【第四章】
【第四章】
二日後。翌週の月曜日、昼休みのこと。
「おい、聞いたか拓海! 今度は遊園地だ!」
「んあ?」
相変わらず快活でミーハーな祐樹が、僕の机に手を着いた。同時に、今朝発売された週刊誌を僕の机に投げ出す。
幸い僕は、遊園地での負傷に伴う後遺症もなく、いつも通り登校していた。とは言え、流石にこうも戦いに連続で巻き込まれていては、気が滅入ってくるというものである。
「見ろよ! これ、北町にあるボロい遊園地の写真だろ? 拳銃が写ってるぜ!」
『あーはいはい、よかったね』とでも告げて突っぱねてやりたい。だが、祐樹とて悪気があってこんな話をしているわけではないのだ。付き合ってやるべきだろうか。
でもなあ、麻酔銃でとはいえ、自分が撃たれたことは思い出したくないし。結局僕は、机に突っ伏するくらいしか動きようがなかった。
「おい拓海、最近ノリが悪いぞ? それが親友に対する態度か!」
「ああもう!」
僕の頭をぐりぐりやってくる祐樹を前に、思わず声を荒げようとした、その時だった。
「あの、拓海くん?」
その声に、僕はがばっ! と顔を上げた。
「玲菜さん!」
「うわっ!」
あまりの僕の勢いに、祐樹が身を反らすが知ったこっちゃない。ここでの玲菜の登場は、疲弊した僕には砂漠のオアシスのようなものである。祐樹には悪いが、今は無視させてもらおう。
「ど、どうしたんだい、玲菜さん!」
自分でも口調が朗らかになっていることに気づく。そんな僕を前に、玲菜はもじもじしながらこう言った。
「ちょっと、来てほしいんだけど……」
「もちろん! どこへでも行くよ!」
これには、流石の祐樹もやれやれとかぶりを振っている。玲菜が僕の意中の人であることは、彼も知っているのだ。
しかし、玲菜がいつになく落ち着かない様子であるのはどうしたわけだろう?
まさか、僕に重要なことを伝えようとしているのか? そしてそれは、第三者には悟られたくない内容なのだろうか?
僕が椅子から立ち上がると、調子を取り戻したらしい祐樹がずいっと顔を近づけてきた。ニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「ああ、玲菜さん! 悪かったね、拓海を独占しちゃって! さ、行ってこいよ、拓海!」
「いたっ!」
バシン、と背を叩かれる。全く、とんだ悪友を持ってしまった。しかし僕は、意外にも苛立ちを覚えはしなかった。
当然だ。何せ、あのいつも大人しい、小原玲菜ともあろう可憐な少女が、自分から声をかけてきたのである。只事ではあるまい。
「じゃ、じゃあ、私についてきて」
そう言って、ゆっくりと背を向ける玲菜。もしかして、ローゼンガールズにおける僕の活躍を見て、特別な感情を抱いてくれたのだろうか?
考えてみれば、何の見返りもなく、スライムやら鳩の群れやらを相手に命を張っていいはずがない。僕の負傷と心痛は、癒されるべきなのだ。
僕は飽くまでもジェントルな雰囲気を壊さないよう、ゆっくりと立ち上がり、胸を張って玲菜の後に続いた。
さて、どこに連れて行ってくれるのかな?
※
結論から言おう。僕の期待は裏切られた。
何も玲菜が悪いわけではない。だが、恋愛系フラグと思われた彼女からの呼び出しは、理事長室での作戦会議に過ぎなかった。
味気ない鉄扉を、玲菜と共に通過する。そこにいたのは、理事長である猪瀬と、いつものローゼンガールズ戦闘員三名だった。
いつもの面子が揃ってはいる。だが、室内の雰囲気は落ち着かない。特に、梅子と香澄の周囲。
梅子は、いつものように『お疲れ、お兄ちゃん!』などと声をかけてはくれない。僕の顔と自分の足元の間で、視線をさまよわせている。あ、別にお兄ちゃん呼ばわりされたいわけじゃないぞ。
また、香澄は逆にいつも通り、僕を睨みつけてくる。周囲の空気をギスギス言わせるのが香澄のいつもの態度なのだが、今日は一段と苛立っている様子だ。
そんな二人からやや離れた、理事長の事務机の上では、これはこれで緊張感が漂っている。実咲と猪瀬が机を挟んで、難しい顔を向け合っているのだ。
「あ、あのー、実咲先輩、それに理事長。何をしてるんですか?」
「見れば分かるだろう、拓海くん」
いや分からねえよ、と僕は理事長にツッコみたくなった。
「いえ、どうしてそんなに緊張なさって――」
「やった! 我輩の勝ち! 三連勝~!」
「ぐっ! 理事長たる私が、生徒会長とはいえ我が校の生徒に連敗を喫するとは!」
ようやく僕は状況を理解した。実咲と猪瀬は、二人でババ抜きをしていたらしい。
しかし、どうしてまたそんな味気ないことを?
そんな疑問が僕の顔に出たのだろう。実咲がこちらに振り返り、ソファに座るようにと手で促した。
僕は梅子、香澄と向かい合うように座り、その隣に実咲が腰を下ろす。玲菜は猪瀬のそばで、従者のように控えた。
「いやはや、我輩もトランプはできるだけ多人数でやろうと提案したのだが、後輩二人が乗ってきてくれなくてな」
「そ、そうなんですか」
どうしたんだ? と尋ねる意味合いで、僕はまず梅子に目の焦点を合わせる。すると、
「お兄ちゃんは香澄ちゃんと仲良く遊園地に行ってたんでしょ? あたしとじゃなくて!」
と言って、梅子は腕を組んだ。
「任務だったんだ、仕方ないだろ?」
「じゃあ教室で、玲菜に鼻の下伸ばしてたのはどういうわけだ? えぇ?」
別方向に追及してきたのは香澄である。
「だっ、誰が鼻の下なんて!」
「はいはい、そのくらいにしておけ、二人共! 我々の任務はまだ完遂されたわけではないんだぞ! 作戦会議を始める!」
掌を打ち鳴らしながら、実咲が声を上げた。口調は穏やかだが、何らかの意図を感じる。
僕がそっと実咲の方を見遣ると、彼女はアイコンタクトでこう告げた。
(貸し一つだぞ、拓海!)
(ちょっと先輩! 卑怯ですよ!)
(ケチケチするな、アイス奢ってくれたらチャラにする)
どうやってそこまで悟ったのかは不明だが、取り敢えず僕は実咲の言わんとするところを理解した。はあ、と露骨にため息をつく。
「それでは、私から最新情報をお伝えします」
場が静まったのを見計らい、玲菜が語り出した。
「一昨日、拓海くんと香澄さんが確保した男性被疑者が、三つ目の電波妨害装置の場所を開示しました」
するとこの前同様に、ソファに挟まれた机がディスプレイになり、地図を表示した。
今日は市街地からやや南の方をアップで映している。工場地跡か。
「最も秘匿性の高い場所は、ちょうどここになります」
玲菜が手にしたパッド型の端末を操作すると、地図上に赤い点が一つ表示された。
「薬品工場跡です。この地下にある研究棟に、妨害装置があるものと推定されます。問題は、事態は急を要するということです」
「どういうこと?」
梅子が顔を上げる。玲菜は僅かに間を置いて、こう言った。
「敵は有毒ガスを使ってくる恐れがあります」
部屋の空気がピシリ、と音を立てて固まった。『ゆ、有毒ガス……?』という情けない声が漏れる。その発生源が自分の喉であることに気づくまで、少し時間が必要だった。
「工場跡地を利用したのは、敵ながら見事な戦略です。西の裏山と北の遊園地に仕掛けた二機ではカバーし切れない、町の南部一帯の通信を掌握するだけの強力な電波妨害装置を仕掛ける。それも、生身の人間が立ち入るには困難な場所に」
私たちが取り得る手段は二つ。そう言って、玲菜は眼鏡の奥の瞳を光らせた。
「敵が有毒ガスを発生させる前に、装置を撤去する。あるいは、ガスを相殺する空気清浄機を持ち込み、それから撤去する。そのどちらかです」
「だ、だったら今すぐにでも行って、有毒ガスが出てくる前に撤去するべきじゃ……?」
僕は恐怖で声を震わせた。スライムや鳩たちとは違い、今度の敵は目に見えない。いくらなんでも不利すぎる。
「ああ、その点は心配ない」
ゆとりのある口調で言ったのは猪瀬だ。
「警察庁から、特殊な空気清浄機を借り受けることにした。明日の夕方には届く。それを装備して潜入すれば、毒ガスなど脅威ではないよ」
「はぁ」
僕は不安から安堵へと気分を切り替え、ソファに沈み込んだ。
「では理事長、突入は明日の夜間に?」
「それがよかろう」
淀みない実咲の言葉に、首肯する猪瀬。
「今回は我輩が行こう。梅子と香澄は休んでくれ。我々の能力も、無尽蔵に発揮できるわけではないからな。拓海、同行を頼めるか?」
「はっ、はい!」
うむ! と大きく頷く実咲。そういうキビキビをした所作を取るから、胸に目が行ってしまうのだ。何ぶんよく揺れる。
しかし、僕の頭は煩悩だけでできているわけではなかった。
「あの、もしよかったら、なんですが」
「何かね? 我輩のスリーサイズなら教えてやっても――」
「違います!」
女性陣に白い目を向けられながら、僕は否定した。
「僕が教えてほしいのは、どうして梅子や香澄や実咲先輩が、あんな戦闘スキルを身につけられたのか、ってことです! 並みの高校生にできることじゃないでしょう?」
「あー……」
僕は、前回同じ質問をした時のことを思い出した。あの嫌な汗が吹き出しそうな緊張感は、そう簡単に忘れられはしない。
だが、僕だって知りたいのだ。彼女たちがどうやって、半ば異能とも呼べる力を手にしたのか。
今日こそは、聞いておかねばなるまい。そう僕は腹を括っていた。
「君の度胸は買わせてもらおう、拓海」
しっとりした口調で、実咲が言った。
「だが正直、我輩には、まだ君に異能の力の秘密を明かす勇気がない。申しわけないが」
「あっ、いえ」
それはそうかもしれない、と僕はようやく気づかされた。
異能の力に秘密があるのなら、その力は先天的なものではないのかもしれない。この世に彼女たちが産まれ出てから、後天的に手に入れた能力だということになる。それはすなわち、何かきっかけ、言い換えれば『特殊な過去』があるということだ。
「あたしは構わないよ、お兄ちゃん」
静かに告げたのは、最年少の梅子だった。
「ただ、できれば他の人に聞かれたくはない、かな。ここにいる人はもう知ってるはずだけど」
ふと室内を見渡すと、皆一様に俯いていた。その沈黙に一石を投じたのは猪瀬である。
「ちょっと待ってくれ」
そう言って、背を向ける。向かう先は、執務机のさらに向こう側。辞書や辞典が並んだ、重苦しい棚だ。
「えーっと、ここかな」
一見無造作な動きで、猪瀬はある辞典の表題の部分をぐっと押し込んだ。すると、棚が左右に分かれた。
何事かと目を瞠る僕。その視界に入ったのは、先ほど通ってきたのと同じような鉄扉だった。ただし施錠されてはおらず、サイズもだいぶ小さい。
「この先は私のプライベート・ルームだ。機密性の高い会話をする際に使っている。君たちも使うといい」
「ありがとうございます、理事長」
いつになく大人びた口調で、梅子が告げる。
「じゃあお兄ちゃん、ついて来て」
立ち上がり、さっさと鉄扉に向かう梅子。僕ははっとして、半ば転びそうになりながらも、腰を上げて彼女の後を追った。
※
僕が入るのを待ってから、梅子はぐっと鉄扉に取り付けられたノブを引いた。よいしょ、と口にするのと同時、鉄扉はゆっくりと閉まっていく。
室内を見回すと、やはり狭い個室になっていた。広さは六畳ほどだろうか。閉塞感はあるものの、この部屋にも間接照明は配されていて、座り心地のよい革張りの椅子が対面式に並んでいる。その間には、小さな丸テーブルが置かれていた。
「何か飲む?」
そう問われて、梅子の方を見遣る。梅子は、背の高い冷蔵庫の扉に触れたところだった。
「じゃあ、ジンジャーエール、あるか?」
「うん」
やや緊張していいるのか、梅子はゆっくりとした動作でグラスを二つ取り出した。ジンジャーエールとコーラの瓶を取り出して、丸テーブルの上に置く。
「注いであげるよ、お兄ちゃん」
「ああ、悪い」
僕はすっかり恐縮してしまっていた。いつもはこんな調子ではないのだが。
そうか。緊張だ。緊張が伝染してきたのだ。梅子の緊張感に、僕も酔わされてしまったらしい。
「それで、質問はこうだったよね? どうしてあたしたちに、異能の力が宿っているのか」
僕は無言で頷く。梅子はそっとコーラを口に含み、こくりと飲み込んだ。
「これは香澄ちゃん、実咲ちゃんにも共通してるんだけど……。どうやら、死ぬような目に遭った時、ごく稀に、特殊能力を発現する人間がいるんだって」
「特殊能力?」
「火事場の馬鹿力、って言葉があるでしょう? あれを、自在に使いこなせるようになるの。自分の好きなタイミングでね」
「その力を駆使して、お前たちは戦ってるのか?」
「そう」
それから、梅子は人間の脳の造りについて、少しばかり話をした。よく分からなかったが、人体のリミッターを外す、とか何とかそんな話だった。
「人間は、元々全力の三十パーセントしか力を発揮できないの。ずっと百パーセントで動いていたら、骨も筋肉ももたないからね。内臓にも障害が出るかもしれないし。でも、あたしたちはそれをコントロールできる」
道理であれだけ人間離れした戦闘ができたわけだ。
「じゃあ、お前の鉄拳とか、香澄の拳銃とか、実咲先輩の竹刀が光って見えるのは……?」
「うん。リミッターが外れた時に生じる副作用? みたいなもんかな」
「そうだったのか……」
取り敢えず、大方納得するには至った。だが、まだ肝心な謎が残っている。
「梅子、お前の場合はどうだったんだ? その、異能発現のきっかけになったこと、ってのは」
「事故に遭ったの」
狼狽える様子など微塵もなく、答える梅子。
「飲酒運転の車が、あたしとお母さんが歩いてるところに突っ込んできて……。その時、たまたま交番勤務であたしたちのそばにいたお父さんが、庇ってくれたの。それでも、あたしは頭を打って、しばらく意識が戻らなかったんだけどね」
「そ、そりゃあ……」
僕は言葉を継げなかった。幼馴染で、何も隠し立てすることのない仲だと思っていた梅子。そんな彼女が、そこまでの悲運を背負っていたとは。たった今まで、知らなかった。
きっと、僕の目は右往左往していたことだろう。少なくとも、今この瞬間に梅子と目を合わせることはできなかった。
心理的にも行動的にも不器用な僕に、一体どんな慰めができたというのか?
「ごめんね、お兄ちゃん。ずっと隠してたんだ、このこと」
「そんな! お前が悪いわけじゃないだろう!」
僕は椅子から立ち上がり、つい語気を荒げてしまった。しかし梅子は、それを『まあね』という一言で受け流す。
出会った当時から、彼女に父親がいないことは知っていた。だから、彼女の家に遊びに行く時は、必ず仏壇にお焼香をしていたのだ。
しかしまさか、梅子までもが事故に巻き込まれていたなんて。
「でも、お父さんの同僚のお巡りさんたちが、あたしやお母さんをずっと助けてくれたんだ。だからあたしは空手で強くなって、誰かを守れる人間になりたいと思ったの」
僕はゆっくりと、元の椅子に腰を下ろした。
「それが、あたしがお兄ちゃんに隠してたことの全て。納得、してもらえたかな」
「……ごめんな、梅子」
そう言いながら、僕は気づいた。自分の声が掠れていることに。そして、視界が水滴で歪んでいることに。
「僕、お前がそんなに大変な目に遭ってただなんて、知らなかったから」
だからスライムと遭遇した時、戦いを彼女に任せっぱなしにしてしまった。そして、自分が矢面に立つことができなかった。
後悔の念が、腹の底から喉元までせり上がってくる。すまなかった、梅子。
「ま、まあ、昔のことだし! あたしたちは、あたしたちなりにできることをやるだけだよ! だから泣かないで、お兄ちゃん!」
「ん……」
僕は腕を上げ、乱暴に目元を擦った。
すると、控え目なノックの音が響いてきた。次は香澄ちゃんの番だね、と告げる梅子。
「ま、待ってくれ。ちょっと気持ちの整理がつかないんだ」
「ほえ?」
梅子は立ち上がりながら首を傾げた。
「一旦教室に戻る。香澄には、放課後に話を聞かせてもらうよ」
「分かった。やっぱり優しいんだね、お兄ちゃん」
「お前こそ。やっぱり強いんだな、梅子」
くすっ、と梅子が頬を緩ませる気配が伝わってきて、僕はようやく乱れた呼吸を整えることができた。
※
そして、放課後。
「たっくみ~! 今日俺部活休みなんだ! 遊園地、行ってみようぜ!」
相変わらず、呑気な調子で祐樹が声をかけてくる。全く、人の気も知らないで……。
とは思ったものの、ローゼンガールズは、こういう一般市民に被害が及ばないようにと、日夜戦っているのだ。
その端くれである僕が、祐樹の明朗さを責めるのは、お門違いだろう。
しかし、そんな葛藤はすぐさま消し飛んだ。
「おい、拓海」
祐樹の背後から、ドスの効いた声がする。その轟きに、祐樹はぴくり、と固まった。
だが、声をかけてきた人物に敵意がないことは、あまりにも明白だった。放課後に話をしようと約束していた、香澄である。
「話すぞ。ついて来な」
「了解だ」
僕は一抹の緊張感を覚えつつ、席を立つ。だがその緊張感は、梅子の時のような『真実を告げられることに対する緊張』であり、香澄本人の気性の荒さによるものではない。
はっと意識が戻った様子で、祐樹が声を上げた。
「お、おい、どういうことだよ拓海? 怖くないのか?」
「ああ。僕は別に」
大丈夫だ、と続けようとして、祐樹が竦み上がったのを目にした。
「香澄、あんまり睨まないでやっておくれよ」
すると、香澄はふん、と顔を背けた。そのままさっさと教室から出て行こうとする。
「拓海、お前、石切とどういう関係で……?」
「あー、話せる時が来たら話すよ。んじゃ」
呆然と佇む祐樹を後にして、僕は香澄の後を追った。
「なあ、どこに行くんだ? 理事長室はあっちなんじゃないか?」
「あそこは窮屈で気に食わねえ。こっちでいい」
でもこの先って、三年生教室と屋上ぐらいしかないんじゃないか?
※
三年生の教室の並ぶ廊下を我が物顔で通り抜け、香澄は進む。
この学校は、先輩・後輩の序列関係が緩い。既に三年生の分野の勉強をしている下級生などは、教えを乞うべく部活の先輩の教室を訪れることも多い。
しかし、やはりというべきか、香澄は三年生たちには目もくれず、もう一階上、つまり屋上へ出るための階段を上り出した。
屋上は施錠されていたものの、香澄の持っていたパスカードで簡単に通り抜けることができた。
真っ先に感じられたのは、真夏の太陽光。僕は手を翳し、目を守る。と同時に、夏らしい匂いと共に、湿潤な熱気が足元と頭上の両方から感じられた。
屋上の床面は綺麗に均されていたが、遮熱効果は望めない。まあ、一般生徒が踏み入る場所ではないのだから当然か。
「さて、と」
僕は香澄の背中に目を遣った。一旦腰に手を当てた香澄は、首や肩をぐるりと回して肩甲骨のあたりを柔軟にする。それから、背中に仕込んでいた拳銃を取り出した。
「あの、香澄?」
彼女の行動が理解できず、僕はやや狼狽えた。その狼狽が、驚愕に切り替わるまでは一瞬だった。
慣れきった所作で、香澄は拳銃を自分のこめかみに押し当てたのだ。
「ッ! 止めろっ!」
僕は後ろから跳びかかろうと試みる。が、それを予期していたかのように、香澄は振り返って銃口を僕の眉間に向けた。
「あ、あ……」
金魚のように口をぱくぱくさせる僕。そんな僕の姿が滑稽だったのか、香澄は僅かに、ほんの少しだけ口角を上げた。
「冗談だ」
「おっ、脅かすなよ」
僕は猛烈に抗議したかったが、香澄はカチャカチャと拳銃を手元で弄んでいる。聞く耳は持たないだろう。
「セーフティはかかってるし、弾倉も抜いてある。薬室からも初弾は抜いてあるから、弾なんか出やしねえよ」
よく分からないが、今のはちょっとした冗談だったらしい。そんなもので僕の寿命を縮めてもらいたくはないのだが。
「トーマス神父からはどこまで聞いた?」
唐突な話題の変更に、僕は一瞬戸惑った。ああそうか。一昨日、教会を訪れた時の話をしているのか。
インパクトのある会話だったので、僕は意外なほどトーマスの言葉を思い出していた。
「香澄、お前が両親から虐待に遭った、って」
「それだけか?」
「うん。致命的な怪我を負う前に、自分が保護したって言ってたぞ」
すると、香澄は肩を竦め、『何ともお優しいこって』と呟いた。
「ち、違う、のか?」
「神父には申し訳ねえんだが、彼は一番の要点をお前に話していないようだ」
一番の要点? 何だそりゃ。
「梅子から聞いてるな? 異能力の発現条件は」
「ああ、命の危険に晒されたことがきっかけで、そんな力が湧いてくる、みたいな」
「俺はな、拳銃で撃たれたんだ」
夏に非ざる冷風が、僕と香澄の間を通り抜ける。
「……はい?」
「だから、撃たれたって言ってんだろうが」
やれやれとかぶりを振る香澄。だが、聞き捨てならない言葉を彼女は口にした。
「撃たれたって、どうして? いや、大丈夫だったのか?」
「どうかな。俺の脇腹を掠めたんだが、出血が酷くて、それで死にかけた」
香澄が異能力を手にしたきっかけは分かった。だが、一体どうしてそんな目に?
僕の顔に出た疑問を相手に、香澄は語り出した。
「確認だ。うちの親父とお袋が、俺を虐待したって話は聞いてるな?」
黙って頷く僕。
「だけど、俺んちの場合、ただのDVじゃなかった。親父、暴力団と繋がりがあったんだ」
「な!」
僕は顎を外し、驚きを露わにしたまま固まった。
「何でも、親父は武器のブローカーだったらしい。取引場所は、一番監視の目が届くようでいて届かない場所、つまり俺たちの家で行われた」
だが、と言って言葉を区切る香澄。
「ちょっとしたトラブルになったんだ。金銭的な、下らねえ喧嘩さ。問題は、そこに俺がいて、相手が脅しで撃った弾に当たっちまった、ってこと」
僕は唾を飲み込みかけて気管に入り、咳き込んだ。
「は、犯人たちはどうなったんだ!?」
「さあ?」
首を傾げる香澄。
「ムショに入ってることを願うね。だが、俺は九死に一生を得たことで、この力を手に入れた。手にした銃火器を自在に操るスキル、というべきだな」
「そ、それは……」
「おおっと!」
僕が続けようとした発現を、香澄は封じる。
「同情なんかするなよ? 俺はその事件があったお陰で戦うことができるようになった。今の立場や境遇に不満はねえよ」
『いや』『でも』『そうは言っても』――。僕は反論を試みたものの、いずれも言葉にならなかった。
「ま、そういうこった。俺からは以上だ」
別れの合図もなく、下り階段に足をかける香澄。僕がざわざわした胸中で彼女の背中を見つめていいると、ふっと何かに気づいたのか、香澄は振り返った。
「実咲先輩は、もっと大変な目に遭ったんだ。無理に訊き出そうとすんなよ」
僕の喉には、言葉を紡ぐほどの余力はなかった。
皆、胸に過去を抱えて、それでも戦いに身を投じているんだ。僕だって、何かしなければ。
「あ、あのさ!」
無言で、やや苛立たし気に振り返る香澄。
「僕にも戦えるように、訓練を施してくれないか?」
『はあ? お前何言ってんの?』――それが、僕の予期した返答だ。だが、香澄はその整った顔を歪め、挙句腰を折って笑い出した。
「なっ、何がおかしいんだよ?」
「悪い悪い、お前、結構根性あるなあと思ってさ」
「根性なんかどうでもいい! 僕だって、傍観者のままではいられない! 頼む、戦いを教えてくれ!」
僕はくの字に身体を折って、香澄に頭を下げた。視界の隅で、香澄が後頭部をがりがり掻くのが見える。
「だって、お前と実咲先輩のペアの出動は明日だぜ? 俺たちに教えられることなんて――」
「それでもいいんだ!」
勢いよく顔を上げる僕。
「僕だって、皆の力になりたい! 守ってやりたいんだよ!」
そう僕に言われた時の香澄の顔を、僕は一生忘れないだろう。目も口も真ん丸に見開いた、レア顔である。
※
それから十五分ばかり後。グラウンドの体育館裏手、ひとけの少ないところで、僕とローゼンガールズ戦闘員たちは集まった。
僕は再び、今度は三人に向かって頭を下げ、腰を折っている。既に用件、というか要望は伝えた。後は、三人がどれだけ僕を当てにしてくれるか。そこにかかっている。
「しかしなあ、拓海よ」
諭すような口調の実咲。
「我輩たちは、飽くまでもイレギュラー分子だ。一般生徒である平田拓海に、我々同様の戦いをしろというのは、いくら何でも無茶がある。増して、明日の夕方には出動するというのに」
「そうだよ、お兄ちゃん!」
梅子も口を挟んでくる。
「あたしたちは、訓練してこの異能力と折り合いをつけてきたんだ。今日と明日で同じ力を手に入れよう、っていうのは無理な相談だよ!」
「いや、皆と同じ戦闘スキルが欲しいとは言わない! ただ、自分の身は自分で守れるようにしたいんだ!」
中央に立つ実咲は、どうしたものかという視線を両脇の二人に送っている。
「そうだな、我輩たちはそれぞれ戦い方が違う。その基礎項目を、一連の流れでこなせるようになれば、少しは戦えるようになるかもしれんな」
「そ、それじゃあ!」
僕はぱっと喜色を浮かべて、顔を上げた。三人は相変わらず怪訝そうな顔をしていたが、実咲は僕のやる気に一票を投じてくれたようだ。
「そうだな、じゃあ梅子! キックボクシングの基本を叩き込んでやってくれ」
「分かった!」
すると梅子は、誰に合図されるでもなく、こちらにずんずんと近づいてくる。
そして全く唐突に、ハイキックを僕の顔面に叩き込んだ。
「ぐっ!」
辛うじて、両腕を交差させてこれを防ぐ――つもりだったのだが、僕は呆気なく後方に吹っ飛ばされた。そのまま背中をしたたかに打ちつける。
「いってぇ……」
砂煙が待って、僕の目に入る。
「ちょっとお兄ちゃん! たった一発で泣かないでよ!」
「違う! 目にゴミが入っただけだ」
と言い終える間もなく、梅子はステップを踏んでこちらに接近。拳を僕の鼻先数センチのところにまで繰り出した。
「ひっ!」
「実戦だったら、お兄ちゃんは気を失ってるよ」
「うぐ、面目ない……」
「そうだなあ」
そばで見ていた実咲が、手を顎に遣りながら語りかける。
「拓海、相手からは絶対に目を逸らすな。視界から相手が消えた瞬間が、お前の死に時だと思え」
「は、はい!」
それじゃあもう一回。そう言って、梅子との格闘戦術訓練は一時間ほどに及んだ。
結果、僕は回避するのは上手くなったようだ。だが、肝心の『攻め』がないと、参戦する意味がない。
僕は正直、このままグラウンドに仰向けにぶっ倒れそうだったが、歯を食いしばってその誘惑に抵抗した。
まだだ。香澄と実咲からは、何も教わっていない。
「休憩しろ、拓海」
厳しさと気遣わしさを混ぜこぜにした表情で、実咲が言った。
「まだやれます! 香澄、次は拳銃のことを――」
「甘い!」
突然の怒号に、僕は肩を震わせた。
「今は熱中症対策が叫ばれている。喉が渇いていなくても、定期的に水分を摂れ!」
「わっ、分かりました!」
僕は慌てて、グラウンドのベンチに向かった。そこに置いた自分の鞄から、ミネラルウォーターを取り出す。キャップを空けて、三分の一ほどを一気に喉から胃袋へと流し込んだ。
やはり、実咲の注意は適切だったのだ。
次は、少し場所を移した。グラウンドで堂々と拳銃をぶっ放すわけにはいかない。僕たちはサークル棟の裏側、森林公園に面した静かな場所へとやって来た。
「ほら」
何やら布に包まれたものを、香澄が差し出してくる。ゆっくりと開いていくと――。
「うわ!」
僕は思わず悲鳴を上げた。
「こ、これって?」
「今更モデルガンなんて渡すかよ。実物だ、それは」
そう。布に包まれていたのは、黒光りする拳銃だった。
しかし、それは思ったよりは軽く、また、香澄愛用の銀色の拳銃より小振りにみえた。
「消音器を付けてやる。ちょっと待て」
そう言って、香澄は僕の手から拳銃を引っ手繰り、筒状の部品を銃口に取り付けた。
「じゃ、撃ってみな」
「それじゃ遠慮なく。っておい!」
撃ってみな、じゃねえよ。
香澄を見ていて分かったことだが、拳銃というのは、発砲するまでにいくつかの手順を踏まなければならない。そこから勉強しなければ。
はあ、とため息をつきながらも、香澄は拳銃を握る僕の手に、そっと掌を添えてきた。
それから、弾倉の交換、薬室への初弾の装填、セーフティの解除などを教わる。
「これで弾が出る。あの木に向かって撃ってみな」
香澄が指差す方向には、一際大きな木が立っていた。幹は十分太く、初めてでも当てられそうだ。が、しかし。
ピシュン、という小さな発砲音がしたのと同時、僕の両肘が突っ張った。
「うぐっ!」
拳銃の反動がこれほど大きいとは。正直、驚いた。小振りな拳銃を扱っているのだから、尚更。
発射された弾丸は、見事に大きく左に逸れ、別な木の幹を軽く削った。
再びため息をつきながらも、香澄は僕の肘や肩、膝の位置を確認した。それから、決定的な事柄を一言。
「お前、引き金を引く時に目をつむっただろ?」
「あ、ああ、ごめん。敵はずっと視界に入れておかなくちゃ」
「そうだ」
いつになく親身に声をかけてくれる香澄。
それから数発、発砲訓練を行い、僕は大まかながら狙いをつけられるようになった。
問題は、凄まじい勢いで精神が疲弊するということだ。
梅子に格闘戦を教わっていた時も、もちろん緊張の糸は張っていた。だが、銃撃と言う行為に求められる『糸の張り詰め具合』はそれを上回っている。
やはり付け焼刃になってしまうか――。
そう思ってぐったりする僕の肩を叩いたのは、実咲だった。
「大丈夫か、拓海?」
「ええ。でも緊張しちゃって」
「それでも、人間は拳銃を向けられたら隙を見せるものだ。香澄と拓海、二人が同時に拳銃を抜ければ、十分牽制にはなるってことだ」
『もう一回、水分補給に行った方がいい』。そう言って、実咲はぽん、と僕の背中を押してくれた。その時、ようやく日が傾きつつあることに、僕は気づいた。
僕が戻った時には、既に竹刀が用意されていた。二本ある。
「拓海、お前はこれを使うといい」
すっと差し出された竹刀を、僕はぎこちなく握る。道着も着用していないのに、大丈夫だろうか。
「我輩から教えられるのは、高校レベルで習う剣道の基礎中の基礎だ。地味かもしれんが、必ず生存戦略上役に立つ」
「はい! よろしくお願いします!」
ぐいっと頭を下げると、後頭部に鈍痛が走った。
「いてっ! 何するんですか、先輩!」
「相手から目を離すなと言われただろう? 癖をつけねばな」
「は、はい……」
僕は右手に竹刀を持たせ、左手で自分の後頭部を擦った。
しかし、そんな呑気な雰囲気は、一瞬で消し飛ばされてしまった。
実咲の手にした竹刀が、真っ赤な光を帯びたのだ。
「うわっ!」
思わず後ずさりする。そんな情けない後輩に向かい、実咲はこう言った。
「この光は、威力を調整するためのものだ。光っていれば、竹刀が物体に与える威力を自在に操作できる」
そうだった。テロリストに急襲された際、実咲は壁を斬るのと敵の鎮圧を、一本の竹刀でやってのけた。壁を斬った後、人間を気絶させる程度の威力に、竹刀の威力を落としたのだ。
訓練ということは、ダメージに関しては心配しなくてもいいのだろう。
「明日が任務なのに、今から傷だらけになっても困るだろう? ただ、訓練である以上、少しは痛い目をみるかもしれん」
まず教えられたのは、基本姿勢だ。僕は早く実戦訓練に移りたかったが、そこは実咲が頑として譲らなかった。基礎のなっていない味方は、敵よりも危険なのだそうだ。
五分ほどのレクチャーの後、ようやく僕は竹刀を握り、実咲と相対した。
「好きなように攻めてくるがいい、拓海」
そういう実咲の手にした竹刀は、僅かに赤く光っている。威力を落としてくれている様子だ。
僕は正眼の構えを取り、実咲の全身をバランスよく見つめる。しかし、実咲は構えを取るどころか、腕を上げようともしない。
「どうした、拓海? 日が暮れてしまうぞ」
別に、僕に焦燥感を与えて意表を突く狙いではなかっただろう。だが、僕はそれを挑発と受け取り、思いっきり竹刀を振り下ろした。
だが、実咲は微動だにしなかった。竹刀を握った右腕以外は。
バシン! という威勢のいい音と共に、僕は自分の敗北を悟った。
大上段、と見せかけて斜めに斬りこんだ大技。しかし実咲は、魔法使いが杖を振るかのような優美な所作で僕の竹刀を防いだ。のみならず、くるり、と手中で回転させ、僕の胸にすっ、と押し当てた。
僕は慌てて距離を取る。バックステップなら慣れたものだ。しかし、次に繰り出されたのは、実咲による反撃だった。
どこかフェンシングを連想させる挙動で、しつこく僕について来る。
「ふっ! はっ! とっ!」
「うおっ、わっ、ひいっ!」
僕は防戦一方だ。
やがて、僕の運も尽きた。背後を確認せずにバックステップを続けたものだから、背中に体育館の外壁が迫っていることに気づかなかったのだ。
「うっ!」
これでは後退できない。実咲の竹刀は防げない。
いや、待てよ? 後ろに行けないのならば、敢えて前方、相手の懐に跳び込むのはどうだろう?
今は訓練中なわけだし……ええい、やってしまえ!
僕はしゃがみ込み、喉元に竹刀の先端が当てられるのを回避。足の裏から力を込めて、全身を実咲目がけて跳ね飛ばした。
「うりゃあああっ!」
竹刀などとうに放り捨てている。ただ、このままやられっぱなしで終わるより、多少痛い目に遭いながらでも相手の予想を裏切りたかった。
そういうわけで、僕は実咲にタックルを見舞ったのだ。
流石にこれには、実咲も驚いたらしい。
一撃で倒れるようなことはなかったが、僕は押し相撲の要領で実咲を追い詰めていく。形勢逆転だ。
竹刀を失っても、実咲が戦意を失うことはなかった。逆に、僕に対する打撃は竹刀で叩かれた時よりも酷い。僕は背中に肘鉄を、腹部に膝蹴りを喰らったが、退こうとはしなかった。
しばらくして、実咲は両腕で僕の肩を突き放し、軽く足払いをかけた。
「ぐぎゃ!」
前のめりに転倒する僕。
「まさか竹刀を捨てるとはなあ」
肩で息をしながら、実咲はそう言った。
「お陰で打撃技を使わせてもらったが、大丈夫か、拓海?」
「……んぐ」
中途半端な音を、喉から捻り出す。
しかし次の瞬間、僕の意識は完全復旧を果たした。警戒心と緊張感、それに絶望感がごちゃ混ぜになった感情が、全身を駆け巡る。
何故か? 自分がこともあろうに、あの大河原実咲の胸に顔を埋めていたと悟ったからだ。
「ま、まあ、相手が女性ならそういう攻撃もあるかもしれんが……」
「はあ!?」
梅子と香澄が素っ頓狂な声を上げる。
「先輩、あの野郎ただの変態じゃないすっか!」
「お兄ちゃん、やっぱり大きい方が好みなのかな」
僕は立ち上がり、埃を払うもそこそこに、弁明の必要を感じた。
ん? 必要? 恐怖心の取り違いじゃないのか。
「わ、我輩ともあろう者に、こうも堂々と破廉恥な真似をするとは。貴様の度胸、認めねばなるまい」
「え? 先輩、何認めてんすか!」
香澄の抗議も虚しく、実咲はやや赤面しながらも、快活に笑い声を上げた。
「じゃあ明日の放課後、校門前で待ち合わせだ。いいな、拓海?」
「ひゃいぃ」
何だか取返しのつかない事態に陥ってしまったが、覆水盆に返らず、である。
記憶を消そうとも思ったが、あの柔らかな感覚は、そうそう忘れられるものではない。
……うん。仕方ない。