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7.孤児たちの親

 恥ずかしそうに赤面したミオラを見て、レオンはかなり困った顔になった。

 そこに。


「まったく。しょーがねえな! 俺のを分けてやるよ! ミオラ、俺の隣に来い」


 リュダが声をかけた。そして自分の分のパンを半分にちぎる。


 彼は群がる子供たちの中で大きめのをぶんどっていたらしい。

 食い意地が張ってるというわけではない。たくさん食べたいなら、そもそも率先して他人に分けたりしないだろうか。


 ミオラがこうなってしまうこと、あらかじめ予想してたんだろうな。


「うん。いつもありがとうね、リュダ」

「いいんだよ。困った時は頼れって」


 いつもそうしていると言うように、リュダは食事を始めた。

 彼、ぶっきらぼうだけど優しい所もあるんだな。

 みんなのまとめ役をしているミオラみたいにはなれなくても、それを支えてあげることはできる。そんな関係なんだろう。


 素敵な関係じゃないか。うん、素晴らしい。


 それはいいんだけど。



「おい、クソガキ」


 私はレオンの方へ歩み寄り、小声で話しかけた。怒ってることは伝わっただろうけど、このクソガキはそんなこと気にするはずもない。


「そんな汚い言葉を使うな。子供たちの前だぞ」

「だから小声で言ってるのよ。それより、あなたが私をここに誘った理由って」

「ルイに子供たちに触れ合ってもらって、温かな気持ちになってもらうため」

「嘘をつくな」


 そんなこと、最初から言ってなかったでしょ。

 人手が欲しかったというのが表向きの理由。


 けど、それだけじゃなかった。


「子供たちに憑いた霊を私に移すためでしょ。それで冥界に送るとか」

「まあ、そういうこともあるかなとは思ってた」

「やっぱり!」


 良く考えればわかることだった。孤児院の子供っていうことは、親がいない子ばかり。育てられなくて捨てたってこともあるだろうけど、死別の方が多いのだろう。

 遺した子供のこれからが気がかりで、素直に冥界に行かなくて霊の体でこの世に留まっている者も普通にいるだろう。


 つまり今、私の周りには何人かの霊が追加されて、今か今かと転ばせる機会を探っていたのだろう。ごっこ遊びしている間は座ってたから出来なかったとか、そんな話だ。


 きっとミオラにも両親の霊がついていたのだろう。他の子供たちに対しても同じ。


「お祈りして冥界に送ってやろう。親たちも子供たちは元気にやってると、しばらくの間見ているはずだから。死者の身で現世にとどまる苦しみを味わいながらな。だからさっさと冥界に行きたいはずだ」


 レオンはキッチンから塩を手にとって私の前にパラパラと撒く。


「迷える死者たちよ。いるべき場所に行け。ほら、散れ。冥界で安らかに過ごせ」

「相変わらずいい加減ね」

「冥界には行けるんだからいいだろ。実際に行ってるし。しかも結構な数が」

「そうなの? 今回の霊は素直ね」

「毎回こうならいいんだけどな」


 子供たちは孤児院で楽しく暮らしている。裕福ではなくても心は豊かだ。親の霊たちもその様子はよく見ているから、思いは果たせたのだろう。


「ミオラちゃんのご両親も冥界に行ったの?」

「それはわからない。どの霊が誰かとか、俺には判別できない。単なる薄い靄だ」

「そうじゃなくて。ここは嘘でも行ったって言うの。その方がロマンチックだから」

「嘘は言わない。わからないことも断言したくない。おい子供たち。食い終わった皿は自分で洗えよー」

「おいこら」


 子供たちは、私たちのお喋りなんか気にせずにシチューとパンを平らげていた。

 別にいいんだけど。私と話すの面倒臭がってるでしょ。霊関係の目的で私をここに連れてきたくせに。


「みんな、昼から何して遊ぶ? ごっこ遊びはまた今度だ」

「レオンくん、お話して!」

「勇者様のお話聞きたい!」

「いいぞ」


 クソガキな面を知らない子供たちには、レオンは相変わらず人気。

 お話を聞きたい、か。図書館通いが趣味のレオンだから、物語も多く知っている。そして子供たちにはそんな機会がない。というか文字を読めるかも怪しい子が多い。

 酒場なんかに吟遊詩人が来て、歌いながら物語を聞かせることもある。けど子供たちにはやはり無縁なこと。

 そして、憧れでもあるんだろうな。


 だからレオンに、勇者の活躍をはじめとした物語を語ってもらうことは、子供たちが楽しみにしていることだろう。


「わかった。今日はなんの話をしようかな。ああそうだ、勇者一行が、ある領主が収める街に来た話をしよう。そこの領主は善人だったが、部下に悪い奴がいた。領主が保管していた、魔族が作った恐ろしい魔道具を勝手に持ち出し、売りさばいた極悪人だ。勇者がその悪巧みを打ち砕く話をしよう」


 レオンが語りだせば、子供たちは夢中になって聞き始めた。けど、ねえそれって。


「物語の始まりは、勇者たちがある街に来たところからだ。そこは平和で人の笑いが絶えない、賑やかな街。しかしその片隅で町娘が泣いていた。気になった勇者が尋ねたところ、娘はこう答えた。教会の鐘が鳴る塔から、友達が身投げした。その様子をわたしは見てしまった。友達は領主様の娘で、なにか大きな秘密を隠していたらしい、と」

「待って」


 それは勇者の話じゃない。わたしの話なんだけど。

 以前私たちが経験した事件。もちろん、勇者の物語として伝わっている話とは別物だ。


 止めようとしたけど、子供たちは知らない物語に目を輝かせて耳を傾けている。

 今更止めるのも気がとがめて、私は私が町娘として出てくるお話を聞くしかなかった。


 ちなみにレオンが勇者役だった。ユーファたちも勇者に付き従う戦士たちの役。

 なんで私だけ仲間外れなのよ!

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