朝日に照らされるその言葉は (500文字)
小鳥のさえずる声で目が覚める。ベッドから体を起こし、窓を見ると眩しい朝日が目を襲った。
ここは病院のとある一室。頭には白髪が少しあるくらいで肌もしわしわになった私は命が危ないと宣告され、数ヶ月前からここで寝たきりの生活を送っていた。
見舞いには誰も来ない。私には子どもがいないし、妻とも仲はよくなく会っていない。一応同居しているが顔を合わせて言葉を交わすなど1日数言あったかどうかだろう。そんな関係だから、妻が見舞いに来ないのも当たり前であった。
どうせ私はここで独りで死ぬのだ。それが定めなのだ。
…そんなことを考えると気分が憂鬱になった。仕方がない、また寝るとしよう。そして姿勢を横にしようと体を傾ける。
その時、隣に設置してある机に果物が入ったバスケットが置いてあるのを見つけた。横にはひっそりと手紙がついている。私はそれを手に取り、中身を取り出す。
メッセージは一言だけだった。
『今までありがとう』
変に丸っこい字で、おかしなところがはねている字。
これは紛れもなく私の妻の字だった。私に向けた、妻からの言葉だった。
私はしばらくその文字を眺めて、視線を桜が見える窓へ移す。
そして静かに、頬に一筋の涙を流した。
読んで下さり、ありがとうございました。