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一話 幽霊に告白されて・・・

 僕の家系は昔から霊感が強かったらしい。そしてその家系の人間である僕も同じよう

に霊感が強かった。だから幽霊なんて昔から頻繁に目にしてきたわけで――

 今更、幽霊を見ても驚きはしないし、恐怖に怯えることもない。

「えーと、適当にお経でも唱えれば成仏するかな」

「えぇっ!? 私の存在を感知してくれたのは嬉しいけど、いきなり成仏させようとす

るのはどうなの!?」

「お経が書いてある紙、何処にやったかな?」

「無視っ!? ねぇ! 無視してるの!? 無視するなんて人としてどうなの!?」

 耳元でわーわーと、叫ぶ幽霊。無視だなんて、とんでもない。僕は善意で目の前の幽

霊を成仏させてあげようとしているのに。

「……何か僕に用でもあるんですか?」

 面倒だけど……凄く面倒だけど、一応話しくらいは聞いてあげよう。

 僕個人の意見としては、今すぐにでも成仏させたいんだけどね。あぁ、本当に面倒だよ。

「なんか、物凄く面倒な奴って思われてる気がする……」

「……気のせいですよ」

「ならいいけど」

「それで、あなたは何のためにこの家に来たんですか?」

 もしかして、何の目的もなくこの家に来たとかじゃないだろうね。幽霊なんだから、

それなりの理由があってこの場所に来ているんでしょ?

「え? もしかして美少女幽霊の私のことが気になっちゃう感じかな?」

「よし。お経を探そう」

 この人は特に目的もなさそうだ。こういう手合いは、さっさと成仏させるに限る。

「そ、そんなこと言わないでぇ! 私が悪かったから成仏させようとしないで!」

 部屋から出て行こうとする僕の足にしがみついてくる彼女。

 そんな風に足にしがみつかれると邪魔なんですけど。

「ちゃんと話すから! ちゃんと理由を話すから!」

「……分かりました。では、理由を話して下さい」

 足を止め、彼女の言葉を待つ。

「あのね、私恋をしたいのです!」

「……そういうのは天国でやってください」

 そもそも恋をしたいというのと、あなたがここに居るのは関係ないですよね?  

 死んだ人同士で、天国で楽しく恋でもしていればいいじゃないですか。

「違うの! 私はこっちの世界で恋をしたいの!」

「恋をしたいと言っても、あなたもうすでに死んでいるじゃないですか」

 死んで幽霊になってしまった以上、この世界で恋をすることは出来ないだろう。

 可能性があるとすれば、同じくまだこの世界に残っている幽霊とだけど……

「――だから私は、あなたに会いに来たの!」

「何でそこで僕が出てくるんですか?」

 ある程度霊感が強いといっても、彼女に恋をさせるような能力は持っていない。

 正直、頼る相手を間違えていると思う。僕に出来るのは、こうして会話をしてあげる

ことくらいなのだから。

「だって私は、あなたと恋をしたいのだから!」

 ババーンと、まるで効果音でも付きそうな勢いで、とんでもないことを言う彼女。

 僕と恋をしたい? この幽霊は一体、なにを馬鹿なことを言っているのだろうか。

「お断りします」

「な、何で!? そんなすぐに拒否しなくてもいいじゃない! 自慢じゃないけど、私

なかなかに可愛いんだよ?」

「そういう問題じゃないでしょ……」

 可愛いとか、可愛くないとかそういう問題ではなくて、僕は生きていてあなたは死ん

でいるんですよ。それで、どうやって恋をしろと言うのだろうか?

「ぶー、問題ないはずだよ! だって、あなたはここら辺で一番霊感が強いんだから」

「それはそうかもしれませんけど……」

「こうして私と会話も出来てるし、何より触れることだって出来るんだよ!」

 僕の手を取り、自身の身体に触れさせる。

「な、何をして――っ!?」

「ね……私の身体の温もりが分かるでしょ? ここまで分かる人は、なかなかいないん

だよ? だからお願いだから私と――」

 半分、涙目になりながら僕にお願いをしてくる彼女。一体、何が彼女をここまでさせ

ているのだろうか? 僕には分からないし、知る必要もないだろう。

 ただ一つ分かること。それは『恋』というのが彼女をこの世界に留まらせている理由

なんだろうということだけだ。

「えっと、あなたは……」

「……渚だよ。倉科渚」

「じゃあ倉科さん。僕とあなたは今日が初対面なんですよ? それなのに、いきなり僕

と恋がしたい。だなんて言われても困ります」

 確かに、初対面で一目惚れというのは存在はするけど、倉科さんの場合は明らかに違う。

 一目惚れとは違う理由で僕と恋をしたがっている。

「あなたにとっては初対面かもsれないけど、私にとっては違うんだよ。ずっと前から

あなたの……輝くんのこと知っているんだよ」

 僕は知らなくて、倉科さんは知っている。それってもしかして軽いストーカーの類で

はないだろうか?

「ストーカーって言うのはちょっと失礼だわ。恋する乙女と言って欲しいわ」

「恋する乙女って……」

 恋をしていたら、何をやってもいいというのだろうか? それに倉科さんが乙女って

――実際の年齢は知らないが、見た目で判断しても乙女って年齢じゃないだろう。

 恋する女性ってところだろ。

「今、すっごい私をバカにしなかった?」

「そんなことはないですよ」

 死んでいる相手とはいえ、僕が年上の女性を馬鹿にすると思いますか?

「……目が笑ってる。やっぱり私をバカにしてたでしょ!」

「気のせいですってば」

 そこまで表情に出るほどバカにしてた覚えはない、かな?

「そんな年上のお姉さんを敬うことの出来ない輝くんは、罰として私と付き合ってもら

います!」

「罰としてって……それでいいんですか?」

 そんな理由で付き合うのもおかしいと思うけどね。

「罰でもなんでもいいの! 輝くんが私と付き合ってくれるならいいの!」

「ですから、いきなり付き合うというのは……」

「どうしてそこまで深く考えるのかな? 別にそんなに難しいことは言ってないんだけどな」

「難しいすぎるでしょ……」

 初めて合った人? といきなり付き合うのは難しいことでしょ。

「もう……ほんとに輝くんは我儘なんだから。そこまで言うのなら、まずはお友達から

初めましょ」

 我儘なのは、あなたの方ですけどね。まぁ、でも友達からなら僕も構わないかな。

「分かりました。まずは友達から始めましょう」

 幽霊が友達っていうのも悪くはないんじゃないかな。

「うん。まずはお友達からだね♪」

 友達から、というのでどうやら納得をしてくれたようだ。まずは相手のことを知るた

めに友達から始めるのが一番いいだろう。

「えへへ……よろしくね。輝くん!」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 差し出された手を握り握手をす――っ!?

「うわっ!?」

「ふ、ふ、ふ……引っか掛かったわね」

 握手をした瞬間、倉科さんに引っ張られ彼女の方へと倒れ込んでしまう。つーか、僕

は倉科さんの何に引っか掛かったというのだろうか? 別に騙されるようなことをされ

てはいないはずなんだけどね。

 ――と、そんなことより、

「何をしてるんですか……」

 倉科さんの行動に対して文句を言わないといけない。いきなり引っ張られると驚くし、

危ないからね。だというのに――

「うんうん、やっぱり人に触れられるっていうのはいいもんだね♪」

 まったく反省もせず、人に触れる喜びを感じている倉科さん。

 はぁ……そこまで嬉しそうな顔をされてしまったら、文句を言いにくくなってしまう

じゃないか。

「はぁ……仕方ない、か」

「ん? どうしたの?」

「何でもないですよ……」

 ええ、本当に何でもないですよ。あなたに文句を言いたかったとか、そんなことは欠

片もないですよ?

「変な輝くん」

 一番変なのは倉科さん、あなたですよ。


「ただいま帰りました」

「誰か帰ってきたみたいだね」

「この声は妹の沙羅ですよ」

 僕の妹の沙羅。彼女も僕と同じように霊感が強い。だから倉科さんを認識することも

会話をすることも出来るだろう。

 倉科さんが友達を作りたいというだけなら、沙羅を紹介してあげてたんだけどね。

 残念ながら、倉科さんの目的は違ったんだよね。

「お兄様。ただいま帰りまし――――」

 あれ? 沙羅が僕を見た瞬間、石のように固まってしまった。

「さ、沙羅……?」

「……お、お兄様? そ、その方は……?」

 身体をプルプルと震わせながら、倉科さんを指さす。

 沙羅。幽霊とはいえ、相手を指さすのはどうかと思うよ。

「は~い♪ 輝くんの妹さんの沙羅ちゃんだね。私は倉科渚だよ♪」

「あ、どうもお兄様の妹の沙羅です……って、そうじゃなくて! あ、ああ、あなたは

わたしのお兄様と何をしているのですか!?」

「沙羅。何を言っているんだ? 僕達は何もしていないぞ」

「お兄様! わたし、嘘は嫌いです。ご自身の今の姿を見ても、お兄様は何もしていな

いと言い切れるのですか?」

「僕の今の姿……?」

 いや、ごく普通の姿のはず……じゃあないね。忘れてたけど、倉科さんに引っ張られ

て彼女に覆いかぶさるように倒れていたんだっけか。

 確かにこの姿は、何もしていないようには見えないわな。

「お兄様。丁寧な説明をお願いしてもよろしいですか?」

 鬼のような形相で僕に説明を求めてくる沙羅。これは真面目に答えないと、僕が殺さ

れてしまいそうだ。

「あ、あのな沙羅……これには深い理由があってだな」

 倉科さんのことを説明しなければいけないのは分かるが、どこまで話していいのか分

からない。僕と恋をしたいとか、そういった件は説明出来ないし、かと言ってあまり説

明を省略すると沙羅に怒られそうだし……

「輝くん。全てお姉さんの任せなさい」

「倉科さん……」

 物凄く嫌な予感がする。この人は、言わなくてもいい余計なことを沙羅に言ってしま

いそうだ。

「いえ、ここは僕が――」

「あのね沙羅ちゃん。私とお兄さんは恋人同士なのよ♪」

「「な――っ!?」」

 やりやがった。僕が穏便に済ませようとしていたのに、勝手に爆弾発言をしたよ。

 しかも微妙に捏造されてるし。

「お、おお、お兄様……?」

 ま、拙い。沙羅が本気で怒っている。今更、倉科さんの嘘だと言っても信じてもらえ

ないだろう。これはもしかしたら、骨の一本や二本は覚悟した方がいいかもしれない。

「まぁ、半分冗談で今はお友達の関係なんだけど……って聞いてないか」

「そうですね。ほんと、とんでもないことを言ってくれましたよ」

「でも、輝くんと恋人関係になりたいってのは、私の本心だよ?」

「……そう、ですか」

「うん♪」

 眩しいくらいの笑みを浮かべる倉科さん。どうして僕なのだろうか? 僕では彼女の

期待に応えられないと思うんだけど……

「お兄様っ! わたしは、その女も交際も認めませんからね!」

「い、痛いっ! 沙羅、痛いから殴るのは止めてくれ!」

「バカッ! お兄様のバカッ! わたしという妹が居ながら他の女に手を出すだなんて

最低です!」

 恋がしたいと言って、僕のところに転がりこんできた幽霊の倉科渚さん。

 とりあえず友達から始めることにしたけどこれから先、不安しかないよ。

 まぁでも、とりあえずは――沙羅の攻撃を耐えることに集中するとしようかね。


「お兄様のバカ――ッ!」


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