番外編 幼馴染
このお話の前国王はフィルのお父さん。公爵はアーネストのお父さんです。
幼馴染
王室の別荘は、隠居した者の住まいらしく、静かすぎるほど静かだった。
庭の木々は手入れが行き届き、どこか過去の栄光を誇るかのように背筋を伸ばしている。
そこへ案内されたアーネストの父は、扉の前で足を止めた。
この先にいるのは、かつて王であり――そして、少年時代を、いや、生涯を共にした友だ。
扉が開く。
窓辺に立っていた前国王が、ゆっくりと振り返った。
白くなった髪。だが、目の光だけは昔と変わらない。
「久しぶりだな」
前国王が、わずかに口角を上げる。
「本当に、久しぶりだ」
アーネストの父は、形式ばった挨拶を飲み込み、そう返した。
ふたりはしばらく、互いを見つめ合う。
王と臣下だったが、それ以上の関係でもあった。
だが今、そこにいるのは、剣の稽古で泥だらけになり、同じ夢を語り合った少年の成れの果てだった。
「まさか、こんな形で一緒に暮らすことになるとはな」
前国王が笑う。
「お前の別荘に転がり込む羽目になるとは。人生は皮肉だ」
「はは。あの頃と同じ生活に戻るのか?」
前国王は椅子に腰を下ろし、向かいを手で示した。
「座れ。今はもう、王でも公爵でもない」
そう言われて、アーネストの父は素直に腰を下ろした。
沈黙が落ちる。
だが、それは気まずさではない。
「覚えているか」
前国王が、ふと思い出したように言う。
「覚えているさ」
返事は即座だった。
「同じ侍女に恋をして、同じ日に振られた」
前国王は吹き出した。
「『細っこい棒には用はない』――そう言われたな。彼女の婚約者は、騎士団でも指折りの猛者だった」
「そうだったな。二人で襲いかかって、軽くあしらわれた」
「『二人でこの程度か』と馬鹿にされた。次期国王と公爵がな」
「残酷なほど正直だった」
笑い声が、部屋に広がる。
若さも立場も削ぎ落とされた今だからこそ、素直に笑えた。
「あの頃は、何でも手に入る気がしていた」
前国王が、遠くを見るような目になる。
「だが結局、一番大事なものほど思い通りにはならなかった」
「だからこそ、今がある」
アーネストの父は、静かに息を吐いた。
前国王は小さくうなずく。
「居候だが、遠慮はしないぞ」
「構わん。昔からおまえはそうだった」
ふたりはまた笑った。
――少し薹の立った、少年ふたり。
別荘の午後は、ゆるやかに時を流していた。
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