1-12 幽霊に告白をして・・・
前回、倉科さんに縛られ意味の分からないお仕置きのような拷問のようなモノを受け、
最終的には唇にキスまで…………
そんなことまでされて今後、本当にどんな顔で倉科さんに会えばいいのか分からない。
そう思っていたんだけどね――
「やっほー♪ 辛気臭い顔をしてるけど、何かあったのかな?」
「倉科さん……」
以前と変わらない態度で――同じような空気感で僕に接してくる。
「…………」
「顔が真っ赤だよ? もしかして風邪でも引いたのかな?」
「――――っ!?」
僕を心配してか、顔を近づけて熱を測ろうとしてくる倉科さん。
ちょっ、そんな急に顔を近づけてこないでくださいよ! ただでさえ顔を合わせるの
も恥ずかしいのに、こんなにも近づかれたら僕は――
「わわっ、どんどん顔が赤くなってきてるよ!? ほんとに大丈夫?」
「だ、大丈夫です! 大丈夫ですから!」
風邪なんて引いてませんから、顔を近づけるのは止めてください! ほんと、さっき
からドキドキして拙いんですってば!
「ん~もしかして輝くん照れてる?」
「んな――っ!?」
「風邪を引いてるのかと思ったけど、違うのなら照れてるのかなって」
「あ、いや……その――」
実際照れてますけど! わざわざそれを指摘しなくてもいいじゃないですか。
元々はといえば、倉科さんが僕にキスをしたのがいけないんですよ。あんなことを
されなければ僕は――
「にひひっ♪ ねぇ輝くん……」
「な、なんでしょうか……?」
倉科さんが物凄くいい笑顔で僕を見てくる。相変わらず倉科さんのこの笑顔はいい
予感がしない。どうせまた変なことを企んでいるんだろうね。
「私とのキスを思い出しているのかな?」
「ち、違っ!? 違いますよ!」
あの柔らかそうな唇の感触なんて思い出してなんかいませんよ! もう一度、あの
ぷっくりとした唇に触れたいだなんて思ってませんよ。
「……キス、する?」
「えっ!?」
「ふふっ♪ 冗談だよ。輝くんにキスをするのはいいけど、私はこうしたいかなっ!」
「あ、ちょ――っ!?」
倉科さんに服を引っ張られて、無理やり横に座ってくる。
「色々と触れ合うのもいいけど、こうして側にいるだけっていうのもいいよね♪」
「……そうですね。てか、今日の倉科さん、やけに積極的ですね」
普段もある程度は積極的な感じではあったけど、今日は特に酷い。
「私が積極的に動いたらおかしいかな?」
「あ、いや……おかしいとかじゃなくてですね――」
そこまで積極的に動かれるとですね、僕自身が色々と大変になってしまうわけで……
理性を抑えるのも意外と大変だったりするんですよ?
「じゃ、別にいいよね♪」
肩に頭を乗せ、寄りかかってくる。ふわりと感じる倉科さんの甘い香りが僕の鼻腔をくすぐる。
ほんと、こういうのは止めて欲しい。ただでさえ今日の僕はおかしいのに、倉科さん
にここまで積極的に動かれてしまったら……
「ふふ、もしかして私の身体を触りたいのかな?」
「うぐ……っ」
「触ってもいいんだよ? 私の身体に触れる人なんてなかなかいないんだかね」
それは僕の霊感が強いから触れることが出来るという意味なのか、それとも倉科さん
が僕になら触れられてもいいと思っているからなのか。
今までの言動や行動を見れば、後者なんだろうけど……って、ダメだ!
僕自身、何も答えを出していないのに触れるのは間違っている。触れるのは僕が明確な
答えを出したあとでしょ。
「ほんと、輝くんってヘタレっていうか、意気地なしだよね?」
「……否定はしませんよ」
一応、事実ですからね。元々、倉科さんとこうしているのも僕が何も答えを出さなか
ったからなんだろうね。
いや、初めは一応断ったんだけど結局は流されるままに今の関係になってしまった。
触れ合い会話をすることが出来る友達としての関係――僕としてはそのはずだったん
だけどね、倉科さんは初めから言ってたように僕を好きな人として見ていた。
僕に好きになってもらえるように色々なアプローチをしてきた。
まぁ、そのほとんどが間違ったアプローチのような気もしたけどね。それでも諦めず
にアプローチをしてくる。そして、それは今この瞬間も――
「ヘタレな輝くんのために私から触ってあげましょう」
「あ、ちょ――っ!?」
過激……とまではいかなくても、それなりに厳しいスキンシップ。
狙ってなのか天然なのか分からないけど、ほんとに困る。
「うん……やっぱり誰かに触れられるっていうのはいいね」
倉科さんが幽霊になって初めて触れることのできた相手。それが僕で、倉科さんは
そんな僕と恋人になりたいと言った。
沙羅はそれについてはかなり拒否反応を示しているが、まぁ好意をもたれるのは
悪い気はしない。
はぁ……何で僕はこんなことを考えているんだろうね? あまり人のせいにはしたく
ないけど、倉科さんのせいだよね?
僕の生活に勝手に割り込んできて、一方的に好意を伝えて。
色々な変化を僕に与えてくれた。だから僕は色々と考えてしまう。そろそろ僕は何か
明確な答えを出さないといけないのかもしれないね。
ただ単に周囲の状況や倉科さんに甘えてばかりはダメだよね。
僕が倉科さんに何を思い、何をして欲しいのか。それをきちんと考えて僕の言葉で伝えないといけない。
「……輝くん? どうかしたの?」
心配そうに僕を見つめてくる倉科さん。そんな倉科さんの瞳をきちんと見据えて――
「倉科さん。一週間くれませんか? その間に一生懸命考えて自分なりの答えを出しますから」
「輝くん……」
「甘えてばかりじゃいけませんからね。僕なりにきちんと誠意を見せたいんです」
こんな決意をしようと思った切っ掛けが倉科さんのキスだったというのは、かなり情
けない話だけど、この際そんなことはどうでもいい。
僕を好きだと、恋人になりたいと初めから言ってくれている倉科さんの想いを蔑ろに
しないためにもきちんと答えを出そう。
「……分かったよ。輝くんが答えを出すまで待っててあげる」
「ありがとうございます」
足りない頭を使って思考を巡らせる。自分の気持ちが何処にあるのか?
自分がどうしたいのか? どういう結果を望んでいるのかを。
一週間後――
若干、考えすぎて知恵熱が出そうになったけど答えを出す時がきた。
「輝くんの答えを聞かせてもらおかな」
「はい」
「ほんとは別にここまで早く答えを急かしてなんかなかったんだけどね。このまま皆で
仲良くしてるのもいいと思ってたんだけどね。だけど、輝くんが答えを出してくれる
というのなら私はそれを聞かないとね」
「僕は恋とか恋愛とかよく分かりませんけど、それでも倉科さんあなたと一緒に居たい
と思います」
一週間ジックリと考えても詳しいところまでは分からなかった。でも、それでも倉科
さんと一緒に居ると楽しいし、倉科さんが何処かにいくなんて考えたくはない。
「たぶん僕は倉科さんが好き、なんだと思います」
きっとそうなんだろうね。この気持ちが好きという感覚なら。
「輝くん……今更だけど、私でいいのかな?」
「え……?」
「自分で言うのもあれだけど、私は幽霊だから年を取らないんだよ? それにほとんど
の人が私を感知することが出来ないし、子供だって――」
「人の人生の在り方なんて色々ですよ。人に見えないから不幸ではないし、子供が出来
ないから不幸とは限らないんじゃないんですか?」
他人にどう映ろうが本人たちが幸せならそれで――
「バカ……だね。輝くんはほんと、バカだよ」
「な――っ!? 何でですか!?」
「女の子を泣かしちゃうんだからバカだよ……」
いつの間にか倉科さんの頬を涙が伝っていた。
「女の子を泣かしちゃうような人には罰が必要だよね」
「罰ですか……」
この台詞、何処かで聞いたことがあるような……
「罰として、輝くんには私の恋人になってもらいます」
あぁ、やっぱりだ。この台詞は初めて会ったあの時の――
「罰なら仕方がないですよね。倉科さん、あなたの恋人になりましょう」
「ふふ……♪ 後悔しても遅いんだからね」
「後悔なんてしませんよ……たぶん」
「む~、そこは言い切って欲しかったかも」
「はは、すいません」
だって、これを沙羅に言ったらボコボコにされそうだからね。そういう意味では後悔
するかもしれない。だけど、まぁそれはそれで僕達らしいのかもしれないね。
幽霊と霊感の強い人間。相容れることのない存在の僕達、この先に今までと変わらな
い穏やかな日常が在り続けることを僕は願うよ。
好きな人と共にある日常を……
やや強引な感じがしますが、これにて完結です。
投げっぱなしなモノもありますが、気にしないでください。