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1-10 悪霊退散・・・

「~♪ ふふ~ふ♪ ふ~ん♪」

 上機嫌に鼻歌を歌いながら、ペタペタと何か壁に貼り付けている沙羅。

「沙羅。一体何を貼り付けてるんだ?」

 別に壁に物を貼るなとは言わない。だけど、いくらなんでも貼り過ぎだと思う。

 遠くから見たら何か絵でも出来あがっているのかと思ってしまうくらい壁に何かを

貼り付けている。

「これですか? これはお札ですよ」

 ニッコリと頬笑みながら貼り付けているお札を見せてくれる。

「……悪霊退散?」

 何のために悪霊退散と書かれたお札を壁に貼りつけているのだろうか?

「そうです。わたしのお兄様を誑かそうとしている悪霊を退けようと思いまして♪」

 恐ろしいくらいの笑顔を浮かべる沙羅。僕を誑かそうとしている悪霊って、まさかと

は思うけど倉科さんのことなのかな?

 確かに倉科さんは幽霊だけど、悪霊ってわけじゃない。そんな倉科さんに対してお札

を貼るのはどうかと思う。

「あのね沙羅。いくらなんでも、それはダメだよ」

「お兄様……お兄様はわたしよりも渚さんを選ぶというのですか?」

「またその話題かよ……」

 いい加減、その話題は止めて欲しい。僕に答えを出すことなんて出来ないし、答えを

出さないなら出さないで、すぐに折檻をされてしまうし何一ついいことがない。

「これはとても重要なことなんですよ。お兄様はわたしだけのモノであればいいのです。

別に渚さんが嫌いというわけではないですが、恋にルールはないのですよ」

「いや、最低限のルールは守るべきだと思うよ」

 ルールを守らなかったら、最悪のことが起きてしまう可能性があるじゃないか。

 特に沙羅や倉科さんに限っては、その可能性が高い。だからルールは必要だと思う。

「で、でも――渚さんには負けたくはないんです!」

「その心意気は可愛いけど、その程度じゃ私を止めることなんて出来ないわよ?」

「「え……?」」

 沙羅のお札によって部屋に入って来ることが出来ないと思っていた倉科さんが普通に

入ってきた。

「な、渚さん……どうして?」

「お札で入ってこれないようにしようとする発想はいいんだけど、沙羅ちゃんは少し

相手のことを下に見過ぎね。この程度、恋する乙女の前には障害ですらないわよ」

 どこぞの悪役が言いそうな台詞。そんな台詞と共に登場してくる。

「あ、あり得ないですよ……」

「ふふっ♪ あり得ないって思っても現実からは目を背けたらダメよ♪」

 死んだ現実から目を背けて成仏しようとしてない倉科さんが言っても、あまり説得力

はないような気がする。まぁ、そんなことを思ってても口には出さないけどね。

「うぐぐ……せっかくお兄様と二人っきりでイチャイチャ出来ると思ったのに……」

「ふふん♪ 甘いわよん、沙羅ちゃん。私を排除したいのならもっと強力なモノを用意

しないと意味がないわよ」

「……今度は強力なモノを用意します」

「期待してるわよ♪ まぁでも、それだけだと私が不利だから私も何か用意しようかしら?」

「……待っています」

 なんつー会話をしているのだろうか? 互いを排除するための話をしているだなんて。

 会話している二人はいいかもしれないけど、それを近くで聞かされている身としては

かなり肩身が狭く感じる。

「さて、未来の義妹と楽しい会話をするのもいいけど、そろそろ旦那様を構ってあげないとね」

「誰が旦那ですか!」

「――まだわたしは負けを認めてませんよ!」

「間髪いれずに突っ込まなくてもいいじゃない」

「すぐにツッコミますよ。だってお兄様はわたしの旦那様なのですから」

「いや、沙羅も何を言ってるんだよ」

 僕はどっちの旦那でもないからね。何で二人とも勝手に僕を旦那にしようとしてるんだよ?

「あら、お兄様は知らないのですか? わたしとお兄様はもうすでに夫婦の関係なんですよ」

「な、なんだってー!?」

 ――って、いやいやいや、何それ。僕と沙羅が婚姻関係にあるだなんて初めて聞いた

んだけど。つーか、兄妹は夫婦にはなれないでしょ。

「そ、そんな――っ!? 輝くんは私というお嫁さんがいながら沙羅ちゃんと夫婦関係

にあるだなんて、私とのことは遊びだったの!?」

「ちょっ、倉科さん。ややこしくなりますから黙っててください」

 今は先に沙羅の言葉について説明を求めないといけないから。

「何で!? 私との間に生まれた子供はどうするの!?」

「マジで黙ってて下さいよ! お願いしますから」

 いくら冗談でも面倒なんだから止めてくださいよ。あなたが変な冗談を言うと沙羅が

謎の対抗心を燃やしてくるんだから。

「お兄様。わたしとの間に子供を作っておきながら渚さんとも作るだなんて……」

 およよ、と泣き崩れる沙羅。

 ほーら、沙羅が訳の分からない対抗心を燃やしだしたでしょ。

「沙羅。そんなボケはいいから、さっきのことについて説明をして欲しいんだけど」

「……何のことでしょうか?」

「何のことって、さっき言った僕と沙羅が婚姻関係にあるって話だよ!」

 いつの間にそんな間柄になったんだよ!?

「それはわたしは生まれた時からですよ♪」

 極上の笑みを浮かべて返答をしてくる。なんだよ、生まれた時からって。

「お兄様は疑ってますが、きちんと証拠があるんですよ」

「証拠が?」

「はい。確固たる証拠がありますよ。見ますか?」

「う、うん」

「分かりました。では少々お待ち下さいね」

 ガサゴソと机の引き出しを探し始める。一体、どんな証拠を持ち出すんだろうか?

 僕自身、沙羅と結婚をするようなことをしてないはずだけどね。

「あっ、ありました♪ これですよお兄様。これがわたしとお兄様が夫婦関係にあると

いう証拠です♪」

 ピラッ、と目の前に差し出された一枚の紙。その紙を見ると衝撃的なことが書かれていた。

「……婚姻届?」

「はい。この紙にきちんと書かれてますよね? わたしとお兄様の名前が。そしてサインが」

「確かにそうだけど……」

 これって完全に沙羅が一人でやったことだよね? 僕はこんなモノを書いた記憶はな

いし、字も僕の字ではない。そして印鑑は同じ家族だから普通にあるわけだし……偽装

もいいところだ。

 それに婚姻届があるといっても、市役所に出してないから意味がないじゃないか。

「ふふふ……どうですかお兄様。この完璧な証拠は」

「それ意味ないから」

「そうだよー。その程度なら私だって持ってるもん」

 懐から同じように婚姻届を出してくる倉科さん。何で倉科さんまで婚姻届を持ってい

るんですか? しかも沙羅と同じようにきちんと書かれてるし。

「むむむ……さすが渚さん。これくらいは普通に持ってましたか。ですがわたしにはお

兄様と過ごしてきた時間というものがあります。俗に言う事実婚というやつですね」

 むん、っと胸を張る沙羅。だからそういうのは兄妹には適用されないって。

「さすが沙羅ちゃん……そこを突いてくるとはやるわね」

「負けを認めてもいいんですよ?」

「それだけはないわ。私にもまだまだ隠し玉はあるんだから」

「ほぉ。受けて立ちましょう」

 勝手に対決モードに移行する二人。ほんと、この二人は僕を置いて勝手に話を進める

のが好きだよね。色々とツッコミが追いつかないよ。

「実は私……つい最近、輝くんと一緒にお風呂に入りました」

「な――っ!? そ、それは本当なのですか?」

「ええ。本当のことよ。ジックリと輝くんの裸を見ちゃった♪」

 顔を赤くして照れる倉科さん。

 え、ちょ……待って。倉科さんと一緒にお風呂に入った記憶なんて欠片もないんだけど。

「輝くんのってかなり逞しいから、ちょっと興奮しちゃった♪」

 えぇっ!? あなたは僕の何を見てるんですか!?

「お、おお……お兄様? 今の話は本当ですか?」

「い、いや……そんなことは――」

「輝くん。照れなくてもいいんだよ? 私はきっちりと見たんだから」

 いつだ? いつの出来事なんだ……? 本当に思いだすことが出来ない。

「お兄様……わたしとはお風呂に入ってくれないのに、渚さんとは入ったんですか……」

 ゴゴゴと音が聞こえてきそうなほどの、怖い顔を浮かべる沙羅。

 ま、拙いね……何度この台詞を言ったか分からないけど、非常に拙いよ。

 いい加減、そろそろ死んでしまうんじゃないだろうか?

「お兄様。わたしは非常にガッカリしています。分かりますか?」

「……なんとなくね」

 分かりたくはないけど、理解させられてしまう。それくらいのプレッシャーを放っているんだ。

「うふふ、あははは……」

「さ、沙羅様?」

「お兄様♪」

 ぎゃーっ!


「……まぁ、私は幽霊だから無理やり入ったんだけどね――って、聞こえてないか。

 それにしても、ほんと沙羅ちゃんは輝くんをお仕置きするのが好きだね。もしかして

輝くんって、そっち系の趣味でもあるのかな? だったら私も考えないといけないんだ

けど……まぁ、それはまた今度にしましょかね。今は、沙羅ちゃんにお仕置きをされて

いる輝くんをゆっくりと観賞しましょうかね♪」


 気が付くと僕は自分の部屋のベッドで眠っていた。何で眠っているのかはよく覚えて

いない。ただ、思いだそうとすると頭がズキズキと痛み始めるんだ。

 何かよくないことがあった。それだけは事実なんだろうね。

 だけど、一つだけ言えることがある。それは――

「……とりあえず僕は生きている」

 それだけは間違えようのない現実だ。


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