第59話
「ち、ちょっと! いきなり何すんのよ!」
上に乗られているそいつは言葉が強くはあるけど、多分そんなに力は入れずに小狐を押し返していた。
少なくとも俺にはそう見えたのに、小狐は後ろに向かって倒れそうになっていた。
角度的に、そのまま倒れたら頭をベッドの角にぶつけるかもしれない、といったような感じで、だ。
「おい! 馬鹿野郎!」
その瞬間、俺は直ぐにベッドから立ち上がって小狐を抱きしめるように倒れないように受け止めた。
過去一焦ったかもしれない。
だって、もしも小狐に何かがあってみろ。親狐が俺たちを滅ぼすために飛んでここまでやってくるぞ。
「ご、ごめんなさい……わ、私そんなつもりじゃなくて……」
「分かってるから、大丈夫だ」
俺の腕の中で小狐が耳を動かしながらニコニコと嬉しそうにしているのを見たら嫌でも分かる。一応、結構な時間俺は小狐と一緒にいたんだからな。
こいつは多分、俺に受け止めてもらえる確信があって、わざと後ろに倒れてきやがったんだ。
だから、目の前のこの気の強そうな女の子が悪い訳ではないんだよ。
と言うか、小狐の鳴き声については聞いてこないんだな。……こっちにとってはその方が都合がいいし、別にいいか。
さっき言ってた勘とやらで聞かない方がいいとでも思ってんのかね。
「それより、話は……んっ?! お、おい! 何すんだよ!?」
今度こそ、話はもう終わりだから出ていけ、と言おうとしたところで、まだ俺の腕の中にいた小狐が軽くジャンプをしてきたかと思うと同時に、俺の顔に抱きついて、足を体にタコみたいに巻き付けてきやがった。
「な、何してんのよ、あんた達」
当然と言うべきか、目の前の追い出そうとしている女の子にはめちゃくちゃ引かれている。
俺が聞きてぇよ。
「あー、と、とにかくだ! 取り敢えず、話はもう終わったんだから、お前は……だからなんだよ!」
邪魔をしてくる小狐を俺は思わず怒鳴ってしまった。
もしも俺がスライムじゃなく人間だったのなら、今頃冷や汗が馬鹿みたいに出ていることだろう。
それくらい、俺は小狐を怒鳴ってしまったことに対して焦っていた。
「ち、違うぞ? ほら、よ、よしよし、偉い偉い」
何が偉いのかなんて全く分からないし、なんなら俺は小狐の行動にイラついて怒鳴ってしまったというのに、俺は頭を撫でながらそう言った。
すると、小狐は自分が怒鳴られたことを理解していないのか? さっきまでと変わらず普通に嬉しそうにニコニコとしていた。
……良かった。小狐は怒ってないっぽいな。……本当に良かった。
……そして、ここまでタイミングが被れば嫌でも俺の頭の中には一つの考えが浮かんできてしまっていた。
なんでかは分からないけど、小狐はこいつのことを俺同様に気に入って、パーティーに入れようとしているのでは無いか? と。
「えっと、じゃあ、俺たちとパーティーを組むか?」
「い、いいの?」
「……………………お前が入りたいのなら」
本当は人間をパーティーになんて入れたくないから、小狐がさっきみたいに訳の分からないことをしてくれないかな、と思いながらたっぷりと間を置き、俺はそう言った。……言ってしまった。
その間、小狐は嬉しそうに何もせず俺に抱きついてきているだけだった。
「う、うん! これから仲間としてよろしくね! さ、早速仲間になったことなんだから、そろそろお互い自己紹介をしましょうよ!」
「……はぁ」
嫌だけど、もう断る訳にはいかないか。
少なくとも、小狐がこいつを気に入ってしまった以上、殺すこともパーティーから追い出すことも出来ないんだからな。
……強いて問題を上げるとするのなら、俺と小狐に名前が無いことだな。……うん。どうしよう。




