第三章 悪いリジー
僕は間違っていた。リジーはレベッカおばさんの家では怒らなくなったが、家ではモンスターになった。
「やだ!やだ!やぁだ!行かない!行かない!絶対行かない!」
僕は耳をふさいだ。(僕には「手」がないから結構難しいんだよ。)「あの子」による大きな叫び声で僕は起きてしまった。
リジーは最近、普通の4歳の女の子とはすごくかけ離れてきている。もしかしたらあなたは何が起きてるのかわからないかもしれないから、念のため説明しておこう。リジーが「行かない」と言っているのは幼稚園のことである。
「リジー…」
「やだ!やだ!やだ!私はこれから悪い女の子!だから学校行かなくていいの!」
ああ、そうだ。もう一つ情報があった。リジーはおかしなことを信じ込んでいる。彼女は自分が「悪い女の子」だと信じていて、悪い女の子は人の言うことは聞かなくていいと思っている。(人間の女の子たちは色んな変な発達段階を示すんだね。)
「行かなきゃ、リジー。学ばないと、みんなより勉強遅れちゃうわよ。」
「そんなの気にしないよ、だって私超悪いもの!」とリジーは叫んだ。
リチャード夫人はため息をついた。
「僕、悪い女の子」とトミーは笑いながら言った。
「馬鹿ね、あんたは男よ!」とリジーは叫んだ。
「リジー、それは弟に話しかける話し方じゃありませんよ。」
「知ってるけど、関係ないよ、だって私-」(次何が来るかはわかるでしょう)「悪い女の子だもん!」
「あら大変」とリチャード夫人はつぶやいた。
ピンポーン!
ドアが鳴った。リジーはドアへと階段を駆け降りた。ドアを大きく開き、「勝手にしろよそこの-」
リチャード夫人はリジーの口の上に手をかぶせた。そこに立っている女性を見て、彼女は気絶しそうになった。
「ごめんなさい、彼女の今言ったことは忘れてください-」と彼女は言いかけた。
「大丈夫ですよ。」と女性はきつい笑顔で言った。
その女性はリジーが行っている幼稚園の校長先生であるグリーン先生だった。
「あの、リビングに来てください、えー、お茶を出しますので。」リチャード夫人は台所へ走って行った。途中で、トミーのおもちゃにつまづいた。
グリーン先生はしかめ面をした。彼女はおでこに皺を寄せていてとてもきびしそうだった。灰色の髪の毛がきちんと団子状に束ねてあって、とても高い頬骨の持ち主だった。
リチャード夫人は本当に疲れていたのだろう。もしくは焦りすぎてよく考えられなかったのか。いずれにせよ、彼女は校長をリビングに呼んだのは大間違いだった。リビングはおもちゃや本、汚い服で覆われていた。それはリチャード夫人が先週風邪をひいたからだ。他の家族のメンバーはどうしようもなくだらしないので、家はすごく散らかってしまっていた。
グリーン先生はリビングを開けようとして、開かなくて少し顔を歪めた。もう少し強く押して、ようやくそのドアの下のいくつかの服をどかしながら開けられた。
グリーン先生はリビングを見てハッと息をのんだ。そして喉を鳴らし、一生懸命汚い服を踏まないようにしながら注意深くソファへ向かった。ソファもおもちゃや服で覆われているのを見た。彼女はよだれで濡れたぬいぐるみの恐竜を指先で拾った。まるで菌の球のように。彼女の顔は軽蔑と気持ち悪さでいっぱいだった。
リチャード夫人が紅茶を持ってリビングに来た時、彼女の顔は恐怖で蒼白くなった。きっとほとんどの時間自分の部屋で過ごしていて、リビングが散らかっていることをすっかり忘れていたのだろう。
「あらー、ごめんなさい、すっかり忘れていて-あの、私熱がありまして-」
「大丈夫ですよ。」とグリーン先生は、リチャード夫人が言い訳しているかのように、またきつい声で言った。
「あの、えーっと、これが紅茶です。」リチャード夫人は言った。「あ!ミルクと砂糖を忘れたわ!あともしかしたら生クリームやレモンも!あと-」
「私はミルクや砂糖を入れないで紅茶を飲むのが好きです。」とグリーン先生は言った。
「そうですか-」
と、その時トミーは気味の悪いゴリラのマスクをしてグリーン先生の膝の上に乗った。
「トム-」リチャード夫人は言い始めた。
「ラララララ!」
どこからともなく、リジーが緑のわにのぬいぐるみを持ってソファの上に光のような速さで飛び乗ってきた。わにも本物のわにの皮でできた気味の悪いものだった。
「トミー見て!緑の校長と緑のわに!面白くない?」リジーはソファの上でぴょんぴょんはねながら叫んだ。
トミーは彼女が何を言っているのかもよくわからず笑い、ソファの上で跳び始めた。
「いい加減にしなさい!」グリーン先生は叫んだ。
リジーとトミーはようやくソファで飛び跳ねるのをやめた。
「リサ・ガブリエル・リチャード、後であなたと話があるわ。それまで、自分の部屋にいて反省しなさい。」とリチャード夫人は言った。彼女がここまで怒っているのを見たことがない。
リジーは仕方なく上へ行った。リチャード夫人はトミーを赤ちゃん籠の中に入れた。やっと家は静かで平和になった。
グリーン先生は首を振った。「あなたの子供たちはいつもあんな感じなの?」
「いいえ、今ちょっと変な時期を迎えていまして。本当に申し訳ありません-」
「あら、そう。」グリーン先生は聞こうともしなかった。「とにかく私は最近のリジーの学校での悪い態度についてお話ししたくて来たのです。彼女は先生の言うことを聞かないし、大きな声をあげて怒るのです。彼女は『しつけ』という言葉を知らないようです。リジーに何が良くて何が悪いかを教えるもっといい方法を考えた方がいいです。」
グリーン先生はしつけや子育てについて話し続けた。リチャード夫人の顔は赤くなった。
ようやくグリーン先生は帰った。
「リサ、来なさい。」リチャード夫人は呼んだ。リチャード夫人はほとんどリジーをリサと呼んだことがない。『大変だ。彼女は怒られるぞ。』と僕は思った。
リジーは腕組みをした状態で階段を下りてきた。何も言わず椅子に座った。リチャード夫人はその隣に座った。
「あなたが今したことを反省した?」リチャード夫人は静かに聞いた。
「いいえ。」とリジーは答えた。
リチャード夫人はため息をついた。「リジー、グリーン先生はあなたが学校で色んな問題を起こしているって言ってたわよ。それは本当なの?」
リジーは床を見た。「学校つまらない。私もう行かない。悪い女の子だから。悪い女の子は学校行かなくていいのよ。」
「じゃあ悪い女の子ならテレビも見なくていいのね。ゲームをしたり、6時以降まで起きていなくてもいいのね。」とリチャード夫人は言った。
「悪い女の子はテレビ見れるよ。悪い女の子はなんでもできるんだよ。」とリジーは抗議した。
「いいえ、できないわよ。悪い女の子にはその特権がないのよ。」とリチャード夫人は言った。
リジーは少し考えているようだった。そしてリチャード夫人を見上げて、「ママ、私もう悪い女の子じゃないよ。」と言った。
リチャード夫人はリジーを抱き締めた。それが「悪いリジー」の終結だった。