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4.子供の遊び相手

 シスターたちはレオンだけではなく私たちにも何度も頭を下げ、よろしくお願いしますと繰り返して行ってしまった。普段はこの施設に住んでいるとはいえ、本来の家もちゃんとあるのだろう。もしかすると家族も。

 ちゃんと戻って自分の時間を過ごすことは大事だ。そのために私たちはいる。子供たちの遊び相手とお世話係として。


「はいどうぞ。めしあがれ」

「あ、ありがとう……」

「もう! ルイさんの好きなものを出したんだから、もっと喜んで!」

「ええー……」


 私は子供たちのおままごとに付き合わされていた。


 ある女の子がお母さんの役らしい。私は子供の役で、使われなくなったお皿に泥団子で出来た料理を出されたところだ。

 うん、わかる。そういう設定でしかないのは子供たちもわかってること。だから私は、設定に応じて役目を演じればいいだけだ。


「わ、わー。美味しそうなレモンタルト。フローレンス堂のやつね。大好きなの。いただきます。ぱくぱく……」


 うん、私には芝居の才能なんてない。小さくて無邪気な子供を演じるなんて無理だ。というか、なんで私より小さい子がお母さん役で私が子供なんだろう。いや、わかるけど、小さい子って大人の真似をしたがるものだからね。

 それに付き合って美味しそうにケーキを食べるふりをした私だけど、子供たちはシーンとして見つめてきた。


 な、なによ。下手だっていうの? いきなり初めてやらされた子供の役なんだか、演技の拙さはちょっとくらい大目に見なさいよ。


「ルイさん、フローレンス堂のタルト食べたことあるの!?」

「え?」

「あそこのタルト、美味しいって本当!?」

「どんなお味なの!?」

「ルイさんってお金持ちなの!?」

「わっ! 待って待って!」


 しまった。


 フローレンス堂は王都に店舗を構える高級菓子店。王家や王都に居を構える貴族たちから高い評価を受けていて、御用達菓子店としてしばしば菓子を卸している。

 店舗に行けば一般庶民でも購入は可能だけど、なかなか手が出ない価格帯。つまり庶民憧れのお菓子だ。


 学校にもお菓子を卸していて、私も在学中はしばしば頂いたものだ。特にレモンタルトが絶品なのよね。


 だから咄嗟に好きなもとして思い浮かんだ食べ物を口に出したのだけど、失敗してしまった。

 そもそもお母さんのが手作り料理を出したってシチュエーションなのに、お店の商品を言ってしまうのも大間違いだし。


 そして子供たちは突然出てきた憧れのお菓子に目を輝かせていた。


 教会が運営していて、子供たちは別に飢えているう様子はない。けど、贅沢ができるってわけじゃないのだろう。宗教家も上層部は肥え太った金持ちが多いものだけど、下に行くほど清貧を是とする雰囲気があるもの。孤児院の予算も潤沢ではないのだろう。


 けれど、美味しいものの噂は子供たちもどこかで耳にする。こういうお菓子なんか普段は食べられないだろうから、一層好奇心を掻き立てられるわけで。


 結果として子供たちに、キラキラした目を向けられ囲まれることになった。


「え、えっとね。私もあそこのレモンタルト、一回だけ。本当に一回だけ食べたことがあるのよ。友達にお金持ちのメイドをしている子がいて、余ったお菓子をこっそり分けてもらったの……」


 私が元公爵令嬢であることは世間には秘密だ。特に子供になんか知られたら、噂は一瞬で広まってしまう。だから頑張ってごまかすことにした。


 ところが、子供たちは依然として興味津々。


「美味しかったの!? どんな味!?」

「メイドさんのお友達ってどんな人!?」

「もしかしてルイさん、お金持ちと知り合いなの!?」



 質問攻めはどんどん続くし質問の範囲も広がっていく。やめて、そんなこと聞かないで。元公爵令嬢だってバレちゃうかもしれないから。

 なまじメイドの知り合いがいるっていうのは本当で、彼女に迷惑をかけるわけにはいかないから、口をつぐむしかなくて。それでも子供たちは黙ってくれない。


 助けを求めるように、ユーファたちに目を向けた。



「ねえねえ、ユーファちゃん。これは?」

「使えない。この葉っぱは使える。擦り傷に塗れば、早く治る」

「そうなんだ!」

「すごい!」

「でも、しみて痛い」

「えー!」

「やだー!」

「傷口が痺れて、痛みを感じにくくなる草を、混ぜればいい」

「ほんと!? それはどれ?」

「……ここには、ない」


 ユーファは子供たちと、彼女なりに打ち解けているようだった。村で学んだ薬草の知識を教えているらしい。無口な彼女は子供たちに話しかけられて戸惑っているけれど、別に気弱な子ではない。話すのが苦手なだけだ。

 拙いながらも役に立つ草について話せば、子供たちは尊敬の眼差しを向けていた。



 それからレオンは。


「大悪魔レオン! ついに追い詰めたぞ! 姫を離せ!」

「勇者様! たすけてー!」

「……やれるものならやってみろ」


 何人かの男の子たちに囲まれて、ごっこ遊びに興じていた。

 レオンのそばには女の子がひとり。たぶんお姫様役で、悪魔であるレオンに攫われたのだろう。

 それを助けに来た勇者一行。誰が勇者で誰がお供の者かはわからない。


 うん、わたしも昔読んだことあるわよ。二百年前の魔族戦争よりもさらにずっと昔の出来事。美しい姫を攫った悪魔を退治しに、王に命じられて旅に出た勇者とその仲間たちのおとぎ話。

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