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【第二章】

【第二章】


 僕は無言のまま目を開けた。カーテンの隙間から零れてくる朝日が眩しい。時計を見ると、ちょうど午前七時を指したところだった。

 しばしの間、僕はそのままの格好で仰向けに寝そべっていた。片腕を額に載せ、視界を遮る。

 この所作には意味がある。現実と自分の知覚、とりわけ視覚を遮断するという、重要な意味が。単に目をつむるだけでは不十分なのだ。

「僕が、父さんや母さんに手間をかけさせたのが悪かったのか?」

 誰にともなく呟く。

 僕はのっそりと起き上がり、うつ伏せになって枕元の写真立てに置かれたものを手に取った。僕たち家族の写真だ。

 僕の年齢は、恐らく三、四歳。少なくとも、僕が産まれて五年は経っていない。両親の笑顔を見れば、この頃の平田家にはまだ温もりがあったのだと認識できる。

「二人共、今頃なにやってんだろうなあ……」

 腹部に掛けていたブランケットを取り払い、片手に写真立てを握らせたまま、大きく伸びをする。今日は確か、梅子と山林部の捜索に行くことになっていたはず。

 まだ時間はある。僕は半袖・長ズボンのジャージに着替え、手袋や水筒、虫よけスプレーを入れたリュックサックを背負った。梅子に電話をすると、すぐに繋がった。

《もしもし、お兄ちゃん?》

「その呼び方はやめてくれ。取り敢えず、こっちは準備ができた。今からお前の家で合流したいと思うんだが、いいか?」

《うん! お母さんも、おにいちゃ……じゃなくて、拓海くんが来てくれるっていうから、楽しみに待ってるよ!》

「分かった。五分後にお邪魔する」

《あーい!》

 僕はふっ、と安堵のため息をついた。どうやら梅子は、いつもの『元気な梅子ちゃん』に戻ったらしい。昨日、真剣な目で僕を睨んでいた時のような気迫が、今の言葉からは感じられない。

 僕が何か、勘違いでもしたのだろうか?


         ※


 実際のところ、五分もかからなかった。当然だ。梅子の家は、狭い公道を挟んで向かいの一軒家なのだから。

 生垣に沿って進み、玄関扉に繋がる石畳に足を踏み入れる。横に視線を遣ると、生垣に隠されていた縁側が見えた。典型的な和風建築。

 祖父母の家に遊びに行くと、こんな落ち着きを得られるのだろうか。まあ、僕と両親の三人は、そんなに親戚付き合いがなかったのだけれど。

 ぼんやりしながら、僕は歩み慣れた短い距離を進み、玄関前に立った。インターフォンをプッシュ。

 すると、とてててて、というチャーミングな足音と共に、縁側を梅子が走ってくるのが見えた。向こうからこちら側へ、玄関扉が開かれる。

「おはよう、お兄ちゃん! あっ」

 最早僕を『お兄ちゃん』呼ばわりするのは癖になっているのだろう。仕方ないか。梅子とはそれなりに長い付き合いだし。

「いいよ、梅子。今日はどうせ、二人っきりだからな」

「そ、そうだね。そう、だよね」

 ん? もじもじしているようだが、何かあったのか?

「おい梅子、一体どうし――」

 と問いかけたところ、梅子はくるりと半回転し、廊下に向かって声を張った。

「お母さん、拓海くんが来たよ!」

 いやいや、別に遊びに来たわけじゃないんだが。

「あら拓海くん、お久し振り」

 そう言って現れたのは、梅子の母親だった。にこにこと温かい笑顔を浮かべている。

「ご無沙汰してます、おばさん」

「まあ立ち話もなんでしょうから、お上がりなさいな。梅子、飲み物を準備して」

「あーい!」

「本当にいつもごめんなさいね、今日は梅子の買い物に付き合ってくれるんでしょう?」

「え? い、いや、僕は――」

 戸惑った。梅子のヤツ、今日の予定をおばさんに知らせていなかったのか?

 僕が返答に窮していると、梅子が慌てた様子で台所から飛び出してきた。おばさんの死角で腕を振り回したり、その場でスクワットをしたり、ドジョウ掬いのような舞を披露したりしている。

 ああ、何とか口裏を合わせろ、とでも言いたいのか。

「うん?」

 首を傾げるおばさんに向かい、僕は慌てて答えた。

「あー、そ、そうですね! 梅子さんにはいつもお世話になってますから、このくらいのことは……」

「ありがとう、拓海くん。さあ、上がって」

「はい」

 丁重に用意されたスリッパに足をかけ、僕は台所手前で右折。畳敷きで十畳ほどの居間に歩み入った。

 部屋の中央には、古いドラマに出てきそうな丸テーブルが一つ。少し奥には水墨画の掛け軸が配されている。

 反対側に置かれた薄型プラズマテレビが、何ともちぐはぐな印象を与える。これはこれで面白いのだけれど。

「お待たせ、お兄ちゃん! さ、座って座って!」

「あ、ああ。悪いな」

 振り返ると、盆を持った梅子が立っていた。その盆には、麦茶の入ったグラスが二つ載せられている。

 僕はそそくさと座布団に腰を下ろそうとした。しかし、座る前に、仏壇の前で足を止めた。警察官の制服を着込み、制帽を被った男性が、厳めしい表情で写っている。梅子の父親だ。

「なあ、梅子。僕もお焼香させてもらっていいか?」

「あっ、うん」

 梅子の父親は、彼女が幼い頃に殉職したと聞いている。僕と梅子が知り合う少し前のことだそうだ。

 死別したのは随分昔のこと。だが、未だに梅子が父親のことを敬愛しているのは確かである。

 だからこそ、僕もまたこうしてお焼香しようという気にもなるわけで。

「あの、お兄ちゃん」

「ん?」

 ちょうど手を合わせ終えたところで、梅子が声をかけてきた。振り返ると、梅子は俯き、もじもじしながら立っている。

「何だよ?」

「ありがとうね。お父さんのために」

 僕は思わず、ぐっと唾を飲んだ。

「おいおい、湿っぽいこと言わないでくれよ。お前らしくもない。お前のお父さんとは会ったことないけど、立派な人だったんだろ? だったらお前の知り合いとして、僕にもお焼香する義務ってものがあるんじゃないか?」

「知り合い、か」

「ん?」

 僕が軽く腰を折って目線を合わせようとすると、梅子はさっと腕を振った。

「な、何でもないよ! とにかく、今日のことを説明するからそこに座って!」

「お、おう」

 何が梅子を苛立たせているのか分からないが、僕はさっさと丸テーブルの奥側に腰を下ろした。既にジャージに着替えていた梅子が、ちょうど僕の正面で正座をする。

「さっき玲菜ちゃんから連絡があったんだ。今回の作戦について」

「うむ。あ、その前に訊きたいんだけどさ」

「何?」

 僕は小声で、ずいっと身を乗り出した。

「もしかしておばさん、お前がローゼンガールズの一員だって、知らないのか?」

「うん」

 あっさり首肯した梅子を前に、僕はガクッと体勢を崩した。

「何で話を通しておかないんだよ?」

「だって、心配かけたくないもの」

「そ、そうは言ってもだな、もしお前の身に何かあったら――」

「やめて!」

 唐突に叫んだ梅子を前に、僕は怯んだ。同時に自分の口に手を遣る梅子。

 梅子はさっと立ち上がり、廊下の向こうを見つめた。ふっと息をつく。母親には聞こえなかったらしい。

「はあ……。お兄ちゃん、あたしだってお母さんにこれ以上心配かけたくないんだよ」

 僅かに目を潤ませながら、梅子は呟く。

 確かに母親からしたら、夫のみならず娘を亡くすかもしれないのだ。

 そんなプレッシャーを、自分の母にかけたくない。梅子がそう思うのは当然である。

 僕は気まずさを隠すために、麦茶を一気飲みして話題を戻した。

「で、どんな連絡があったんだ? 玲菜からは」

「あ、そうそう! これ見て!」

 丸テーブル上にあった自分のスマホを取り上げる梅子。パパッと操作し、僕の眼前にかざす。

「これは、裏山の地図だな?」

 こくこくと頷く梅子を前に、僕は自分の記憶と地図を脳内リンクさせる。

「トラップが仕掛けられてる可能性もあるから、気をつけろって」

「トラップ?」

 何とも不吉な言葉だ。

「僕がついて行ったら、足手まといじゃないか?」

「それは心配いらないよ! お兄ちゃんは機転が利くから、一緒に来てくれると安心!」

 そう言って、自分のリュックサックからメリケンサックを取り出してみせる。

 にっこりすると、可愛らしさと同時に不吉なオーラが出てくるから困り者だ。

 というか、僕が機転を利かせられるかどうかなんて分からないじゃないか。

「でもなあ梅子、僕だって昨日はたまたまUFOって思い浮かんだだけで……」

「二度あることは三度ある!」

 いや、まだ一度しか起こってないんですけど。

「とにかく、さっさと行って、さっさと片づけてくれば文句ないでしょ?」

「そりゃあそうだけど」

 すると、梅子は颯爽と立ち上がり、廊下に顔を出した。

「それじゃお母さん、お兄ちゃんと一緒に買い物行ってきまーす!」

「気をつけてね、あんまり拓海くんを引っ張り回しちゃ駄目よ」

「あーい!」

「おい、待てよ梅子! お邪魔しましたー!」

 そう言って、僕は梅子の背中を追った。


         ※


 木村家から出発したはいいものの、僕はすぐに『ある決断』を迫られることとなった。

「ぐぬぬぬぬ……」

 僕は財布を取り出し、中身とにらめっこをしている。タクシーを使うかどうか、悩んでしまったからだ。

 暑い。暑すぎる。これでは、裏山に突入する前に歩道で干からびてしまう。トラップが仕掛けられているかもしれないというのに、ここで体力を削られてしまっては目も当てられない。

 今現在は、コンビニで涼ませてもらっているが。

「さっきから何唸ってるの、お兄ちゃん?」

 梅子にポンポンと肩を叩かれながら、僕は五百円玉を出しては戻し、出しては戻し、という無為な作業に勤しんでいた。店員さんの視線が冷たい。買い物をしに入店したわけではない、ということはバレバレなようだ。

「一人暮らしがこんなに困窮するものだとは、知らなかったよ……」

「ほえ?」

 やや屈んで、僕を見上げてくる梅子。薄着であるが故に、なかなかドキリとさせられる光景が彼女の鎖骨あたりに広がっているが、今は金銭問題を解決するのが先だ。

 現在のところ、僕の生活費はきちんと僕の口座に振り込まれるようになっている。両親からだ。

 二人共優秀な研究者だけあって、かなりの額が毎月送金されている。だが、僕はそれで贅沢することを良しとしなかった。

 金銭問題の解決が、すなわち親子問題の解決となるわけではない。そんな馬鹿な話、あり得ない。だから僕は、月額いくら使うかという上限を自らに課している。

 お陰で貯金はそれなりの額に及んでいるが、それはただ、通帳に記載された数字の羅列にすぎない。

 まあ、本当に生活が大変だという人に言わせれば、それこそ贅沢な話かもしれないが。

「ちょっと、お兄ちゃんってば!」

「ん? あ、え?」

 くいくいと袖を引かれ、僕は顔を上げた。そこには、当然のように梅子が立っているわけだが、何故か顔が真っ赤である。

「おい梅子、まさか熱中症にでもなったのか?」

 僕は本気で心配した。そのくらい、店外の気温と湿度は殺人的なのである。

 しかし梅子はかぶりを振って、僕に手招きする。耳を貸せと言いたいらしい。

「何だよ、一体?」

 小声で尋ねる。しかし、彼女の口から発せられたのは、恐るべき返答だった。

「どうしてさっきから、あたしの、その、む、胸を覗いてるの?」

「は?」

 呆気に取られた。

「ちょ、お前、何言ってんの?」

 すると梅子はすーーーっ、と息を吸って、

「どうしてあたしの胸元ばっかり見てるのかって訊いてるの!」

 と、声を張り上げた。

 静まり返る店内。あのボリュームだと、歩道にまで聞こえたに違いない。

 この期に及んで、僕はようやく事態に気づいた。黙って金銭感覚を研ぎ澄ませている間、僕の目線が、無意識のうちに梅子の胸元に固定されていたらしい。

「お、おい待て梅子! そりゃ誤解だ!」

「ふ、ふんっだ! い、いくらあたしが幼馴染だからって、そんな目で見られるのは、えっと、その……。やっぱり駄目!」

 あちゃあ。聞く耳なしかよ。こうなったら、梅子はどこまでも意固地である。

「ぼ、僕はお前をそんな目で見てたわけじゃない!」

「だったらどんな目で見てたのよ!」

「っていうか、お前自身を見てたわけじゃないんだよ!」

 正直、恥ずかしい話ではあったが、僕は自らの危機的財政状況を赤裸々に梅子に晒すことになった。

「だから、僕はタクシー代をどうするか悩んで――」

「あれ? そうだったの?」

 梅子の口調が元に戻った。まるで肩透かしだ。

「なあんだ! ちゃんと領収書貰えば、理事長に請求できるのに!」

「え?」

 寝耳に水とは、まさにこのことである。梅子は少し声を潜めて、

「あたしたちは公共の福祉のために戦ってるんだよ? 自腹を切らされるわけないじゃん!」

 と仰った。

「じゃ、じゃあ、どんな手段を使っても、目的を達成できれば金銭面での問題はなし、ってことか?」

「あれ? 言ってなかったっけ」

『言ってねえよボケ!』という怒声とともに、僕が梅子の頭頂部に拳骨を振り下ろしたのは次の瞬間のことだ。

 その拳が回避され、足払いを掛けられた僕が無様に転倒したのは言うまでもない。


         ※


「ありがとうございました」

「ありがとうございまーす!」

 僕たちは、タクシー運転手のおっちゃんに礼を述べてから車外に出た。

 平日の昼間であるにも関わらず、学校に通っていない僕と梅子。それを見たおっちゃんは、何故か僕たちを恋人同士だと勘違いしたらしい。

「駆け落ちするなら遠慮なく使ってくれ。親御さんには黙っといてやるよ! はっはっは!」

と軽快な台詞を言って走り去っていった。危うく領収書を貰いそびれるところだったじゃないか。

「全く、今日は疲れたな。これからが勝負だってのに……」

「何言ってんの、お兄ちゃん! さあ、早く山登りするよ!」

「へーい……」

 最初は乗り気でなかった僕だが、いざ森に一歩、足を踏み入れてみると、意外なほど心地よいことに気づかされた。

 青々と生い茂った、大木の枝葉。それらが絶妙に日光を遮断して、涼しい空間を生み出している。

 そう言えば、幼稚園の頃に遠足で中腹まで登ったことがあったな。

 山道は今もしっかり整備されているし、嫌な思い出があるわけでもない。僕には、トラップなどという怪しげな言葉とは無縁なように思われた。

『それ』が一つ、ぼとりと降って来るまでは。

「お兄ちゃん、下がって!」

 僕を突き飛ばすようにして、『それ』を睨みつける梅子。彼女の視線の先にあるものを見て、僕は呟いた。

「スライムか、こいつ?」

 ぶよぶよとした不定形の身体。透き通ったマリンブルーの体色。びよん、びよんと跳躍するその挙動。まさに、ゲームから飛び出してきたスライムそのものである。

 僕がそう認識する間に、スライムは梅子に跳びかかった。しかし、梅子の迎撃態勢は万全だ。

 ボクシングの要領で腕を高めに構え、そのままストレートを繰り出す。メリケンサックを装備した拳は、スライムを木端微塵にする、かと思われた。しかし。

「ぐっ!」

 梅子は左腕を顔の前にかざし、防御体勢に移った。スライムがあまりに柔らかすぎて、打撃が通用しないのだ。僅かに飛散したスライムのぶよぶよが、一旦退き下がった本体に合流していく。

「梅子、無事か!?」

「うん! だけど、こいつは手こずるかも!」

 球形に戻るスライム。直径は三十センチほどか。倒しておかなければ進行に支障が出る。

 スライムが二度目の跳躍を試みようとした、まさにその時。

 ざあっ、と突風が吹いた。木の葉がざわざわと音を立てて擦れ、日光が差し込む。

 それを逆光にして、スライムは梅子に向かって跳躍する。梅子は両腕をより顔に近づけ、キックボクシングで見られるハイキックを繰り出した。

「はあっ!」

 すると、今度は気合いが通じたのか、スライムは全身が散り散りになった。

 梅子は警戒を解かずに、じっと飛び散ったスライムの肉片を見つめる。だが、今度は再び合体するようなことはなかった。

 それどころか、見る見るうちに色素が淡くなり、固まってしまったのだ。

 無防備に近づこうとした梅子の肩を押さえ、僕は木の枝を拾い上げて、スライムの残滓を突いてみた。

「固まってる……。これじゃあ元の姿には戻れない。倒した、ってことかな」

「そ、そうなの?」

「ぼ、僕に訊かれても困るけど」

 最初はあれほど生き生きしていたスライム。それが一瞬で凝り固まってしまったのは、どういうわけか?

「先を急ごう。この先にあるんだろ? えーっと、特殊な電波の妨害装置が」

「うん、そうだね。見つけ次第ぶっ壊せ! っていうのが今回の任務だから、早く片付けちゃおうか、お兄ちゃん」

 あたしの背後にいるように、と僕に注意を促す梅子。

 僕たちは、梅子が前方を、僕が後方を警戒するという形で、より深く山林に踏み込んでいった。


         ※


 山に入って、約一時間。最初の戦闘以降は、スライムや、熊や猪といった危険生物、それに他の人間とも出会わず歩みを進めた。

「もうじき頂上だね、お兄ちゃん」

 完全インドア派になっていた僕は、息を切らして『そうか』と短く答える。

 やがて、梅子が歩みを止めた。僕も立ち止まる。するとそこには、祠のようなものがあった。周囲にはお地蔵様が配され、どこか神聖な空気が漂う。

「あ、あった!」

 速足で進行を再開する梅子。僕も続く。

 そこにあったのは、小型のパラボラアンテナと、それに繋がれた怪しげな金属製の箱だ。

「この場で壊せるのか、あれ?」

 尋ねてみてから、僕はそれが愚問だと悟った。梅子が本気でメリケンサックを振るえば、あんな箱の一つや二つ、簡単に壊せるだろう。

「何だか思ったより簡単だったなあ」

 そう呟いた直後のことだった。

 ぼたぼたぼたぼたっ! という落下音が、周囲から聞こえてきたのは。

「どわひっ!?」

 驚いて腰を抜かした僕に対し、梅子は冷静だった。

「お、おい梅子、こんなにたくさん降って来るなんて……!」

「お兄ちゃんは下がってて! 頭を低く!」

「は、はい!」

 僕は素直に応じ、その場にしゃがみ込む。

 スライム共はちょうど僕たちを中心に、円陣を組んで様子を窺っている。

 対する梅子は、油断なく四方に目を走らせて全方位を警戒。頬の高さに掲げた右の拳に、ギラリとメリケンサックが輝いている。

 そこには、昨日僕が見たのとは比較にならない、青くて明るい光が宿っていた。

「さっさと来なさい、この雑魚モンスター共!」

 そう叫ぶ梅子。そりゃあ、ゲームの中で言えばスライムは雑魚だろう。だが、先ほどはたった一体のスライムに手こずったのだ。ざっと二十体近いスライムたちを殲滅するのは大仕事だろう。

 って、他人事じゃないんだな、これが。

 先に動いたのは、スライム共だった。びよん、びよんと跳ね回りながら、だんだんとそのタイミングを合わせていく。そして、一斉に跳びかかってきた。

「はっ!」

 梅子は両の掌を地面に着き、両手両足を使って自分の身体を跳ね飛ばした。高い。ビルの二階くらいにまで跳んだ。

 地上にいたはずの梅子を狙ったスライム共は、互いにぶつかり合って弾き飛ばされる――かと思いきや、連中も馬鹿ではなかった。

 ぐぽん、と水を連想させる音を立てて、スライムは互いに溶け合い、合体したのだ。

「ッ!」

 巨大な一体のスライムと化した敵を眼下に、梅子は落っこちていくしかない。そんな彼女を迎撃するつもりなのだろう、スライムは槍状に身体を変形させ、下方から梅子を狙った。

「梅子っ!」

 スライムの注意を惹こうと、僕は叫んだ。

 すると、僅かにスライム本体が揺らいだ。重心をこちらに移し、ぶよん、といって近づいてくる。

 同時に、梅子を狙っていた槍がズレた。

「とあっ!」

 梅子は両足を広げ、自身の身体に回転をかけた。彼女を掠めたスライムの槍を、途中から蹴りつけてぶっちぎる。僅かに振動するスライム。ダメージは入ったらしい。

 だが、明後日の方向に飛ばされた槍は、それ自体が再び球形を取ってスライムとなった。そして、今度は僕に襲い掛かってきた。

「うわわわっ!」

 思わず腰を抜かす僕。ふと見上げると、梅子は巨大スライムにダイブすることなく、辛うじて木の枝にぶら下がっていた。

 梅子はまだ戦える。となれば、僕が犠牲になる価値はあったというものだ。だが、僕は恐怖に駆られてしまった。怖いものは怖い。

 迫ってくるのは、ミニサイズのスライムが三体。

「こ、こっち来るんじゃねえっ!」

 叫びながら、僕はその辺の石ころやら枝やらを投げつける。しかしそれらは、スライムの動きを鈍らせることはできても、追い払うには至らない。

 このままでは、僕はスライムに取り込まれ、窒息死させられてしまう。

 そんな窮地を救ってくれたのは、やはり梅子だった。ターザンよろしく、木の上を自在に跳躍して接近してきた彼女は、四肢を突っ張るようにして三体のミニスライムを弾き飛ばした。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「あ、ああ!」

「無茶しないで!」

 そう言葉を交わす間にも、ミニスライムの破片はずるずると母体に引き寄せられた。そして何事もなかったかのように、一体の巨大スライムへと戻ってしまう。

 拳は通用せず、蹴りも時間稼ぎにしかならない。どうしたらいい?

 何か武器になるものはないかと周囲を見回した僕は、しかし妙な光景を目にした。

「ん? あれは……」

 そこにいたのはミニスライムである。しかし、他の連中に比べて動きが緩慢だ。母体に同化できないでいる。やがてそいつは、その場で固まって動かなくなってしまった。さっきのスライムと同じだ。

 ふと上を見上げて、僕は合点がいった。

「梅子、日光だ!」

「何?」

「こいつら、日の光が弱点なんだ!」

「本当に!?」

 梅子の顔に喜色が浮かぶ。だが、それはすぐに曇ってしまった。

「でも、どうやってこいつを日の元に引っ張り出すの?」

「そ、それは……」

 考えろ。考えるんだ、平田拓海。お前にはそれしかできないだろうが。

「よし、僕が囮になる。その間に梅子は、木の上を跳び回って枝を切り落とすんだ。そうすれば、少なくとも奴はここにはいられなくなる!」

「さっすがお兄ちゃん!」

 梅子はふっと頬を緩ませたが、

「でも、お兄ちゃんはどうやってスライムの気を惹くつもりなの?」

 と問うてきた。

「そ、それは……」

 相手の知能レベルは不明である。どうやって注意を逸らすかというのは、頭の痛い問題だ。

 少なくとも、スライムは僕や梅子を、きちんと敵として認識している。すなわち、敵味方の判別がつく程度の知性はあるわけだ。

 加えて、これだけ大騒ぎしているにも関わらず、未だに電波妨害装置は無傷である。スライムなんて、あっちこっちに飛散して滅茶苦茶に戦っているように思っていたけれど、きちんと任務の遂行を念頭に置いて活動している。

「だったら……! 梅子、よく聞いてくれ」

「うん!」

 巨大スライムに警戒の目を注ぎながら、梅子が頷く。

「僕は電波妨害装置を担いで逃げ回る。その間に、お前は周りの木の枝を片っ端から叩き切るんだ」

「な、何ですと!?」

 奇妙な訊き返し方をする梅子。僕は持論を梅子に聞かせた。日光の差し込む間がないのなら、作ってしまえばいいのだ。

「木陰をなくそう、っていうことだね?」

「そう、そのための役割分担だ。やれるか?」

「やるっきゃない、でしょ!」

 梅子が不敵な笑みを浮かべるのが、気配で分かった。僕は軽く彼女の肩を叩き、勢いよく駆け出した。ちょうど、スライムを挟んで反対側、電波妨害装置の下へ。

 ひゅん、と空を斬る音がして、僕は慌てて足を止めた。

「うあ!」

 同時にそのまますっ転ぶ。するとスライムから伸ばされた槍が、僕の頭上を掠めていった。

「あっぶねえなあ、おい!」

 スライムは、僕の想像よりも高い知性を備えていた。頭部を執拗に狙ってくる。人間の弱点を、きちんと把握しているのだ。どうすれば殺せるか、ということも。

 飛んだり跳ねたり転んだりを繰り返し、ようやく僕は電波妨害装置のそばに駆けつけた。最後は、続けざまに繰り出されるスライムの槍を回避すべく、スライディングのような格好になったが。

「このっ、このっ!」

 僕はひとまず、パラボラアンテナを足でへし折った。それから装置の本体、金属製の箱を持ち上げる。しかし、

「ぐっ!」

 重い。二十キロくらいはあるのではなかろうか。

「どこかに把手か何か――」

 と言いかけて、僕は自分に迫る殺気を感じ取った。

「やべっ!」

 慌てて飛び退く。すると、僕の手と装置の間を縫うように、槍が伸びてきた。僅かに僕は、手の甲から出血する。

 そう、決して致命傷ではない、些細な負傷である。だが、僕は怯んでしまった。

 こんなにあっさり戦闘状態に巻き込まれ、そこで血を流すことになるとは思いもよらなかったのだ。覚悟が足りなかった、と言ってもいい。

「ぐわわわっ!」

 慌てて手の甲を反対の掌で押さえる。奇妙な生温かさが伝わってくる。

 僕、このまま死ぬんじゃないか?

 そう思った次の瞬間、まさに必殺の槍が、スライムから発せられた。ヤバい、本当に死ぬ!

 僕はぎゅっと目を閉じ、その場にしゃがみ込んだ。無惨にも額を槍で貫通され、そのままあの世へ逝くことになるだろう。

 梅子はどうなってしまうのか? 確かに、逃げ帰ることは可能かもしれない。でも、彼女は戦い続けるかもしれない。いずれにせよ、ここは梅子の父親に陳謝すべきだろう。『娘さんを守れずすみませんでした』と。

 って、あれ? 僕、もうそろそろ死ぬ頃じゃないか? どうして頭が回っている?

 溢れ出す疑問に後押しされ、僕はゆっくりと目を開けた。

「ひっ!」

 槍が、僕の眉間の数センチ前まで迫っている。しかしそれ以上伸びてくる気配はない。

 日光だ。日の光が、頭上から降り注いでいる。どさり、と木の枝が落ちてきたのはその直後のことだ。

「お兄ちゃんに手を出すなああああ!」

 梅子の絶叫に、ぎょっと波打つスライム。既にその時、スライムの石化現象は始まっていた。だから僕を仕留め損なったのだ。

「はあっ!」

 気合一閃、頭上から降ってきた梅子は、青い炎を宿したメリケンサックをスライムに叩き込んだ。白っぽくなっていたスライムの表面に、ピシリ、とひびが入る。

「でやっ!」

 続けざまに殴打され、スライムの一部は完全に砕け散った。

 その頃には、僕もかなり落ち着きを取り戻していた。傷は深くない。装置に把手があることにも気づいた。

 スライムがのたうっている間に、僕はリュックサックからロープを取り出し、把手に通してからランドセルのように背負い込んだ。

「うお!」

 やっぱり重い。だが、これは僕の立てた作戦だ。きちんと梅子が戦い終えるまで、囮として援護してやらねば。

「どわっ! ぐおっ! ひいっ!」

 短い悲鳴を連発しながら、僕はのろのろと辺りを駆けずり回った。その合間にも、梅子の気合いのこもった掛け声が響く。

「はっ! ふっ! でやっ!」

 次々に木の枝が叩き折られ、下草に落下するガサガサという音が聞こえてくる。メリケンサックの調子は良好らしい。

 スライムはといえば、僕と梅子の両方を追っている。しかし、動きはだんだん遅くなってきていた。日光に晒される表面積が増えて、身体が壊死しつつあるのだろう。

「はあああああああっ!」

 一際キレのある声を上げ、梅子は木から跳び下りた。

 次に轟いたのは、雷鳴が雲を裂くような鋭い音。そして、硬い物体が破砕される鈍い打撃音だ。

 がぁん! という響きと共に、スライムは身体の半分を失った。まだ全身が石化したわけではないが、明らかに攻撃速度は落ちた。かなりのダメージを被ったのだろう。

 しかし、スライムも馬鹿ではなかった。すぱっと切れ目が走ったかと思うと、そこから分裂したのだ。残った身体を二分させたことになる。

 僕は敢えてスライムの片割れに近づいた。単に逃げ回るだけでは、スライムを日の元に誘き出すことはできない。多少のリスクは負わなければ。

「おっと!」

 よろめきながらも、僕はスライムから見て斜めに駆け抜ける。スライムは一瞬身を縮め、がばっ、と跳躍して迫ってきた。

「かかったぞ、梅子!」

 僕が叫ぶと、スライムの後方から梅子が接近。勢いをそのままに、思いっきり腕を振りかぶった。

「であああっ!」

 僕の眼前で、スライムはあっという間に石化した。容赦なく叩き込まれる、梅子のメリケンサック。しゃがみ込んだ僕に触れることも叶わず、スライムはガラガラと音を立てて砕け散った。

「あともう少しだな!」

「うん!」

 梅子は振り返り、僅かに残った木陰で震えるスライムを見遣った。パキパキと指を鳴らしている。流石にちょっと、怖いんですけど。

 しかし、スライムも諦めが悪かった。自分が石化してしまうことを覚悟したのか、一本の槍状になったのだ。特攻する気か。

 スライムは、背後の大木に足をつくようにして、自らをこちらに跳ね飛ばす。あっさりこれを回避する梅子。

 だが、僕たちはすっかり油断していた。スライムはぼとり、と地面に落ちたものの、そこで狙いを変えたのだ。無防備な僕に向かって。

「ッ! お兄ちゃん!」

「がはっ!」

 スライムは文字通り、一矢報いてみせた。僕を串刺しにしたのだ。

「お兄ちゃんっ‼」

 背中から腹部にまで走る衝撃に、ばったりと倒れ込む僕。意識が遠のく。梅子の声が、だんだん小さくなっていく。そのまま視界が暗くなって――。

 が、またしても僕は存命だった。

 うつ伏せに倒れた僕。うつ伏せということは、背後から槍で突かれたことになる。と、いうことは。

「あれ? お兄ちゃん、大丈夫……?」

「あ、ああ」

 槍は、僕の背中に到達しなかった。背負っていた電波妨害装置が、偶然にも盾となったのだ。ぷしゅん、と可愛らしい音を立てて、装置は煙を上げ始めた。

「あ、あちっ」

 慌てて装置を放り出し、山火事にならないよう、水筒の水をかける僕。

「なあ梅子、これ、爆発したりしないよな?」

「……」

「梅子?」

 立ち上がり、振り返った僕は、しかし無理やり視線を捻じ曲げられた。今度は思いっきり仰向けに転倒する。っていうか、串刺しにされかけた時より勢いよくぶっ飛んだのはどうしてなのか。

「馬鹿っ!」

「な、え?」

 取り敢えず、状況を確認しよう。目の前には、完全に石化して粉々になったスライムの残骸が散らばっている。

 そこに立っているのは梅子だ。メリケンサックを装備していない、左腕を振りかぶった姿勢で、息を荒げている。

 なるほど、僕は梅子に殴り飛ばされたらしい。じぃん、と右の頬が熱を帯びている。痛みを感知するとともに、こりゃ腫れそうだな、などと考える。

 梅子は僕と視線を合わせ、件の電波妨害装置のように、頭頂部から煙を上げていた。

「あのー、木村梅子、さん?」

 腕を下ろし、ぶるぶると拳を震わせる梅子。その目には、溢れんばかりに涙が溜まっていた。

「もしかして、激おこ状態でいらっしゃいますか?」

 頬を引き攣らせながら、僕は尋ねてみた。するとあろうことか、梅子はずんずんと僕に近づいてくるではないか。

「ちょ、ちょっと待て! 気に障ることをしたんなら謝るよ! だからもう暴力沙汰は勘弁してくれ!」

 へたり込んだ僕の前にひざまずく梅子。ヤバい。また殴られる。

 僕が歯を食いしばり、ぎゅっと目を閉じた次の瞬間、右頬に再び衝撃が走った。しかし、

「いたっ!」

 と、言ってはみたものの、大した痛みではない。そっと指先で触れられているような感じだ。ゆっくり目を開けてみたのと、梅子が抱き着いてきたのは同時だった。

「お、お兄ちゃんの馬鹿ぁ! あんなに刺されて、あんな声出して、あんな無様に倒れ込んで……。死んじゃったと思ったじゃない!」

『そうなのか?』と尋ねる余裕はない。僕の胸に顔を押し付け、わんわん泣き喚く幼馴染。ひとまず、彼女を安心させるのが、僕にとっての最重要任務のようだ。

「いや、あれは、その……」

 すると梅子は、がばりと顔を上げた。怒り心頭、汗と涙で滅茶苦茶だが、何故か僕は、そんな顔をする梅子を前に、心臓が飛び跳ねるのを感じた。

「僕は、まあ、大丈夫だよ」

「……本当?」

 こくこくと頷いてみせる。それから梅子は、再び泣き始めた。

 結局僕は、彼女が落ち着くまで頭を撫でてやることしかできなかった。


         ※


 下山したのは、ちょうど正午頃だった。

 残念ながら、今のところ食糧は装備していない。僕も梅子も、水分補給には気をつけていたが、流石に弁当は持って来なかった。仕方ない。持って来ていたとしても、飛んだり跳ねたりで中身はぐしゃぐしゃになっていただろうから。

 僕は山道を下りきったところで、再びタクシーを呼んだ。木陰に入り、梅子の頭に手を載せてやる。

 梅子はもう泣いてはいなかったが、何だか話しかけづらい雰囲気を漂わせてる。ううむ、不肖この平田拓海、女心を察するには修行が足りない模様でござる。

「お待ちどうさま~。ってあれぇ? さっきの兄ちゃんたちでねぇかい!」

「あ」

 何の偶然か、そのタクシーの運転手は、先ほど僕たちを運んでくれたあのおっちゃんだった。向こうも驚いて素が出たらしく、田舎弁丸出しになっている。

「ど、どうも」

「なんだい、あんちゃんら仲違いでもしたか? ほれ嬢ちゃん、これ使いな」

 おっちゃんはポケットティッシュを一つ、梅子に手渡した。梅子は勢いよく鼻をすすりながら、『ありがとうございます』と思しき感謝の言葉を述べた。

「さ、乗った乗った!」

 後部座席のドアが開き、人工冷気が僕たちを車内へいざなう。先に梅子を乗せてやり、続いて僕が座席に腰を下ろす。シートベルトを締めると同時に、タクシーは出発した。

「にしても、何があったんじゃけ、あんちゃん?」

「え?」

「せっかくワシが駆け落ちの片棒担いでやったに、もう戻る気なんけ?」

 どこのものとも知れぬ方言で、おっちゃんは問うてくる。

「だ、だから駆け落ちじゃありませんよ!」

「そだこと言ってっと! だーから嬢ちゃんのこと泣かせたんだべ?」

「違います! 僕たちは――」

 と言いかけて、梅子に思いっきり足を踏まれた。

「いてっ! 何すんだよ?」

 梅子の言いたいことは分かった。ローゼンガールズの任務は、秘密裡に遂行されねばならない。ここで僕がおっちゃんに、『スライムと戦ってました!』などと言ったら大問題だ。

 しかしそれ以上に、梅子がぷいっと顔を逸らしてしまったのは何故なのか? それが気になった。

「まあまあ、こういうのは互いの気持ちが大事じゃけ、焦ることはなか! 自分たちにしか歩めない将来、未来っちゅうんか? ゆっくり探していったらええ」

 はっはっは! と快活に笑うおっちゃん。何だか凄くカッコいいことを言っていたような気がする。いや、それこそ気のせいか?

 僕が俯くと、おっちゃんも余計な口を挟むべきではないと判断したらしい。そのままタクシーは田園地帯を抜け、住宅街の一角、木村家の前に停車した。

「ほんじゃま、気張ってな、あんちゃん! 嬢ちゃんに悪い虫がつかへんように、注意しいや! はっはっは!」

 そのまま颯爽と走り去るタクシー。

「何だったんだ、あのおっちゃん……?」

 呆然として見送る僕の背中に、軽い鈍痛が走った。

「どうした、梅子?」

「今日は解散。明日の放課後、香澄ちゃんと一緒に理事長室に来て」

 そう言って、梅子はさっさと歩きだし、『ただいまー』と言いながら玄関扉の向こうに消えた。

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