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1-3 友達の家で・・・

 洋介の自宅に逃げ込み、あの二人から逃げられると思っていたのに……

「あ、お兄様。遅かったですね」

「輝くん。答えを保留にしたまま逃げるのは、どうかと思うわよ」

「う、嘘でしょ……?」

 何で二人が洋介の家に居るんだ? 僕がここに来ると確定してるわけではなかったは

ずなのに、何で当たり前のように洋介の家に来ているんだよ!

「お兄様の思考なんて簡単に読めます」

「私はよく分からないけど、沙羅ちゃんが自信満々だったからね」

「お兄様への愛の力です!」

 愛の力かどうかは知らないけど、現実として追いつかれてしまったわけで……

 洋介には悪いけど、このまままた逃げた方がいいのかもしれない。

「飲み物は適当にジュースとかでいいよな?」

「洋介……」

 せっかく僕が逃げ出そうと思ってたのに、何を呑気に飲み物を持ってきているんだよ。

 そんなことされたら、逃げにくいだろ。

「お兄様。とりあえず座りませんか?」

 笑顔でニッコリと微笑む沙羅。だけど僕には分かる。表情は笑顔でも心の中では一切

笑っていないということを。

 本当なら今すぐにでも僕に怒りをぶつけたい。そんなことを考えているに違いないな。

 場所が場所だから怒ることが出来ない。沙羅は外ではかなりネコを被っているからね。

 そういう意味で言えば、むしろ洋介の自宅に居座る方が安全なの、かな?

「ねぇ、輝くん。彼は私のこと、見えたりはしないのよね?」

 僕の服を引っ張りながら倉科さんが問いかけてくる。

「見えないはずですよ」

 洋介は霊感がないし、恐らく倉科さんを見ることは出来ないだろう。

「そっか……それは残念だね」

「え……?」

「だって、輝くんの友達なら一緒に会話とかしてみたかったんだけどね」

「倉科さん……」

「そうしたら、輝くんの恥ずかしい過去とか聞くことが出来たのに」

 ――よかった。洋介に霊感がなくて本当によかった。もし霊感があって、倉科さんと

会話をすることが出来たら、アイツのことだから余計なことを言ってしまうだろう。

 だから本当に洋介に霊感がなくてよかったと思うよ。

「どうしたんだ? なんだか安心したような顔をしてるが」

「実際に安心してるんだよ。お前に霊感がなくてよかったなと」

「はぁ? 何を言っているんだ? もしかして俺の部屋に幽霊でもいるのか?」

「さぁ……ね」

 倉科さんが居るけど、それを洋介に言っても意味はないだろう。見ることも感じるこ

とも出来ないのなら、何も知らない方がいい。そっちの方が余計な心配をかけなくて済むからね。

「……まぁいいけど。それよりもあんなに息を切らして、なにかあったのか?」

 当然の質問。家にあげる前に聞かれなかっただけでも感謝するべきなのだろう。

 と、言っても結局はこの二人から逃げられなかったから意味がないんだけどね。

「あったけど、もう終わったからいいや」

「なんだそれ」

 呆れつつも、それ以上何も聞いてこない洋介。コイツのこういうところは何気に好き

だったりする。コイツと友達でよかったと思うよ。ある一つのことを除いては――

「それよりもな輝。俺の話しを聞いてくれよ」

「何だ?」

「俺の可愛い、可愛い妹の紫のことなんだけどさ――」

 ある一つのこと。それは洋介は超、がつくほどのシスコンだということだ。

 コイツが妹の話しを始めると一時間や二時間は平気で消費させられる。写真を取り出

してあの時の妹が――この時の台詞がさ――などと、思い出を語っていくのだ。

 これがなければ最高の友達なのだろうけど、洋介のシスコンという病気は治らないらしい。

 しかも、僕の前で話すのならまだいいけど、沙羅の前で妹の話しをし出すと沙羅の奴

が妙にテンションがあがっていくんだよね。

「ふふ……洋介さんと紫ちゃんは本当に仲のいい兄妹ですね♪」

「まぁな! 俺と紫は最高の兄妹だよ! 紫、愛しているぞー!」

 人前で堂々と実の妹に対しての愛を語る洋介。あまりの光景に倉科さんが固まってし

まっている。

「……」

「倉科さん、大丈夫ですか……?」

 ボソっと小さな声で倉科さんに問いかける。僕の声を聞いた瞬間、ハッとした顔を浮かべ――

「…………私も負けてられないわね。もっと輝くんと……」

 等と、的外れなことを呟いた。

「……はぁ」

 洋介のシスコントークに沙羅の相槌。これはもう三時間くらいは話しが終わらないだろうな。

 部屋の時計に目をやり、話しが終わるであろう時間を計算してガックリと肩を落とす。

 洋介の家に逃げ込んだのは最悪の一手だったかもしれないな。

   

「いや、ほんとあの時の紫がさ――」

「まぁ、それはそれは微笑ましいですね♪」

 はい。もう話し初めてから三時間も経過してますよ。それなのに一向に終わる気配がない。

 二人が話しで盛り上がっている間、僕と倉科さんはただひたすらポリポリと洋介が用

意してくれた煎餅を食べていた。正直、顎が疲れてしかたがない。

「輝くん……暇だね」

「そうですね。暇ですね」

 洋介がいる手前、あまり派手に会話をすることが出来ないので、ただ座って煎餅を食

べることしか出来ない。まったく、何でアイツは妹の話しなんかをし出したのだろうか。

「紫! 絶対に、お兄ちゃんと結婚しような!」

 拳を天に突き上げながら結婚の宣言をする洋介。この場に紫ちゃんがいなくてよかっ

たと思うよ。もしこの場に居たら絶対に面倒なことに――

「紫。紫。紫ー!」

「お兄ぃー! 大きな声で気持ちの悪いことを叫ばないでよ!」

「ぐはっ!?」

 洋介の背中にいい角度で紫ちゃんのドロップキックが入る。

「あまり大きな声で叫ばないでよ! お兄ぃの声、外まで聞こえてたんだからね!」

 洋介の紫ちゃんへの愛の言葉が家の外にまでか……僕が紫ちゃんの立場なら恥ずかし

さで死にたくなるね。

「ゆ、紫の愛情は相変わらずキツイな……」

 思いっきりドロップキックをくらったというのに、どこかいい笑顔で立ちあがる洋介。

 あれだけのダメージを受けて、平然としてられるのは凄いと思うよ。

「まったく、お兄ぃは気持ち悪いんだから……死なないと治らないのかな?」

 真顔でとんでもないことを言う紫ちゃん。まぁでも、洋介なら喜んで死んでくれるか

もしれないな。『紫がそう言うのならお兄ちゃんは喜んで死んでやろう』って……物凄

く潔いけど、実際はカッコ悪いよね。

「紫ちゃんは相変わらずだね……」

「――え? あ、あぁ! 輝さん!? 来ていたんですか? 来るのなら来るってちゃ

んと言ってくださいよ。そうしたらあたしも色々と準備が――」

 僕の姿を見た瞬間、急にもじもじとしだす紫ちゃん。別にそこまで準備をしてもらう

必要はないよ。ただ逃げてここに来ただけなんだから。

「いや、そこまでしてもらわなくてもいいよ」

「そ、そうですか? えへっ、えへへ……それにしても今日はいい天気ですね」

「そうだね」

 何でいきなり天気の話しをしだしたのだろうか? と、いうよりだいぶ日も落ちてき

たんだけどね。そろそろ自分の家に帰りたい。

「あ、あの……よかったらうちで晩御飯を食べていきませんか?」

「え、でも……」

 確かに、時間的にはそろそろお腹も空いてくるころだし、僕も何かを食べたいとは思

うけど、そこまでお世話になるのは悪い気がする。

「紫ちゃんが晩御飯を用意する必要はありませんよ。お兄様はわたしの手作りの晩御飯

を食べますので」

 沙羅が会話に割って入ってくる。

「でも、今から家に帰ってご飯を作ると遅い時間になるんじゃないの?」

「関係ありませんよ。ご飯の支度はすでに終わっていますので」

「うぐ……っ」

 いつの間に晩御飯の支度をしていたのだろうか? そんな余裕はどこにもなかったはずなのに。

「でもでも――」

「お兄様に紫ちゃんの手料理を食べさせるわけにはいきません」

 頑なに紫ちゃんの手料理を僕に食べさせないようにする沙羅。何で紫ちゃんの手料理

を食べさせてはもらえないのだろうか? 紫ちゃんの料理がマズイって話しは聞いたこ

とないんだけどね。洋介だって自慢げに『紫の料理は世界で一番美味い』って言ってい

るし、迷惑でなければって思うけどね。

「お兄様、帰りますよ」

「沙羅っ!?」

 僕の服を引っ張って家に帰ろうとする沙羅。

「あまり遅くまでいては、何をされるか分かりませんからね」

「別に何もされないだろ」

 まぁ、洋介のシスコントークは続けられるのだろうけどね。

「いいえ、きっと何かをされるはずです。それに渚さんが退屈そうにしてますよ」

「う……っ」

 確かにここに居座っては、倉科さんが退屈なだけか。それを考えると退散した方が……

「輝くんの好きにしていいわよ?」

「……はぁ。ごめん二人とも帰るわ」

「お、そうか」

「帰るんですか……」

 二人とも寂しそうな顔をしている。しかし、こっちにも寂しそうな顔をしている幽霊

がいるから……だから今回は、倉科さんを優先させてもらおう。

「お兄様♪ では、帰りましょうか」

「ああ。倉科さんも帰りましょう」

 洋介達には聞こえないような声で倉科さんに声をかける。

「分かったわ。帰りましょう」

 僕の手を取り、前へと進んでいく。瞬間、沙羅が鬼のような形相を浮かべた気がした

けど、余計なリアクションを取るわけにはいかないし、無視をしておこう。

「じゃあな洋介」

「ああ。また今度、紫の話しをしてやるよ」

「お兄ぃ! だからそんな話ししないでってば!

 えっと……輝さん、また今度暇な時にでも来てください。その時はちゃんと準備をしますので」

「はは、そんなことしなくてもいいのに」

「いいんです。だってあたし輝さんのこと――」

「お兄様。行きますよ」

「ああ。じゃ、二人ともまたな」


 二人に手を振りながら洋介の家を後にする。さて、自分の家に帰ってゆっくりとするかね。

 今日はなんだか無駄に疲れたから――って、あれ? 何でこんなにも疲れてたんだっけ?

 確か、洋介の無駄に長い話しを聞かされてそして……あぁ、元々は倉科さんと沙羅か

ら逃げていたんだった。

 それで身体の方も疲れていたのか。

「お兄様? 分かっていると思いますけど、帰ったら答えを聞かせていただきますよ」

「――あ、そうだった! まだ輝くんの答えを聞いていなかったんだった!」

 沙羅の奴、覚えていやがったか。倉科さんは普通に忘れていたというのに。

「答えてくれるまで、ご飯は食べさせませんからね♪」

「な――っ!?」

 食べ物を取り上げるのはズルいだろ! それだけはやってはいけないことだ!

「食べたいのでしたら、きちんとした答えを出してください。そうすれば食べさせてあげますよ」

 悲しいことに家の料理は沙羅が担当している。そんなわけで僕に何か料理を作るスキ

ルがあるわけもなく、ここはもう大人しく沙羅の言うことを聞かなければならない。


「お兄様、わたしの方が好きですよね?」

「輝くん。私の方だよね?」

「家に帰るまで待っててください」

 とにかく家に帰りつくまでに何か方法を考えなければならない。何か、この危機を

脱する究極の答えを――


 やっぱり土下座しかないかな? いや、それは最後の手段だ。それ以外で何かいい方

法を考えて……考え――つかねぇ! これは本気で土下座を覚悟しておいた方がよさそうだ。



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