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1-2 妹の暴走・・・

「まったくお兄様は……まったく!」

 怒りを露わにしながら僕に暴力……もとい説教をする沙羅。普段から、沙羅に怒られ

なれているから耐えられるが、それでも身体が痛いのには変わりはない。

 とにかく今は、沙羅の怒りが治まるのをじっと待つだけだ。

「輝くん、大丈夫? 痛いの痛いの飛んでけー♪」

「く、倉科さんっ!?」

 そんな小さな子供にするようなことをしても意味は……

「お、お兄様……」

 間違った方向での意味はあったのかもしれない。沙羅が叩いた場所を倉科さんが撫で

ることにより、沙羅の怒りのボルテージがあがっていっている。

「つい先ほど説教をしたばかりだと言うのに……」

 再び身体をプルプルと震わせながら鋭い眼差しを僕に向ける。

「さ、沙羅……少し落ち着いて欲しい」

 僕は何一つ悪いことをしていない。今のこの状況は、様々な誤解が生んだ出来ごとに

すぎないんだ! それに僕はこうしてきちんと沙羅に謝っているだろ? だから、その

振りあげた拳を降ろして欲しい。

「お兄様には一度、きちんとした教育が必要なようですね」

「何を言って……」

 きちんとした教育って何だよ!? そしてお願いだから、その拳を僕に振りおろそう

としないでくれ!

「沙羅ちゃん。あまり怒ってると顔に皺が寄っちゃうわよ?」

「誰のせいで怒っていると思っているんですか! あなたが居なければ、わたしだって

お兄様を怒ろうとは思いませんよ!」

「私が居るかどうかは関係ないんじゃないかしら?」

「――っ、関係あります! 人であれ幽霊であれ、お兄様に近づく女は全部悪なんです!」

「いくらなんでも横暴じゃないかしら?」

「横暴なんかじゃありません! お兄様に近づく害虫を駆除するのは昔からわたしの

役目なんです! ええ、そうです。害虫は駆除しないといけないんです」

「害虫は言い過ぎでしょ。せめて、綺麗で可憐なお姉さんと言って欲しいわ」

「何をふざけたことを言っているのですか? 綺麗で可憐等という言葉は、わたしに

相応しい言葉であって、あなたなんかには似合いませんよ」

 ぎゃーぎゃーと、口喧嘩を始める二人。まぁ、口喧嘩と言っても、沙羅が一方的に文

句を言って、倉科さんが受け流しているような感じだけどね。

 だからといってこのまま眺めているわけにはいかない。二人の喧嘩を止めなければ……

「もしかして沙羅ちゃん。私に嫉妬してる?」

「はぁ!? そんなのするはずがないじゃないですか!」

「そうだよね。愛しのお兄ちゃんを取られて嫉妬してるんだよね♪」

 倉科さんも煽りだしたし、いい加減に止めないと流血沙汰になりかねない。

 嫌だけど……死ぬほど嫌だけど、止めるしかないよね?

「……はぁ」

 覚悟を決めて二人の間に立つ。

「二人共、そこまで。喧嘩なんかしても意味がないだろ。まずは落ち着いて話しをしようよ」

「ですが、お兄様……」

「沙羅は聞き分けのいい子だろ? それに倉科さんも無駄に沙羅を煽らないで下さい」

 どうせ倉科さんのことだから、面白がって沙羅を煽ってたんだろうけど。

「お兄様がそう言うのでしたら……」

「まぁ私はどうでもいいんだけどね♪」

 そう言って僕に抱きついてくる倉科さん。

「ちょ――っ、倉科さん!?」

「あ、ああ、あなたはまた! ゆ、許せません! あなただけは許せません!」

 僕の介入も空しく再び口喧嘩が始まる。結局、僕には二人を止めることなんて出来ないのだろうか。

 二人を止めるのを諦めて、口喧嘩を見守る。たぶん大丈夫。二人共節度を守って喧嘩

をするよね? 大丈夫……だよな?

「まったく、あなたはわたしの話しを聞いているのですか!?」

「ふふ、あー楽しい♪」

 沙羅とのやり取りを心の底から楽しんでいる様子の倉科さん。正直言って、楽しいの

はあなただけですからね。


「はぁ……なんとか落ち着くことが出来た……」

 あれから一時間くらい同じようなやり取りをして、ようやく収まった。単純に口喧嘩

をするのに疲れただけのような気がするけどね。

「倉科さん、あまり面倒なことはしないでくださいよ」

「あはは、ごめんね♪ こうやって、誰かと口喧嘩をするのが久しぶりだったから、つ

い嬉しくなっちゃってね」

 そうか……倉科さんは死んでしまっているから、さっきみたいに誰かと口喧嘩をする

ことも出来ないんだよな。霊感の強い僕や沙羅だから出来る行為。だからつい嬉しくて

沙羅を煽っていたのか。

「沙羅ちゃんも私の気持ちに気付いてくれてたから、一時間も付き合ってくれたんじゃないのかな?」

「沙羅が……?」

 確かにアイツは気の利く奴だけど、本当にそれだけの理由で一時間も付き合ったのだろうか?

 何故だか、僕には違う理由もあるような気がする。

「うんうん、あんな子が私の妹になるなんて嬉しいわね♪」

「は? 妹……?」

「そうよ。だって私と輝くんが正式に結婚をしたら、沙羅ちゃんは義妹ってことになるんでしょ?」

「や、まぁ……そうなんですけど」

 僕は一度でも倉科さんと結婚をするとか言いましたっけ? 僕の記憶では一切ないんですけど。

「わたしも結婚なんて認めてませんけど?」

「沙羅……」

 部屋着に着替えてリビングへと戻ってきた沙羅。と、言っても沙羅の部屋着はヒラヒラ

としたものが多く、僕から見ると窮屈そうに感じる。

 それでも沙羅は、そういう服を好んで着ている。

「おっ、沙羅ちゃんの服可愛いわね」

「あなたの服もそれなりに可愛いですよ。渚さん」

 いつの間にか、沙羅が倉科さんのことを名前で呼んでいる。さっきの喧嘩である程度

打ち解けることが出来たみたいだね。

 多少、言葉にトゲを感じはするけど、二人が仲良くしてくれるのは嬉しい。

 成り行きだけど、これから先一緒にいることが多くなると思うし。

「えへへ、凄いでしょ? これ私のお気に入りの格好なんだ。白いワンピースっていう

のが純真な私に合っていて素敵じゃない?」

 純真かどうかは知らないけど、白いワンピースは確かに似合っている。

「ふふ……食い入るように見て、もしかして惚れちゃった?」

「お兄様っ!?」

「……そんなことないですから」

 だから沙羅もそんな恐ろしい顔で僕を見ないでくれよ。

「あらら、残念。輝くんが惚れてくれたのなら、お姉さんが少しサービスをしてあげよ

うかと思ったんだけどね……」

 チラリと裾を掴み太ももを露わにする。

「お兄様っ!」

 僕がジックリと観察するよりも早く沙羅が僕の前に立つ。

「お兄様! 渚さんのを見るより、わたしのを見てください!」

 倉科さんに対抗するようにスカートの裾を捲り、下着が見えそうなギリギリの位置ま

で持ってくる。

「さ、沙羅っ!?」

「ほら、わたしの方が彼女よりも若いですし、何より肌に瑞々しさがあります!」

 お、お前は何バカなことを言っているんだ!? 若いとか瑞々しいとかそういう問題

じゃなくてだな――

「ふ……っ、沙羅ちゃんは何も分かっていないわね。確かに沙羅ちゃんの方が若いけど、

私には若さでは補えない年上の魅力というものがあるのよ」

「でも、お兄様は若い方が好きなはずです!」

「そうかしら? それは沙羅ちゃんの勘違いなんじゃないの?」

「いいえ、事実です!」

 再び、口喧嘩が始まる。それにしてもこの二人、よく飽きもせず口喧嘩が出来るな。

「そこまで言うのなら輝くんに決めてもらいましょうか?」

「ええ、いいですよ! お兄様ならわたしを選んでくれるはずですから!」

「え、ちょ――っ」

 何で、そこで僕に答えを委ねるような流れになるの!? 倉科さんか沙羅のどちらか

を選ぶだなんて究極の二択、答えられるわけがないじゃないか。

「さ、輝くん。私と沙羅ちゃん。どっちがいいか答えてようだい」

「お兄様。分かってますよね?」

 二人からかけられるプレッシャー。どちらかを選ばないといけない究極の選択。

「さぁ!」「さあ!」

「え、えっと……」

 冷や汗がだらだらと背中を流れる。に、逃げたい。とにかく物凄く逃げ出したい。

 だけど、二人が僕を逃がしてくれるはずもなく……

「ふ、二人ともいいと思うよ……?」

 僕が出せる精一杯の答え。これが二人を比べなくて済む、究極の答えだと思う。

「輝くん……」

「な、なんでしょうか?」

「お兄様。わたし達が、そんなくだらない答えで納得すると思いますか? きちんと、

どちらの方がいいか答えてください」

「そうよ。輝くんが単純にいいって思った方を言えばいいだけなのよ」

 その単純が物凄く難しいんですよ。

 二人のことだから、選ばれなかった方は普通に僕に八つ当たりをするんでしょ?

 そんな未来が分かりきっているのに、選ぶことなんて出来ないよ。

 これはもう、一か八か――

「逃げるしかない!」

 無理だとは思うが、それでも少しでも可能性があるのならば賭けてみるしかない。

 何処でもいいから、誰にも邪魔をされないような場所へと――

「あ、お兄様っ! 何処に行くのですか!?」

「輝くん! 答えを出さずに逃げるのは男としてダメでしょ!」

「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」

 二人に謝りながら必死に逃げだす。誰か、誰か僕を助けて下さい!

 

 若干、涙目になりながらある人物の家へと逃げ込む。

「洋介! 洋介! 助けてくれ!」

 友達の洋介の家の玄関を何度も叩きながら、助けを呼ぶ。今の僕が頼れるのはコイツ

しかいないから。コイツならきっと僕を――

「そんなに慌ててどうかしたのか? また沙羅ちゃんの制裁を受けているのか?」

「そんなんじゃない! いいから早く僕を匿ってくれ!」

 あの二人が来る前に僕を匿ってくれ!

 早く、早く匿ってくれないとあの二人が来て――

「……? よくわからんが、まぁとりあえずあがれよ」

「ああ、助かるよ」


 まだ二人は追いついていないみたいだね。これで洋介の家に隠れれば助かるんだ!

 あの悪魔から逃れられるんだ!


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