾を落としているのですか! そんな
爆弾を落とされたら沙羅が――
「お、お兄様……? 今、凄く不愉快な言葉を聞いたのですが、わたしの聞き間違いでしょうか?」
沙羅が鬼のような形相を浮かべている。こ、これは……殺されるかもしれない。
「あ、あのね……沙羅。今のは倉科さんの妄言でね……」
「輝くん嘘を吐くのはよくないわよ。輝くんは、私の太ももをネットリとイヤらしく触
っていたわよね?」
「そ、そうですね……」
無意識で――とても重要だからもう一度言うけど、無意識で触っていたんだよね。
何か不思議な魔力が倉科さんの太ももから出ていたんだと思う。
「へぇ……お兄様、渚さんにそんなことをしていたのですか。わたしには、そんなこと
をしてくれなかったというのに……」
「すいません。本当にすいません」
ただひたすら謝る。下手な言い訳はするだけ無駄だ。こういう時はとにかく謝るしかない。
「輝くんにエッチな悪戯をされた時点で私の勝ちじゃない?」
ふふん、と胸を張る倉科さん。それを見た沙羅も同じように胸を張り――
「わ、わたしはお兄様にキスをされましたよ! これはもう完全勝利ですよね!」
倉科さんの言葉に対抗してくる。キスと言っても頬になんだけどね。わざと場所を言
わないのは、さすがだと思うよ。
「き、きき、キス!? そ、それはさすがに嘘だよね!?」
「嘘じゃないですよ。わたしはお兄様に優しく、そして時には激しくキスをされました!」
身体をクネクネと動かしながら、僕にキスをされた思い出を語る沙羅。
だけど、一つだけ言わせて欲しい。確かに沙羅の言うようにキスはしたけど、僕がキ
スをした場所は頬であって、他の場所にはしていない。それに激しくキスをした覚えは
ない。ほんとに軽く触れるだけのキスだったんだけど……
「あの時のキスで、わたしの身体はもう蕩けてしまいました♪」
頬を赤く染め、照れている沙羅。僕の記憶ではキスをした瞬間に、意識を失っていた
ような気がしたんだけど……
「渚さんはキスとかされなかったのですか?」
倉科さんから見たらムカつくような顔――そんな顔を浮かべながら、沙羅が挑発をする。
「デートでキスもされないようでは……とうていお兄様に選ばれるわけがありませんよね?」
「そ、そんなことないもん! キスだけが全てじゃないもん!」
「ですが、キスというのはとても大事ではないですか?」
「ぐぬぬ……」
沙羅の言葉に倉科さんが苦痛の表情を浮かべる。
「渚さん。今回はあなたの負けですよ」
完全な勝利宣言。自身の勝利を確実に意識した言葉。それを倉科さんに浴びせる。
「これでお兄様は、わたしのモノですね♪」
『わたしのモノ』って、僕は物じゃないんだけど。せめて人扱いをして欲しい。
「……もん」
「何ですか? 負けた言い訳でも言うのですか?」
「……私だって、輝くんに凄いことされたもん」
「凄いことってキスには勝てないんですよね?」
倉科さんに多少のセクハラ行為をしていまったけど、キスのインパクトには勝てない
かもしれない。まぁ僕からすれば、どっちも同じぐらいのインパクトがあるけどね。
「わ、私は輝くんに女の子の大事な所を触られたんだよ! 沙羅ちゃんは輝くんに触ら
れたこと、あるのかな?」
「んな――っ!?」
「女の子の大事な大事な所だよ? 妹の沙羅ちゃんには、無縁な行為かもね?」
先ほどの仕返しと言わんばかりに倉科さんが攻める。しかし、僕の記憶では女の子の
大事な所を触った覚えはないんだよね。太ももを触っただけなんですけど。
まぁ、太ももも女の子の大事な部分ではあるけどね。
「沙羅ちゃんには悪いけど、あのままいってたら、子供が出来てたかもしれないわね」
「こ、子供ですって!?」
「そうだよ。今回は偶然出来なかっただけで、実際は子供が出来ててもおかしくないのよ」
倉科さんは何を言っているのだろうか? 子供が出来るような行為。そんな行為をし
てはいないのに、如何にもそういう行為をしてましたみたいなことを言う。
僕がしたのは膝枕でのセクハラ行為までなのに――どうして、そんな嘘を吐くのか。
「お、おお、お兄様が穢されたなんて、そんな……」
そして、沙羅もそんな嘘を信じないで欲しい。
「お兄様の初めては、わたしが奪う予定でしたのに……」
あわわ、と泣き崩れる沙羅。
少し待って欲しい。沙羅が僕の初めてを奪う予定って初めて聞いたよ。
沙羅が僕の貞操を狙っていたとは……
「ふ、ふふ……残念だったね沙羅ちゃん。輝くんの初めては私が奪っちゃったのです」
奪ったって、だから僕の初めてはまだ奪われてないからね。
沙羅もそうだけど、倉科さんも嘘を吐きすぎだろ。何でそこまでデートの内容で張り
合おうとしているのか。どっちも楽しいデートだった。では、ダメなのかな?
「お兄様の……お兄様のが……」
よほど倉科さんの言葉がショックだったのか、本気で落ち込んでいるよ。
「あ、あのね沙羅――」
「お兄様の童貞は失われましたが、まだわたしのが残っています! お兄様、わたしの
初めてはお兄様に捧げますからね!」
「や、あの……」
兄妹でそれはさすがに拙いでしょ。いや、元々僕にそんなことをする勇気はないけど、
それでも兄妹でそれはダメだ。
「沙羅ちゃん、私のことは義姉さんと呼んでもいいんだよ?」
今度は、倉科さんが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。そして沙羅は悔しそうな顔を
浮かべている。さっきと表情が逆転しているよ。
「私と輝くんが結婚するのも時間の問題かもね」
それはないと思いますよ。偶に忘れてしまうけど、倉科さんは幽霊で僕は生きている
人間なんだよ。それで結婚というのは少し……
「結婚なんて認めないんだから。お兄様と結婚するのはわたしなんです!」
沙羅は沙羅で何を言っているんだ。人間と幽霊でも、どうかと思うのに兄と妹で結婚
というのは更にどうかと思う。
「輝くんは私のモノなのに、譲る気はないの?」
「譲るつもりなんてないですよ。お兄様は生涯、わたしだけを見ていればいいんです」
「ダメなの! 輝くんは私だけを見るの!」
ぐいっと倉科さんが僕の腕を掴む。
「ダメです! わたしだけを見るんです!」
沙羅も負けじと僕の腕を掴む。
「ちょっ、二人とも痛い……」
「輝くんはムチムチな身体が好きなのよ」
「うぐ……っ」
掴んだ腕を自信の胸に当てる。ふにっと柔らかな感触が僕の腕に……っ!
「お兄様はそんな胸とかに騙される人ではありません!」
そう言いながら沙羅も、僕の腕を自身の胸に当ててくる。倉科さんほどの弾力がある
わけじゃないけど、沙羅もそれなりに柔らかな感触を感じる。
「にひひ……っ、沙羅ちゃん現実を見た方がいいんじゃないかな?」
「わたしはいつでも現実を見ています!」
「だったら、輝くんがムチムチな身体が好きっていうのを認めた方がいいんじゃないかな?」
「ですから、お兄様は色香に騙される人ではありませんって」
「そうかな? でも輝くんのソコは……」
倉科さんがチラリと僕のある部分を見やる。
「ちょっ、何処を見ているんですか!?」
隠そうにも二人に腕を掴まれているので、隠すことが出来ない。
「ほら、ある部分が随分と元気な感じに」
「止めて! わざわざ声に出さないで!」
間違ってないけど、あえて声に出さないで欲しい。ある部分が妙に元気になっている
けど、それを報告しなくてもいいじゃないか。
「ほぅら、こんな風に元気になってるんだよ?」
「はうわっ!?」
ツンツンと僕のある部分を指で突く。
「お兄様! な、なんてことをしているんですか!?」
「そんなこと言われても……」
これは一種の生理現象だし、抑えることなんてなかなか出来るわけではない。それに
これは、二人が胸を押しつけてくるのが悪いんじゃないか。
そんなことをされなかったら、一部分が元気になることなんてなかったのに。
「お兄様。他の女に興奮するなんて許しませんよ」
沙羅が強めに胸を腕に押しつけてくる。
「さ、沙羅!?」
「あー、ダメだよ。輝くんは私の身体だけに興奮していればいいのよ」
倉科さんも負けじと強めに胸を押しつけてくる。
だ、だから二人とも胸を押しつけるのは止めてって。そんなに、ふにふにと胸を押し
つけられると僕のある部分が更に――
何でこんなことになっているのだろうか? 初めはデートの総括として沙羅に正座を
させられていたのに、気が付くと二人に胸を押しつけられている。
ある意味では幸せな気分かもしれないけど、最終的な展開を考えると不幸な気分になる。
どうせ沙羅に正座を強要させられて、教育という名の暴力を受けるのだから。
そして、その後に倉科さんに慰められる。
まさしく飴と鞭を使い分けている感じだよ。
「わたしの身体の方がいいんです!」
「私の身体だよ」
それでも――今回のデートで、どっちがよかったのか答えを出さなくて済んでいる
からこれはこれでいいの、かな?
とりあえず、どっちの身体がいいのかというのは……どっちも素敵だとしか言いようがないね。