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商業都市ルスタ

ルスタの街は、四人の想像をはるかに超える賑わいだった。石畳の広い通りには無数の露店が並び、あらゆる国や種族の人々が行き交っていた。空には飛行型の魔法装置が行き交い、建物には色とりどりの旗や看板が掲げられていた。


「うわぁ…マジすごい!」


リンは目を輝かせて周囲を見回した。


「MMOの大都市マップみたいだけど、リアルじゃん!」


「これが文明というものか…」


アイリスは感嘆の声を上げた。


「わしの村では見たこともない光景じゃ」


「人が多すぎて、筋肉の鍛え方も違うんだろうね!」


ベラは通りを行き交う人々の体格を興味深そうに観察していた。


レオは地図を手に取り、現在位置を確認していた。


「ここが西門で…まずは宿を探さないと」


「そうじゃな。疲れた体を休めるのが先決じゃ」


アイリスは同意した。


彼らが歩いていると、様々な呼び込みの声が聞こえてきた。


「いらっしゃい!特製魔法のお守り、今日だけの特別価格だよ!」


「新鮮な果物はいかが?遠い南の国から運んできた珍しい品々だよ!」


「武器の修理、強化はこちらへ!冒険者特別割引中!」


リンは目を輝かせ、あちこちの店を覗きたがった。


「ねえねえ、見て!あの武器屋、超レアっぽい剣飾ってるよ!」


「そして、あの魔法素材の店も見事な品揃えじゃ」


アイリスも興味津々だった。


「でも、お金があまりないんじゃ…」


四人はそれぞれのポーチの中身を確認した。ノホホ村を出発する時に持っていたお金は、かなり少なくな

っていた。


「うーん、宿代と食事代で精一杯かも…」


レオは心配そうに言った。


「筋肉は食べ物からできるからね!食事は大事だよ!」


ベラは真剣な顔で言った。


彼らが通りを歩いていると、一人の少年が走ってきて、レオにぶつかった。


「あ、ごめんなさい!」


少年は慌てて謝り、走り去った。


レオは不思議に思いながらも、「大丈夫だよ」と答えた。その後、彼はふとポーチに手をやり、ハッとし

た。


「お金が…なくなってる!」


「えっ!?」


三人は驚いた顔でレオを見た。


「今の少年、スリだったのね!」


リンが怒りの声を上げた。


「追いかけるよ!」


彼女は少年の姿を探して走り出そうとしたが、アイリスが止めた。


「待ちなさい。この人混みでは無理じゃ」


「でも、大事なお金が…」


「こらこら、何をしている?」


厳しい声が彼らの背後から聞こえた。振り返ると、鎧を着た衛兵が立っていた。


「あの、すみません」レオが説明した。「今、少年にお金を盗まれたみたいで…」


衛兵はため息をついた。


「また赤い月の子供たちか…」


「赤い月?商人さんが言ってた盗賊団ですか?」


レオは驚いた様子で尋ねた。


「そうだ。最近、彼らは子供を使ってスリをさせている。捕まえたところで、子供たちは何も話さないん

だ」


衛兵は周囲を見回した。


「今日はもう諦めた方がいい。お金を取り戻すなら、赤い月の巣窟を探すしかないが…それは危険すぎ

る」


「そうですか…」


レオは落胆した様子で頷いた。


「気をつけるんだな、若者たち。ルスタは光の裏に闇もある街だ」


衛兵はそう言い残し、巡回を続けた。


「どうしよう…」


レオは困った表情で仲間たちを見た。


「宿代もなくなっちゃった」


「うむ…これは困ったのう」


アイリスも心配そうだった。


「野宿するしかないかな?」


ベラは提案した。


「いや、街の中での野宿は禁止されているところが多いわ」


リンは首を振った。


彼らが途方に暮れていると、近くで優しい女性の声が聞こえてきた。


「おや、困っているようですね」


声の主は、明るい色の服を着た中年の女性だった。彼女は小さな料理店の前に立っていた。


「よかったら、うちで働きませんか?宿と食事を提供しますよ」


「本当ですか?」


レオは希望の光を見つけたように明るい声で言った。


「ええ。実は人手が足りなくて…」


女性は微笑んだ。


「私はマーサ。この『銀の小皿亭』のオーナーです」


四人は互いに顔を見合わせ、頷いた。


「お願いします!」


レオは深々と頭を下げた。


「ありがとうございます」


「じゃあ、中へどうぞ」


マーサは彼らを店の中へ案内した。


『銀の小皿亭』は小さいながらも清潔で温かみのある店だった。数テーブルが置かれ、カウンターの向こ

うには厨房があった。


「仕事は簡単よ」


マーサは説明した。


「料理の配膳、片付け、店の掃除。時々買い出しにも行ってもらうわ」


「任せてください!」


リンは意気揚々と言った。


「前世ではレストランのバイト経験あるし、余裕です!」


「わしも家事は得意じゃ」


アイリスも自信満々だった。


「筋肉使う仕事、大歓迎!」


ベラは両腕を曲げてポーズを取った。


「皆さん、やる気がありますね」


マーサは嬉しそうに笑った。


「では、まずは荷物を置いて、お風呂に入りましょう。二階に部屋を用意していますよ」


マーサは彼らを二階へ案内した。そこには二つの小さな部屋があった。


「女の子たちはこちらの部屋、男の子はこちらです」


「ありがとうございます」


四人は心からの感謝を述べた。


その夜、四人は『銀の小皿亭』の手伝いをした。リンは接客を担当し、アイリスは厨房でマーサを手伝

い、ベラは重い食材や樽を運び、レオは皿洗いと掃除を担当した。


閉店後、マーサは彼らに暖かい食事を振る舞った。


「皆さん、本当によく働いてくれました」


マーサは微笑んだ。


「どこから来て、どこへ行くところなの?」


「私たちはノホホ村から来ました」


レオは正直に答えた。


「そして、東の火山にある神殿に向かっています」


「火山の神殿?」


マーサは驚いた様子で言った。


「危険な場所ですよ。最近、火山地帯では魔物の出現が増えているって噂です」


「でも、行かなきゃいけないんです」


リンは真剣な表情で言った。


「私たちには使命があるから」


「うむ、世界の命運がかかっておるのじゃ」


アイリスも頷いた。


マーサは彼らをじっと見つめた後、静かに言った。


「あなたたち…もしかして、勇者様たちですか?」


四人は驚いて顔を見合わせた。


「どうして…?」


レオが尋ねた。


マーサは立ち上がり、棚から古い本を取り出した。


「この町には古い伝説があります。『四人の勇者が再び現れ、世界の危機に立ち向かう』という予言で

す」


彼女は本を開き、一枚の絵を見せた。そこには四人の人物が描かれ、彼らが持つ武器や特徴が詳細に記さ

れていた。剣の勇者の右目は青く光り、弓の勇者は赤い装備、魔法の勇者は緑の杖、そして盾の勇者は黄

色い盾を持っていた。


「これは…」


レオは息を呑んだ。


「私たちそのものだ」


「伝説はさらに続きます」


マーサは本の次のページをめくった。


「勇者たちは四つの神殿で試練を受け、真の力を目覚めさせる。しかし、闇の軍勢も同時に動き出す…」


「マジかよ…私たちの冒険、予言されてたんだ」


リンは興奮と不安が入り混じった声で言った。


「これは偶然ではないのう」


アイリスは思案げに言った。


「運命に導かれておるのじゃ」


「筋肉に予言があるなんて!」


ベラは目を輝かせた。


マーサは彼らを真剣な表情で見つめた。


「あなたたちが本当に伝説の勇者なら、この町でも注意が必要です。魔王の手下たちは、すでにあなたた

ちを探しているかもしれません」


「魔王の手下…」


レオは思い出したように言った。


「私たちは既に『漆黒の斧』ダークアクスと戦いました」


「まさか!」


マーサは驚いて手を口に当てた。


「魔王四天王の一人と…そして生き延びたのですか?」


「何とかね」


リンは肩をすくめた。


「でも、完全に勝ったわけじゃないよ」


「それなら、なおさら用心が必要です」


マーサは立ち上がり、窓の外を見た。


「この町にも、魔王の手先がいるという噂があります。特に『赤い月の一味』は怪しいと言われていま

す」


「さっきお金を盗まれたのも…」


レオは考え込むように言った。


「偶然ではないのかもしれない」


「明日、街で情報を集めましょう」


マーサは提案した。


「炎の神殿への安全な道順と、『赤い月の一味』について調べる必要がありますね」


「ありがとうございます、マーサさん」


レオは心からの感謝を述べた。


「私たちを信じてくれて」


「伝説が現実になるのを見るのは、年寄りの夢ですよ」


マーサは微笑んだ。


「さあ、今日は休みなさい。明日からが本当の冒険の始まりです」


四人は感謝の言葉を述べ、それぞれの部屋へと向かった。


レオは窓辺に立ち、夜のルスタの街を見下ろした。明かりで輝く街並みの向こうに、かすかに山の影が見

えた。その先には炎の神殿があり、リンの試練が待っている…


そして、どこかで左目が青く光る少女が彼らを探しているかもしれない。レオは右目に手を当て、明日か

ら始まる本格的な冒険に思いを馳せた。

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