第4話 幽霊事件の休日出勤
この短編小説は『嘱託捜査員ケイ』のプロローグになります。
プロローグは第4話で完結とします。
葛城恵子と進一の二人は、週末の雑踏の中をあてもなく歩いていた。
恵子には、進一に明かしていない別の用事があった。
地味な服装でジーンズスタイルの二人は私鉄改札を出たあと、商店が並ぶ地下街にいた。
「ケイ、やっぱり地下は天候に左右されないからいいね」
「そうかな、私は太陽光を沢山浴びたいわよ」
「紫外線浴びたら大変だよ」
「大丈夫、シミ対策なら万全」
「ところで、どうする」
「そうね、あてがない時はデパートか本屋じゃないの」
「俺、欲しい本あるから本屋がいいな」
「この辺だと、三大書店のうちの一つがあるわ」
「じゃあ、ケイ、そこにしよう」
「シン、私は、ちょっと寄りたいところがあるから、あとで落ち合うと言うことで」
「じゃあ、本屋のエスカレーターの所で」
「シン、一時間後でいい」
「全然大丈夫」
進一と恵子は、本屋の入り口で別れた。
進一はエスカレーターで本屋の二階に消えた。
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恵子は進一の背中を見送り、チラシで見た美容エステの場所を確かめに行く。
恵子がチラシを片手にぶつぶつとひとり言を言っていると、柄の悪そうな男が声を掛けてきた。
見るからに堅気には見えない。
男はシルバーグレー色の背広の内ポケットに右手を入れている。
その手の先に黒革の手帳が見えていた。
浅黒い顔の左頬には刃物で斬られた古い切り傷が生々しく見えている。
「お嬢さん、何かお探しですか」
恵子は状況把握出来ずにいた。
「夫と逸れてしまって」
恵子は咄嗟に嘘を付いた。
「さっき、その方とは本屋で別れたのを見かけましたが・・・・・・ 」
意地悪な男の言い方に、恵子の血圧が上昇して行く。
男は黒革の手帳を恵子の顔前に振り翳して小声で言った。
「この近くの警察の者です」
「ーー はあ」
男は恵子の反応をみて手帳から名刺を一枚抜いて見せた。
恵子は名刺の写真と肩書きを見て言葉を失う。
「ええええ、警部さんですか」
「はい、刑事課で刑事をしています」
「で、なんで私ですか」
「私はーー 丸山警部と門田警部補の同僚で平井と言います」
その名前を聞いた恵子の脳裡に不吉な事件の記憶が蘇る。
「実は念のため、時より見てあげてと彼等から言われていました」
「なるほど」
「それでさっき、偶然ーー 見かけたので後を追ったわけです」
「なるほど」
「この辺りは危険ですから」
平井警部は恵子の手にあるチラシを一瞥して言った。
「そこは、警察のブラックリストにある店です」
恵子も薄々、怪しく感じていた。
探しても見つからない時点で何かありそうなと感じがしていた。
「チラシとキャッチセールには、ご注意下さい」
平井警部は一言だけ伝えて離れて行った。
平井を見かけた地元のチンピラが肩をすくめて遠ざかったことを恵子は知らない。
平井警部は、部下に恵子の身辺警護をお願いしていた。
その為、敢えて恵子に接触したのだが、葛城恵子は気付いていない。
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何も知らない進一は、本屋で購入した文庫本の入った手提げ袋を持って恵子を待っていた。
有名書店のエスカレーター付近は混雑して人酔いする。
体臭と化粧と香水の臭いが複雑に混ざっていた。
恵子の地味な白シャツとブルージーンズは雑踏の中では目立たない。
進一は群衆の中の恵子を見つけて頭上に手を上げ振った。
その時、地元の別のチンピラが恵子の背後に近づいた。
平井の部下が距離を詰めてチンピラの手から武器を奪い暴漢を確保する。
恵子は背後で起きていたことに気付くこともなく、手を振っている夫の進一と合流した。
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「シン、さっき丸山警部と門田警部補の同僚の平井警部に会ったわ」
「ケイ、平井警部って、丸山さんの上司じゃないかな」
進一は、真っ青な表情で言った。
「多分、そうよ」
「じゃあ、その人ーー 別人じゃないの」
恵子は平井警部から渡された名刺を進一に見せた。
「ケイ、この人だよ。トリカブト事件で殉職した警部さん」
進一の言葉に恵子の表情が一変した。
「恵子さん、大丈夫ですか」
「あっ、丸山警部、なんでここに」
「平井警部の幽霊事件の噂で休日出勤です」
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三日月未来




