もう一つの邪眼
第1節:追いつく者
古代神殿から数キロ離れた森の中、一人の少女が急ぎ足で進んでいた。彼女の名は少女。左目が時折、青く光っていた。
「もうすぐ…」
彼女は星型のペンダントを握りしめ、その感覚に従って進んでいった。
突然、空が暗くなり、雷鳴が轟いた。少女は足を止め、警戒して周囲を見回した。
「誰かいるの?」
木々の間から、黒い鎧を着た巨大な騎士が現れた。ダークアクスだった。彼の鎧には大きなヒビが入り、
紫の光が漏れ出していた。
「おや、もう一人の邪眼の持ち主か」
ダークアクスの声は低く、危険な響きを持っていた。
「ダークアクス…」
少女は警戒しながらも、動じない様子で言った。
「私を知っているとは…興味深い」
ダークアクスは一歩前に出た。
「君の左目…まさか」
「そう、私も時を見る邪眼の力を持っている」
少女は左目から青い光を放った。
「でも私の場合は、未来ではなく過去を見る力よ」
「なるほど、対となる力か」
ダークアクスは興味深そうに言った。
「我が主は、お前のような力も欲している。おとなしく来るがいい」
「残念だけど、その申し出はお断りするわ」
少女は小さな短剣を抜いた。刃は青い光を放っていた。
「レオを見つけるまで、誰にも邪魔はさせない」
「レオ?邪眼の少年か…」
ダークアクスは思案げに言った。
「君とその少年には何か繋がりがあるようだな」
「それは…」
少女は言いかけたが、急に左目に手を当てた。過去の光景が彼女の脳裏に浮かび上がる—レオと三人の少
女たちが神殿を後にする姿、彼らが東へと向かうこと…
「東の火山…」
彼女は思わず呟いた。
「ほう、炎の神殿か」
ダークアクスは得意げに言った。
「有益な情報だ。礼を言うぞ」
「やだ、私…」
少女は自分の不注意を悔やんだ。
「心配するな。彼らを殺すつもりはない。力が必要なだけだ」
ダークアクスは巨大な斧を振りかざした。
「だが、お前は邪魔になる。ここで処理させてもらおう」
紫の光を放つ斧が振り下ろされた。少女は短剣で受け止めようとしたが、力の差は歴然だった。彼女は吹き飛ばされ、木に激突した。
「くっ…」
彼女は痛みに顔をゆがめながらも立ち上がった。
「まだ立てるとは…なかなかだ」
ダークアクスは再び攻撃の姿勢を取った。
少女は左目の力を最大限に引き出した。彼女の前に過去の光景が次々と現れる。ダークアクスの戦い方、
弱点、そして…
「あなたの弱点は…ここ!」
彼女は驚くべき速さで動き、鎧のヒビに短剣を突き立てた。
「ぐあっ!」
ダークアクスは痛みに唸った。
「なぜ分かった…?」
「私の邪眼は過去を見る。あなたがレオたちと戦った時の記憶も見えるわ」
少女は短剣を引き抜き、距離を取った。
「なるほど…厄介な力だ」
ダークアクスは鎧の傷から紫の霧のようなものを漏らしながら言った。
「だが、今日はここまでだ。我が主の元に戻り、次の手を打たねばならない」
彼は紫の光に包まれ始めた。
「警告しておく。四人の勇者たちに伝えよ。彼らが神殿を巡るなら、我々も行動を起こす。世界の運命
は、既に決まっているとな」
そして、ダークアクスは消え去った。
少女は膝をつき、荒い息をついた。
「危なかった…」
彼女は星型のペンダントを見つめた。
「でも、これでレオの居場所が分かったわ」
少女はゆっくりと立ち上がり、東へと続く道を見た。
「行かなきゃ。警告しないと…」
彼女は決意を新たに、歩き始めた。
一方、魔王城と呼ばれる暗黒の城塞では、ダークアクスが一人の影のような存在の前にひざまずいてい
た。
「申し訳ありません、我が主。勇者たちの力は予想以上でした」
影は低く、不気味な声で応えた。
「気にするな、ダークアクス。彼らの行動が分かっただけでも収穫だ」
「はい。彼らは四つの神殿を巡るようです。最初は東の火山にある炎の神殿です」
「なるほど…」
影はゆっくりと動いた。
「では、『緋色の鞭』セリアを火山に向かわせよう」
「我が主、もう一つ報告があります」
ダークアクスは緊張した様子で言った。
「もう一人の邪眼の持ち主を見つけました。少女です。彼女は過去を見る力を持っています」
影は沈黙した後、興味深そうに言った。
「両方の邪眼が揃ったか…運命の輪は確かに回り始めたようだ」
影はダークアクスを見た。
「四天王全員に命じる。勇者たちを追え。邪眼の力を手に入れるのだ」
「御意」
ダークアクスは深く頭を下げた。
影は独り言のようにつぶやいた。
「千年の時を経て、再び対決の時が来たか…今度こそ、世界は我がものとなる」
東の地平線に朝日が昇り、新たな日の始まりを告げていた。四人の勇者たちは炎の神殿へと向かい、少女
は彼らを追い、そして魔王の手下たちも動き出していた。運命の歯車は、もはや止められない速度で回り
始めていた。
第2節:新たな旅立ち
「マジでやばかったよね、あの戦い!」
リンは興奮気味に話しながら、小道を歩いていた。四人の勇者たちは古代神殿を後にし、東の火山を目指
していた。
「わしも長い人生の中で、あれほどの戦いは初めてじゃった」
アイリスは新しい杖を手に、ゆっくりと歩いていた。
「前世の記憶だと、もっとすごい戦いもあったと思うけど…この体で実際に体験するのは別物だね」
「筋肉が覚えてないからね!」
ベラは元気よく言った。彼女は黄色い盾を背中に背負い、小さな体で懸命についていた。
「ちゃんと鍛えれば、筋肉も記憶を取り戻すよ!」
レオは少し遅れて歩きながら、青い聖剣を見つめていた。剣は今や普通の大きさになり、鞘に収まってい
た。
「みんな、これからどうするつもり?」
彼の問いかけに、三人は足を止めた。
「どうするって…もちろん四つの神殿を巡るんじゃない?」
リンは当然のように答えた。
「せっかくのマジファンタジー展開、全力で楽しまないと!」
「うむ、わしらには使命があるのじゃ」
アイリスは真剣な表情で言った。
「前世の記憶によれば、世界の危機は冗談ごとではない。われらが立ち向かわねば」
「筋肉も魂も鍛え上げる旅になるね!」
ベラは拳を握りしめた。
レオは少し考え込む様子を見せた。
「でも、僕たちはまだ弱い。ダークアクスとの戦いでも、神殿の力がなければ勝てなかった」
「だからこそ旅が必要なんだよ!」
リンは力強く言った。
「レベル上げのためにも冒険は欠かせないじゃん!」
「それに」アイリスが付け加えた。「各神殿で試練を乗り越えれば、それぞれの力が目覚めるというのだ
ろう?」
レオは頷いた。
「うん、その通りだね。まずは東の火山、炎の神殿を目指そう」
彼らが歩き始めると、レオはふと空を見上げた。何か見えない存在に見守られているような、不思議な感
覚があった。
一行は森を抜け、東へと続く大きな街道に出た。そこには多くの旅人や商人たちが行き来していた。
「わあ!すごい人!」
ベラは目を輝かせた。
「前世でもこんなに賑やかなところにいたことあるかな?」
「商業都市ルスタへの街道じゃな」
アイリスが説明した。
「東の火山へ行くには、まずルスタを通過せねばならん」
「マジ?RPG定番の大都市イベントだ!」
リンは興奮して飛び跳ねた。
「きっとそこで重要なサブクエストが発生するよ!」
「何はともあれ、装備と食料を調達しなければならないのう」
アイリスはポーチの中身を確認した。
「資金は…心もとないが、なんとかなるじゃろう」
彼らが街道を歩いていると、遠くからカラカラと車輪の音が聞こえてきた。振り返ると、一台の大きな商
人の荷車が彼らに追いついてきた。
「おや、若い旅人たちじゃないか」
荷車を操る中年の商人が声をかけた。
「ルスタへ向かうなら、よかったら乗せていってやるよ」
「本当ですか?」
レオは驚いた様子で尋ねた。
「ありがとうございます」
「いや、これでも恩返しさ」
商人は笑顔で言った。
「昨日、この街道で山賊に襲われそうになったんだが、突然現れた若い娘さんに助けられてね。彼女も東
へ向かうと言っていた。若者たちを見かけたら助けてやってくれと頼まれたんだ」
「若い娘さん?」
レオは不思議そうに尋ねた。
「そうさ。君たちと同じくらいの年齢かな。特徴的だったのは、彼女の左目だ。時々青く光るんだ」
四人は驚いて顔を見合わせた。
「左目が…青く?」
レオは思わず右目に触れた。
「そうだ。不思議な力を持った子のようだった」
商人は荷車の後ろを指した。
「さあ、遠慮なく乗りなさい。日が暮れる前にルスタに着きたいからね」
四人は礼を言い、荷車に乗り込んだ。カラカラという音とともに、荷車は再び動き出した。
「左目が青く光る少女…」
レオは考え込みながら呟いた。
「もしかして…僕と同じ力を持つ人?」
「これは主人公の隠された過去フラグだね!」
リンは興奮して言った。
「絶対に運命の出会いがある予感!」
「うむ、クロノス神官も『お前たちだけが勇者ではない』と言っておったな」
アイリスは思い出したように言った。
「助けとなる仲間がいるのかもしれんの」
「筋肉仲間が増えるかも!」
ベラも嬉しそうだった。
荷車はゆっくりと東へと進んでいった。レオは空を見上げ、まだ見ぬ左目の少女のことを考えていた。彼
女は一体何者なのか、そして彼らの運命とどう関わってくるのか—
「あ!街が見えてきた!」
リンの声で、レオは思考から覚めた。遠くに巨大な城壁と、その上に立ち並ぶ塔が見えていた。
「あれがルスタか…」
レオは感嘆の声を上げた。
「うむ、東方最大の商業都市じゃ」
アイリスが説明した。
「あらゆる物資と情報が集まる場所。わしらの旅にとって重要な拠点となろう」
「街に入ったら、まずは宿を取らなきゃね!」
ベラが実用的なことを言った。
「それから、情報収集だ!」
リンは目を輝かせた。
「街の噂話から重要な情報をゲットするのは冒険の基本!」
商人は笑いながら言った。
「君たち、初めての大冒険かい?」
「はい」レオは正直に答えた。
「僕たちはまだ旅を始めたばかりです」
「そうかそうか。ルスタは初心者には少し危険な街でもあるんだ。気をつけるんだよ」
商人の言葉に、四人は緊張した面持ちになった。
「危険?どんな?」
リンが尋ねた。
「まあ、普通の危険さ。詐欺師や盗賊団もいるし、最近は魔物の出現も増えている。特に気をつけるとい
いのは『赤い月の一味』という盗賊団だ」
「赤い月の一味…」
レオはその名を繰り返した。
「そうだ。彼らは特に若者を狙うという噂だ。何か特別な目的があるらしいが…」
商人はここで言葉を切った。
「とにかく、街では群れて行動するといい。特に夜は危険だからね」
「わかりました。ありがとうございます」
レオはお礼を言った。
荷車は次第にルスタの城壁に近づいていった。巨大な門には多くの旅人や商人たちが出入りし、門番が厳
しく検査していた。
「着いたぞ、若者たち」
商人は荷車を門の前で止めた。
「ここからは自分たちで進むんだ。気をつけて旅を続けなさい」
四人は荷車から降り、商人にお礼を言った。
「炎の神殿に行くなら、ルスタの東門から出て、真っ直ぐ三日ほど歩けば火山地帯に着く」
商人は最後のアドバイスを残し、荷車を動かして去っていった。
四人は巨大な門の前に立ち、互いに顔を見合わせた。
「いよいよ大都市だね!」
リンは興奮した声で言った。
「なんかドキドキする!」
「わしも若い頃から大都市には憧れておったが、実際に来るのは初めてじゃ」
アイリスも少し緊張した様子だった。
「筋肉鍛えるチャンスかも!都会の人は筋肉つけてるのかな?」
ベラは好奇心いっぱいの表情だった。
レオは深く息を吸い、仲間たちに向かって言った。
「行こう。これも僕たちの試練の一つだ」
四人は並んで巨大な門をくぐり、商業都市ルスタへと足を踏み入れた。彼らの冒険は、まだ始まったばか
りだった。