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6.孤児院へ誘った理由

 見た所、ミオラとリュダは同じくらいの歳。十歳にわずかに満たない程度かな。この施設の子供たちの中では年長さんだ。

 リュダと同じく勇者の役をしてレオンと戦っていた子たちも、私と一緒におままごとをしていた女の子たちも、もっと年下。六歳前後といったところだろうか。

 これが施設の子供たちのメイン層だ。


 つまりミオラみたいな年長さんは、子供たちのまとめ役みたいな役目を負わされることもある。本人が望むかは別として、年長者はそうなる。ミオラはそれに応えて、喧嘩を事前に収めたわけだ。


 同じく年長者のリュダの立場がない? それはまあ、そういうこともあるのよ。


「ほら、みんな。昼飯にするぞ。家の中に入れ」


 遊びが一段落したと見たレオンが、子供たちに呼びかけて施設の中まで追い立てていく。そうだ、昼食の世話も私たちがしなきゃいけないんだ。


 とはいえレオンの様子から、心配することはなにもないようだった。きっと、さっきシスターと話していた時に必要な連絡事項は聞いていたのだろう。


「シチューの作り置きがあるそうだから、それを温め直してみんなで食えばいい。ユーファ、手伝ってくれ」

「うん」

「レオン。わたしは何を」

「できるまで子供たちの相手でもしてやれ」

「えー……」


 子供たちのおままごとの相手は疲れた。なんというかこう、子供の不条理さみたいなのを嫌という程思い知らされた。

 だからやりたくはないのだけど、私の仕事は子供たちを見ていることで。


「ルイさん、良かったらお皿を配るの、手伝ってもらえないですか?」


 するとミオラが話しかけてきた。

 私の名前、一度紹介されただけなのに覚えてたんだ。なんていい子なんだろう。


 改めて彼女の容姿を見る。可愛らしい子だ。栗色の髪はくせっ毛なのか、長めに伸ばしているけれどウェーブがかかっていた。くりっとした目が可愛らしい。


「ありがとう。手伝うわね。ミオラちゃんはいつも、こうやってご飯の準備をしているの?」

「はい。シスターの手伝いが多いですけれど」

「そうなんだ。偉いわね」


 ミオラとそんな会話をしながら、私は立ち上がって食器が置いてある棚まで向かおうとして。


「みゃぎゃー!?」


 ミオラの前で転んでしまった。

 食事前に各々わいわい喋っている子供たちの視線が一斉にこちらへ向く。それから、シチューを温め直していたレオンも目を向けた。


「やっぱりいたか……」


 レオンが静かに言ったこと、私はもちろん聞き逃さないし、その意図もよくわかった。


 こいつ。孤児院に私を誘った理由って、まさか……。


「ルイさん! だ、大丈夫ですか!?」


 ミオラが駆け寄ってきた。本気で心配している様子だ。


 いつものことだから大丈夫、なんて言うわけにはいかないな。


「ええ。ちょっとよろけちゃっただけ。心配ないわ。ええっと……食器運びよね。ええ、やるわ。やるから、その間は転ばないようにしなきゃね。お皿割ると駄目だから。子供たちにも危ないし。わかった?」

「え、あ。はい……?」

「ああ、ミオラちゃんに言ったのじゃないのよ。独り言。自分に言い聞かせたの」


 私を転ばせた霊に言ったのだけど、もちろんそんなことを子供たちに教えるわけにはいかない。


 幽霊たちは私の言うことを聞いてくれたのか、その後転ばせてくることはなかった。子供たちも私が転んだことはすぐに頭から抜けて、準備ができたシチューに一斉に群がっていった。


「こら、みんな並んで! お行儀よくしなさい!」


 ミオラが、ちょっと羽目を外しすぎな子供たちに怒ったような声をあげた。

 いつものシスターじゃなくて、歳の近いレオンたちがお世話係。ちょっとわがままを言ったりできる雰囲気があるし、気分も高揚しているらしい。


 みんな、我先にとシチューをよそってもらい、パンを受け取っていた。多めに欲しいとか、そんな要求も遠慮なくレオンに言う。


「うるさい。並べ。順番だ。ほら騒ぐな。ユーファ。ちょっと量を調整しろ。後で足らなくなる」

「うん」


 レオンはといえば、そんな子供たちを窘めながら、なんとかコントロールしようとしてる。うまく出来てるとは言えない。レオンもまた、子供たちに厳しくしきれない所がある。


 それでも押し寄せる子供たちをなんとか捌き切り、全員にパンとシチューを配り終えた。

 はずだったけど。


「あ……」


 子供たちの集団とは少し離れたところで声をかけていたミオラの存在を忘れていたようだ。所在なさげにレオンの前に来てお皿を差し出すミオラと、少しばつの悪い表情のレオンが残された。


 パンは人数分用意されてたらしいけれど、小さいやつだった。レオンは予備だとか思ったのかな。

 そしてユーファが鍋を傾けて残ったシチューをかき集めている。その努力に反して、得られたシチューはごくわずかだったけれど。


「……ごめん」

「い、いいの! よくあることだから! レオンさん気にしないでください」


 レオンに気を遣うようなことを言い、なんとか取り繕おうとしたミオラ。

 けど直後に、彼女のお腹がぐぅと鳴った。


 そうね。みんなのまとめ役として、毎日頑張ってるものね。たとえ教会がみんなを飢えさせる気が無いとしても、日々の食事だけでは足りないことってあるわよね。

 だとしても、こんな形で示さなくてもいいのにね。好きな男の子の前でお腹を鳴らしちゃうなんて。

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