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第9話:『悪役令嬢、真実を暴く』

 東京の夜景は、エルヴィーナ=シュヴァルツの冷徹な瞳に、無数の情報として映し出されていた。


 高層ビルの屋上での出来事以来、エルヴィーナは、この世界の「超常組織」の正体と、彼らが維持しようとする『秩序』の根源を探るべく、本格的な調査を開始していた。まどかの才能が描いた『領域』の図は、その突破口となる確かな手掛かりだった。


 「南雲まどか。貴女の描いたこの図は、やはり興味深いものね」


 エルヴィーナは、自室でまどかの描いたスケッチを広げ、冷たい声で呟いた。スケッチブックには、あの男の『領域』の構造が、より緻密に、そして、様々な角度から描かれている。


 まどかは、エルヴィーナの隣で、恐る恐るといった様子で座っていた。彼女の瞳は、エルヴィーナの言葉に、微かに揺れている。


 「この『領域』は、この世界の『ことわり』を歪める力を、強制的に排除する。つまり、私の魔力のような、異世界由来の力は、この世界では『異物』として認識され、排除される、というわけね」


 エルヴィーナは、指先でスケッチの線をなぞった。彼女の脳内では、99回の転生で得た膨大な知識が、この世界の法則と、男の『領域』の仕組みを、高速で照合している。


 「愚かな。そんな小細工で、このエルヴィーナ=シュヴァルツの力を、永遠に封じ込められるとでも思ったかしら」


 エルヴィーナは、不敵に笑った。彼女は、すでに『領域』の弱点を見抜き始めていた。それは、この世界の『理』に縛られるがゆえの、避けられない欠陥だった。


 「南雲まどか。貴女は、この『領域』の『歪み』を、もっと鮮明に描きなさい。その『歪み』こそが、彼らの『秩序』を崩壊させる、唯一の鍵となるわ」


 エルヴィーナの言葉に、まどかは、はっと顔を上げた。彼女の瞳に、エルヴィーナへの絶対的な信頼と、そして、自分の才能が、エルヴィーナの役に立つことへの、微かな喜びが灯る。


 その日の夜、エルヴィーナは、まどかを連れて、都心から離れた、とある廃墟へと来ていた。そこは、かつて、この世界の『理』に反する実験が行われていた場所だという。エルヴィーナが図書館で得た情報の中に、その場所の存在が記されていたのだ。


 「この場所には、貴様ら『超常組織』が隠蔽してきた、この世界の真実が眠っているようね」


 エルヴィーナは、冷たい声で呟いた。廃墟の空気は、重く、そして、微かに魔力の残滓が漂っている。


 「南雲まどか。貴女の瞳で、この場所の『真実』を、私に示しなさい」


 エルヴィーナは、まどかの手を引いて、廃墟の奥へと進んだ。まどかは、エルヴィーナの言葉に従い、周囲を注意深く見つめる。


 すると、まどかの瞳に、奇妙な光景が映り始めた。壁に刻まれた、肉眼では見えないはずの紋様。空中に漂う、微細なエネルギーの粒子。それらは、この世界の『理』に反する、異質な存在の痕跡だった。


 まどかは、震える手でスケッチブックを取り出し、見えるものを、ひたすらに描き続けた。その絵は、まるで、この世界の裏側をそのまま切り取ったかのような、おぞましくも美しいものだった。


 エルヴィーナは、まどかの描いた絵を、冷徹な瞳で見つめていた。その絵には、この世界の『理』を歪める、ある種の『装置』の存在が示されていた。それは、あの男の『領域』と酷似した構造を持ち、この世界の『秩序』を維持するための、根源的なシステムの一部であるようだった。


 「なるほど。貴様ら『超常組織』は、この世界を、自らの都合の良いように管理するために、このような『装置』を設置していた、というわけね」


 エルヴィーナは、口元に嘲笑を浮かべた。


 「愚かな。このエルヴィーナ=シュヴァルツの知らぬ間に、このような偽りの秩序を築き上げようなどと、身の程を知りなさい」


 エルヴィーナは、その『装置』に手を翳した。漆黒の魔力が、彼女の掌から溢れ出し、装置を包み込む。


 キィィィィン!


 高音が響き渡り、装置が、エルヴィーナの魔力に反発するように、激しく光を放った。だが、エルヴィーナは、その反発をものともせず、さらに魔力を注ぎ込む。


 「貴様らの『秩序』など、この私の魔力の前では、脆い砂上の楼閣に過ぎないわ。さあ、崩壊しなさい」


 エルヴィーナの言葉と共に、装置から、ミシミシと亀裂が入る音が響き渡った。


 その瞬間、廃墟全体が、激しく揺れ始めた。壁に亀裂が走り、天井から瓦礫が落ちてくる。


 「南雲まどか。貴女は、私の傍を離れてはならないわ。この程度の崩壊で、貴女を失うなど、愚かすぎる」


 エルヴィーナは、まどかの手を強く握り、廃墟から脱出した。


 廃墟は、轟音と共に崩れ落ちていく。その光景を、エルヴィーナは冷徹な瞳で見つめていた。


 「これで、貴様らの『秩序』の一端を、破壊してあげたわ。さあ、出てきなさい。このエルヴィーナ=シュヴァルツが、貴様らの偽りの秩序を、根底から断罪してあげるわ」


 エルヴィーナの言葉は、崩れ落ちる廃墟の音に掻き消されることなく、夜空に響き渡った。


 最強の悪役令嬢は、現代日本で、ついに「超常組織」の隠された真実の一端を暴き、彼らの『秩序』への反逆を開始した。そして、その隣には、彼女の「獲物」である少女が、その全てを目撃していた。

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